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立場的強者

「そういや、アリサちゃんは電車通学なんだよな」


 駅に立ちながら電車を俺たちは待っていた。アリサちゃんの家は隣の市なので、電車でないと行けない。いや、まあ頑張れば自転車で行けなくもないが、こんな夕刻から行こうものなら確実に着くのは日が暮れた後だろう。

 確かにアリサちゃんの家に使用人がいたり、専属の運転士がいたりしたところで学校前に車が停まってることなんてそうそう見たことないから当然と言えば当然なんだが。


「ええ。自立するというのに、いつまでも家の力を使っても仕方ないですし」


「しっかし、なんでまあ電車ってのはこんなに混むんだよ。みんな車使え、車」


「大半は学生か車持ってないか、持ってても行く先に停める場所がないかとかそんな人ばかりですから……」


「車社会とはなんだったのか」


「田舎的発想がだだ漏れですよ」


「田舎民だから仕方ないな。俺の行動範囲は自転車があれば事足りるし」


「旅行とかしないですか?」


「親は家にいねえし、そもそも長期外泊なんて恵が何をやらかすか不安でとても連れて行けない」


「合宿は行ったじゃないですか……」


「任せられる人ばかりだったからな。適当に連れて行こうものなら、浴場かどっかで足滑らせて頭打ち付けて気絶してんぞ」


「妹に対しての評価が酷すぎやしませんかね……」


 あながち妥当な評価だと思ってるのだが、周りからはそこまでな子とは認識されてないらしい。よかったね、恵。周りがそうだからといって、俺の評価は変わらんがな。


「今日はいいんですか?」


「むしろそちらが提案したのに今更心配か?」


「美沙輝先輩は何も知らないでしょう」


「アリサちゃんは全部知ってんのか?」


「そりゃ親友ですから。辛いことも楽しいことも全部共有して、助け合うものです」


「そっか。そいつはいいな。俺にはそんなやつはいねえから」


「美沙輝先輩はあながちそんなポジションじゃないんですか?」


「あいつは人の事情に深入りしてこないからな。それでも話すなら最後まで聞いてくれるし、協力もしてくれる。だけど、あいつにそこまで背負わせたくないからな。美沙輝は本当は自分のことでいっぱいいっぱいなはずなのに首突っ込もうとするから」


「よく見てますね」


「ま、付き合いは君らよりは長いからな。それも人間関係の希薄なやつときたら、自然と1人ぐらいは分かるもんだ」


「そうですね……私も香夜ちゃんと友達になれてよかったです。香夜ちゃんがいなかったら私、また1人だったかもしれません」


「そうか?アリサちゃん友達多そうだけど」


「今でこそ、ですよ。さ、降りますよ。戦いの準備はいいですか?」


 もう臨戦体制に入らないとダメなのかよ。もっと友達の家に遊びに来た感覚じゃいけないのか?

 それと、アリサちゃん、『また』って言ってたな。

 俺が追求することじゃないんだろうし、今が楽しめているのならば、過去なんてどうでもいいじゃないか。

 俺はアリサちゃんに連れられるままに花菱のお屋敷へと招かれた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 相変わらずの黒服の人に睨まれたような気がするが、今回はお嬢様ご本人がいるので、悠々と通らせてもらった。

 しかし、広すぎて落ち着かないところである。庭を広々しており、俺の家がいくつ入るんだろうってレベルだ。この市の所有地のどれぐらいを花菱家が持ってるんだろうか。怖くて聞けないけど。


「とりあえず、私の部屋に来てください。あ、先に着替えるので着替え終わるまで扉の外で待っててください。覗きたければ覗いても構いませんが、その後の佐原先輩の命は保証できませんね」


 そんな怖い状況に陥るぐらいならリスクは犯さないよ。おとなしく待ってるわ。

 仮に覗いたとして、その後どうなるかは大体目に見えてる。正直なところはこの家のSPとかよりは美沙輝とか香夜ちゃんのほうがよっぽど怖い。まずはこの屋敷から生きて帰れるのか、というところだが。


「…………」


 アリサちゃんは自分の部屋の前で立ち止まった。


「どうした?」


「いやあ、どうせ今日は見られてるし、正直見られてもあまり支障はないかな……って」


「あんまりそういうこと言ってると襲われるぞ」


「佐原先輩ならいいですよ。佐原先輩だから言ってるんです」


「俺のことが好きだという設定はまだ生きてたのか?」


「設定とか言わないでください。そして、あまりそういうことをこの屋敷で言わないでください。……そりゃ、香夜ちゃんに譲りますけど、別に嫌いになったとか、気にならないとかそういうわけじゃないですし……もしかして、私にもチャンスがあるんじゃないかって思ったら、期待しちゃいます」


「俺はてっきり美沙輝のことが大好きで、美沙輝とラブラブしたいのかと」


「正直、美沙輝先輩のこと大好きですし、出来ることなら養子で妹になりたいです」


 そこは本気なのかよ。


「まあ、なんでもいいので部屋に入ってください。佐原先輩はコーディネートについては見る目があるようですので、ついでですので服も選んでもらえると」


「この部屋にあるのか?アリサちゃんなら普通に他の部屋にあると思ったんだけど」


「年頃の女の子は家族であろうとあまり人の服に触ってほしくないんですよ……とは言っても、その時期にあったものをこの部屋に収納してるだけなのであまり数があるわけでもないですが。あと、佐原先輩。上から二段目は下着なので触らないでください」


「俺がタンスに触らなければいいだけなんじゃねえかな……」


 見たいけども。どうにも俺は周りから変態認定されてるので先に釘を刺される傾向にあるらしい。


「なんか邪な視線を私の太腿あたりに感じます」


「めくっていい?」


「いいわけないです」


「絶対領域って素晴らしいネーミングセンスだと思うんだ」


「見えないからこその話ではないんですか」


「その上で見えたら嬉しいだろう。というかアリサちゃんは下にスパッツとか履かないのか?」


「いや、まあこれも見せパンみたいなものでして、いわゆるキャラ付けというか……」


 キャラ付けだったのかい。


「もっとシンプルなのとか可愛いのありますから。休日はそっちを履きます」


「見せて」


「嫌です」


「ケチ」


「会話の流れで見せてもらえるとか思ってる佐原先輩の頭が一番おめでたいんですが……」


「エロ煩悩の塊と呼ばれた俺をなめてもらっては困るな」


「なんかすでに人選を誤った気がします……。なんですか、そう言えば香夜ちゃんは見せてくれるんですか」


「ああ見えてガード硬くてなあ。滅多に見れない。お兄ちゃん悲しい」


「見えない方が普通だと思うんですけど……」


「えてして近くにいる女の子の下着を見たいと思うのが男の性なのだ」


「そんな性癖を堂々と言われて私はどう対処すればいいんですか……」


「まあ、流してくれればいい。アリサちゃんは全部に対応してくれるな。優しい限りだぜ」


「スルースキルを覚えてないのかもしれません。これから教授します」


「まあ、ボケの一番辛いことはスルーされることなんだけどな……」


「かまってちゃんですか。というか、佐原先輩はボケではなく道化でしょう。周りが笑ってなくても自分だけでも笑ってないと嘘になっちゃいますよ」


「誰に聞いたんだよ」


「美沙輝先輩です」


「あいつも大概おしゃべりなあ」


「心配してるんですよ。佐原先輩がそうやってひねくれてるから」


「いいだろうがよー。俺が道化だろうがノンケだろうが」


「後者だとだいぶ意味合い変わってきますが、佐原先輩はノンケだと言われていいんですか」


「普通に女の子大好き」


「字面だけ取るととんだプレイボーイですね」


「あれ?嵌められた?」


「いや、自爆だと」


「まあいいや。アリサちゃんがいくつか服出してくれればそこから選んでやるから」


「佐原先輩はどういうのが好みですか?やっぱりスカートですか?」


「女の子らしいって言えば確かにスカートの方が可愛いし好きだけど、似合う似合わないあるかなあ。相手の性格を知ってるからというのもあるかもしれんけど。ちなみに恵なんかはスカートを好むが俺目線ではショートパンツとかの方が似合う」


「私はどうですかね?私服もスカートの方が多いですけど」


「なんだか最近はスカートとパンツが一体化したやつとかいう邪道なやつがあるようだが、スカートはスカートだから素晴らしいんだろうが。というわけでアリサちゃんはスカート。膝上10センチぐらいがちょうどいい」


「……香夜ちゃんは?」


「膝小僧が隠れるぐらいかなあ。大人しめな感じを出したい。アリサちゃんは少し活発な感じをアピールさせる」


「割と考えるんですね」


「上はそうだな……寒いし適当に重ね着しときな」


「上の方のこだわりのなさはなんなんですか……」


「アリサちゃん他の奴らと違ったものを持ってるからどうしたもんかわかんない」


「私はセクハラされたとして訴えることはできるんでしょうか」


「こういう時に限っては男は冤罪であろうと罪を被されるんだよなあ。辛いね」


「冤罪どころか現行犯ですけど。まあ、別に気分を害したわけではないのでそんなことはしませんが……」


「なんかな」


「どうかしました?」


「こういう屋敷に住んでる人は学校から戻ればドレスでも着てんのかと思ってたが」


「いやいや、偏見ですから。普通の服着ますから」


「ただ、俺がどうコーディネートしようとお嬢様感が出るな。普段からは信じられんことだ」


「普段の私……うまく溶け込めてますか?」


「俺から見ればな。そういうことは香夜ちゃんから聞いた方が相応の評価がもらえるだろ」


「それもそうですね。佐原先輩に聞くのが間違いでした。とりあえずこれと、カーディガンでも羽織っておけばいいですかね。そもそも家の中だけなんでそう着飾る必要もないですけど」


「お嬢様、それでいいのか。そもそも今日だって親父さんいないんだろ?なんで連れてきたんだ?」


「善は急げといいますから」


「急がば回れにならんといいな」


「もーせっかくやる気出したのにそういうこと言うー」


「で、どうするんだ?根回しにするにも人と話さなければどうしようもないわけだが」


「ふふふ。先輩。最近の世の中は女尊男卑。お父様よりも権力が上な人がいるのですよ。まずはそこから籠絡するのです」


 それだったら、そこから、というよりはそこを籠絡すればほぼクリアも同然な気がするが。


「で、何処にいるんだ?」


「…………一緒に探しましょう」


「は?」


「あの人は私が生まれてから一度も迷子にならず自分の部屋にたどり着いていた記憶がないです。とりあえず部屋に行ってみますけど、ぶっちゃけそこがスタート地点と考えてください」


 迷子属性2人目かい。こんなだだっ広い屋敷で、屋敷内ならともかく、何処にいるか定かではないということは外にいる可能性すらあるのか。

 まず話を始めるところからのはずだったのに大捜索が始まってしまった。





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