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人を好きになる資格

前回:美沙輝のことが好きだという男子から相談を持ちかけられました


今回:相談と自己評価の話です

 言われた通りに俺は屋上に来ていた。

 秋風が適度に吹き、この場所は心地よい。ここに来たのはいつ以来だろうか。確か、香夜ちゃんに恵のことを頼みごとをしたとき以来かもしれない。そう考えると、もうほぼ半年前ぐらいになる。そんなにときが経ったのかと思うとともに、恵が生徒会に入るまでになったのだから、そこそこの成長の兆しは見えているのかもしれない。

 成長といえば、俺はどうなんだろうか。……半年前からあまり変わってないのかな。

 人の成長なんて目に見えるものでもないけど。


「よ、待たせたな」


「部活の方はいいのか?」


「後で罰で校外ランニング5周だとよ。まったく、高い対価だぜ。お前の方はいいのか?」


「まあ、俺はいようがいまいが、って感じだしな。そもそも今日あったかすらも記憶が定かじゃない」


「それでいいのかよ……」


「美沙輝が声をかけなかったってことはないってことでいいし、声をかけずにあいつがやることがあるんならそれでも構わないしな。基本的に俺はフリーなんだよ」


「後輩の方はいいのか?」


「付き合ってるわけじゃないし、束縛するわけにもいかないだろ。常に一緒にいるわけでもないしな」


 家に帰ればいるわけだけど。そろそろ夕飯の支度とかしてくれてもよろしいのよ?コンビニ弁当だとかカップ麺ばかりだったから食材を使って何かしようって頭がないのかもしれないけど。たぶん、最初の頃はやろうとしたんだろう。だから多少は技術があったんだろうけど、時間がないことに気付いてああなってしまったのかもしれない。俺がちゃんと仕込んでやるか。半年ぐらい料理研究やって技術が伴わないのはどういうことだと小言を言われそうだけど。


「ま、こっちのことはどうでもいいな。美沙輝のことだったか。でも、競争率は高そうだけどな」


「そんなことは分かってるよ。でもフリーなはずだろ?」


「お堅いからな。良くも悪くも。純粋だというか、そういうことが嫌いというか」


「一途なんじゃないのか?」


「まあ、そういう考え方もあるか」


「折り合いをつけたって言ってたが、それはいつぐらいのことだ?」


「夏休みぐらいじゃね?」


「じゃね?って軽いなお前は……女子の方の気持ちを慮れよ」


「逆にそこまで重くされても向こうがいい迷惑だろ。部も一緒なんだし、クラスも一緒で隣の席なんだから顔を合わせるし」


「お前は優しいのか冷たいのか分からんな」


「俺自身の評価はあまり聞いたことないんだよな。いい機会だし教えてくれても構わんぞ?」


「なんか……何を考えてるのか分からんとは、俺は思う。言うほど、人が誰かの評価をしてるかと思えばそれは自意識過剰だと思うけどな」


「それもそうか」


「その……なんだ。折り合いをつけた、というのは告白でもしたのか?宮咲がお前に」


「明確に、ではないけどな。でも、正確にそれに気づいたのが、俺はそこが初めてだったから、あいつには申し訳ないって思ったけどさ。……別にサバサバとしたもんだったよ。あいつが裏でどうだったかまでは聞けないし聞く資格もないけど。今は仲良くやってる……と俺は思ってる」


「実際のところは殺したいほどハラワタ煮えくり返ってたりしてな」


「刺されても文句は言えねえな。でも、あいつはいい奴だよ。それでも、関係を変えず付き合ってくれんだから。お前の言う通り、何を考えてるのか分からんような奴にさ」


「お前自身は分かってなくても、お前を好きになるってことは何かしらの魅力があったってことなんじゃないのか?」


「一時の気の迷いだと思うぞ。小学校は足の速い奴がモテて、中学校は喧嘩の強い奴がモテて、高校は頭のいい奴がモテる。それに近いようなもんだろ」


「……お前、どこに該当してるんだ?」


「自分としては全部該当してる」


「……佐原、お前、よく殴りたいとか言われないか?」


「大体反撃できるからどうぞって感じだな。美沙輝には毎回やられてるが。調理器具を投げてくるから」


「手段を選ばねえな……」


「大半の理由が俺が後輩にちょっかいをかけるからだけど」


「全部お前が悪いのかよ」


「全部、あいつの優しさからだよ。俺も、その優しさに甘えてんだろうけど。あいつが止めてくれるってわかってるから」


 美沙輝は優しい。良くも悪くも優しすぎるんだが。

 そして純粋で責任感が強い。だから、今日も自ら文句も言わず、委員長の仕事をこなした。

 料理上手で後輩の面倒見も良くて……なんで、そんな奴が俺を好きになってくれたんだろう。


「なあ、佐原」


「ん?」


「お前は宮咲のこと好きじゃなかったのか?」


「いいや?好きだよ、あいつのことは。でも、それ以上に好きな子が出来ちゃったからなあ。誰が誰を好きになるかも分かんねえし、その気持ちに応えてやれるのかも分かんねえよ。俺だってその好きな子に応えてもらえるのか分からんしな」


「可能性の話をするんなら、宮咲に応えても良かったんじゃねえか?」


「……いや、どうなるにせよ、あの子と会った時点で美沙輝には応えてやれなかっただろうな」


「東雲さんか?」


「ああ。……どうしても目を離せなくなってな」


「なんか声のトーン聞いてると単に惚れただけって聞こえねえんだけど。心配になるようなことがあるのか?出来ることなら協力するが」


「いんや。その気持ちだけもらっとくわ。あんま人のことに首突っ込んでると自分のことが出来なくなるぞ」


「その言葉ブーメランになってないか?」


「……どうだろうな。ああ、あと美沙輝に告白するんなら半端な覚悟なら止めとけよ」


「どういう意味だよ」


「あいつ中途半端な奴嫌いだからな。まあ、中途半端な奴を矯正させるのも好きな奴だが。でも、あいつがあまり知らん奴と一緒にいるのも想像したくねえな」


「なんだお前は。宮咲の兄貴か」


「あいつの1番難関なところは美沙輝の姉だぞ」


「あ、姉?」


「付き合ってるなんて知られたらあの手この手で別れさせられるかもしれんな。それに耐えうる精神力を持つことが必要だ。ただ、その場合美沙輝が抵抗するんだろうけど」


「そんなに詳しくて対処法も分かってそうな感じなんだよ」


「仲良しこよしだからな。まあ、なんつーか今じゃ友達とかいうより兄弟みたいな感じにまで感じてるけど」


「その場合どちらが上なんだ?」


「見ててわかるだろ」


「そーさな。お前が下だな。というか、お前が上になる状態が想像つかん」


「そーいうことだ。俺から言えるアドバイスとしては当たって砕けろと、もし付き合えるとしても尻に敷かれることを覚悟しておくことだな」


「……お前さ、優しいのかなんなのか本当分からん奴だな」


「人は根本的に優しいとは思う。まあ、俺の優しさは偽善だなんだとよく言われるけどな」


「はは、まあ、本当にお前の優しさが気づいた奴がお前のことを好きになるんだろうな。お前のことを好きになる奴は見る目があるんだろうよ。男子から見れば、それは嫉妬の対象となるからお前は男子からは好かれんのだろうな」


 知ったようなことを……とも思ったが、元からも矢作からもそんな評価をもらったことはなかった。少し話しただけでそう評価することが出来るということはこいつは人をよく見てる奴かもしれない。


「連絡先を渡していいかどうかはお前が直接聞くか、俺が確認するかするが、どちらがいい?」


「元々、そういう話をしようとお前を呼んだんだけどな。なんか細々話しすぎたな。罰だけで部活が終わりそうだ」


「そいつは残念だったな。俺は話が長くなることで有名だ」


「お前……絶対校長とかにはなるなよ。あと、さっきの話は俺から直接言うよ。宮咲に対しての好感度はよくわからんけど、断るってことはなさそうってのが伝わってきたから」


「あいつな人が良すぎるからな。節度を守れよ」


「お前は節操なしっぽいけどな」


 確かにその通りかもしれない。悲しい現実だな。今日で茶化されるぐらいには仲が良くなったのかもしれない。


「あ、話ついでに聞くが、お前は東雲さんのことが好きなんだな?」


「ああ」


「向こうはどうなんだ?」


「俺のこと、好きだって言ってくれたよ」


「……なら、なんで付き合わないんだ?」


「ま、色々あんだよ。もっとも、俺が人を好きになっていいのか、って言うのが1番の根本なんだけどな」


「なんだそれ」


「人には悩み事の一つや二つあるもんだ。それより、部活、大丈夫なのか?」


「さすがに顔出さないとキレられるか。罰が増えてそうだが……今日はサンキューな。結果の報告はするわ」


 告白することは前提なのか。そもそも美沙輝が特定の誰かと付き合うこと自体があいつ見てると想像できんけど。

 陸上部のエース、結城は俺に軽く手を振って屋上から出て行った。残された俺は、誰もいないこの場所でまた黄昏ることにする。


「俺が優しい……ね」


 確かに自分が優しいかどうかは人の判断によるものだ。自分で自分のことを優しいと自評するやつはそうはいないだろう。

 俺のは見せかけの上っ面だけのものだ。表面的で、だからあまり人から信用が得られない。お前の本心が見えない。逆を言えば、その上っ面だけが綺麗に見えてるとも言えるだろう。

 俺は、上手く演じられてるのだ。かといって、別に誰かを嵌めてやろうとか、貶めてやろうと考えてるわけではない。

 そんなことをしたところでなんの優越感にも浸れないし、何より虚しいだけだから。

 あいつは、俺の優しさに気付けた奴が俺に惹かれると言った。

 でも、俺のことが好きだと言ったあの子は本当に俺の本質を見抜いてそう言ってくれたんだろうか。いや、好きだと言ってくれたその子が優しすぎるんだろう。

 今の俺のままじゃ、誰かを好きになる資格なんてないんだろうな。だから、俺は香夜ちゃんに返事を保留したのかもしれない。

 自分が何をしたいのか、それが分からないから。自分が本当にやるべきことをやっているのか、分からないから。

 高校生なんだし、自分の進むべき道なんてわかってる奴の方が少ないだろう。自分もその1人だと考えてしまえば楽なことかもしれない。

 解放されてからでもいいのかな……。

 別に恵に縛られてるってわけじゃないけど。俺が自分で望んだことだ。

 どうすれば、俺は自分のことが好きになれるんだろうか。

 ……自分でそんな問いかけをしてはたと気づく。

 そうか、自分が好きじゃないから、人のことを好きになるということがイマイチ分かってないのか。自己否定をしたまま、相手を好きだと言っても薄っぺらいだけだ。

 だから、俺は自己否定したままでも誰かに優しくできるように仮面をつけて道化になったんだ。

 どうして、ここまで自分が嫌いなんだろうな。能力的なことに関しては何も文句はない。容姿についても誰かに何かを言われたりすることもない……ということはそれなりに整ったものだと思う。何か原因があるのだろうが、そのきっかけなんて覚えてやしないし、俺は思い出を思い出としてほとんど取っておらず、その記憶もあまりない。

 なら、仮面を外そう。誰か、外してくれる人がいると信じよう。

 他人任せになってしまうが、自分でできない以上、そうするしかない。

 よくできた人間であると、自分でもそう思ってしまうほどだ。そこに薄気味悪ささえも感じる。

 もう分かってる。だから、どこかで仮面を外そう。

 その日が来ると信じよう。

 こんな俺でも好きだと言ってくれる人のために。


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