料理研究部発足
前話:新しく生徒会が発足し、無事役員となった恵の様子を見に行くと共に次にある部活動会議について育也と美沙輝は話を聞きに行くのだった。
今回:部に上がった料理研究部の初めての活動です。
顧問の根回しはなんとか部活動会議までに終了させた。高橋さんから推薦してもらったあの先生ではなく、俺を目の敵にしてる古文の先生に頼みました。
意外に料理好きらしい。ほぼほぼおじいちゃんなのに珍しいな。まあ、建前で俺のことは目の敵にしているけど美沙輝のことは気に入ってるようなので二つ返事で了承してくれたのだ。持つべきは優秀で人望の厚い友人だね。
まあ、高橋さんから推薦された先生を顧問にしたら一触即発にしかならないので、最終手段としたのだ。香夜ちゃんをこれ以上怒らせてはいけません。そういや、三者面談でも机ひっくり返したとか言ってたな。逆に怖がってんだろ、向こうは。双方いい思いはしないと思うので俺たちの選択は正解であると信じよう。
さて、この部活動会議だが、生徒会と各部の部長、または副部長、またはその両方が参加をする。うちの学校、いくつ部があったかな。よく知らないけど50人ぐらいいるだろうか。まあ大体30が部活動の数だろう。同好会も含まれるんだろうけど。
開始前にいくつか資料が配られる。大まかな予算案だろう。ただ数字だけを提示すると上がったところはまだしも変わらないところや下げられてたところの批判は免れないので、それぞれの部に提示した数字の理由も一緒に添付されていた。始まる前にそれを読んで、それでも意見があるのなら言ってみろ、といったところだろう。
まあ、俺たちは部にしてもらう立場だからわざわざ意見することはない。
10分ぐらい経っただろうか。天王洲先輩が開始の合図をした。
「読んでもらえただろうか。読みきれてないものはそのまま読んでもらって構わない。少し、こちらの方にも耳を傾けながらで頼む。今回でいくつか部に昇格したところがある。ちゃんと、活動実績と部員数が相当しているので昇格させた限りだ。それと、現段階で部であるものの人数が足りないところは、今回の措置としては何もないが、来年度に部員数が足りない場合は同好会もしくは廃部になる可能性もあるのでその辺りは念頭に入れてもらいたい。各部の予算については紙面の通りだ。理由について納得いかないというところは、私の独断につきそれを断罪する」
断罪すんなよ。犯罪者か。意見を許す気はないな?
まあ、予算はすでに組まれているものなので変動はできないだろうしな。ちゃんと理由まで述べていて反発しようものなら、それはそいつらのワガママというものだ。
「部の予算は学校から降りた予算を分配している。もちろん人数が多いところはそれだけ必要なこともあるだろうし、それについては留意してるつもりだ。あとは活動実績を主に置いている。新興したばかりの部が歴史あるところと一緒ではそれもまた不公平なことだ。だが、歴史だけ長くても活動実績が伴ってなければ、支援はいただけないし、こちらとしても応援することができない。そのことを覚えておいてほしい。部費をあげてほしいという前に、君たちの活動実績がそれに伴うものかどうか、まずはそれを省みてほしい。私からは以上だ。何か質問はあるかな?」
少しばかりざわついているが、特に意見するものもいなさそうだ。
「では、君たちもこれから部活があるだろうし、あまり長い時間をとらせるつもりもない。これで解散としよう。部費の利用についてはきちんと顧問を通した上で運用すること。不正したところはまた下がるかもな……」
最後に不穏な言葉を残して、解散となった。
各々退席していく中、俺と美沙輝は席に座ってまだ残っていた。
「うーん」
「どうしたの?」
「部費とかって部員から徴収したりすんのかね?」
「まあ、予算だけじゃ足りないだろうし、必要機材が多いところはするんじゃない?」
「うちはすんのか?」
「いや、特にそういうつもりはないけど……私の権限じゃどうにも」
「顧問が守銭奴だったら問題があるなあ」
「ほとんどおじいちゃんだし、風当たり強いのはあんただけよ。普段は優しい人じゃない」
「だって……眠いんだもん」
「子供か」
「君たちは行かないのかい?」
他の生徒は全員出払ってしまったのか、周りを見たら生徒会のメンバーと俺たちぐらいしか残っていなかった。
「出て行った方がいいですね」
「ああいや急かしたわけではないんだ。何かあるなら聞くし」
「いや、俺たちも週いつも活動してるわけじゃないんで今日だって休み……だったような」
「休みよ。私たちがいないのにあの子達だけでやらせたくないわ」
「信用ねえな……山岸は相変わらずか」
「あいつは週に一回出てこれればいいぐらいらしいし」
「で、その二人は?」
「あの子たちだってやることないわけじゃないと思うし」
「恵はここにいるんだぞ。天文部に遊びに行ったわけでもないだろうし」
「……一度招集かけましょうか。教室ぐらいにはいるでしょう」
「じゃあ、とういうことなんで失礼します。長々失礼しました」
「うん。気をつけて帰るんだよ」
先に美沙輝が出て行って、俺も続いて出ようと思ったが、ふと疑問に思ったことがあり、足を止めた。
見送っていた天王洲先輩のほうを振り返る。
「あの……生徒会の人って部活はどうするんですか?」
「ん?私を見ればわかるだろう」
「例外だと思ってるんですけど」
「口の減らない少年だね。別に生徒会だって任期中ずっと忙しいわけでもない。うちでいえば天文部だって別に主だった活動は夜だしね。生徒会がそんな夜遅くまで活動してるわけなかろう」
「いや、ごもっともですけど……恵もやりたいって言って天文部入ったんでどうせなら行かせられる限りは行って欲しいんすよ」
「いや、全然行けるとも。別に生徒会の仕事は全て学校でやらなきゃいけないこともないし……な」
その、な、が俺に向けての含みをもたせていたのは言うまでもない。
なんだ?この世界は俺に試練を与えていきたいのか?お前は死ぬまで妹に尽くせとそう言いたいのか?
よろしい、ならば戦争だ。世界規模で。第3次世界大戦。俺vs世界。負け戦必死ですね。
そんな戦いに身を投じるぐらいなら、素直に妹の手伝いをしてやろう。幸い、今は香夜ちゃんもいるのだ。
そういや、天王洲先輩以外で香夜ちゃんが家に居着いていることを知ってる人はいるんだろうか。まあ、聞かぬが仏だ。やめとこう。
「遅いわよ。何してんの」
「あ~生徒会入ってても部活やる暇があるかどうか聞いてただけだ」
「出来るの?」
「まあ、俺の働き次第だろうな……」
「なんで生徒会の仕事なのにあんたの話になるのよ」
「……まあ、気にすんな。一年生のお嬢様たちは来れそうか?」
「先に家庭科室に行ってるって。あんた待ちよ」
「そいつは悪かったな。じゃ、行きますか」
あっちに気をかけ、こっちに気をかけ、逆に俺の負担が増えてそうな気がするんだが気のせいなのだろうか。
まあ、それでも今日は景気のいい話を持っていくんだ。1年生たちを見て癒されることにしよう。
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かいつまんで美沙輝が部に昇格したことを二人に説明をした。そう言ったところで部室をもらったわけでもないし、顧問が相変わらずいるわけでもない。
「顧問はどうした」
「今日の予定は言ってないからこないと思うわよ。スケジュールは私が立てるんで、その日だけ来てくださいって」
「まあ、顧問もその方が楽なのかもな……」
これこそ置物顧問か。俺が顔を合わせようものなら小言を言われそうなことは必至ではあるが。
「で、二人は何してたんだ?」
「まあ、一応何があるかわからないので待機してようってことで教室にいました。遊びに行きたかったんですけどね~。恵ちゃんもいないですし」
うちの妹は愛されてるようで兄として嬉しい限りです。その兄に対してはあまりいい待遇を受けてませんけどね。セクハラばかりしてるからね、仕方ないね。 自重はしません。可愛い子にちょっかいをかけたいだけのお年頃なんです。
「まあ、一応予算はこんな感じで使えるみたい。残った分は学校に返金、使い切っても追加予算とかは出ないみたい」
「お金の管理なら私に任せてください!」
唐突にアリサちゃんが出てきた。最近ポンコツぶりがうちの妹より顕著で秀才の片鱗はどうしたと言わんがばかりだけど。
まあ、料理の腕ばかりピックアップしてたからね。苦手分野ばかり話題に出されたらそうなってしまうわな。
アリサちゃんにも得意なことがあるということだ。むしろ、恵より得意なことは多いはずだ。
計算とか強そうだしな。
「ふふふ。私が誰かをお忘れですか?花菱家長女のアリサなのです。幼少時から経済学、帝王学を学んでいるのですよ」
の割には人の上に立つとか出来そうにないけど。いや、出来そうにないというよりはアリサちゃん自身はなる気はないという方が合ってるのかな。人の上に立てる器ではあるけど、その力は行使しないというか。
まあ、人の上に立つということは汚れ役も嫌われ役も引き受けることになる。彼女は学んで分かったのだろう。それなら、みんなに愛される方がいいと。人の上になんて立たなくても。
実際そんな彼女には友達が多い様子。外国人の見た目を有してもコミュ力の高さにあるだろう。
うちの子たちに見習わせたい。恵はあるんだろうけど、その能力は自身のダメっぷりによって相殺されちゃうからな。今は改善してきてるから友達も結構出来てきてるけど。
香夜ちゃんは……典型的なコミュ障です。お兄ちゃん、将来が心配です。香夜ちゃんのお兄ちゃんではないけども。立場的には今だとお父さん。うちの娘はどこにも出しません。
「なんの話をしてるんですか、なんの」
「香夜ちゃんってどこかに遊びに行くとかそういうイメージないな。ひたすらなんかストイックにやってる感じ」
「暇があれば走るか勉強してますよ」
「その割には足はこんなに細いのに」
蹴られた。触ってもないのに。理不尽です。
「お肉が体につきにくい体質なんです」
「え〜なにそれ〜羨ましい〜」
「あなたは別のところにそれがついてるんでいいんですよ……」
そして、辛辣。むしろ自虐してるとも言える。香夜ちゃんはそれでいいんだよ。だから可愛いんだよ。元気出して。
「欲しい?」
「それで分けられるというのならその三分の一でも寄越すといいですよ」
「実はパッドをいれて誤魔化してるんだよ」
「嘘だろ⁉︎」
「嘘ですよ。私の水着姿を見て嘘だと言うのならそれは素晴らしい節穴ですね」
「……で、これなんの話?」
「最初に戻ろうか」
美沙輝が呆れて冷静に突っ込んだところで話を元に戻すとした。えっと、アリサちゃんが会計をやるって話か。
「お金が関わるからな。確かに一人はちゃんと管理する人がいればいいが……そういうのって普通顧問の仕事じゃないのか?」
「わ、私の力が披露される機会は……」
プルプルと震えて、せっかく見せ場となりそうなところを取られそうになってる子犬のごとくなっていた。
ま、まあ役に立ちたいという気持ちは大事だからね、うん。
「いいんじゃない?むしろアリサちゃんに任せた方がいいと思うわよ」
「勝手に予算が上積みされてる未来も見えるんだが」
「私は家の力は使いませんー。ちゃんとやるですよ。えっと、うちの活動は週に2,3回でしたね。えっと予算が割り振られるのは10月……もう一応あることにはあるですか」
「そうね。予算があるなら洗剤とかスポンジとか、消費が多いのに当てていきたいわね。布巾は……元々あるか」
「そういや、文化祭とかもこの予算からやるとか書いてなかったか?」
「あー。うち、どうする?来月だけど」
「この家庭科室一室使ってカフェみたいなのやればいいんじゃないか?」
「使うのはいいとしても一室全部は許可下りるかしら……」
「難しいでしょうね。他のクラブとかも屋台とか出して、その収益を部費に当てることも出来るそうですから、ここを使うことにもなると思います」
「まあ、全部と言わなくても、半分使えりゃいいだろ。俺たちは部なんだし、言い換えりゃここが俺たちの部室だ」
「部室は隣の準備室です」
「そうやってやる気を削ぐことを言わないでください、香夜ちゃん」
「ま、まあまあ確かに私たちの方が自由に使えるって言うのは一理あるかもね。全部の許可は下りなくても、広めに使えればちょっとしたカフェぐらいならやれ……る?」
なぜ疑問系になる。
「私たち、5人ね」
「そうだな」
「クラスの出し物とかもあるわよね」
「そうだな」
「仮に全員居ても、2人調理担当、3人ホール担当ぐらいにしないと回らなくない?調理に関しては現状山岸入れても3人しか出来ないわよ」
それはそれで料理研究部としてあるまじき自体なんだが。なぜ全員出来ないのか。それにクラスの出し物に上手いこと時間合わせて1人ずつ抜けたとしても上手く回せるかどうか。
「まあ、そこまで繁盛するかって話だけどな〜」
「楽観的すぎるわよ!させるの!」
「なんだ?店出す算段でもついたのか?」
「去年は出来なかったからね。今年やってみて内輪評価だけじゃないことを証明したいわ」
「美沙輝さんが燃えてます!」
「これで評判が良かったらお前の選択肢が一つ増えるわけだな」
「いいじゃない。少しぐらい野望があったって」
「いや?単純に俺は嬉しいだけだよ。夏休み付き合った甲斐があったってもんだ」
「そういうあんたはなんかやりたいことないの?」
「香夜ちゃんの手料理食べたい」
「まだ言ってんのかこいつ……いい加減香夜ちゃん作ってあげたら?」
「むしろこの人が嬉々として作って私に食べさせようとするので私作らなくてもいいなって、最近思うになりました」
「おーい、あんたの嫁候補ニート化しつつあるぞ」
「香夜ちゃんは何かやりたいことあるのか?」
「私ですか?そうですね、漫画家とかよさそうです。月一連載の。週間は辛そうなので。絵を描いてお話し考えてそれで売れれば印税生活です」
もうダメな子の発想だよ。香夜ちゃん、いつからそんな自堕落な子になっちゃったの。
「というか、香夜ちゃん、漫画とか書けんのか」
「無理です」
「ですよね」
「画伯ならそこにいますよ。ただし、前衛芸術ですが」
物は言いよう。だけど、香夜ちゃんのはただのストレートに貶してるだけ。
「わ、私だって模写ならできます!ほら、私の完璧な字を見てください!綺麗でしょう!」
あまり字を自慢する子も見たことないが、アリサちゃんが取り出したノートに書かれた字は確かに誇れるぐらいに整った綺麗な字だ。
よくもまあ、板書をそんな綺麗に取れるもんだ。俺は一ページ目はそこそこ頑張るけど、結局途中から面倒になって、最終的に自分が読めればいいや状態になってる。大抵みんなそんなもんだよね。
「なんか字の綺麗な子は頭がいい感じがするよな」
「そ、そうですか?なんかそうやって言われると照れますね」
「うちの兄妹は字がとても汚い」
「なんで先輩は成績良いんですか」
「字が汚かろうと頭に入ってればいいんだよ」
「物凄く台無しにされた感があります」
「香夜ちゃんも綺麗だよな?」
「普通だと思いますけど。まあ、読めないとテストで点数もらえませんからね。ある程度は」
「……とりあえず、うちの一年の実力の向上は未だ見られないようね……」
うちの部長さんはうなだれてました。申し訳ございません。うちで躾けておきます。
「明日、土曜日か……」
「最近やってなかったし、料理教室やってあげよっか?」
「いや、あいつがどんな仕事持って帰って来るか分からんからとりあえずはいいわ。俺も午後からはバイトだしな」
「続いてるわね。半年経った?」
「もうそんなもんになるか……ん?」
バイトと聞いて思い出した。確か、香夜ちゃんはそのバイト代で俺のプレゼントを買ってくれるって言ってた。
「どうしたの?」
「俺、合宿で誕生日自体は祝ってもらったけど、誰からもプレゼントもらってない……」
「「「あ」」」
3人の声がシンクロした。
うん、いいんだよ。忘れていたって。ちょっと泣けるけど我慢しなきゃ。男の子だもの。
「に、日曜は休み?」
「わ、私も日曜は大丈夫です」
「私はオールタイムオッケーですよ!」
女子の方々が見かねて日曜の予定を空けに入った。うん、俺も大丈夫。日曜には入れてないから。うん。
「じゃ、じゃあ何するかは私たちで相談してまた連絡する!ほら、2人とも行くわよ!悪いけど育也、戸締りよろしく!」
美沙輝さんは2人を抱えて忙しなく出て行った。
香夜ちゃん、今日どうするんだろう。帰ってくんのかな。
俺は……どうしよっか。
「とりあえず、戸締りっと」
恵を適当に回収しながら帰るか。
思い出さなければよかったのだが、思い出してしまったから少し心に傷を負ってしまいました。まあ、合宿はそれなりに楽しかったからね。自分の誕生日なんて二の次さ、とか考えてたからこうなってしまったのだ。
いや、それでも誰か1人ぐらい覚えててもよかったんじゃね?誰かサプライズで渡そうとか思いつかなったの?みんな合宿で浮かれてたんだろうな。俺もだけど。だから、みんなを非難する気はない。みんなも、ちょっとばかりは罪悪感があったのか即座に何かしてあげようとしてくれてるわけだしな。
少しだけ、でも、期待しすぎない程度に期待しておくことにしよう。




