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来る日に備えて

前回:みんなと遊んだだけの遅ればせな誕生日が終わりました。


今回:今月末に体育祭があるようなので打ち合わせです。

「なあ美沙輝。次の行事ってなんだっけ?」


「文化祭じゃない?」


「いや、それ11月だし10月中にまだなんかあったような……」


「恵ちゃんに聞きなさいよ、生徒会役員なんだからそれぐらい聞かされてるでしょ」


「あいつに聞くという行為を俺という人間が拒否してる」


「あんたのしょぼいプライドなんかどうでもいいんだけど……」


 別に唐突に出た話題でもない。二学期はなんだかんだ行事が目白押しだったりもする。恵にスケジュール管理などという頭はないので身につくまでは俺が逆算してやらなければならない。

 まあ、月曜の朝方の話である。

 すぐにHRの時間となり、担任が気だるそうに入ってきた。すでにやる気ねえな。俺が寝ても伝染しましたって言ってやるからな。


「あー、今週からだな。他のクラスはもう言ってたみたいだがうちは忘れてた。体育祭が今月末にある。それと並行して一週間前に中間テストだ。行事が重なる時期でもあって大変だと思うが気を抜くことはないように。怠ると後が大変だからな。ま、去年やってるだろうから分かってるか。あと、男子の組体操。とりあえず今年は中止だそうだからよろしく。また予行演習なりやるから忘れんようにな。以上号令」


 毎度思うがこの担任は重要なことを言うのが遅いと思う。職務怠慢だぞ。

 今日言ったのは多分6限のLHRで競技決めとかするためだろう。誰が進行するんだ?ってまあ、それはクラス委員の仕事である。もちろん俺ではない。


「あと宮咲。6限よろしく」


「え、ちょっ……」


 号令が終わったあとそう言い残していった。美沙輝が後期のクラス委員なのである。いや、もう一人男子もいるんだけどね。そのもう一人役に立たないからね。仕方ないね。


「……育也。ちょっと来てくれない?」


「えー。元連れてけばいいだろ。あいつが委員長なんだし」


「役に立たないわ」


 バッサリだな。お前の評価はそんなもんだぞ、元。夏の大会も終わったのでこいつは消沈している。いつまで消沈してるかは知らない。そろそろ切り替えてけよ。まだ来年もあるだろう。

 ちなみにクラス委員は美沙輝は推薦だが、元は厳正なるくじの結果らしい。絶対帳尻合わせに選んだんだと思うけど、自分に被害が及ばないだけマシだと思いそのまま流した。

 まあ、美沙輝が選ばれてる時点で俺もいくらかこき使わされるんですけどね。


「仕方ねえな。もう1限始まるし、昼放課に行くか。何が必要なんだ?」


「うーん。もらえれば体力測定の評価と誰がどの部に所属してるかのリストかな」


「個人情報になるからもらえそうにないな」


「せめて50メートル走の上から10人ぐらい欲しいわね」


「俺、入ってないよな?」


「知らないわよ。でも、あんた結構速い部類よね?」


「当日は腹が痛くなる予定だから別のやつを立てたほうがいいぞ」


「んな都合よくお腹が痛くなるやつがいるか!」


「だって俺、香夜ちゃんより遅いんだぞ!」


「え?香夜ちゃん何秒くらいなの?」


「6秒切ってるって言ってたからたぶん5.9とかじゃね?」


「女子が出せるスピードなのかしらね……」


「トップスピードを出すのが得意なんだろうな。その分持続性はないから長距離は走れないって言ってたけど」


「あんたは?」


「6.5。以前にデートで香夜ちゃんに逃げられてすぐに追いつけなかった」


「十分に速いと思うけど……まあ、後半のは聞かなかったことにするわ。リストに上がってたら協力するのよ」


「いえっさー……」


 とてもやる気なく返事したのだが、とりあえず返事を得られたことに満足したのか美沙輝は次の授業の準備を始めた。

 俺よりさ、ちゃんとクラス委員の仕事をしていないあいつをこき使ってやってください。


「そういや中間テストか……」


 あの担任さらりと言っていきやがったが、体育祭の前に中間テストがあるのだ。まあ、体育祭は予行、当日の準備、当日、片付けというまあ、人の指示に従って動けばいいので体育祭に浮かれるよかはそっちのほうに頭を回したほうが得策である。

 あいつも忙しくなるだろうし手伝ってやらねえとな。そっちばかりに気を回してテスト出来ませんでしたじゃ、笑い話にもならんしな。あいつは元の頭が大したものではないので、勉強せずとも平均点取れますじゃないしな。勉強してヒーヒー言って平均点程度だからな。数学だけ頑張らせたけど。でも短期集中でやらせてあれだけ取れたのだから素養はあるのかもしれない。

 しかし、結局期末テストは香夜ちゃんが全部管理してたせいとゴタゴタしてたのが重なってあいつのやつ見てねえな。今日にでもまた相談するか。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えっと、じゃあ今から競技決めをするわ。1人一種目は出ること。早く終われば後は自習にしていいとのことなのでみんな協力してね。とりあえず先に種目書き出しておくから五分後挙手取ります。人数が多いところは相談してるとキリないからじゃんけんね。それ以上は言いっこなしで。ほら、初神君。早く書いて」


 普通男子のほうがこういうを前に出てやるもんだと思うんだが、元は役に立たないので後ろの書記に回したようだ。適材適所とは言ったものだが、この場合はただ単に役立たずを誰にでも出来るポジションに回しただけである。


「えー、あとなんか優勝狙ってるとかそんなこと言われたので、200×5は体力測定の結果から私が独断と偏見で選出しました。選ばれた人は過去の自分を恨むこと」


 200×5はいわゆる選抜メンバーによるリレーである。もちろん速いメンバーを揃えればそれだけ有利のはずだが、バトンもあるので技術的な面も含めれば陸上部が5人いればそれで解決する話だ。まあ、うちのクラスに都合よく5人も陸上部がいた記憶はないけどな。

 美沙輝が初神にメモ書きを渡してリレーの選抜メンバーだけ先に書かれていく。まあ、言わずもがなこういうのに選ばれるのは体育会系が多いので、これだけに限らず色々と出場してくれるだろう。俺は学年競技にでも出るとするか。

 と思ったが、俺の見間違いでなければ、黒板にはすでに俺の名前が書いてあるように見える。


「ちょっと待て!なんで俺の名前が出すでに出てるんだ⁉︎」


「協力しろって言ったわよね?佐原君」


 委員長であるという立場から普段とは違う呼び方されるが、それが無駄にプレッシャーをかけてる気しかしない。


「ついでに言っておくと50m走上から3番目だし、選抜しない理由がないの。だから言ったじゃない。恨むなら過去の自分を恨めって」


 先に釘を刺したのはほぼ俺へのアプローチだったようにしか思えない。つーか俺が上から3番目って他のやつら何やってんだよ。男子高校生の6.5ってそう大して速くないだろ。アリサちゃんですら6.6で走るんだぞ。一年生女子に負けそうなレベルだぞ。いや、記憶が確かなら俺のタイムでも10点だったことを考えると、女子の10点のタイムはもっと遅いはず。そう考えると足の速さという一点だけにおいてはアリサちゃんは男子並みの速さを誇るということだ。香夜ちゃんはどうなってんでしょうかね?アリサちゃんの測り間違えということにしましょう。ほぼ、男子のトップと差異のない走力を誇ってるからねあの子。

 たぶん一緒に走ったら負ける気がする。あの子、リレー出るのかしら。まあ、男子と女子は分かれるけども。でも、うちのように体力測定の結果に準じて選抜するのであれば……。

 そういや、その場合でも7秒前半とか言ってたし選ばれる可能性高いな。実質香夜ちゃんがトップと言っても過言ではないだろうし。


「じゃあ、リレーのメンバーは何か出たい種目あれば優先的に出させてあげるわ。人数もあるから一種目だけね。出たくなければ構わないわ」


 俺以外のリレーメンバーは他にも何か出ようと動き出していた。これじゃ俺がなんか悪いことしてるみたいでいたたまれないけど、気にしない。

 だって、すでに俺の名前は書き込まれているもの。美沙輝の独断で。個人種目じゃなくて学年競技に入れてくれてるあたりは優しいと思います。


「佐原ー。リレー順番決めるから来てくれー」


「おー」


 なんか前に出てから戻らねえなと思ったらそんなことしてたのか。勝手に選ばれた以上断る権利も無くしてしまったので、応じることにする。


「とりあえず佐原は初手かアンカーのどっちかだな」


「なんで負担が大きそうなところにぶっ込みたがるんだ」


「面白いだろう?」


 面白いのはお前らだけで、やらかした時のデメリットが大きいだけの俺の立場を考えろ。いや、考えなくてもそうなるのであればもう面倒なので異論も唱えるも止めとこう。


「じゃあ、アンカーやってやる。ついでにタイム、俺が3番目だとか言われたんだが、俺より速いのって誰だ?俺は6.5なんだが」


「俺が6.1だな」


「俺は6.3」


 なんか2人目。おかしなやつがいる。


「お前は司会進行もせずに何やってんだ?元ぇ」


「戦力外通告を受けた」


「そのままレギュラーからも戦力外通告されりゃいいのにな……しかも、俺より速いことが腹立つ」


「3ヶ月もろくに運動部として活動してないやつより遅かったら野球部の名折れだぜ。この高校の将来のリードオフマンとしてな」


 8番バッターがよく言うぜ。まあ、このクラスの大半がその3ヶ月ろくに運動してなかったやつより遅いんだが。


「どうせ、足があっても走塁、盗塁が下手で、バントとか犠牲フライの小技も出来ないから8番なんだろお前は」


「なんで知ってやがる⁉︎」


 合ってんのかよ。適当にそれっぽいこと言っておけば当たるかと思ったら本当に当たっちまったよ。何も嬉しくないけどな。香夜ちゃんのスリーサイズを推測してたほうがよほど有意義である。


「まあ、リードオフマンになりたいとか言ってんなら1番に走られせればいいんじゃね?だいたい1番速いやつを初手かアンカーに持ってくるだろう」


「どちらでもないうちはどうするんだよ」


「中盤で離せばいいだろ。3番目で。あと2人は適当にプレッシャーのかからない2番か4番に突っ込んでおけば」


 ついでに1番速いやつは陸上部エースらしい。聞いた話。なら普通にお前がアンカーやれや、ということなんだが面白いほうがいいという理由で俺をアンカーに結局しやがった。

 いいもんね。香夜ちゃんにいいとこ見せてやるわ。


「そういや、佐原」


「あん?」


「お前の彼女……」


「俺に彼女なんていないぞ?」


「いつも一緒にいる女子がいるだろ」


「香夜ちゃんのことか?」


「……その子、上の名前は?」


「東雲だが?」


「やっぱりか。聞いたことあったんだ。東雲香夜。結構有名で陸上の強いとこ行くって思ってたんだけどな。たまたまお前と一緒にいるの見てまさかと思ってたけど」


「陸上部に勧誘したいのか?止めとけ。あの子足怪我して陸上辞めたみたいだから」


「そうなのか?入ってくれるんなら絶対戦力になると思うのになあ」


 まあ、深入りできる事情ではないので怪我して辞めたなら納得は出来る理由だろう。

 もうすでに完治していて走るのも問題ないと思うけど、香夜ちゃんはもう一度陸上をやりたいとは思わないだろうし。


「結構可愛いし、広告塔にもなれそうなになあ。この辺の陸上界じゃアイドル的な存在だったんだぞ?」


「いや、陸上興味ねえし知らねえよ。あの子と会ったのは妹絡みだし」


 そもそもあの子自身大概は人と関わることを嫌うし、目立つことも嫌がるので広告塔なんて以ての外だろう。自分に期待しないで、目をかけないでほしいって言ってたし。

 確かに他の部に入れば可愛いから担ぎ上げられることは間違いないだろう。それに加えて、走る、という一点においてトップに立てるかもしれない。

 実力が伴おうが彼女自身にやる気はないから無理に引っ張ったところで無理な話だろう。


「無理に囲って参加させようってもんなら諦めとけよ」


「お前が助けるってか?」


「いや、美沙輝が頭のお前を踏襲する」


「……止めとくか」


 一回美沙輝の方を見てなんか納得したのか頷いた。無理強いは良くないからね。


「じゃあ、あの子は今何やってるんだ?」


「料理研。美沙輝がトップです。あの子は料理で何故か妙技を取得してます」


 手刀でにんじん切ったりな。意外に前に出ないだけで戦闘力は高いのかもしれない。


「なんで宮咲がって思ったがそういうことか。お前んとこはいい親玉がいるな」


「いや、真のトップはあいつじゃないぞ」


「じゃあ、誰だよ」


「現生徒会長が美沙輝に肩入れしてる」


「お前らがいる間は無敵そうだな、料理研。なんか陸上部に差し入れ作ってくれよ。うちマネージャーとかいねえから、自分たちで作ってんだよ」


「専属にはなれんが、何かしらの対価があるのなら動くんじゃないか?」


「思ったよりがめついな」


「無償で受けてたらこっちだってやりくりがあるんだし、無法地帯にもなりかねんしな」


「まあ、それもそうか。それより、お前さっきから宮咲のこと下の名前で呼んでるけどそんなに仲良いのか?」


「小学校から同じのいわゆる幼馴染だぞ。部活も一緒だし、そもそも部活一緒のやつは全員名前で呼んでる」


 山岸を除く。あいつ下の名前なんだったかな。まあいいや。


「そういや部に上がったんだったか。5人以上いるんだな」


「ギリな。まあ、1人は常に何かと戦ってるから週に一回ぐらいしか来ねえけど」


「なんだ?そいつは何かしらの宿命でも背負ってるのか?」


 まあ、誰かしらの下僕になる宿命らしい。


「で、これいつまでやってんだ?」


「まあ、もう自習みたいなもんだろ」


「じゃあ俺寝る。バイバイ」


「お前はそんなんだから周りからの評価が低いんだぞ」


「特定の女子から評価があればそれでいいです。男子の評価なんていりません」


「俺は割とお前のこと評価してんだけどなあ」


「はっはっは。冗談はその陸上やるにも無駄に高い背だけにしとけよ」


 さっきから名前を出してないけど、俺も正確に覚えてないから名前を呼ぶことだけは避けている。

 とりあえずチラッと黒板に書かれている名前を見て……さすがにフルネームで書いてねえか。苗字だけだな。どうでもいいか。

 陸上部エース君は見た目的には190ぐらいありそうな日本人でいえば巨人の類である。教室の扉をくぐろうとするたびに頭をぶつけそうだからな。いや、俺が小さいわけじゃないよ?平均ぐらいはあるはずだから。

 まあ、いつからそんだけデカくなったのか知らんが、バスケとかバレーやればよかったのに、と思う。背が高いからってそれらをやれって法律もないけどさ。

 そいつは少し屈んで俺の肩に腕を回した。仲が良いわけでもないし、ここまで話したのも今日が初めてというぐらいだが、なんか言いたいことがあるようだ。特に邪険にする理由もないので、一応聞いてみる。


「なんなんだ?」


「お前、宮咲と仲良いんだろ?取り持ってくれないか?」


「そいつは残念だな。あいつは俺に惚れてこの高校に追いかけて入ったぐらいだぞ」


「は?」


「まあ、今はどちらも折り合いつけたけどな」


「お前、それでよかったのか?」


「まあ、ここでする話でもないだろ。放課後時間が取れるなら話してやる」


「そ、そうか」


「ま、結果がどうなるかはお前次第……いや、美沙輝次第だな。いい加減暑苦しいからその腕を解いてくれ」


「ああ、すまん。じゃあ、屋上に来てくれ」


「告白されるようだな。やめてくれ、俺はそういう趣味はない」


「お前は俺をなんだと思ってんだ?」


 別に男子のことはほぼ知らないので適当な認識である。そりゃ喋りかけてくりゃそれなりに喋ることは出来る。根っからのコミュ障ではない。

 適当に一言二言交わして、適当にやり過ごす。どうせ、卒業したら滅多に会わなくなるだろうし、それで切れるぐらいの関係だ。

 あいつは、そんなこと許さないだろうけど。しかし、あいつも俺のどこが良かったんだか。それは、よく分からないけど、俺はあいつのいいところはいくらでも知ってる。

 それを話してやろう。

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