15話:役に立たないゲーム論理
ゲームは娯楽としてはとても楽しいものだ。俺もやるし、無論否定する気はさらさらない。
だからこそ、俺はそれにすがろうとギャルゲーマーの友人を訪ねたわけだが、はたしてこれが使えるのかどうかは定かではない。
午後14時。俺は自宅に戻ってきた。ちょうど昼ご飯を食べて少しお腹いっぱいになって満たされている時間だろう。
なぜ、この時間なのかというと、人間お腹いっぱいになってると幸せなのだそうだ。だから、怒られた人間に謝りに行く時は相手が空腹だとイライラしてる可能性が高いからお昼ご飯を食べたあとぐらいに行くのがベストだ。
まあ、まず怒られないということのほうが大事なんですけどね。
とりあえずは、インターホンも鳴らさず家へ入る。自宅なのだから鳴らす必要性はない。
しかし、声は聞こえない。リビングにいるならば少しぐらい声が漏れてもいいはずだ。恵の部屋にいるのか?
それなら、俺は部屋に籠もれば……
「というわけにはいかないのですよ、先輩」
「ぎゃあああああ」
「人の顔を見るなり失礼ですね。妖怪にでもあったかのようです」
「な、なんだ香夜ちゃんか。二人は?」
「勉強を一休みして料理のレシピを教えてます。まあ、実物を見るのが一番いいんでしょうけど」
「あ、あの……」
「なんですか?」
「怒ってない?」
「まあ、私が起こる要素は……あるといえばありますが減るものではないので。むしろ増量したほうがいいので」
なんの話だ。
「少しぐらいは感想を聞かせてもらってもいいですか?ついでにめぐちゃんのを触ったことは?」
「やっぱり怒ってない?」
「怒ってないです。ただの興味本位です」
「香夜ちゃん近いって」
「大丈夫です。当たるものはありませんので」
「もしかしたらあるかもしれないけどな……」
どことは言わない。察してくれ。特に香夜ちゃん。
「そうですか……私の小さい胸にはなんの反応もなくて、常にめぐちゃんの胸を揉みしだいてるってことですね。最低ですね」
「答えなかったらそういう思考回路に行き着くのか⁉︎しかも、恵もきっと香夜ちゃんが思ってるほどないと思うぞ⁉︎」
自分で勝手に自虐してたぐらいだし。まな板……ではないんだろうけど。実際の大きさはよく知らん。妹のを知ってるってとんだ変態だと思う。
「いや……まあ、香夜ちゃんも別に触って気づかないとかそんなことはないし……あまり、こんなところで言うことじゃないな」
「……そうですね。私はトイレに行ってたということになってるので、あまり長いとよからぬことを言われてしまいます」
「トイレぐらい自由に入ってていいんだが」
「先輩は私が用をたす音を聞いて興奮する質ですか。変態ですね。もう、この家のトイレ使えません」
「そんなことしないから。そうやって君が曲解するから誤解する奴が出てくるんでしょうに」
「でも、実際どういうところで興奮するんでしょうか?」
「あまり興味津々に俺に聞かないでくれ。俺はどんな変態だと思われてんだ」
「部屋にあったものはそこまででしたけどもしかしたら特殊性癖でもあったらこちらの貞操が……」
「あったとしても画面の中とリアルの区別ぐらい付いてるっての」
「で、話は戻りますがなんで戻ってきたんですか?」
「この家の住人が戻ってきてはおかしいですかね?」
「先輩。怒ってます?」
「俺は君にどうやって接していけばいいのか分からなくて悩んでるんだよ」
「いつも通りでいいですよ」
「そのいつも通りが分からなくなった」
「まあ、私好みに先輩を軌道修正してますから」
「マジかよ⁉︎」
「いえ、嘘です」
やっぱりこの子が一番分からん。しかも、今の話だって嘘かもしれないがやっていてもなんら不思議でないところが怖いのだ。
「だから、先輩は私には特に謝ることはないです。怒ってるのは美沙輝さんだけですから」
「結局怒ってるのか」
「半分私が逃したところもありますけど」
「うん。あからさまに香夜ちゃんだけ特に動こうとかなかったもんね」
「先輩の居心地を悪くしてしまったのは確かですし、まあ、先輩のいないところで美沙輝さんと話したいのもありましたから」
「俺がいちゃ不都合なのか?」
「まあ、ぶっちゃければ恋愛ごとですから。女子トークに男子は禁制です」
「はあ、そうですか」
「自分を巡っての恋愛トークだと言うのに興味なさそうですね?」
「そう言われても特に興味ないと言われたばかりだしな。何か発展するものがあるとは期待できん」
「そうですか?こういうのはカマの掛け合いですしね。例えば、美沙輝さんが先輩のことを意識していたとしましょう。でも、ああいう性格ですので面と向かっては絶対に言わないと思います。そこで、私が牽制をするわけです。そこで動揺を見せればクロ。しなければシロです」
「ということは、あいつも意識してないわけではないと?」
「そうです」
「で、香夜ちゃんの牽制の真意は?」
「さて、それはどうでしょうね。私は簡単な女じゃないと自分でも思ってて、正直面倒な子だと思ってます。先輩に協力してあげたいし、めぐちゃんが成長して欲しいって思ってるのは本意ですが、そこに先輩と一緒にいたいからとか、そういう感情が入ってるのかは自分でも分からないです」
「そうか……でも、俺は香夜ちゃんといて楽しいよ。香夜ちゃんが協力してくれて良かったと思ってる」
「それは光栄です。……残念ですが、ここでゲームのように次に発展はしないのです。私はめぐちゃんの部屋に行きます。先輩は自分の部屋に戻ってください。美沙輝さん呼んでくるので」
なぜだか、自分のいいたいことだけを言って引っ掻き回して、それとなく、自分の存在をアピールするのかのようだ。彼女は。
現実はゲームのようにうまくことが運ばない。
ゲームの主人公だって悩んで、行動して、そして結果が回ってきてるのだろうけど、それは書かれたシナリオの上での話だ。結末は決まっている。
俺は、扉側がよく見えるように正座をして待つことにした。
誠意というやつを見せることは大切だ。
まあ、初神から聞いた論理は早速破綻したが、とりあえずは謝ることにしよう。
……俺、一体何を謝ればいいんだ?
そう考えてすぐ、俺の部屋の扉は開かれた。