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生徒会選挙

前回:主人公の育也は香夜に対しての葛藤を抱くが、天王洲に不安を打ち明けることで、自分がするべきことを見出しつつあった。


今回:生徒会選挙が始まります

 やはり容姿というのはインパクトというものを与えるのには大変有用なもので、恵が演説してるところにはアイドルの追っかけでもしてんのか、というぐらいの人気で人だかりが出来ていた。

 あまりチヤホヤされて有頂天になってると足元をすくわれそうで怖いのだが、そのあたりは俺と香夜ちゃんで釘を刺しておいた。反感を持った女子が面倒なことをするからな。それでなくても、何かしら反感を買いそうで怖いのだが。さすが女子。妬み嫉みに暇がないな。美沙輝さんを見習え。人をけなし、蹴落とすぐらいなら自分を磨いてるぞ。さすが美沙輝さん、マジイケメンです。

 まあ、色々裏工作はしてきて恵に被害が及ばないように最大限尽力したが、この後どうなるかは恵次第である。

 生徒会役員は生徒会長より先に演説をする。まあ、この人最初だろうが最後だろうがどうでもいいんだろうけど。

 生徒会役員となれるのは4人だ。立候補者は6人。だから2人は落選する。正直、知ってるメンツなんて、恵と先のことで偶然知り合った隣のクラスの奴しかいないんだが。他人にもっと興味持つべきですかね。

 うちの人はうちの人でまあ、この人がやるんならいいだろ的な雰囲気はあったのでそこそこに終わらせました。

 今日行われる生徒会選挙でとちらなけらばいいんだけど。

 そして、恵の番が来る。ガチッガチで隣のちーちゃんがなんとか治めようとしてる状態だ。でも先に推薦責任者によるPRがあるので、一旦取り残されてしまう。大丈夫か?あいつ。


「今回の生徒会選挙に立候補した佐原恵さんは……」


 ちーちゃんがなんとか噛まずに言っていたようだが、恵の緊張具合を見ててそれどころではなかった。カンペはあるはずなんだが……。

 もうなんか今にも倒れそうだし。

 俺の不安がってる様子が感じ取れたのか、天王洲先輩が肩を叩いた。


「君が背中を押してやるんだ。ちょっとぐらいは誰も文句は言わないさ」


 天王洲先輩の言葉に頷いて、壇上の上だから目立つだろうが少しかがんで恵の後ろに行くことにした。


「恵。大丈夫だからな。失敗しても、お前の頑張りは認めてくれてるやつはいるから。失敗することを恐れるな。お兄ちゃんが後ろで見ててやるから」


「お兄……ちゃん?」


「よし、頑張れ。お前なら出来るよ」


 俺は恵の背中を押した。一歩よろめいて前に踏み出る。

 意を決したのか、恵は背筋を伸ばした。


「ふぅ……。紹介をいただきました、生徒会役員に立候補した佐原恵です」


 一息ついて自己紹介をした。ところどころから黄色い声援が聞こえる。その声援に控えめながらに恵は手を振っていた。だから、アイドルじゃないんだが。


「私が立候補した理由は……」


 恵はカンペに目を落とした。だけど、その紙を握り潰していた。

 どうする気だ?


「誰かに認めてもらいたいからです。大袈裟な公約を掲げるつもりなんてないです。後期の生徒会役員になるからには、私は皆さんに学校を楽しんでもらいたいと思います。私は、小学生、中学生と何も出来ない子でした。今だって、誰かの助けを借りてここに立ってます。きっとこれからもそれは変わらないのかもしれないです。でも、少しでも何か自分を変えようとしてくれた人のために今度は生徒会という立場からこの学校生活を少しでも楽しんでもらえるようにしていきたいと思います。綺麗事並べて、良いところだけを見てもらったとしても、私は人よりおっちょこちょいでやること遅くて、どんくさくい子です。……それでも、まずは1人でも多くの人に、この学校を好きになってもらえるように、楽しんでもらえるように、生徒会役員として頑張っていきたいと思います。清き一票を、よろしくお願いします!」


 紛れもない、純粋だからこそ、恵の言葉はみんなに届くのだろう。

 何でも打算的に考えてしまう俺と違って。

 誰かに認めてもらいたいから。妹は中学まで誰にも認めてもらえなかった。自分でそれだけの努力をしてこなかったから当然だ。

 だから、高校に上がって、俺たちが何とかしようと力を貸した。恵は誰かの力を借りながら自分を何とかしようと今は努力している最中だ。

 人の努力なんて目に見えるものではないし、恵自身も努力自体を認めて欲しいなんてことは考えてはいないだろう。努力した結果、自分がどうなっているかを見て欲しいのだ。

 それが妹のいう、”誰かに認めてもらう”ということだ。

 とりあえず演説は上手くいった……が、恵はお辞儀をしたまま動かなくなっていた。


「め、恵ちゃん?終わったなら下がらないと……」


 ちーちゃんが動かそうとするが、恵は微動だにしない。


「気絶してる……」


 緊張のしすぎで、演説を終えた時点でオーバーヒートしてしまったようだ。

 先生たちが慌てて中止をかけて、担架に恵を乗せた。最後でカッコがつかない妹である。


「あの、恵大丈夫そうですか?」


「君は……そうか、お兄さんだったね。親御さんと連絡つくかい?」


「多分無理かと……終わり次第僕が迎えに行くんで、保健室で寝かせといてください」


「君は今から推薦責任者としてのPRがあるのに大丈夫かい?」


「妹が頑張ってやったのに、僕が投げ出したら怒られちゃいます。せめて役割を全うしてから行きます」


「そうか。じゃあ、頑張りなさい」


 急に担架で恵が運ばれていったために体育館内はざわついていたが、仕切り直して次の人から再び演説は始まった。

 すぐに自分たちの番も回ってくる。


「この度生徒会長に立候補した天王洲美子さんについて紹介させていただきます。……」


 あとはもう野となれ山となれだ。自分が知りうる限りの天王洲先輩のことをみんなに伝えた。どう受け取るかは向こう次第だ。

 すぐにPRを終え、天王洲先輩の演説も終えると全校生徒に投票用紙が配られる。

 立候補者と推薦責任者にはそれを書く権利はないので、先に壇上から降りさせてもらい、恵のところへと向かうことにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 保健室にたどり着き、恵が寝ているベッドへと来たが、恵はすでに起き上がって外を見ていた。


「あ、お兄ちゃん。もう終わったの?」


「あとは投票だけだからな」


「ゴメンね、心配かけて」


「何ともないか?」


「うん。お兄ちゃんに背中を押されたことまでは覚えてるけど、気づいたらここで寝てた」


 ということはほぼ無意識下であの演説をやってたわけか。末恐ろしい妹である。演説するたびに気絶してちゃわけないけど。


「ダメだね私。あんだけ協力してもらったのに肝心なところで頭真っ白になっちゃって。まだまだポンコツから脱却できないや」


「ううん。恵は頑張ったよ。ちゃんと自分の本心を話してた。あれがどう他の生徒の心に響くか。あとはそれだけだ」


「私……頑張れたのかな?」


「他の人がダメだって言っても、今回はお兄ちゃんがそれを認めてやる」


「……ありがと、お兄ちゃん」


 少し照れくさいのか顔をシーツに埋めていた。


「結果はいつになるのかな」


「今日の放課後に選挙管理委員会が開票するから。集計が終わって……来週の月曜だろうな」


「どこで発表されるの?」


「どこかで校内放送でもするだろう。まあ、当選者、というか立候補者には先に伝えられるだろうけどな」


「なんで?」


「就任演説ってやつがあるからな。当選しました、はい、挨拶お願いします。じゃ対処に困るだろ」


「それもそっか」


「まあ、挨拶するのは生徒会長ぐらいだろうけど」


「でも、生徒会役員になったとして役職はどうするのかな?」


「そのあたりは生徒会長が割り振るだろ。役員同士でぎゃーぎゃーやっててゴタゴタして作業が遅れるなんて笑い話にもならないしな」


「毎度思うけどそこまで頭が回るのならお兄ちゃんが生徒会長やればいいと思うんだけど」


「生憎俺は生徒および先生からの信頼が圧倒的に低いと思うから無理だ。というか、人前に立ってあーだこーだ命令して自分に火の粉が振りかかると考えたくねえわ」


「お兄ちゃん命令するよりされてることの方が多いからかな。社畜根性ってやつ?」


「悲しいなぁ」


 俺が就職したらなんかうまいこと部長ぐらいには昇進できそう。天王洲先輩からは世渡りはうまそうだとか言われたし。世渡りというよりは口八丁ですけどね。別に部下をいびるとかはしないよ?余程無能でもない限り。


「じゃあ、お兄ちゃん。頑張ったご褒美ちょうだい」


「キスでいいか?」


「それは香夜ちゃんにあげるし、私はお兄ちゃんのキスなんていらないよ。というよりは妹にキスを提案するお兄ちゃんはなんか妹として複雑だよ」


「じゃあ何して欲しいんだ」


「まるで私がキスを所望してたかのようないいぶりに私は困惑してるよ……」


「まあ、冗談は置いておこう」


「冗談だったの……?まあ、いいや。今日おんぶして帰って」


「重い」


「女の子に対してなんて酷い理由で断るのお兄ちゃんは!」


「香夜ちゃんぐらい軽いならいいけどな」


「妹の成長をその身を持って感じてよ」


「俺が見届けたいのは内面的な成長であって身体的な成長は正直どうでもいいんだけど」


「あ〜そういうこと言うんだ〜。今日倒れた妹を介抱せずにそのまま帰ったって美沙輝さんに言うよ〜」


「誰もやらんとは言ってないだろ。香夜ちゃん回収して帰るから。ちょっと待ってろ。まだ授業は全部終わってないしな。寝てろ」


「ぶっちゃけもう元気なんですけど」


「倒れたやつがいきなり復帰してたらみんな逆に心配するわ。今日は全休にしてやるからゆっくりしてろ」


「部活やりたいな〜」


「矢作に今日は来ないって言っとく」


「お兄ちゃんの意地悪」


「明日からまたやればいいさ。おんぶして帰ってやるし、今日は香夜ちゃんが料理作ってくれるって」


「じゃあ全力で休みます」


 とりあえず説得は完了したところで教室へと戻ることにした。

 成長してるのかどうかは俺たちぐらいしか知る由もない。大半の人はこうして生徒会選挙に出ることによって初めて知った人ばかりだろうしな。

 だから、頑張った時は頑張ったって褒めてあげられるやつが褒めてあげなきゃ、それこそ努力は認めてあげられない。

 あとは当選してることを祈るばかりだ。

 恵はもう元気になったと言っていたが、緊張の糸が切れたのか、俺が立ち去ろうとした時にはすでに寝息を立てていた。








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