憧れてる姿
前回:生徒会選挙の演説頑張ったけど、演説終了時に気絶してしまいました。
今回:新生徒会発足です。
「こんにちは。今期生徒会長となった天王洲美子です。なぜ、三年で後期の生徒会をするのかなどと意見はあるだろうが、これは私の自己満足ということで手を打っておいて欲しい。しかし、こうして二度目の生徒会長をするからには前回の反省を活かし、君たちにより良い学校生活というものを提供したいと考えている。そして、それは次にも繋がるように、今年卒業となる私たち3年生にとって、あの時が1番楽しかったって、受験勉強だけで終わることがないように、そんな生活を送って欲しい。そのためには君たち自身の協力も必要だ。なんとなく、流れ作業で行事を済まさないで欲しい。私が……いや、この生徒会がそれを提供してみせよう。以上を挨拶とさせてもらう。ちょっと、私だけで尺を取りすぎてしまったな。みんなは名前だけの紹介となってしまうが、どうか容赦してほしい。応援のほどをよろしくお願いするよ」
校内放送の枠をすべて使って天王洲先輩……いや、天王洲生徒会長の挨拶と変わっていた。いいのかそれで。一応、他の人も用意してただろうに。
「あの人、カッコいいし、言ってること立派なのに意外に自己中よね」
「あの人基本的に自己中だぞ。自分の欲望のために動くから」
「そういえば、恵ちゃん、選ばれてたわね。おめでとう」
「それは恵本人に言ってやってくれ。頑張ったのはあいつなんだから。今回に関しては推薦責任者をあてがっただけだ」
「ちーちゃんもよくやってくれたわね」
「なんだかんだ仲良くやってるみたいだぞ。いいコンビになったみたいだな」
「あんたは……なんか得られた?天王洲先輩の推薦責任者やって」
「さあな。なんだかんだあの人は人望あるみたいだし、今回のも当然だろ。ただ……」
「?」
俺には頼ってもいい相手を見つける必要がある。
そう言おうと思って思いとどまった。それでは、目の前の美沙輝も信頼してないという裏返しに聞こえてしまうような気がして。
「いや、なんでもない。でも、知り合いはできた」
「知り合い?」
「隣のクラスの生徒会に立候補してたやつ。落選したけど」
「茅原君だっけ」
「知ってるのか?」
「そりゃ、同じ学年でトップクラスの学力なんだから名前ぐらいは耳に入るわよ。知らないのあんたぐらいじゃない?」
「俺がトップなのは揺るぎない事実だからな」
「こいつの集中力をテスト中に散漫させて、最後まで解かせなくさせればいいか?」
「何考えてやがる」
「うーん。そういえば、恵ちゃん生徒会に入ったってことは忙しくなっちゃうのかな?」
「時期の話だろ。確か次は……あ」
「あ、って何よ」
「部長会議がすぐじゃなかったか?」
「あー」
「忘れてたな?」
「正直ジタバタしなくても生徒会長があの人だから自動昇格しそうなんだけど。部員も5人いるし」
「生徒会に入ったやつの中で面倒なのがいたら揉めるかもしれんぞ」
「でも、天王洲先輩以外はみんな下級生なんだしそんなに心配することはないんじゃ?」
邪推しすぎか。そもそも上があれで、前期の生徒会は回っていたのだから、下から反発を受けていなかったという裏付けにもなる。
が、ほとんどが3年生で構成されていたとも言っていた。
天王洲先輩のことを知ってる人たちからすれば反発する隙すらなかったのか、反発しても無駄だと割り切っていた、という可能性すらある。
恵はともかく、今回の生徒会に入った連中でそんな怖いもの知らずな鉄砲玉がいるんだろうか。いたらいたでそれは面白そうだが。
「はい。これで本日は終わりだ。新生徒会をよろしくな。あと、来週は部活動の再編成するための部活動会議がある。このクラスにも何人か責任者がいると思うが忘れずに出席すること。日時、場所の指定はまた後日する。では、日直号令」
挨拶のあと、ガヤガヤと外に出て行く。
喧騒が落ち着くまでは俺と美沙輝は席に座って談笑することにした。
「今日部活あんのか?」
「別に予定はないけど」
「うちもあれだよな。スケジュールとか作ればいいのに」
「作るのは誰なのよ」
「あー、うーん?」
そりゃ部長の美沙輝だろうが、美沙輝にばかりそんな仕事を押し付けていては仕方ない。普通は顧問なりなんなりが作るはずだが、うちは同好会なので基本的に先生が干渉してくることはないのだ。
「俺さ、うちの部の顧問見たことないんだけど」
「兼部してる人だからね。名前だけ貸して欲しいってことで名目上はいるわ」
「……次の部長会議でさ、上げてもらうなら顧問の名前も必要だよな」
「部に上るとしたら名前を貸さなくなる可能性があるってこと?」
「そりゃ同好会より管理することが多くなるんだから下手したら断られる可能性があるかもしれねえぞ」
「うーん。可能性は否定しきれない……か」
「ここまで放っておいた俺も俺だけどさ。てっきり同好会って顧問がつかないもんかと思っててよ」
「そうよね。あと一週間ぐらいか。頼んでみるしかないか」
「俺も行こうか?」
「あんたは信用度が足りないから却下する」
「酷え理由だ……」
「香夜ちゃんも教師が嫌いなんだっけ。じゃあ、アリサちゃん連れてくか……」
山岸の存在は軽くスルーしていく美沙輝さん。部員は5人いると言っても、山岸は家の事情とかで来ないことも多く、実質4人での活動がメインとなっている。活動していることは明白にはできるが、部長会議というのならあげることに反発をする人がいないとも限らない。
考えすぎだろうか。
未だ人が集まらず、同好会として活動してるところだってある。別に部活動編成といったところで撤廃するわけではない。でも、予算の割り振りで割りを食うところが出てきたらブーイングは免れないだろう。
「先に天王洲先輩に聞きに行くか?前からの引き継ぎとかでその辺も知ってるだろうし」
「つくづく天王洲先輩と知り合いでよかったって今この時感じてるわ」
「まったくだな……」
あの人なら何とかしてくれる、ってそういう期待が持てるあたりはカリスマ性というのがあるのだろう。
恵は……うん、今の段階じゃ皆無だな。お兄ちゃんにおんぶに抱っこだからな。
遠い空を思わず見てしまう勢いだ。
「何してんのよ」
「いつ、恵が天王洲先輩みたいになってくれるかなって」
「そもそも生まれ持ったものが違う気しかしないんだけど……。あの人は敵を持とうとも自分ですべて解決できそうな勢いだし」
「だよな……」
自分だけの力で何とかできてしまいそうなあの人は、あの人ならではの力だ。恵にはできないことだろう。でも、恵はまあ、周りに恵まれれば人徳はあるはずだから、周りに助けてもらって何とかやっていくだろう。オール・フォー・ワン。ワン・フォー・オールとはよく言ったものである。
1人はみんなのために……。
なんか凄く自己犠牲が激しい言葉だな。俺には無理だ。1人は1人のために。一人一殺。違うか。
……自分は自分のために。それが1番正しい人間の姿なんだろうな。みんな、自分のことで手一杯だ。聖人君子じゃあるまいし、とても自己犠牲なんて出来そうもない。
その手につかんだものぐらいだろう。精々手を引いてあげられるのは。
アリサちゃんに言ったかな。俺の二本の手はもういっぱいだって。
それでもあの子は頭に乗っかって、あとはまだ足があるでしょうとか言ってきたけど。足まで取られたら歩けません。頭に乗っかってる時点で相当に邪魔だけどな。
誰か、俺の手を引いてくれる人はいるんだろうか。引いてくれたひとはいたんだろうか。
いなかったんだろうな。俺はいつだって迷子だ。親はいつも家を空けがちで、すぐ下には恵がいた。俺が頼られる人間でなければならなかった。
だからかもな。俺が頼れる人間がいないっていうのは。元々、誰も頼るようなやつではなかったからかもしれないけど。出来なければ、頼ったかもしれない。でも、俺は出来てしまった。
恵はいつかそうなってくれるだろうか。むしろ、俺が頼ってもいいぐらいになってくれないだろうか。そうしたら、片方の手は解放されるだろう。
「育也ー。行くわよー」
「ああー」
先に生徒会室のある上の階へと繋がる階段を美沙輝は上っていた。
発足直後に行くのも迷惑かもしれないが、こちらに時間がないのも事実である。面倒な小言を突っ込まれる前に先に手を打っておくことが重要だ。
俺たちは生徒会室へとお邪魔することにした。