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お金の管理は私に任せてください!

 体育祭だ、文化祭だなんだと浮かれていても、俺たちは一介の高校生。勉学が大事であることは基本的に変わりはない。そこに付加されるものとして、行事や部活やらと続いていくのだ。まあ、授業なんてあくまで勉強の仕方というものを学ぶことであって、高校で学ぶ程度のことを完全に熟知しているのであれば、そう本腰入れてやることもないような気がするんだが。

 三年生はもうこの時期授業なんてほとんどなくて、ひたすら受験のための勉強をしているとも聞く。まあ、早いやつはもう2年生、あるいは目標が今のレベルより格段に高いと知ってる意識の高いやつは一年の頃から勉強しているのだろう。学校の授業とは別に。

 もうすぐテストがあるわけだが、まあ、俺はいつぞや言った通りにテストのために勉強を頑張る必要はほとんどない。それこそ、目指すもののために受験勉強をしてもいいぐらいだ。まあ、目指すものなんて何も決まっちゃいないからする気もないんだけど。

 だが、テストがあると言っても少しのことだけ先なので部活を行うことができる。許可を取っているので料理を行うことは可能だが、まあ、顧問の方は来る様子はない。美沙輝がしっかりしているのが起因しているだろう。信頼があるというのもいいことだ。

 無論俺の頼みなら、例え顧問がこの場にいても料理させてもらえなさそうだけど。

 この圧倒的格差よ。

 部活と言っても、俺たちも毎日料理を作ったりしてるわけではない。そもそも部活自体は週3日程度だ。それでも最低1日は作るが。

 理由としては後輩2人による食材の無駄をなるべく排除したいそうです。

 もっとも、ここで作らなければそういうところに気兼ねすることはないとは言っていたけど。

 そして、今日の活動についてだが、文化祭の準備である。

 使える料理の選定や、必要な費用、場所の割り振り……はまだ決まってはいないが、おそらくここを使えるであろう。テスト週間のせいであまり直前まで詰め込むことができないのだ。まあ、うちの部は1人除けば大変優秀な成績なので、テスト勉強せずとも根を詰めることも可能だが、文化祭準備頑張っててテストの日にぶっ倒れましたじゃ、笑い話にもならないからな。もしくは大目玉である。

 だから余裕のあるこの時期にやってしまおうということだ。

 今日の俺の作業は美沙輝のアシスタントである。


「一応、喫茶店みたいな感じにしたいけど……あんたコーヒーとか作れない?」


「インスタントなら任せろ」


「まあ、誰も本格的なコーヒーを望んで来る客はいないわよね……紅茶とかは?」


「精々ダージリンとかなら名前は聞いたことある程度だ。効能とかは知らん」


「別にその辺の専門店にするわけでもないからいいんだけどね……最悪水だけでもいいし」


「ドリンクなら別にうちじゃなくてもいくらでも販売するところがあるだろ。うちの利点としてはシェフがいるということだ。料理で客を呼びたいんだろ?」


「まあ、問題はこの家庭科室の場所なんだけどね。奥まった場所にあるから、誰かにサクラ頼もうかしら」


「ただな」


「何よ?」


「お前は基本的にウェイターなんてやらないだろうからいいだろうけど、ウェイター係の2人が心配だ」


「……なんか想像がつくわ。そのうち親衛隊とかつきそう」


「俺が第一会員です」


「お前が首謀かい」


「山岸でも数分に一回チラつかせておけばいいんじゃね?あいつ見た目だけなら威圧感が出るだろ」


「お客さん威圧してどうするのよ。悪評立つだけだわ。腕はいいんだけど……」


「こういう時男2人って悔やまれるな」


「あの子たち可愛いから客寄せとかは問題ないんだろうけど。変な客が寄り付かないかそこが心配だわ」


「アリサちゃんは知らんが香夜ちゃんは実質的な戦闘力めっちゃ高そうなんだが」


「対あんたのみでしょうが。初対面の人に手出しするようなことができる子じゃないでしょ」


「まあ、基本的に俺もウェイター入るし、足りない時にキッチンも回るわ。ここなんて精々入れて20が限界になりそうだし、ぶっちゃけ言うならウェイターは香夜ちゃん1人で全然回る」


「なんであんたがそこまで言い切れるのよ」


「あの子のバイト先を忘れたのか」


「……ああ、ファミレスでしてたわね。あんたもだけど」


「接客の心得はあるぞ。まあ、前と違って顧問もちゃんといるし、何か問題が起きたら顧問に押し付ける。あと、足りない人では天文部が貸してくれるとも言ったが……多分矢作は使えないだろうしなぁ。3年の先輩を使うか」


「あんたも段々生徒会長に近づいてきてない?」


「使えるものはなんでも使っておかないとな。向こうは男手なくても大丈夫っぽいし」


「ていうか、漫画か小説の読みすぎだと思うわよ。今時そんな分かりやすく手出しするような奴がいるかしら?」


「まあ、この学校は生徒会長が手中に収めていると言っても過言ではないけどな。前の体育祭の時の件もあるし、ないとも言い切れないだろう。それに文化祭は親類だけとはいえ校外からも来客があるんだ」


「一応付属中学の子なら来れるみたいよ」


「そんな知り合いはおらん。……まあ、それ以前に客が来るかどうかなんだけどな」


「私の友だちには声をかけておくわよ。あんたは……思い当たる節が2人しかいないんだけど」


「ああ、その2人しか基本的にいない。まあ、あるいは初神なら顔は広そうだし、理想としては女子6:男子4ぐらいが客層としてはちょうどいいかな。女子が多い中で下手に手を出そうとか考える奴の方が少ないだろう」


「まあ、理想と言えるのは繁盛してる間に食材を使い切って完売御礼としたいところだけど……」


 美沙輝は俺と話しながらも今まで作ったレシピノートを見ていたが、それを机の上に置いた。


「あんたの言うとおりね。まずはお客さんが来てくれないことには始まらないわ。とりあえず、一品料理作るから、ちょっとあの子たちの様子見てきてくれない?」


「手伝うぞ?」


「ううん。私の料理の味に点数をつけて欲しいの。私が1人で作らないとそれは意味がないわ」


「役割分担というものがだな……」


「ああもうあんたも大概お節介焼きね!私がいいって言ってんだからちょっと待ってなさい!」


 せっかくアシスタントで入ったのに追い出されてしまった。なんのために入ったのか分からなくなってくるぜ。

 でも、文化祭で出すようなものならほぼ確実に火を通しておかないといけない。食中毒なんて出たら大問題だからな。その分時間もかかる。だからキッチンは2人で回す。いくらウェイターの手際が良くても料理を出すのが遅ければ回転率は下がる。ベストなのは美沙輝と山岸が揃っている状態なんだが、無論ずっとその状態は続かない。俺が入れば回すスピードはいいかもしれんが質というのはどちらかが欠けた時点で下がるだろう。こういう時に人手不足で頭を悩ませるのだ。


「どうしたんですか?先輩。戦力外通告ですか?」


「最初から料理に関しては戦力外通告な君に言われたくないです」


「私はこちらで力を発揮するのでどっちつかずな先輩に言われたくはないです」


「まあ、どっちつかずだけどさ……美沙輝がなんか一品、料理作るらしいからそれ食って採点してくれだと」


「採点、ですか?」


「まあ、採点というよりはあいつの料理にいくら出して食べたいか、って話なんだろうけど」


「私はいくらでも出して食べますよ!」


「そりゃアリサちゃんはあいつの腕を知ってるからな。でも、文化祭で足を運ぶ客はただの学生の部活でやってるだけの知らないやつが作ってる料理だ。そこであまり高めの料金設定したところで頼んじゃくれないだろ?」


「そうですか……」


「用意した予算から原価割れは出来ないし、あいつの腕がその料理にいくら付加されるかということだが」


「でも、学生が頼むのがほとんどだと思いますし、よくて400円ぐらいが妥当ではないでしょうか?」


「あいつが原価がどんなもん使うかわからんけど、まあ、料理自体は2,300円ぐらいが妥当なラインだよな」


「強気に押せないでしょうか?」


「というと?」


「それこそ一般のファミレスぐらいの値段設定にして、狙いは生徒たちの親世代をターゲットに」


「そもそも親が来るところも少ないだろう。少なくともうちは来ない」


「まあ、私も家がアレですし、こんな一般高校の文化祭に足を運ぶことはないでしょう」


「でも、私たちのような家は稀ではないでしょうか?ここは一番普通な家の美沙輝先輩に聞きましょう」


「あいつは今料理作ってるからそれは後でいい。ただ、あいつが大概食材を調達してるんだが、あいつのどこにそんな金があるのかが分からん」


「なんかおじいさんが畜産農家らしいです。ですから採れたてのいくらを回してくれるようです。まあ、時には豚肉とか鳥肉とかもですね」


「あいつの秘密にそんな事情があったんか……」


「まあ、流石にいくら私の家がお金持ちだといいましょうが、無いものを提供することはできませんからね。これは美沙輝さんの人脈によるところなのですごいことなのです」


「別にアリサちゃんが威張ることじゃないけどな」


「それ以前になんで先輩はそれを私たちより長く一緒にいて知らなかったんですか」


「一度聞いたけどはぐらかされてな。別にあいつが無理してやってることじゃないってわかっただけで十分だな」


「まあ、もしかしたら材料費はほぼ無料で仕入れることも可能かもしれません」


「そう上手い話はないわよ」


 料理を終えた美沙輝がお盆に俺たちの分だけ皿を載せて来た。


「ナポリタンか」


「そ。喫茶店ならおあつらえ向きでしょ?」


「美味しそうです〜食べていいですか⁉︎」


「もちろん。そのために作ったんだもの。さ、食べて」


「いただきまーす!」


 この子は礼儀作法はどこへやったのやらというぐらいのがっつきぶりである。

 それだけ美味しそうな食べてもらえればシェフもさぞかしご満悦だろう。

 アリサちゃんの姿を見て、俺と香夜ちゃんは苦笑しながらもナポリタンをいただくことにした。

 ちなみに香夜ちゃんはすごく食べるのが綺麗です。どこで習ったのかしら?

 ……まあ、あまり聞くのはよろしくないか。小さい頃は特にいい子だったみたいだしな。自然と処世術みたいなものが身についているのだろう。


「どう……かしら?」


「美味いぞ」


「身内贔屓とかじゃない?」


「なんでわざわざそんなことせにゃならんのだ。まずいと言えるレベルはアリサちゃんが作ったダークマター並みのものになってから言ってくれ」


「私そんなの作った記憶ないです!」


「入ったばかりの頃は卵すら割れなかったよね……白身、黄身を分けるのならともかく」


「い、今は出来るもん!」


「はいはい。あんたたちは喧嘩を始めようとしない。来年は2人も作ることになるんだから。一つぐらい得意料理が出来るようにしないとね」


「得意料理……ねぇ」


「なんか思いついたの?」


「5人いるんだし、5人のそれぞれの得意メニューでも出し合えばいいんじゃねえかなって。それぐらいなら困ることもないだろ」


「私とか山岸は二つでもいいわよ?」


「二つぐらいはまあ、なんか軽くつまめるお菓子とか。それこそ、作り置きして店頭販売みたいな感じでクッキーおいてもいいかもしれんし」


「なるほどね」


「作った料理食べれば、それを作ったやつのクッキーだって買ってくれる可能性もあるし」


「……あんた経営者にでもなる?」


「誰でも考えつくことだろう。あいにく俺が上に立とうがすぐ崩壊する未来が見えるし」


「あ、そうそう。みんな、私の料理、いくらなら払ってもいいって思える?」


「そうですね。一般的な喫茶店やファミレスで食べるのなら800円かかると思います。でも、美沙輝先輩のは贔屓目なしでもそれより美味しいと私は思うのです。本来ならば千円はもらってもいいと思うのですが……相手は学生です。それに学園祭という観点でみれば、ここだけでお腹を満たすことを考える人もあまりいないと思います。量を少なめにして、350円とかそのあたりの料金設定が私はいいと思います。あくまでこれを文化祭のメニューに出すというのならばですけど」


「自分の感想も述べつつ、建設的な意見をありがとう。アリサちゃんは……まあいいわ」


「なんでですか⁉︎」


 この子は正直金銭感覚が麻痺してそうとか考えたんだろう。うん、俺が後で聞くから、そんなにプリプリしないでもいいぞ。


「あんたは……どう?」


「いつもお前のばっかり食ってるから味覚が麻痺してるんだろうな。これが普通だと思ってた。でも、ファミレスでバイトしてるとまかないでたまにもらうんだ。そういうの食べてたら、自然と俺は贅沢してたんだなって思った。それこそ香夜ちゃんが言うように千円、もしくはそれ以上出しても俺は惜しくない。が、相手はお前の腕を知らない客だ。値段だけ見て頼むのをためらうことも考えるとやっぱりワンコインで食べられるぐらいがお手軽でいいだろうな」


「な、なによもう……みんなしてそんな過大評価して……」


 思ってたよりのことだったのか少し狼狽えている。こいつは自分のことを過小評価する傾向にあるのだ。だからどれだけ努力しても足りないって思ってて、だからどれだけでも努力をする。

 きっと、俺ならどこかで満足してしまいそうだ。少なくとも美沙輝のレベルまで作ることができるのならそれで終わる気がする。美沙輝は満足することはないから、もっと上達してもっと美味しいって言ってもらおうって積み重ねるのだろう。

 意識の違いが、その実力差を顕著にしてるんだろうな。でも、自信がなければあいつも人にそれを提供しようなどとは考えないだろう。でも、自信を持った上で、さらに高みを目指すのだ。努力に際限なんてないはずだからな。

 ……努力することすら放棄した俺があまり言えたことではないか。


「じゃ、片付けるわね」


「あ、私手伝います」


「そう?じゃ、頼むわ」


 珍しく香夜ちゃんが美沙輝の手伝いについていった。いつもその後ろについていくのはアリサちゃんだと思ったのだが。

 そのアリサちゃんを見るとボケーっと意識がどこかに飛んでいったかのような表情をしていた。


「うう、私信頼されてないんでしょうか?」


「そんなことないって。ただアリサちゃん、一応お嬢様だろう?金銭感覚に違いがあるといけないからな」


「お嬢様だってマックだったり、100円の回転寿司だったり行くんですぅ」


「……最近の話?」


「安くて驚きました。カード使わずとも手持ちで払える額なのですね」


 だから美沙輝はアリサちゃんに聞かなかったんだろうな。

 この子、小銭とか持ったことあるのかしら。


「アリサちゃん、一応聞くけど、日本円の最小の単位は?」


「もちろん1円です。バカにしないでください」


「じゃあ、その一円玉をアリサちゃんは持ってるのか?」


「なるべく買い物でお釣りを出さないように一円玉4枚、五円玉1枚、十円玉4枚、五十円玉1枚は常に持ってるといいって香夜ちゃんから聞きました!いまも入ってます!」


 それはなんとなく生活の知恵のような……。まあ、小銭を大量にお釣りで渡されると財布を圧迫するからあまりよろしくないよね。

 まあ、でもこの子に一応小銭の概念があることはわかった。


「五円玉や十円玉ならともかく、一円玉ってアルミニウムですよね?自分で作れませんか?」


「犯罪だから。お金を作れるのは日本銀行だけですから」


「それはともかくですね。とりあえず組まれてる予算はすでに決まってるのです。先ほどまで香夜ちゃんとどうやって運用していくかを考えてたんです」


「まあ、一応アリサちゃんが経理担当だからな」


「そして、売り上げの2割を学校に納めることになってるらしいです」


「なんでやねん。がめついな学校。普段俺たちから金をふんだくってんだから売り上げぐらい部費に回せや」


「という意見書が今度は生徒会に行きそうですね。売上が少ないところが2割持って行かれたらたまったもんではないですよ」


「売上度外視とかならいいんだけどな」


「まったく文化祭だって息抜きのようなものですのに、そこから搾取されるようじゃたまったもんではないですよ。そもそも運営費など足りてるはずです」


「はっはっは。なんならアリサちゃんがこの学校の経営者にでもなるか?」


「それはそれで中々面白い提案ですね。でも、学校の理事にでもなろうとするとどういったことが必要なんでしょう?」


「さあ……アリサちゃんが出来そうな手っ取り早い方法としては買収とか?」


「うちが買収してしまっては、学校の方針とか思いっきり変わってきそうですけどね。でも、ちょっと私の進路に加えて行こうと思います」


「ええ……もっとやりたいこととかないのか?」


「なれるのなら美沙輝さんのところで養子にでも」


 まだ言ってたんかい。それを目指すぐらいなら確かに学校の理事とか目指してくれた方がこちらとしてもありがたいと思う。


「まあ、血すじとかもあるだろうし、まったくそういうのは関係ないとかもあるだろうけど、調べるだけ調べてみな」


「そうですね〜。えっと、さっきのナポリタンを350円で売るとして……佐原先輩、あれの原価って分かりますか?」


「使ってる量見てないし」


「その辺りは美沙輝さんに聞きますか。まあ、原価割れだけはしないようにしたいですね」


「あらかじめ作る量を決めておけばいいんじゃねえか?そうすれば無駄に作ることもないし、利益も計算しやすいだろ」


「どれだけ来るかも分からないんですよ?」


「まあ、一応宣伝もしてもらうけど確かになあ。各料理を何食限定とかにして、お菓子は注文された分だけ作るとかにするか?」


「その料理目当てに来た人が食べられなかったらクレーム来ませんか?」


「学生のやることにそこまでケチつけてたら何もできやしないだろう。あるもので我慢しろ。昔の人はそうやって生きてきたんだ」


「豊かな社会に生きるっていうのは贅沢なことですね〜」


 予算とにらめっこしながらアリサちゃんは呟いていた。もっともこの子はその体現のようなものでもあるような気がする。まあ、与えられているという観点で見れば基本的なやつはみんなそういうもんなんだろうけど。


「赤字だった場合はどうするんだ?」


「……その場合は何も出ませんよ。あくまで学校側は渡した予算の中で利益を出せと言ってるだけですからね。その予算以上売り上げれば利益、売り上げられなければそれまでというだけです。バイトしてない子もたくさんいるでしょうし、一種の社会勉強みたいなことでしょう」


「出された予算を返金というわけではないんだな」


「……まあ、だから売上の2割を献上という形をとってるのかもですね。与えるだけ与えて見返りがなければ投資の意味がないですから」


「なるほどな」


 だが、もしも美沙輝の方でほぼ予算を使わず材料が用意できるのならその分予算も部費として計算ができるわけだ。

 先ほどそんなうまい話はないとは言ってたけど。もしかしたら、別にそんな毎回もらってるというわけでもないのかもな。


「まあ、実際はどうあれ、とりあえずは使っていく方向で考えないとな。予算以外で用意したものが使えないとかいう制約もあるかもしれないし」


「それはそうですね。ちゃんと予算で何に使うのかということも提出しないとなのです。その辺りはまた美沙輝さんと相談します」


「まあ、部長だしシェフでもあるからな。食器とかは家庭科室の使えるのか?」


「確認はとってないですけど……おそらく使えるでしょう。使えなくても代用する方法はいくらでもありますし。お金の運用については私がちゃんとやります。佐原先輩がそんなに心配することないですよ」


「でも、相談することは大事だからな。自分でいいと思っても一度はちゃんと相談するんだぞ」


「私を信用してないんですか」


「もしミスした時に1人で責任を被らないようにするためだ。相手から意見をもらうことで初めて分かることもあるからな」


「そういうものですか……」


「中学の時とかやらなかったか?」


「あくまで学年ですし、そんな大きなことなんて出来ませんよ。それに、私は中学の時は今よりずっと浮いた存在でしたから」


「…………?」


「あ、いらない言葉でしたね。忘れてください」


「まあ、アリサちゃんが気にしないのならそれでいいし、話そうと思うのなら話してくれても全然構わないけど」


「人間、誰でも後ろめたいことの一つや二つあるんですよ」


「ま、そうだな」


 ピーンポーンパーンポーン


『一年A組、花菱さん。一年A組、花菱アリサさん。至急職員室まで来てください。繰り返します……』


 アリサちゃんを呼び出す校内放送が入った。

 準備室の方で片付けをしていた2人もこちらに来る。


「アリサちゃんどうかしたの?」


「なんでしょう……。私も身に覚えがないですけど、とりあえず行ってきます。荷物置いて行くんで見ておいてください」


「あ、うん。行ってらっしゃい」


 アリサちゃんはそのまま出て行った。アリサちゃんが何かやらかすとは思えないし、何か家から連絡が来たのだろうか。


「…………何もなきゃいいけどな」


「そうね。私たちまだ片付けが途中だからあんたついて行ってあげて」


「いいのか?」


「なんかあった時のためよ」


「へいへい」


 こういう時に俺は使いやすいのだろう。確かに現段階ではやることはない。わざわざいるかどうかも分からないのに部活時間に呼び出すのも変な話だ。

 気になるところではあるので、アリサちゃんの後を俺はついて行った。

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