17話:成長の証?
残飯処理、もとい味見をして欲しいとのことで恵から呼び出された。
まあ、言わずもがな行くつもりだったのでなんら問題はないのだが、出されるものに問題があることは多々ある。
監修が付いてるからよほど酷くならないと思うが……。
「はい、おにーちゃん」
「ああ……なんで二つあるんだ?」
味見でいいのなら一個でいいはずだが、一つの皿に二個のクッキーが載っていた。
「もう一個は香夜ちゃんの」
「ついでにお願いします」
「じゃあいただくよ」
例によってどっちがどっちというのは教えられないらしい。きっと、どっちが美味しいか言って初めて教えてもらえるのだろう。
だが、傷つけるのなら恵の方がまだダメージ的には少ないのだが……。こちらの精神衛生上。恵はあれはあれで打たれ強かったりもするのかもしれない。多分。さっきから確証がないものばかりを並べてるので早く食べろという目線とオーラが漂っている。
だって、俺作ってるところ見てないもん。何か変なもの入れてるんじゃないのか?
「何が入ってるのか……とか聞けないか?」
「それも含めて。美味しければいいじゃない」
「すでに見た目が俺が知っているクッキーではないのだけど」
「誰もクッキーとは言ってないから」
あれ?クッキーじゃないの?俺の目の前に対面してるこの物体はなに?
「ねえ。育也はきのこかたけのこかどっち?」
「きのこ?たけのこ?」
ははーん。ということは、あの生地部分の話か。ビスケットかクッキーか。……俺も違いがわからねえ。そりゃ食ってればこれビスケットだな、とかクッキーだなとか分かるかもしれんが、特に造形深いわけじゃないから何が違うのか分からねえ。食感だけじゃダメなのか?
「だが俺はたけのこを選ぶ。統計データにも7割……いや、8割がたけのこ派だと出ているぜ!」
「あっそ。実はクッキーはビスケットの中の一部なのよ。ついでに糖分と油分が多くて手作り感が出てる方がクッキー。ビスケットは乾パンとかにもなってる通り、どっちかといえば非常食的な意味合いが強いのかしらね」
「何が言いたいんだ?」
「突き詰めちゃえばあなたもきのこ派なのかもね」
暴論ではありませんか?てかなんの話だこれ。
「御託はいいからはよ食え」
「お前が余計な問答してきたからだろ!」
「これは片方ビスケットで片方クッキーだって言ったでしょ!」
「…………いや、別に食べないとは言ってないからな?美味けりゃ美味いって言うし」
まずなんか、茶色……焦げ茶?いや、むしろ黒の方が近いのか?ていうか、これ焦げてるんじゃないのか?という感じの多分クッキーをいただく。
「……苦え‼︎」
「正解!それが私の作ったクッキーだよ!」
恵が親指を立てていた。まだ全部食べてないのにネタバレするのは、やはりアホの子か。
「お前は味見したのか⁉︎人に食わせるレベルか‼︎」
「カカオ95%っていうチョコを混ぜた」
ビターどころじゃねえや。チョコって甘いもんじゃなかった?明◯のブラックチョコだってもっと甘いよ。現実通りに苦くしなくていいんだよ。
「やっぱりもっと砂糖入れた方がいいわね」
「まずチョコを混ぜるのならば甘いやつにしてくれませんかね」
「それはともかくまだ残ってるわよ」
「あ、あの……先輩。どうぞ。あまり美味しくないかもしれないですけど……ちょっと焦がしちゃいましたし」
香夜ちゃんが自信なさげに勧めてきた。控えめな姿勢が眩しいです。
ひとかけら残ったビスケットを口に運ぶ。
確かに、クッキーと違ってパサパサしてるのは否めないし、甘さも控えめだ。
これは……正直に言うべきなのだろうか。きっと、一人で作ったんだろう。恵の手前見栄を張って。
頑張りは褒めるべきだが、彼女は結果を教えて欲しいのだろう。
「味は……苦かったとはいえ恵の方がしっかりしてた。香夜ちゃんのはなんつうかな……ところどころ気が抜けてるって、そんな感じがした」
「……すごいですね。先輩」
「伊達に料理研究してねえからな」
「食う専門だからそういうところ無駄にわかるのよねこいつ。私の料理食べて私の状態がわかるとかいう変態だから」
「やっぱり先輩、変態じゃないですか」
「もっと褒めるべきところではないの?」
「ですが、まあ、自分でも食べてみてあまり美味しくなかったのではっきり言ってもらえてよかったです」
「でも……なんでビスケットにしたんだ?クッキーの方が万人受けするし、比べるならそっちのほうがよかったろうに」
「……まあ、あまり砂糖砂糖ってやってもくどくもなりますし、太りますよ」
「……まだ心配されるほど太ってないぞ。むしろ、痩せ型のはずだ」
「せめて気遣ったということに気づいて欲しかったです」
「おにーちゃん気遣いが足りないぞー」
「だからと言ってバカみたいに苦いクッキーを作るんじゃない」
「それは美沙輝さんの……」
「さて、なんのことかしら?」
確かに材料を持ってきたのは美沙輝だ。さすがにこいつもギャグでわざわざビターチョコを入れるわけないだろう。ただチョコがあったから入れてみたいぐらいだろう。わざわざそれをチョイスする必要性はない。
謀りやがったなこいつ。
なんのこと?と顔はしているが、その裏にはしてやったりの顔が見えてるぞ美沙輝。恵は言われる通りに作っただけなのだろう。それこそ、形は歪だったからな。型抜き使わなかったのか。
だから、というわけでもないのだが、香夜ちゃんの方は形はしっかりしていた。焦げたと言っても、焼き過ぎで割れるとかもなかったみたいだし。
まあ、恵も恵なりに頑張ったんだな。自分でできる限りやってみたのだろう。
結果はどうであれ。
「どうしたの?お兄ちゃん」
「まあ、次はもっと甘めに作ってくれ」
「うん。頑張ってみる」
恵の頭を撫でてると肩を叩かれる。美沙輝からだった。
「ほら、そっちばかり構ってると向こうスネちゃうぞ」
「だな」
俺は作ったビスケットを持って見つめてる香夜ちゃんに近寄った。
「もっと……美味しく出来ると思います。それこそ、クッキーよりも美味しく」
「人間甘いもんやらカロリー高いもん好きだからな。そりゃ、クッキーの方がよく食われるわけだ」
「そうですね。でも、ビスケットって小さい頃、それこそ赤ちゃんとかはクッキーじゃなくてそちらを食べさせますよね」
「確かにあまりクッキーを食べさせるのは聞いたことないな」
「顎の成長とか?カルシウムが多いとか?」
「専門家じゃねえからそのあたりはなんとも言えないけど」
「あら?ちゃんとクッキーもあるわよ」
「そうなのか?」
「ボーロなんかはクッキーに分類されるみたいね」
「そうなのか……あれ、そうだよな。言われれば赤ちゃんによく食べさせてるよな」
「先輩?何をブツブツ言ってるんですか?」
「こいつを見てほしい」
お菓子がストックされてる棚を開ける。
「これは……ボーロ?」
そう。うちには、常にダンボール一箱分。それこそ、非常食かっていうぐらいに貯蔵している。なぜって、恵が好きなのだ。ボーロ。
あいつの味覚はお子ちゃまどころではなかったか。
「そういや、恵。このクッキー味見したのか?」
「え?ううん。美沙輝さんがしてこれなら大丈夫って」
やっぱり美沙輝の策略じゃないか。恵がやったなら許されるとか思ってたな?確かに恵だってお子ちゃま舌だがバカ舌ではないはずなので、さすがに俺に出すぐらいのものならむしろ止めるぐらいだろう。
そういう点で言えば本当なら香夜ちゃんも出したくはなかったのだろうけど。
それはそうとして。
「な、なあ?恵」
「なに?」
「少しレベルアップしないか?」
「お兄ちゃんは私がクッキーを作ってもレベルアップできてないと⁉︎私はどれだけ経験値を積まなければいけないの⁉︎」
いや、まあ人一倍以上積まなければいけないほどの低スペックですが君は。そこではない。
「さすがに高校生で好きなお菓子はボーロっていうやつ聞いたことないぞ」
「お兄ちゃんはボーロをバカにするか‼︎」
「いや、バカにしねえけど。俺もたまに食うし」
「でも、あまりお菓子ばっかりでもよろしくないよ」
「確かによろしくないな。なかなか健康志向だな恵」
「コーラを混ぜてみましょう」
お菓子+コーラ=デブの元
「お前は干物妹になる気か」
「お兄ちゃん!あの子は外面はものすごくよくて成績優秀スポーツ万能、社長令嬢、ゲームの達人って設定なんだよ!私とは違うよ!でも、正直あれぐらいになりたい!」
色々無理難題が詰め込まれてるんですけど。うち、ただのリーマン父の家庭ですし。しかし、向こうは家にいたらかなりうっとい存在だが、恵は可愛いので。マスコットにならんし。二頭身にならんし。
クラスの立ち位置的にマスコットになりそうだけど。妹は美人という分類ではないからな。可愛いを地でいく。確立されてもいいが、恵にとってはそれは本望でないだろう。
「それではお兄ちゃん。残りの処理お願いします」
「……手伝いは?」
「「「なしの方向で」」」
全員から協力を拒否された。
こうして、大してうまくできなかったクッキーとビスケットを俺は一人虚しく貪っていた。