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19話:羽を伸ばして

「お兄ちゃん!ゴールデンウィークだよ!ゴールデンウィーク!」


 どこかのアイドルの台詞かのように聞こえたが、ただのうちの妹である。

 別にゴールデンウィークだからと言ってどこかに出かける予定はない。家でゴロゴロしてるのが俺の予定。


「とは限りません」


「どわぁっ‼︎」


 香夜ちゃんが出てきた。いつからいたんだ。というか、今日は完全休業日で何もなかったはずだが。


「何かなくては遊びに来てはダメですか?」


「可愛いのでいいです」


「判断基準がわかりませんが……」


「だっておめかししてるじゃないか。いつスカートなんて買ったんだ?」


「…………聞かないでください」


 なぜに?この子の何かダメなところに触れてしまったのか?


「もしかして小学生の時着てたのが着れちゃったとか?」


「…………」


 図星なのか。妹、余計なことを当てるんじゃない。可哀想でしょうが。しかし、高校生になって、未だに小学生の時のやつが着れるというのはどれだけ成長してないんだろうか。可愛いけども。


「だけどいかんせん、少し子供っぽさは否めないな」


「そうですよね……子供っぽいですよね。先輩がスカートの方が好きだっていうから探して着てみたはいいけど、すでに心が折れそうです」


「……恵。お前、なんか色々持ってだろ。貸してやれ。もしくはそのままあげろ。どうせそんな何着も必要ないだろ」


「ちゃ、ちゃんと着るもん!」


「だいたいほとんど制服なのに着回す必要もないからだいたい4、5着あれば足りるんじゃないのか?」


「乙女をなめるな!お兄ちゃん!」


「……まあ、乙女はなめてないがお前はなめてる」


「ひどいよお兄ちゃん……でも、確かにこのままだと香夜ちゃんの心が折られたままなのも可哀想なので私がコーディネートしてきます」


「……まあ、頼んだよ」


 恵は香夜ちゃんを引っ張って俺の部屋から去って行った。

 しかし、香夜ちゃんもおめかししてきたってことはデートでもしたかったのかな?

 男冥利に尽きる話だし、香夜ちゃん可愛いからデートするのもやぶさかではないが、あのままではどう見繕っても妹だろうな。彼女にしたいけど。まあ、それは無理な話だろう。

 好きなことには変わりないが、恋愛的な目で見れてない。積もるところ、本当に妹が関の山だ。可愛いって愛でてる分にはいいけど、それ以上のことはできない。したら、美沙輝様に殺されちゃう。


「終わったよー」


「……それはいいんだが、恵。鼻の下赤いぞ。それ、血か?」


「香夜ちゃんが可愛くて。仕草も下着も着替えてからも」


 興奮して鼻血を出すやつを初めて見た。


「香夜ちゃん早く見せてあげなよ」


「う、動きにくいんだよ」


「下着見えないように中がパンツになってるやつにしたんだから気にしない」


「それでもスカートがめくれると恥ずかしいし……」


「とりゃ!」


「きゃっ」


 香夜ちゃんのスカートが恵の手によって捲りあげられる。

 だが、確かに言う通り中はパンツ型になっていて、下着が見えるようなことはない。

 さすがにスカートを捲られたということが恥ずかしかったのであろう、すぐに押さえて恵を怒っていたが。


「まあまあ、お兄ちゃんに下着見られるのが恥ずかしかったんだからこれで万事解決」


「してるわけないでしょ!意味が分からないし!」


「香夜ちゃん可愛いんだからもう少し見られることに慣れた方がいいんだよ……首じまる……」


 首根っこ押さえつけられて持ち上がっていたがまあ、どう考えても恵が悪いので俺は見ないことにする。

 しかし、俺はここからどうすればいいのだ。誰か助けておくれよ。

 まあ、決まってるか。


「香夜ちゃん」


「は、はい?」


「デート行こっか」


「ちょっと!二人で行く気?私も連れてってよ!」


「お前は留守番してろ。罰だ」


「え〜」


「そもそも、お前には学校とは違う課題出してるだろ。1日でも手を抜くと終わらないからな。ちゃんとやれ」


「お兄ちゃんの鬼!悪魔!人でなし!」


「なんとでも言え。帰ってきたらちゃんと確認するからな。出来てなかったら徹夜だ」


「乙女の肌に徹夜は敵だよ!」


「そうなりたくなかったらちゃんとやっとけ」


「うう〜分かった……」


 頬を膨らませながら、渋々戻って行った。俺と香夜ちゃんで作成した一カ月+αを軽くまとめた課題をあいつに課したのだ。一番の問題点は集中力だが……美沙輝に連絡とっておこうかな。面倒見てもらおう。


 ーーーーーーーーーーーー


 かくして、うまく恵を切り離して香夜ちゃんと二人きりでデートすることが可能となったわけだ。


「すいません。さっきはお見苦しいところを」


「どう考えてもあいつが悪いからな。仕方ない」


「それでその……先輩はどういうシチュエーションか好きなんですか?」


「シチュエーション?」


「そ、その……さっきみたいに意図的にスカートをめくるとか、うっかり座って見えちゃったりとか、そもそも下着だけつけてる状態がいいのか」


「俺はそんな下着が見えるシチュエーションにこだわるソムリエにでも見えるのか?」


「好きかと思って」


「まあ、好きな子の下着が見えるのならどんな状態であっても嬉しい」


「先輩って本当に欲望に正直ですよね……」


「見たいもんは仕方ない。今も中が見えないタイプのものだとわかっていても気にするぐらいだ」


「やっぱり変態じゃないですか……」


「超紳士的だがな」


「セクハラ働いてる時点でダメだと思います」


「手を出してないからセーフという考えは?」


「ないです」


 即答された。男の性だということでは見逃してもらえないらしい。それでも俺に付き合ってるあたりは耐性でもついてきたのだろうか。もしくは俺になら見せてもいいという話か。


「後者はないです」


「だから君はエスパーなの?俺の考えを読まないでおくれよ」


「先輩が考えてることなんて大体わかります」


「以心伝心?」


「逆は成立してないので以心伝心はしてません」


「うん……確かに香夜ちゃんの考えてることは読めないな。よし、頑張るぜ」


「頑張らなくていいです。余計なことしないでください」


「……して、今日はまたどうしたんだ?家でゆっくり羽伸ばしてくれてても構わなかったのに」


「まあ、あまりインドアになってもなんですので少し外に出ようかと。先輩はいつでも都合が良さそうなので誘いました」


 突撃訪問でしたけどね。一切の連絡は受けてなかったよ?

 確かに、恵の面倒を見るために空いてるところの日程は共有してるので一番都合はつきやすい。

 だが、完全に暇人と決めつけるのはどうなんでしょうか?


「先輩に親孝行だとか、彼女とデートするとかそんな概念があったんですか?」


「ないです」


 うちの親は俺に対しては放任主義だし、彼女に至っては存在すらしたことない。したがって、俺が休日にやることなんて積んでる18禁ゲームである。なんで、あんなに毎月出すの?気になるタイトルあったらどうしようもなくなるぜ。


「我慢はしないんですか」


「別にエロ本を定期購読してるわけでもないしいいだろう」


「どちらとしても聞かされるこちら側としては耳をふさぎたいんですけど」


「香夜ちゃんもヒロインになれる器だぜ?」


「ならなくていいです。不特定多数のプレイヤーに見られる羞恥プレイ以外のなんでもないです」


 ものすごい正論に納得してしまった。確かにそうだな。プレイしてる間は俺の嫁とか言ってプレイすることは可能だが、その俺の嫁と言ってる奴らが不特定多数いるということだ。


「だがそんなにわかに俺の愛が負けるはずない」


「勝ち負けの基準も分からないですし、三次元に出てきてから言ってください」


「そうは言うが、あれの大半は俺の私物ではない。変態の変態による変態のための私物だ」


「じゃあ、先輩ので合ってるじゃないですか」


 あれ?

 普通に友人のものだと言えばよかったのかな?


「しかし、香夜ちゃん。俺が変態のままでいいのか?その認識で不都合はないか?」


「変態にとって……すいません間違えました。先輩にとって不都合でも私は問題ないですから」


 もう最初のわざとだよね。脳内では変態先輩みたいになってるんじゃないのか?

 ここはひとつかっこいい先輩ということころを見せなくてはならない。


「ボウリングやらないか?」


「いやです」


「嫌いか?」


「いえ。後ろからいやらしい視線を感じるとなると。今は横なのでそうなりませんが」


「今から俺が三歩後ろで歩くのは……」


「やめてください。隣にいてください」


「でも、香夜ちゃん足綺麗だよな」


「……外にあまり出ないし、長いズボンばかり履いてるので日に当たらないだけです。でも、褒められるのは嬉しいです。しかし、そんなに私の足ばかり見てるんですか?私に胸がないから足ばっかり見てるんですか。足フェチですか」


 香夜ちゃんに関しては全身見てる。造形の全てが可愛いので。

 とは、面と向かってもあまり言えることでもない。

 俺はかっこいい先輩を見せるべきなのか、ありのままを見せればいいのか。香夜ちゃんの前だとよく分からない。


「どうなんですか?」


「……香夜ちゃんのパンチラばっか狙って見てました」


「…………」


「…………」


「今日は解散しましょう。大丈夫です。一人で帰れます」


「あっ、香夜ちゃん!悪かったって!」


 ただまあ、香夜ちゃんの足が速いこと。

 本当にあの子万能だな。

 そんなこと言ってる場合じゃない。今走って行った方向は香夜ちゃんの家とは真逆だ。

 どう考えても俺から逃げるためだけである。

 追いかけて駆け出したものの、すぐに姿は見えなくなってしまった。

 しかし、あの子のことだからそんな遠くにはいかないと思うけど。

 携帯に電話してもメールしても出ないだろうな。やっぱり直接謝らなきゃ。

 ご機嫌をとるようで悪いけどなにか買っていこう。それがせめてもの礼儀だ。

 俺は聞き込みがてら香夜ちゃんの行方を探すことにした。



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