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16話:部長さんとお兄ちゃんと

 扉が開かれる。

 その先に立っているのは、わが料理研究同好会の部長である宮咲美沙輝だ。

 別に向こうは睨んでくる様子もない。

 ただ、少しキョロキョロして落ち着かないといったところか。


「おかえり……」


「ただいま」


「どこ行ってたの?」


「まあ、作戦会議だ。初神の家で」


「この辺りなんだ」


「そうそう。学区隣だからな、距離としては美沙輝の家と変わらないぐらいだと思うぞ」


「ふーん」


 あまり興味ない様子。まあ、同じクラスではあるが、あまり関わりないしな。どうでもいいといえばどうでいいな。俺が美沙輝の立場でもそう思う。


「で、どうする気?」


「とりあえず謝る。勝手に逃げ出してすいませんでした」


「……私に特に謝られるいわれもないけど」


「怒ってないのか?」


「言ったでしょ?特に意識はしてないって」


「香夜ちゃん調べだとクロだと聞いたが」


「また余計なことを……」


「どうなんだ?」


「本当にそうだとしても、こんなところで言うわけもないでしょう?」


「それもそうだな」


 対面に腰を下ろした美沙輝はまたキョロキョロ俺の部屋を見渡している。


「別に気になるなら適当に漁ってもいいぞ」


「そ、それはさすがに……」


「妹たちにはすでにバレている」


「だからそんなに堂々としているの?」


「まあ、見つけてギャーギャー言わないなら」


「言いそうだから自重するわ」


「じゃあ聞くが例えば俺が香夜ちゃんとイチャついてたらどうする?」


「目の前でやらないでほしいぐらいかしらね。それで、育也は香夜ちゃんのことが好きなの?」


「好きか嫌いかって二択なら好きだけど。きっと恋愛感情はまだない。実際、恵のために協力してもらってるだけだしな。向こうも好きなのかどうか分かんないだとさ」


「ふーん。じゃ、協力しよっか?」


「何に?恵のことなら協力してもらってるじゃないか」


「にぶいわね。その香夜ちゃんとラブラブしたいんでしょ?」


「常にラブラブだぜ?」


「殴っていいという意思表示なのかしら?それ」


「さっき殴られたからやめてくれ」


「そういえば若干痣ができてるわね。湿布いる?」


「唾つけてりゃ治るだろ。それより殴られた理由聞かないのか?」


「どうせ今みたいに余計なこと言ったんでしょ。あんた、ナチュラルでそういう事言う傾向あるみたいだし。……だからかしらね」


「何が?」


「似た者同士が惹かれるのよ。きっと、香夜ちゃんとあんたは似てるのよ」


「どこが?」


「ナチュラルで畜生なところ。世間ではそれをぐう畜というらしいわ」


「お前はJ民なのか?野球好きか?」


「面白いわよね。特に審判が可変式なところ」


「それのせいで贔屓球団が負けたらどう責任取ってくれるんだよ!」


「どうでもいいわ。私贔屓球団ないし。高校野球派だし」


「ならぜひともうちの野球部を応援してやってくれ」


「ミーハーだから私。うちが超強豪校で甲子園優勝もしてるならまだしもね〜」


「……胡散臭いぞ」


「でも、プロ野球選手のほうが華のある選手は多いわね」


 確かにミーハーっぽい。


「……そろそろお菓子でも作ろうかしら」


「作ってくれるのか」


「なんで自分の分っていう発想が出てくるのかしら?でも、恵ちゃんが作ってくれるって考えたらそれはすごく成長したように思えない?」


「自分の分だけ作って満足してる未来が見える」


「もう少し自分の妹を信用したらどうなの?」


「いや、信用してるからこその結論である」


「いやな信用の仕方ね……恵ちゃん泣いてるわよ」


「そんなバカな……」


 シクシク……


「ん?いや、ないよな」


 シクシク……


「恵!お前そんな泣き方したことないだろ!」


「てへ。バレました」


「何を聞いていた?」


「香夜ちゃんが面白いこと聞けるって聞いて」


「ほう?面白いこととは?」


「お兄ちゃんが香夜ちゃんのことが好きなのは自明の理だってことかな?」


 お前はいつ自明の理なんて難しい言葉を覚えた。


「香夜ちゃん喜ぶよ〜。お兄ちゃんかっこいいもん。私もお兄ちゃん大好きだし」


「やっぱかわいいな〜恵〜」


「……恋愛以前にシスコンのようね」


「かわいいと思わんのか」


「かわいいけど……まあ、あんたが妹に入れ込む理由がわかったような……」


「美沙輝さん!お菓子作るんですよね?」


「え、ええ。恵ちゃんも育也に作ってあげられるぐらいになるといいわね」


「うん!あ、香夜ちゃんも呼んできます」


「よろしくね……」


 パタパタと自分の部屋と戻っていく。こういうのはどちらかといえば、香夜ちゃんのほうが役割だと思うが、まあ、恵が香夜ちゃんから聞いてやってただけのことだろう。

 ……いつか、あいつも恋をする日が来るんだろうか。


「なんか心配ごと?」


「いや。当面はあいつを立派に育てることだ。協力してくれ、美沙輝」


「しょうがないわね。……恵ちゃん料理研究同好会入ってくれないかしら?」


「あいつはお星様にお熱だからな」


「あー。そういえば天文部入ってるんだっけ」


「ああ」


 以前にもうちに襲撃に来た天文部。天文部が襲撃に来るってどんな部活なんだろうか。なんか俺に会いに来ただとか、おこぼれに預かりに来ただとか言ってたけど。

 そういや、天文部元部長さんが美沙輝のことを狙っていたような……。


「美沙輝。あれ以来天文部となんかあったか?」


「え?特にないけどどうして?」


「いや、大丈夫ならいいんだ」


「本当になんだったのかしらね?」


「それが分かるなら誰も苦労しないな」


「一番苦労してそうなの矢作くんだと思うんだけど」


「まあ……あいつにはいつかお礼をしておくか」


「お礼参りはやめておきなさいよ」


「俺をなんだと思ってるんだお前は」


「満身創痍の相手に追い打ちをかけるのが好きな人種かと」


 世間ではそれを死体蹴りといいます。それこそ本当に畜生ですね。そこまでではないです。周りの女子陣からの俺の評価はどうなっているんだ。普段の行いのせいか?


「ねえ、香夜ちゃんはともかく、恵ちゃんのあんたの評価はどうなってるの?」


「それは恵から俺なのか、俺から恵なのか」


「後者よ」


「良く言えば天真爛漫で天然で可愛い妹だけど、悪く言えば、何も考えてない頭空っぽのバカだからな。それを少しでも矯正するためにこんなことを始めたわけだが」


「迷走中?」


「そんなとこだ。まあ、まだ一ヶ月経ってねえし、そんな急ぐこともないんだけどな」


「なんだっけ、完璧少女?人には向き不向きがあることをまず教えるべきじゃないのかしら」


「まあ……そうなんだけどな。どうにも甘くなってな。頭ごなしにできないって言って向こうのやる気を削いでもいけないと思ってさ」


「えっと、勉強の方は香夜ちゃんが教えてあげてるのよね?」


「基本的にはな。ま、と言っても香夜ちゃんもまだ一年だから香夜ちゃんも分からんところを教えてる感じだ」


「育也。教えられるほど頭良かったっけ?」


「別に一年の内容なんざ大したもんじゃないだろ。それこそ今の内容なんて中学の延長線上かむしろ平行してるぐらいだと思うぜ」


「美沙輝さ〜ん。早くやりましょー」


 廊下というか、階段降りたところからだろう。恵の声が聞こえてきた。先に降りてるとでも思ってたのか。


「じゃ、私は先生をしましょうか」


「俺の分は?」


「残飯処理で」


 相変わらず残飯処理から抜け出せない。いつか、恵が一人で作ってくれて、「お兄ちゃん。これあげる」ってぐらいになるまで待たないといけないか。先は長そうだ。

 現実はお菓子より甘くないようだ。

 しかし、美沙輝もいつまで先生を続けてくれるんだろうか。

 まあ、と言っても部員はほぼ全員ここにいるわけだし、同好会であるのだから部室が与えられているわけでもない。

 ……この調子だと全員うちに来ることにならないか?

 俺はそれだけは避けようと、回避プランを立てることにした。

 下の方でなんか爆発が起きたような音が聞こえたけどきっと幻聴だろう。何せ、普通爆発するようなもの入れないはずだからな。

 ……今のうちに胃薬探しておくか。

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