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世の中は誰かにとって都合よく回る~アリサside~

「料理研究部でーす。喫茶店……だったっけ?」


 ちーちゃん。さすがにそこぐらいは事前に知っておいて欲しいよ。手伝ってくれるんだよね?いや、実際に今もこうやって手伝ってくれてるんだけど。

 美沙輝先輩に頼んで、親子丼に使う唐揚げを少し分けてもらって試食を展開しています。

 そういえば、一応喫茶店にあるようなメニューを展開してたけど、コーヒーとかなかったような……あったとしても飲み物はすべてインスタントです。調達できてなかったとか言ってたからまた後で届いたりするのかな?その辺りは美沙輝先輩が手配してそうだけど。


「とりあえずは喫茶店だから。それで宣伝お願い」


「分かったよ~。え~料理研究部でーす。喫茶店やってまーす!家庭科室にてやってますので、少し小腹が空いたなぁ、なんて人にピッタリの量で提供しておりまーす!よかったら寄って行ってくださーい!」


 そういえば、恵ちゃんの推薦責任者やってたっけ。何か宣伝上手なところを感じる。

 うん、私もちーちゃんを真似てやってみよう。


「料理研究部でーす!喫茶店やってるのでよかったら来てくださーい!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 1時間ほどと佐原先輩に言われていたので、人がいそうなところをぐるっと回ってきた。

 意外に……と言ったら失礼かもしれないけど、唐揚げのはけもよかったので、30分したら完売していた。

 まぁ、だからあと30分はとりあえず宣伝だけ回ってました。

 どうやって宣伝してたのか?

 やっぱり佐原先輩が色々と器用なので、綺麗なポスターを作ってくれてたわけですよ。私たちが宣伝で回ることも織り込み済みだったのか、100枚程度持たされて回ってました。


「本当に恵ちゃんのお兄さんは何でもやるね」


「恵ちゃんの才能すべてかっさらっていったのかな……」


「そんな絞りカスみたいな才能しか恵ちゃんに残ってないような」


 そこまで言ってない。


「そういえば、恵ちゃんって天文部ではどうなの?」


「ホワホワしてるよ?」


 いや、それは大体わかってる。ホワホワしながらお兄ちゃん、お兄ちゃん言ってるから。


「そうじゃなくてね。天文部でどんな活動してるのかなーとか、どんな立場なのかなとか」


「……みんなの妹?」


 私が前に見た中だと、恵ちゃんが身長的に一番高かったのだけど。それでも妹になるのか。


「なんか構ってあげたくなっちゃうんだよね。隙あらば頭を撫でたいみたいな感じ」


 気持ちはわからないでもないけど、それでは恵ちゃんが目指しているという完璧少女には程遠いんじゃないかな。

 恵ちゃんがいいならいいんだけど。当人はいないから確認のしようがない。

 その恵ちゃんといえば、宣伝途中に見回りをしているのを見かけた。唐揚げがすでに売り切れてて落ち込んでたけどね。そういや、好物だったね。また、別で美沙輝先輩に頼んでみようかな。私じゃ作れないから。


「はあ……」


 そう考えると、なんの料理も満足に作れない自分が悲しくなってきた。何ヶ月料理研究部入ってるんだろ。毎日作ってるわけでもないけど。活動日だって絶対に料理作るってわけでもないけど。

 これでは、先輩たちが卒業したあとに支障が出てしまう!


「落ち込んだり、気合い入ったり忙しいね〜」


「ねえねえ、ちーちゃんは料理作れる?」


「え?まあ、簡単なものなら。目玉焼きとか、焼きそばとか、味噌汁とか」


「はあ……普通の女の子は料理作れるんだよね。研究部に入らなくても」


「な、何を落ち込んでるのかわからないけど元気出して」


「私はですね、全く料理が出来ないのです。美沙輝先輩から根気よく教えてもらっても、すべてあらぬ方向へと行ってしまうのです。これでは美沙輝先輩に申し訳ないです」


「あ〜そうだったの。で、でも、こういうのは毎日やるのが大事なんだよ。昨日ダメでも今日は昨日より上手くできればいいの。はじめから完璧に仕上げようとしなくていいんだよ」


「ちなみにうちは自分でご飯を作ることは叶いません。花菱家の家系は厨房立ち入り禁止となっているのです。ですから、料理ができる機会がこの研究部しかないんです」


「やっぱりシェフとかいるの?」


「どうやら私の住む世界はみんなとは違うようです。私だって人並みに料理を作れるようになりたいです。確かにシェフはいます。でも、禁止されていては家での上達は見込めないです」


「そ、そうなんだ。あ、そうだ。ならさ、部活がない日は私の家に来る?うち、小さいけど定食屋やっててね、私たまにお手伝いしてるの。料理のノウハウぐらいなら練習できると思うよ。恵ちゃんから聞いたけど、住んでるところ私と同じ地域みたいだし」


「ほ、ホント?」


「うん。アリサちゃんが迷惑じゃなければだけど」


「やりたい!やらせていただきます!」


「そこまで食いつくとは思ってなかったよ。でも、ただとは言わないよ」


 ただではない⁉︎


「いや、そこで驚いた顔してから財布取り出そうとしないで。別にお金寄越せとかたかってるわけじゃないからね」


「優しいです。この学校の人は」


「人間ね、いきなりお金をもらうと意外と困るものなんだよ。あっても困らないし、むしろないと困るものだけど」


「お金じゃないならどうすればいいの?」


「えっとね……私、勉強が苦手でして……見返りに教えてもらえないかなぁ、って」


 ほうほう、香夜ちゃんが恵ちゃんにやってるようなことかな。家庭教師というやつだね。


「引き受けたよ!」


「なんでそんなすごい笑顔なのか分からないけど。あ、家が厳しいとかなら全然断っても大丈夫だから」


「お父様はまた海外へ行ったと思われるし、お母様は自由にさせて……あの人が自由過ぎるので、家の人もむしろそっちの監視の方が大変だと思うから、私が無理しない範囲なら大丈夫だと思う」


「なんかアリサちゃんの家、どうなってるか気になるよ」


「また遊びに来て。ちょっと……っていうか、大分広いと思うけど」


「お屋敷なんだよね。なんか憧れるなー」


「いやいや、憧れだけで済ませて、たまにふらっと1日、そこら来るだけで良いと思うよ。お母様はしょっちゅう迷子になるし、私の兄弟も家を出てっちゃったから、私、基本的に1人だし。だだっ広いだけだとなんか虚しくなっちゃうだけだから」


「そういうもの?」


「そういうもの。まあ、住めば都って、どこに行っても慣れ次第だと思うけどね。私の夢は一度だけでも六畳一間の家に住んでみたい!」


「それは一軒家とかじゃなくアパートなんじゃないかな……?」


「ということをするためにも一人暮らしができるためのスキルを磨く必要があると思うのです」


「そうだね」


「料理はできないですけど、掃除、洗濯はできます」


「ある意味で衣食住で一番大切なところが抜け落ちてるけど」


「まあ、究極、人間飢えをしのげば生きていけますよね」


「本当に究極の話だけどね……」


「お?」


 なんなやかんや話していたら家庭科室までたどり着いていた。

 うーん、それにしても私も何か忘れてるような気がしなくもない。


「あ、アリサちゃん!ちーちゃん!ようやく戻ってきたか!香夜ちゃんがクラスの方に行っちゃって今人手が足りてねえんだ!至急ヘルプ頼む!」


「ふえ?」


 勢いよくまくし立てて、佐原先輩は中へと戻った。

 恐る恐る2人で中を覗いてみると、並んでこそないものの席は満席となっていた。

 おかしいな。お昼はまだなんだけど。

 私はこのままでも入れるけど、ちーちゃんはまだ着替えてないので、準備室の方へと回ることにし、美沙輝先輩に現状を聞いてみることにした。


「アリサちゃん。ようやく戻ってきたか。まあ、見ての通り満員よ。どうやら、香夜ちゃんがウエイトレスやってるのが拡散されたみたいでね」


「その割には女子生徒の方が多いような……」


「あの子は女子人気の方が高いから。男子の方はあいつがいるからね。まあ、三分の一は私が頼んだサクラなんだけだど」


「ずっと常駐してるわけではないですよね?」


「うん。まあ、お昼前にガラガラだったら虚しいから、だいたいこの時間から11時半ぐらいまでいてほしいって頼んでるの」


「……見返りは?」


「私が作ったクッキーを寄越せって。そんなに私の作ったものがいいのかしら……」


 私が貰えるのなら、いくら払ってでも貰うけども。美沙輝先輩は自分の能力を過小評価してるのだろう。


「えっと、今山岸先輩しか作ってないんですけど、いいんですか?」


「私は休憩」


「ふざけんな⁉︎お前も作れよ!」


「あーはいはい。ちーちゃんの方は着替え大丈夫?」


「はい!これでホールで戦いますよ!」


 別にホールは戦場ではないけど。やる気はあるということだけ受け取っておこう。空回りしないといいけど。

 それは私もか。佐原先輩に呼ばれてるんだし早く行かないと。


「まったく。あなたたちが戻ってこないから香夜ちゃんにギリギリまで頑張ってもらってたのよ?その分頑張りなさい。あ、天文部の方の宣伝も忘れずにね」


「あー忘れてました」


「天文部!」


「いっそのこと合併しません?」


「住み分けがあからさまにできないから遠慮するわ……私も料理作るから、2人も早くホールに行きなさい。並んでる人も出てくると思うし」


「「はーい」」


 香夜ちゃんに後で謝らないと。その分私も頑張らなくちゃ。

 香夜ちゃんや佐原先輩のようには出来ないかもしれないけど、見よう見まねで、やってみないと。

 なんでも挑戦だ。

 まあ、料理の方は何度も挑戦して何度も玉砕してるけど、それは置いておいて。今、私が作ることは多分ないだろうし。


「あ、そうそうアリサちゃん。伝言」


「はい?香夜ちゃんからですか?」


「ううん。アリサちゃんのお父さん。さっき来てね、もう飛行機の時間だから行っちゃったけど、伝えておいてほしいって」


「来たんですか」


「残念がってたよ。娘が働いてるの見たかったって。あと、アリサちゃんが作った料理、いつか食べてみたいから頑張れ、って」


「……ありがとうございます。また、教えてくださいね」


「明日からまたやってくからね。ほら、ホールに行った。育也が今大半やってるから」


「もういっそのこと佐原先輩だけに任せた方が早いんじゃ……」


「働け。さすれば、何もやらん」


「すいません行ってきます」


 先にちーちゃんは行ってしまっていたので、私も飛び出すように行った。

 見たところ、もう並び始めてすらも見える。

 よし、私も頑張ろう。


「アリサちゃん。入り口の方の客案内してあげて」


「はーい」


 私は指示を受けて動き出した。



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