違う視点の世界
どうもです。
あ、誰か分かりませんか?香夜ちゃんとか、アリサちゃんではないです。ましてや恵ちゃんでもないです。
とりあえず自己紹介です。愛沢千紗です。恵ちゃんと同じクラスで同じ部活のそれ以外は特に特徴とすることがない女の子です。
こんな悲しい自己紹介がかつてあったでしょうか。これはきっと、恵ちゃんのお兄さんのせいです。また訴えて何かしら奢らせることにします。
ここで、私が頑張って、恵ちゃんと同じクラスで同じ部活、というだけの評価から何かしらのアイデンティティを生み出すのです。
「ちーちゃん。誰に向かって喋ってるの?」
「なんでもないよー。ほら、演説の内容考えてこ」
「こういう文章考えるのってやったことなくて……」
「私もあまりやったことないんだけど……」
うーん、と2人して考え込んでしまった。
そもそも2人してそうそう頭がキレるわけではない。恵ちゃんは進学クラスのテストを受けていたが、それも一個上の学年1位のお兄さんと同級生で進学クラスの学年2位である香夜ちゃんから家庭教師的なことをしてもらってるかららしい。
でも、昼放課とかは天文部の部室で今度は生徒会長の天王洲先輩から勉強教えてもらってるらしいし。環境が整ってるって言っちゃえばそうなんだろうけど、それを上手く活用できるかどうかはその人次第なんだから、恵ちゃんがズルいとかそういうことではないんだろうな。
前に聞いた話で、お兄さんから恵ちゃんは生徒会長を目指していることを聞いた。
恵ちゃんが思い描いている生徒会長が天王洲先輩であるとするならば、恵ちゃんには難しいんじゃないかと私は思う。
明るくて天真爛漫、よく言えばそうなって、見た目だって可愛いし人懐っこいから人気者ではあるけど、近くでいると、結構ぽやぽやしてて危なっかしい所が多いし、ふと目を離したらすぐ違う方向歩いてるような方向音痴だし……確かにお兄さんが過保護になる理由もわかる気がする。それ以前に過保護にされてるとも気づかずに今日までを過ごしてきている恵ちゃんも恵ちゃんである。
でも、今日までを見てきて目立ってやらかしたということはない。
まあ、こうやって2人で頭抱えてても妙案は出てこないだろうし、お兄さんの方に聞きに行こうかな。
「恵ちゃん。お兄さんに聞きに行こ?頼っていいって言ってたし」
「……ううん。今回は自分で頑張りたい。いつもお兄ちゃんにおんぶに抱っこじゃ、生徒会長なんて務まらないよ」
「……そういうのはその真っ白な原稿用紙に一文字でも文字を埋めてから言ってね」
「あう〜」
「……そだね。文章なんて下手くそでもいいんだよ。言葉足らずだって、口下手だって。伝えたいことが伝われば。恵ちゃんが生徒会に入って、この学校のために何がしたいのか。まずは、その辺りから書いていこ」
「うん!私頑張るよ!」
「私もちゃんと手伝うからね」
自分で頑張るという以上はあまりお兄さんの方に頼らないほうがいいかな。
でも、過去の人が書いた演説分ぐらいは資料室とかにあるのかな?
恵ちゃんを見てるとなんだか自分まで力をもらってるような気分になる。自分も何か頑張ろうって気になってくる。
反対に恵ちゃんがダラけちゃったら自分もダラけちゃうんだろうけども。その辺りを上手くコントロールしてるのがお兄さんと香夜ちゃんなんだろうな。
「恵ちゃん。私、ちょっと資料室で参考になるものないか探してくるね。1人で少し頑張ってて」
「うんー。30分したら起こして……」
「私がいなくなったら寝る気なの?」
「冗談です。でもなるべく早く戻ってこないと寝てる可能性は否定しきれません」
「はあ……一緒に行く?」
「そうさせていただきます」
確かに誰か見てる人がいないとこの子はすぐに路頭に迷いそうである。
お兄さんが何でもできる人で妹思いな人でよかったね。私、姉妹だったら世話しきれる自信ないよ。しかも、家は二人暮らしだって話だし。ご両親、お兄さんのこと信頼しすぎじゃないですか?
なんだかご機嫌な様子で隣を歩いているこの子を見て、お兄さんは最終的な目標は恵ちゃんの自立だと言っていたけど、この様子ではいつになるのやらと思っていた。
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はっ⁉︎このままでは何の特徴もない子で終わってしまいます!
でも、特徴なんて自分で考えるものでもないような……。せっかくだし恵ちゃんに聞いてみようかな。
「ねえねえ。恵ちゃん」
「なあに?ちーちゃん」
「恵ちゃんから見て、私ってどんな人かな?」
「うーん。ちーちゃんはちーちゃんとしか言いようがないような……」
いや、そんな抽象的な返答は期待してないんだけど。
でも、普通、人なんて言うほど特徴なんてないし、大きく言えば、外見的な特徴で言えば、男子か女子か、大きいか小さいか、顔は整ってるか、そうでもないか。あとは年ぐらい……かな。女子で言えば胸とかもあるかもだけど……。
別に私の外見的な特徴を述べてくださいって言ってるわけじゃないよ?
「そだねー。ちーちゃん優しいと思うよ」
「優しいなら、恵ちゃんの周りの人はみんな優しい人ばっかりだよ」
「ううん。そうでもないよ。私ね、昔からトロくさくて、周りに迷惑かけてばっかりだったんだ。中学はお兄ちゃんがなんとかしてくれたんだけど、何やるにしても遅くて、要領悪くて、周りから浮いてたんだ。だから、友達とかもあんまり出来なかったんだ。自然に、私は何も出来ない子ってレッテルを貼られて、遠巻きにされるようになっちゃった。だから、お兄ちゃんから頼まれたとはいえ、ここまでこうして付き合ってくれてるんだからちーちゃんは優しいよ」
「そ、そう……なの……」
そっか。この子だって、ただ能天気にいつもニコニコして明るいわけじゃないんだ。ちゃんと何かしら苦労してきてるんだ。
きっかけはどうあれ、恵ちゃんはそれをなんとかしたいって思って、努力をしてるんだ。
「あーあとねー……」
あれこれと恵ちゃんが何かを言っていたけど、私の耳にはあまり入ってこなかった。適当に相槌を打っていた。
「……だと思うよ。……ちーちゃん、聞いてた?」
「うん。大丈夫だよ」
大嘘だった。何も聞いてやしない。
でも、何も出来なかった子が誰かのために頑張ろうとしてるんだ。
私は応援するだけの立場だ。でも、この子の役に立とう。
この子が立派に自立できるように、誰も見てなくても、私だけでもこの子の努力を見ていよう。
だって、誰にもその努力が伝わらないなんて悲しすぎるじゃない。
私のクラスでは、1人だけ出来が違うんだと、そう囁かれつつもあった。そんなの違う。この子は何も出来ない子だった。それが、少しずつ成長してるんだ。
私も、ちょっとだけでも努力をしてみよう。
そのためには、まずは恵ちゃんの推薦責任者を努めあげなきゃ。