世の中は誰かにとって都合よく回る~恵side~
初めての文化祭。そして、私が今日は主催者として動かないといけない。
その旨を会長さんから言われた。
もちろん、生徒会の仕事ばかりに従事するのではなくて、私たち自身も文化祭を楽しんで、クラスや部活の出し物に参加すること、と釘を刺された。
主催者が楽しんでなければ、みんなが楽しんでくれるはずもないもんね。
今日がみんなにとって楽しい日になるといいな。
「とりあえず、確かに主催者は私たちだが、あくまで主役は生徒みんなだということを忘れないでもらいたい。私たちが権力を振りかざしてふんぞり歩いていては、楽しむものも楽しめないからな。だが、行きすぎたものにはしっかり取り締まりをすること。取り締まる場合は、1人で行こうとせず、最低2人以上で向かうように。1人で行って何かあってからでは遅いからな。さて、見回りだが……。めぐみちゃんのほうに2人ついてくれ、私の方は、千石くん、一緒に回るぞ」
「ちょっ!ぼくですか⁉︎」
「決定だ。さあ、張り切っていくぞ」
もう話は済んだのか、会長さんは千石くんを連れて、生徒会室から出て行ってしまった。
こうなっては、あとは私が何かしなきゃいけないけど、何をすればいいのか。
「とりあえず……鍵だけ閉めて、私たちも行きましょう」
「そだね〜」
「恵ちゃんはお姉さんに任せるといい」
生徒会は3年が会長さん。2年は1人で、1年が3人という構成です。
みんないい人だと思うんだけど、私だけなんか妙に扱いが違うような気がするのは私の気のせいなんでしょうか。
「迷子にならないように固まっていくぞ副会長」
まあ、名前だけの副会長感は否めないし、重々承知の上だけど、どうしても自分が副会長と呼ばれるのはなんか違和感を覚える。自分が今までそういった何か名前のある重要なポジションに着いたことがないからだけど。みんな、一応副会長として扱ってくれてる。
この文化祭はこの生徒会にとって、最初の一大イベントと言っても過言じゃない。まあ、生徒会って思ってたより細々とした仕事が多いんだけど。
思ってた業務は主には風紀委員がやってるらしい。服装検査だとか、校内見回りだとか。
何か問題があった場合にそれが生徒会に回ってきて、なんか注意リストだとか作るみたい。過去の議事録見てるとちょいちょいお兄ちゃんの名前が入ってるのが妹としてなんとも言えないんだけど。
お兄ちゃんはこの学校が嫌いなのかな。
「恵ちゃん、ため息とは朝から元気ないな。悩み事かな?」
「え?いや、ちょっと疲れてるだけですよ。何も問題がないといいですね」
「と、願っても毎年何かしらは問題があるんだよね。まあ、微々たることだけど」
「例えば?」
「強引な客寄せだとか、雰囲気に乗じた不純行為だとか」
お兄ちゃん、そういえばそんなことも書かれてたような。しかも今年度の頭。あれは香夜ちゃんに対してのものだろうけど。3年の廊下とか書かれてたから会長さんが書いたのかもしれない。
「うーん」
「めぐ〜生徒会が険しい顔してたらみんな何かあったのか勘ぐってくるよ〜笑顔笑顔」
「いや、お兄ちゃんが心配になってきた」
「そうなの?」
「なんか度々議事録とかに名前が載ってるからやらかしかねないというか」
「確かに名前は載ってるけど、特に何も言われてないってことは、すべて織り込み済みでやってるってことじゃないのかな」
「目を付けられることも?」
「なんかさ、自分はこういう人間だってことをアピールしてるみたい」
「うーん」
お兄ちゃんか……。15年間一緒に過ごしてきたけど、本当のお兄ちゃんは、どんな人なんだろう。今更分からなくなってきた。
前はこんなに甘えさせてくれなかったと思う。なんか呼んでもつっけんどんだったし、できる限りは関わりたくないけど、お母さんたちに言われてたから仕方なく面倒見てる、ような。
でも、ある日を境にお兄ちゃんは不自然になった気がする。
でも、本当のお兄ちゃんは何がしたいんだろう。今がそのやりたいことをやってるって言うんなら、私が口出しすることじゃないんだろうけど。
そもそも、私が口出しできるほど、お兄ちゃんは困ってはいないだろう。
強いて困ってることというのなら、香夜ちゃんとこれからどうするか、どうなるか、ということだと思う。
そして、それがどうなるかも私次第ということだ。頑張らなくちゃ。お兄ちゃんと香夜ちゃんには幸せになってもらわないと。
「ん?」
「どうしたの?」
「うろうろしてる子供発見」
「普通に誰かの兄弟で遊びに来たんじゃないのかな?」
「というよりは何かを探してると私は見たよ」
「確かに小学生ぐらいの子が親もなしに1人でいるのも変だね」
「こういうことを手助けするのも生徒会の仕事だぞ」
「私行ってきます」
誰かを探しているというか、どこか探しているというのなら私にでもなんとか出来るだろう。知り合いならなお可です。
「ねえ、君」
「ん?なんだ姉ちゃん」
「キョロキョロしてるけど何か探してるの?」
「探してる……まあ、合ってるか。花菱アリサって人が玄関あたりに迎えに行くって言うから待ってたんだけど、全然来なくて。忘れてるだろ」
思いっきり知り合いだった。
というか、親友にも近い人だった。
アリサちゃんか。お兄さんがいるとは言ってたけど、アリサちゃんが末っ子だったはず。小学生ぐらいの子が知り合いということは……なんだろ?
「アリサちゃんと知り合いなの?」
「従兄弟だ」
「はあ〜なるほど、従兄弟か〜。どうだろ。アリサちゃんなら私も知り合いだからだいたいいる場所わかるよ」
「本当か?」
「家庭科室だと思うけど……場所わかる?」
「前に来た時は職員室にしか行ってないから知らない」
前にも来たのか。何しに来たのかとかは、私が聞いても仕方ないことなので聞かないことにしよう。
「2人ともー!この子アリサちゃん探してるらしいから私が連れて行くねー!2人は見回り引き続きよろしく!」
「ちょっと!めぐ!」
「恵ちゃん⁉︎」
なんか2人は私が大切なことを忘れてるかのように私の名前を呼んだけど、2人がいれば見回りぐらいは大丈夫だよね。私だって子供の案内ぐらい出来るんだから!
……ところで、家庭科室へはどうやって行くんだろう?
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「なあ姉ちゃん。まだ着かないのか?もう20分ぐらい校内ウロウロしてるんだけど」
「ま、迷ってるなんてことはないよ!」
「迷ってるんだな……誰かに聞いた方が早そうだぞ」
「でも、人っ子ひとりいないね」
「こんな人通りのないところじゃ、最初から違うってわかるだろ」
「滅相もない……もしかしたら、料理研究部のところ人がいなくて暇かな〜って」
「そっちの方が失礼だろ……だいたい姉ちゃんは何者なんだ?アリサ姉ちゃん本当に知ってんのか?」
「知ってますとも。アリサちゃんは私の友達です。そして、何を隠そう私がこの学校の生徒会副会長なのです」
「この人が副会長じゃ、この学校の未来も先が知れてるな……」
「にゃんだとー!」
というか、正直すぎる子供である。確かにその通りかもしれないけど。お兄ちゃんにも同じこと言われそう。
それよりも私が方向音痴で迷子になりやすいことを忘れていた。これでは千石くんにまたどやされてしまう。副会長なのに道案内ぐらいできないのかって。
私が私でできると思ってしまったことが最大の間違いだったよ。学校ぐらいなら迷わないと思ったんだけどなあ。
そもそも家庭科室って何階にあったっけ?
自分の記憶力の悪さに辟易してきた。いつもお兄ちゃんが連れてってくれてたからなあ。お兄ちゃんも大概過保護といえばそうなんだけど。
とりあえず、下に降りてみよう。
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「あ、だんだん見覚えのある風景になってきた」
「生徒会で学校内に来たことない場所とかあっていいのか?」
「生徒会っていっても一ヶ月経ったぐらいだしね〜。私も1年だし、あんまり他の教室とか行ったりとかしないし。自分に関係のない場所は基本的に行ったことないものだよ」
「なんだ」
それでも、何度か行ってる家庭科室の場所というかルートを覚えてないのは自分でもどうかと思うけど。
もう少し歩くと見慣れた人影を見つけることができた。
「あ、天王洲先輩。ちょうどよかったです」
「どうしたんだ恵ちゃん。君の持ち回りはこっちじゃないだろう」
「いやぁ、そのですね。この子アリサちゃんに会いに来たらしいんですけど、地図がわからないみたいで。私も案内しようと思ったんですけど、私も迷子になっちゃいまして……共倒れですね」
「引き受けたことは最後までやらないとな。私たちもちょうどそこへ行くところだったんだ。一緒に行こうか。と言っても、もうあとは直線をまっすぐ行けばたどり着くけどね」
「あ、そうですか。いや〜いつも行く時はお兄ちゃんが連れてってくれてたんで、道順あまり覚えてなくて……アリサお姉ちゃんにこれで会えるよー」
「うん……なんか疲れたけど」
「ははは。じゃあ、私が君の分のお昼を振舞おう。シェフは特上だ」
「私の分はありますか⁉︎」
「君は少年にでも奢ってもらいたまえ」
「あ、じゃあ千石くん奢って♪」
「絶対にヤダ。君のお兄さんに後で何されるかわかったもんじゃない。あと、君はまだ財布持ってないのか」
「いや〜最近持っていいって言われたけど、今日に限って忘れちゃって。実はついでにお兄ちゃんから借りに行こうと思ってたところ」
「なんで僕はあの時ちょっとでも反論しなかったんだ……!」
「どうしたの?お腹痛い?トイレ行く?」
「君という存在に対して頭が痛いんだよ!副会長名乗るならもう少し出来るようになってくれ!」
「まあ、それはおいおいと」
「そうだぞ。その人の能力以上のことを現段階で求めるのは筋違いだ」
「高校生にもなって学校の案内もできないのはどうかと思います!というか、副会長なら学校の全体像ぐらい把握しろ!」
「あーもう、そんなに怒鳴らないでよ。耳が痛いよ。この子だって怖がるでしょ」
「怒った時のアリサ姉ちゃんよりは大丈夫」
アリサちゃんが怒ってる……そういや、元々は結構怒りっぽいって自分で言ってたような気がする。最近はそんなことないけど。まあ、余計なこと言わなければ誰も怒らないんだよね。それはどこでも一緒かな。お兄ちゃんも怒る時は怒るし。
そして、私たちの前方から走ってきた少女は一旦止まった。どうにも人とかち合うことが多いような気がする。私がそれを求めてるのかもしれないけど。
アリサちゃんはさっくんと呼んだその男の子に少しだけ話して私たちに預けるとまた走り去っていった。ずいぶん急いでるようだ。
「恵ちゃんはクラスの仕事はなかったかな?」
「私は生徒会の仕事頑張って、と言われて特に役割は振られなかったです。優しさなのか、私は戦力外と言われてるのか……」
「ま、誰かが気を回してくれたんだろう。あまり自分を悪い法に考えるのはよくないことだよ?」
「やっぱり姉ちゃん使えない人なのか」
「決めつけるのは早計だよ!」
「どうでもいいけど、どこにいよう。アリサ姉ちゃんいないんじゃそこ行っても意味なくない?」
「君、お昼はどうするの?」
「あー……なんにも考えてなかった」
「なら、私がおごってあげよう。腕のいいシェフがあの部にはいるからな」
「……普通はこの姉ちゃんが言ってくれるところじゃないの?」
「残念ながらこの子は朝学校に登校してからお金を忘れたことに気づいたらしくてね」
「今日こそ使う日なのになぜ忘れるのか。姉ちゃん、やっぱりポンコツじゃないか」
正論に返す言葉もない。
でも、お金はなくとも頼る先はあるんだよ。持つべきものは優しいお兄ちゃんだよ。
「というわけで、お金ください」
「なんで今日に限って忘れる」
家庭科室にお昼を食べにきました。結構人が入っていて忙しくホール内を行ったり来たりしてる。
「あとそこの子、誘拐してきたのか」
「ここまで堂々と歩いて誘拐もないよ……」
実はこのさっくんと呼ばれてた子はお兄ちゃんとは面識があったようです。どこで会ったのやら。
「あと、生徒会は視察ですか?」
「も、兼ねてかな。お昼も食べるよ」
そう言いながらも厨房の方へと向かっていった。ちゃんと料理してるかとかも見てるのかな。
「お前はいいのか?」
お兄ちゃんが私にそう聞いてきた。
「会長さんとは本当は別れてやってるから。それよりこの子どうしよう」
「うーん。アリサちゃん戻ってくるまで時間あるしな。ここにいてもやることないしつまんねえだろ。他に知り合いいねえか?」
「いたらこうやってこの人に連れてきてもらってないと思う」
遠回しに私では役不足だとでも言いたそう。でも、確かにこうして迷子になってた時点で何も反論はできない。
「……作。ここまでの道順は分かるか?」
「え?うん。覚えた」
「じゃ、恵。お前が連れてってやれ。ここでぼーっとしてるよりはマシだろ」
「お金はないよ?」
「こんなん雰囲気を楽しむもんだ。校内は広いし、アリサちゃんが戻ってくるまでなら回るだけでも時間は潰せるさ。なんか気になるものがあったらこいつならただでもやらしてくれるだろ。小学生だし」
「おーい。佐原先輩ー。お客さん呼んでますー!」
「っと。じゃ、適当になんか食べてけよ。味は保証するぜ」
忙しい中私たちの相手をしていたけど、さすがに呼ばれてお兄ちゃんは戻っていった。手際の良さを見てると、やっぱりお兄ちゃんは何でもできるんだなって感じる。
「あの人と兄妹だったんだ」
「うん、そうだよ」
「あの人は何でも出来そうだな」
「うん。お兄ちゃんは何でも出来るよ。……私とは大違い」
「お姉ちゃんは何にも出来なさそうだしな」
「うん……まあ、その通りだね」
「……でも、お姉ちゃんの方が一緒にいて暇しなそうだし、一緒に行くよ」
「いいの?どこに行っちゃうか分からないよ?」
「学校の敷地外に出なければいいし、どこか何かやってるところなら人はいるだろうし、お姉ちゃんみたいに迷子になることはないだろうよ」
「うう……私よりしっかりしてるね」
「……まあ、しっかりしないといけないからな。俺は」
「とりあえず、何か頼もうか」
「食べられるかなぁ」
「他のところでも色々食べられるように少なめにしてるらしいから大丈夫だよ。それか私と一緒に食べる?」
「お姉ちゃんの分がなくなるからいいよ。さっき、あっちのお姉さんが奢ってくれるって言ったし、甘えることにするよ」
話してる間に席が空いたみたく、私たちは2人で案内された。
「何が美味しいの?」
「ここのは何でも美味しいよ。私の料理の先生が作ってるんだから。でも、私のオススメは……」
さっきそう言えば唐揚げを親子丼に使ってるって言った。唐揚げ食べたい。いや、この親子丼が私の中でトップである。
「この親子丼美味しいよ」
「なんか欲望が溢れてるような……じゃあ俺もそれにする」
「おーい!注文お願ーい!」
「……恵?えっと、時間……ちょうどいいぐらいか」
「え?」
「あんた、食べたらすぐ天文部向かいなよ」
「?」
「完璧に忘れてるわね……あんたプラネタリウムの解説次の回よ。あとそうね……40分くらいかしら」
「余裕だよ」
「……ご飯食べて、あの迷子属性でなんでそこまで言い切れるんだ」
「なんだろうね。この子部室だけは迷わないのよ。あ、注文とってなかったわね。どうぞ」
「親子丼二つ」
「はい。ちょっと待っててね」
「……姉ちゃん」
「ん?」
「本当に大丈夫か?あと天文部って?」
「私も部活やっててね。それが天文部。文化祭ではプラネタリウムの展覧会やってて解説をやってるの。次の回が私だったね〜。あっはっは。ここに来てよかった」
危うかったよ。
「姉ちゃん、なんかツキがあるみたいだね」
「そだね」
「……そういや、姉ちゃん名前聞いてなかった。さっきからずっと恵っていうのは聞いてたけど」
「私?私は、佐原恵。天文部所属、この学校の生徒会副会長だよ」
「肩書きが重すぎる気がするのは俺だけなのかなあ」
「あ、こっちこそ君の名前聞いてないよ」
「あーそういえば。……俺は神前作。三年生、9歳」
とても9歳とは思えない。
どういったベクトルって、態度の話だけど。何も物怖じしてない。アリサちゃんの従兄弟って言ってたしアリサちゃんみたいなお家に住んでるのかな?
でも、完全に失礼いうわけでもなくて、ちゃんと弁えてる節もあったりなかったり。
「はい、親子丼2つね。伝票ここに置いておくから忘れないように」
「会長さんが払ってくれるって……」
「恵の分は払わないでしょうが。ほら、はよ食べて行きなさい」
「急かさないでよう」
運ばれてきた親子丼に手をつけ始める。自慢することでもないけど、私は食べるのは早い。天文部までならすぐに行けるけど……この作くんがすぐに食べられるかな?
作くんは割り箸を綺麗に割って、親子丼に手をつけた。
良いところの子って箸の使い方が綺麗だよね。私も箸の使い方にはうるさいよ。まあ、お兄ちゃんがうるさかったんだけど。
「なに?そんな見られてると食べにくいんだけど」
「美味しい?」
「別に姉ちゃんが作ったわけじゃないだろ……美味しいけどさ。ほら、早く食べないと間に合わなくなるぞ」
「らじゃー!」
「どっちが年上でどっちが年下なんだか……」
確かに最悪、作くんはここに置いていってもいいかもしれないし、私も急がなければいけないのは確かだ。
少し忙しなかったが、私は親子丼をかきこんで、自分の分の代金だけ先に払った。
まあ、ここからでも5分もあれば天文部には行ける。ゆっくり待つとしよう。
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「で?のんびりし過ぎたと?」
「申し訳ないです……」
部長さんに怒られてます。理由は遅刻です。幸い、準備に時間がかかってたみたく、10分ほど遅れて上映するとのことだったので完全なる遅刻ということでもないけど、自分の予定時刻までに来なかったのだから遅刻は遅刻である。
「で、そっちの子は?」
「アリサちゃんの従兄弟です。アリサちゃん、クラスの出し物に行ってるから、終わるまでわたしと回ることになりました」
「……こういうのもなんだが、迷子になるぞ?」
「目的地までの道順は覚えたから大丈夫」
「なら、いいか」
私のことはあまり信頼してないみたいです。これでは私のほうが案内されてる残念な子です。それは悲しい現実。悲しいもなにも事実そうであるからどうしようもないんだけど。建前上だけはお姉さん振らせてください。
「ほら、台本。上映は30分ぐらいだし、人がいっぱいになるほど入るわけでもないからついでだし、君も見ていくか?ここで待ってるのもつまらんだろ」
「……姉ちゃんがドジるのを見ててあげる」
性格の悪い小学生だった。立って読むだけだもん。ちょっと、暗いけど星の明かりを模してるんだから完全に真っ暗ってわけじゃないし。あ、そういえば料理研究部の宣伝もしなくちゃいけなかった。
えっと、……台本に丁寧に書かれてた。私専用の台本だろうか。読み合わせであった記憶がないんだけど。誰かが後で気を回して入れてくれたんだろう。きっと、他のみんなのやつにも入ってる。そう信じてる。
「ほら、恵ちゃん。出番だぞ。ミスしてもフォローはしてあげるから頑張って」
「はい。作くんもちゃんと見ててよね。私だってやる時はやるんだから」
「それ普段頑張ってない人のセリフだよな」
「はあ……どうしてこんなひねくれた子供が育つのか……」
「正論しか言ってないつもりだけど。まあ、見てるから頑張ってよ。お姉ちゃん」
「ふふ、とくとご覧あれ」
うちの天文部は料理研究部と提携して、お互いに宣伝しあってるということを会長さんから聞いた。片側が盛況しているということはこちらもいくらかの宣伝がなされてるってことで見に来てくれた人も多い。元より星に興味のある人が来てくれてるだけって可能性もなくはないけど……お客さんはお客さんだもんね。ちゃんとやらなきゃ。
照明は落とされ、自作のプラネタリウムがライトアップされた。
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「姉ちゃんもやる時はやるんだな」
「ふふーん。もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「なんかアリサ姉ちゃんと同じ匂いがするからやめとく」
「アリサちゃんと同じ匂い?」
「体臭の話じゃない。褒めると調子に乗って失敗しやすいんだ。ある程度の舵は効かせないと」
「作くんはアリサちゃんのお世話係なのかな?」
「……アリサ姉ちゃんは出来ることが当たり前みたいな感じだからさ、何か出来ても基本的には褒めてもらえないんだって。だから誰かに褒められることが嬉しいんだけど、あまり褒められた経験がないから……まあ、俺は簡単には褒めないけどな」
従兄弟だって聞いてたけど、相当アリサちゃんのことが好きみたいである。
「作くんはアリサちゃんのこと好き?」
「べ、別に好きとかそんなんじゃねえーし!」
「そっかー。アリサちゃん、うちのお兄ちゃんのこと好きみたいだからなー。でも、うちのお兄ちゃん競争率が最近上がってきてねー」
「何が言いたいのさ」
「それだけ」
「自慢かよ!」
「お兄ちゃんなんでも出来てカッコいいからねー。言動が時々残念なところが玉に瑕だけど」
「お姉ちゃんはそのお兄ちゃんのことが好きじゃないのかよ」
「好きだよ?大好き」
「よく恥ずかしげもなく言えるな……」
「……でも、正当に評価されないってことに関してはお兄ちゃんはアリサちゃんと似通ってるところがあるのかな。お兄ちゃんが何かをしようとしてる時は大抵誰かのためなんだよ。誰かのためにそれが成し得るのなら、自分の評価なんて省みようとしないんだから、笑っちゃうよね」
「恵姉ちゃんのためなのか?」
「そうだったり、他の子のためだったり。お兄ちゃんは自分のためって言い張るだろうけど、結局は誰かのためにしか動けないんだよ、お兄ちゃん」
「難儀な人だな……」
「まだ時間あるね。外の方回ろっか」
「恵姉ちゃん帰ってこれないだろ」
「作くんがいるから大丈夫」
「小学生に任せる副会長とかこの学校大丈夫なのか……?」
「まあ、いつかは生徒会長やってるかもしれないからね」
「……なあ、将来って考えたことある?」
「なんなの急に」
「聞いた話だけどさ、生徒会とかやるのって内申を上げるためとかそんなことを聞いてさ、でも、そのためなら別に部活まで並行してやることないと思うんだけど。天文学者にでもなるの?そっちの方が頑張ってた、っていうか楽しそうに見えたけど」
「天文部は……そだね、私がやってみたいってお兄ちゃんに言って入って、飽きっぽいっていうか、私、ポンコツだったから何やらしても全然できなくて、長続きしなかったんだ。でも、天文部は私が始めたことで間違いなく一番続いてることなの。きっと、好きなものだったんだよ。今日やったのはその成果。でも、本当にやりたいことは昔から決まってるんだ」
「そうなのか?」
「うん。お母さんがね、結構有名なファッションデザイナーなんだ。私もお母さんと同じ仕事やりたいって小さい頃から思ってるの」
「ちゃんと将来のこと考えてるんだ」
「私みたいに出来ない子は、前々から考えておかないと進む先がなくなっちゃうからね」
「そんなこと、ないと思うよ」
「え?」
「今日だって、天文部のプラネタリウムの解説、ちゃんとやってたじゃん。恵姉ちゃん自分で出来ない子って言うけど、それは周りに言われたから自分からそう思ってるんだと思う。やらなきゃ可能性はないんだから、何かやろうって動いてるだけ、すごいことだと俺は思う」
「作くん……」
「……なんで小学生にこんなこと言われてるんだよ。やっぱり前言撤回。お姉ちゃんは出来ない子だ」
「あー、そういうこと言うー」
「あ、そうだ。俺、お金持ってきてないからお姉ちゃん奢って」
「わ、私のお昼代をたかる気ですか」
「それもあのお兄さんからもらったものだろ……てか、そんだけもらってて全部昼食代につぎ込む気だったのか?太るぞ」
「このスレンダーボディを見てそんなこと言うのかね?」
「……早く行こう」
発言することは地雷を踏むとでも思ったのか、スルーされた。よく訓練された小学生である。お兄ちゃんとは大違いだよ。お兄ちゃんは余計なことを言って美沙輝さんからぶん殴られては蹴られては何かを投げつけられてるらしいから。そこまでやられるってどこまで余計なことを言ったらそうなるんだろう。
考えるだけ無駄だろうけど。お兄ちゃんが何を考えてるのかは私にはわかりっこないし。
「ほら、俺、地図もらってるしこれで行こう」
「あら、そんなのあったの」
「普通、どこで何を展示してるかとかパンフもらうだろ……どこにやったんだよ」
「ほら、あれね……私、持とうが迷子になるから生徒会の人2人一緒に居たんだよ。私が持つ必要はないんだよ」
「一番持てよ!万が一はぐれた時どうすんだよ!」
「最終的に誰かに巡り会うから」
「なんつー都合のいい人だ」
でも、学校ぐらいは把握しておかないと。今現在ですらどこにいるのかよく分かってないし。とりあえず、下に行けば外には出られるよね。
「その適当に行けば何とかなる的な考えだから迷子になるんじゃないのか?」
「まあまあ気にせずに。アリサちゃんのお仕事が終わるまで一緒に遊ぼう」
「仕事放棄すんなよ⁉︎」
「一緒にやるからダイジョーブ」
「すげえ不安だ……俺を免罪符にしないでくれよ」
うーん、どこまでも信用がない様子。
ここはひとつ、お姉ちゃんとしての威厳を示すともに、仕事もきっちりこなす有能なお姉ちゃんであることを見せる必要があるよ。
さて、はりきって行こー!