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祭りの後で

「あ?食材がもうない?切り上げ?あーはい。はい。待ってる客はどうすんだ?あとでクッキー配る?引換券でも作って渡して1時間後に取りに来てもらえ……あ、はい。分かりました。やらしていただきます」


 要約すると、うちは完売御礼ということで閉店しました。残ってる客でクッキーを買ってく人がいるかもしれないから売り場にあるものはまだ下げないで、待ってる客で引換券を渡して、それを持ってきた人だけクッキーを渡すということだ。まあ、お金取らないから数はたかが知れてるが。

 俺がここで面倒だからと反抗しようものなら視線だけで殺されるので反論などせずに首を縦にふるだけの機械になります。

 天文部の助っ人たちは人が少なくなったので返しました。料理研究部は全員揃ってるしな。後でお礼をしなければならない。恵は除く。あの野郎、後で金を請求せねばならん。なぜに金を忘れる。あの後、作だけ置いてまた見回りに戻っていったが、あいつが無事見回りなんて出来たのだろうか。いささか不安ではあるが、俺の方にお咎めが来ないことだけ祈ろう。


「ありがとうございましたー。あと、天文部の上映会、あと一回残ってるのでよかったら行ってみてください。とても綺麗ですよ」


 まあ、あの別荘地からの空を模したとのことなので適当な想像を元に言ってるだけなんだが、何とか行けないだろうか。もう、恵が担当してるところなんてとうに終わってるだろうけど。


「ふう、これで全員捌けたかしら?」


「ああ、お疲れさん」


「予定より早く終わったわね」


「そうだな。俺たちの出し物の方はまだ大丈夫だろ?」


「まあ、あと1時間後だし。少し片付けしておくわ」


「クッキーは?」


「引換券何枚だった?」


「7,8枚だったかな」


「じゃあ、50もあればいっか。山岸、作っといて」


「お前は⁉︎」


「デートに行ってくるわ」


「お前に相手なんかいねえだっ!」


「寝言が聞こえたかしら?」


 物理的に寝かせにかかってるようにしか思えない所業を働いてから言わないでもらいたい。


「香夜ちゃんとアリサちゃんは……お疲れ様みたいね」


「保健室に行くか?今なら空いてて寝れるだろ」


「そんな私用に使うわけにはいかないです……」


「私はまだまだ元気ですよ!」


 多分、香夜ちゃんは色々フォロー回ってたし、人気がめっちゃ高かったから呼ばれることも多かったため余計に疲れてるのかもしれない。


「じゃ、アリサちゃん、私と一緒にどこか回らない?」


「本当ですか⁉︎行きます!」


「じゃあ、育也。あとで教室で合流で。だいたい4時半ぐらいからここの片付けね。みんなもちゃんと来るように。特に山岸」


「人に雑用押し付けてすげえ言い草……」


「なんか言った?」


「なんでもございません」


 ここの部って独裁国家だよな。男子に権限がなさすぎます。もう少しあの女帝に抵抗ができる人が入ってくることを夢見てます。

 まあ、そんな奴いねえんだけど。


「山岸ぃ。あと1人でいいか?」


「もういいよ。俺1人でやるわ……。泣きたい」


「労いの言葉だけは後でかけてやるよ」


「なんの慰めになるんだよそれ」


「ああ……俺は頑張ったんだ。それを認められたんだ、という充足感」


「何も満ち足りねえよ。特にお前の言葉なんざ」


「誰ならいいんだよ」


「今の俺には何も言わなくていいから。お前らも仲良くどっか行ってこい」


「……そうですね、何もないのは可哀想ですし、私から何かジュースでもおごりましょう」


「どういう風の吹き回しだ?何か企んでるのか?」


「人の好意は素直に受け取るべきなのです」


「普段の自分を省みてから言ってくれねえかな……」


「私、そんな疑われるようなことしてましたかね?」


 多少なりとも確信あってのセリフであることがタチが悪いというかなんというか。俺からは何も言うまいが。


「ま、後輩がくれるってんだからもらっとけ。こんな可愛い女子がくれることなんて未来ないかもだぞ」


「俺にも可愛い後輩が欲しいです」


「それはないものねだりだな」


「2人の後輩はお前らにしかいかねえしな!」


 なんか怒ってらっしゃる?ちゃんと部活に来て交流を深めないから悪いのだよ。ちゃんと積み上げた結果の今の現状なんだよ。俺らは無論、この子たちにも非はないと思う。

 このままここいても、山岸くんの火に油を注いでるだけなので俺たちは退散するとしよう。

 したところで行き先なんて決まっちゃいないけど。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんか面白そうな出し物ないかね?」


「そろそろどこも撤収に近い時間帯ですし、あるとすれば……終了間際になって叩き売りしてる屋台系の料理ですかね」


「なんか食べる?」


「先輩、めぐちゃんにお金渡してましたよね?残ってるんですか?」


「叩き売りしてるぐらいの値段なら出せるさ。お、フランクフルト売ってる。すまんが二本くれ」


 二本と言わず、30本ぐらい持ってけと言われたがあいにくそこまで腹減ってねえし、所持金に余裕があるわけでもないです。多分、その30本売ったら完売か、ノルマ達成なんだろう。買わないけど。


「香夜ちゃんはケチャップとマスタードどうする?」


「両方いただきます」


「ほい」


「……い、意外に大きいですね」


「味は安上がりだけどな。ま、このぐらいチープなぐらいがお祭りとしてはいい感じだけど」


「ケチャップとマスタードで誤魔化してる感は否めませんね……」


「まあ、まだ色々売ってるみたいだし、俺が出し物に向かうまではこうしてブラついてるか」


「……先輩」


「ん?どうした?マスタード辛かったか?」


「いや、まあそれぐらいなら我慢して食べますが……。来年は一緒に……」


「そうだな。一緒に回れるといいな。そのためにも部員増やさないと」


「まあ、それでもうちの惨状を見てると私たちが切り盛りしないといけないかもしれないですが」


「高校生でバイト経験あるやつがそうそういねえしな。香夜ちゃん頑張ってたな」


「下手にクレームをつけるお馬鹿さんがいなかったからです」


「香夜ちゃんが可愛いから怒るにしても怒れなかったんだろ」


「何も出ませんよ」


「あり?そうなの」


「……どこかで返してあげます。後でアリサちゃんと先輩たちのお化け屋敷のところに行きますので」


「大丈夫か?」


「そもそもなんでもうすぐ冬という時期にお化け屋敷なんて考えついたんですか」


「いや……あのな?文化祭といえばお化け屋敷という固定概念というか先入観というものだけであれよあれよと進んじまって、出来上がったものだ。ちなみに監修は俺」


「タチが悪そうです」


「理由が『お前怖いもの知らずだからお前が怖いと思ったものならみんな肝冷やすだろ』とか。俺をなんだと思ってんだ」


「事実でしょう。この時期に肝も冷やしたくありませんが」


「香夜ちゃん冷えてない?」


「どこ見て言ってるんですか。タイツも履いてますし、そこまで寒くないです」


「ま、なんかあったら介抱はしてあげるから」


「その役目は美沙輝さんに任せます」


 信用ないね。相変わらずです。悲しいです。香夜ちゃんには対俺のATフィールドを構築しているそうです。破壊できないかしら?

 俺に邪念が働いてる限り無理?俺にやましい気持ちはないよ。ひたすら頭を撫でて、ちょっと抱きしめたいだけです。

 ひたすら香夜ちゃんを愛でたいだけの人生です。


「先輩は安っぽそうですね」


「低燃費と言ってくれ。小さい報酬で大きな働きをするんだぞ」


「……まあ、先輩には私が付き合ってあげますから。いつまでも。……早く行きますよ」


 香夜ちゃんは俺の方を見ずに歩き出した。俺はまだ多い人混みの中、ある1人が迫ってくるのを見た。


「とぅおおおおりゃあああぁぁ‼︎」


「ぐはぁ!」


「不純異性交遊禁止!」


「何もしてねえだろうが恵!」


 いきなり体当たりで人が1人突き飛ばされたのだが、特に誰も気にも留めないあたり現代日本というか現代社会というか、の闇を感じる。あからさまに襲撃だろ。誰か助けろよ。あ、俺だから助けなくても大丈夫?ふざけんなこの野郎。


「いいからどけお前は。今香夜ちゃんとデート中なんだよ」


「私も一緒に行く!」


「お前は生徒会の仕事を全うせい」


「いやあ、またはぐれまして。ついでだから生徒会室まで連れてって」


「お前は自分の本部すら記憶してないのかよ……一ヶ月は経つんだから覚えろや」


「まあまあ」


「そう目くじら立てるものでもないですよ先輩。どうせ、学校じゃ大してやることもないですしめぐちゃんがいた方が楽しいと思います」


「さすが香夜ちゃんだよ!私の親友はお兄ちゃんと言うことが違って大好き!」


「はいはい。じゃ、ちょっとだけだけど一緒に見回りしよっか」


「はーい!」


 これじゃどっちが生徒会役員なのか分からんな。香夜ちゃんが生徒会やってくれれば、もっと恵はやりやすくなるかもしれないが、いつまでも香夜ちゃんにおんぶにだっこでもいけない。

 それでなくても生徒会長にお世話になってるしな。……後で礼に行こう。

 香夜ちゃんと恵が仲よさそうに歩いてると、俺が間に入る余地がなくて少し寂寞の思いを抱いた。




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