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幽霊屋敷(5)

 天体観測も十分に堪能し、コテージへと戻ってきた俺らだったが、無論霊が出ると言われる(アリサちゃん談。真実は定かではない)ここで夜にそのまま寝付けるはずもなかった。

 と思ったのだが、意外にみんな寝つきがよく、心配で起きていた俺がバカみたいです。

 健全なる男子高校生たるもの、日付が変わる前に寝られるほど人間ができてもいないのが事実なのだが。


「よし、千種。恋バナしようぜ」


「お前とするとか吐き気がしそうだからやめてくれ」


「お前は先輩に対する態度というものがなってないな。ここらで矯正しておくのも一つの手だがいかがな?うん?」


「それはパワハラ、もしくは脅迫というものだと思います。佐原さん」


「よろしい。まあ、女子でもないのに恋バナが男同士で気持ち悪いというのは同意できるな。暇だからロビーにでも行くぜ」


「あっそ。行ってらっしゃい。俺はもう寝ますわ」


「連れねえな」


「あんたが変なもん見るからこっちは体力使ってんだよ!」


 除霊の話です。憑いてるかどうかは定かではなかったが、とりあえずお祓いだけしてもらいました。

 千種は布団に潜り込んでしまったので、俺だけ出歩くことにした。

 先生等の監督はいないので就寝時間など決められてません。起床時間はスケジュール上決められてるけどね。ちゃんと起きないと突撃されるからそれだけは避けないと。

 男子→女子は咎められるのに、女子→男子はいいってどういうこと?

 女尊男卑のこの界隈で男女平等を謳わねば。


「謳わなくて結構よ」


 ロビーにたどり着いて、所信表明をしたところで声をかけられた。


「なんだ美沙輝。こんな時間まで起きてて。肌に悪いぞ」


「それはこっちの子にも言ってくれない?」


「ん?」


 香夜ちゃんもいた。美沙輝の肩に寄りかかって寝ているけど。


「香夜ちゃんは寝てるからセーフ」


「意味がわからん」


「して、なんで二人だけで出てきてるんだよ。アリサちゃんは?」


「寝たわ。シャワー浴びてすぐに。あの子はあの子で色々やることあるだろうし、それはいいんだけど」


「お前らは寝付けなくて、すぐ横で寝てるアリサちゃんにもうしわけないからこっちに来たと」


「ま、そんなとこ」


「いいのか?ここ出るらしいのに」


「そ、そんなのはアリサちゃんの虚言でしょ。見たわけじゃないし、アリサちゃんだってそんなことを聞いた程度のことでしょ」


 言葉尻が若干ながらに震えてますよ美沙輝さん。

 まあ、出なければそのままアリサちゃんの虚言で終わるし、それに越したことはないんだけど。


 ガタガタ


「ひゃっ!」


「隙間風入ってきてんのか?窓は全部閉めて……ないなあ。無用心だろここ」


「そ、そうね。あんまり知られてないし、取られて困るようなものはないからいいんじゃないかしら。夜とはいえ、夏だから暑いし」


「網戸ぐらい設置しとけよ。こんな山の中じゃ虫が入り放題だぞ」


「虫ぐらいでガタガタ言わない」


「虫は平気なのかよ」


「G以外は基本的には。蝿の動きを見切って羽のみを掴むのも可能よ」


 お前はどこかの達人か。反射神経のみに特化でもさせたのか。


「お前、そこまで運動得意じゃないだろ」


「こういうのは運動神経云々じゃないと思うのよ。経験がものを言うわ」


「なら霊も経験して怖いものではないという認識に……」


「なるか!」


「ふわ」


「あ、ゴメン香夜ちゃん。起こしちゃった?」


「すいません……私寝てました……あれ、なんで先輩がここに?」


 騒ぎ立てたせいで香夜ちゃんが目覚めてしまったようだ。

 目覚めたといってもまだ、うつらうつらしてるので、目はまだ眠たげである。


「香夜ちゃん。なんか変わったことないか?」


「先輩がいること以外に変わったことは……」


 現状の話かよ。まあ、とりあえずは大丈夫そうだが、管理責任者寝てるし、出ても唯一対処できそうな奴は寝たし、ガバガバ過ぎやしませんかね?

 香夜ちゃんも物音に反応して起きただけだったようなので、俺が目の前にいても、また美沙輝に頭を預けて寝息を立て始めた。


「……香夜ちゃん。本当は海に行きたかったんだって。でも、あんたが来ないから自分だけ楽しみたくないって。……本当健気よね」


「俺にはもったいないな」


「まったくよ。周りに男子がいなかったのも要因かもしれないけどね。あんたを選ぶって」


「少しぐらいは強引な方がちょうどいいのかもしれないしな。この子は。ま、いきすぎない程度に、だけどな。いきすぎるとさっきのようにぶっ倒れる」


「気絶してたわね。想定外のことに弱いのかしら」


「お前だって半泣きだったじゃねえか」


「お、お姉ちゃんとかに言わないでよ」


「言わねえよ。普段からあれぐらいなら可愛げあるのに」


「今が可愛げないみたいな言い方ね」


「痛い痛い。頬をつねるな。でも、お前もいつも気張ってるんだから、たまには肩の力抜いてもいいんじゃねえの?疲れるだろ」


「そんなに、頑張ってるように見えるかな。私」


「お前が頑張ってなかったら、たいていの人間が頑張ってないな」


「そんなに頑張ってるように見えるなら、肩の一つでも揉んでくれない?最近酷いのよ」


「出てんじゃねぇーかよ。証拠が」


「寝れば治るってもんでもないのね、これ」


「つっても、今のままじゃ香夜ちゃんの頭が邪魔だな。足に移動できるか?」


「香夜ちゃん、ちょっとゴメンね」


「ん……」


 美沙輝は香夜ちゃんを下ろして、その頭を撫でてあげていた。

 香夜ちゃんも気持ちよさそうな顔している。

 すっかり安心しきっているのだろう。


「そうしてると姉妹みたいだな」


「妹しか増えていかないのだけど」


「お前はお姉さんが欲しかったのか?」


「姉……というよりは兄、かな。困った時に助けてくれるヒーローみたいなお兄ちゃんが欲しかったな」


「まあ、現実にそんな兄はそうそう存在しないけどな。でも、兄は兄で結構困ったもんだぞ」


「私がその立場じゃないからいいの」


「現金なこって」


「女子は常に計算してるんですー。ボケボケしてると香夜ちゃんに出しぬかれるわよ」


「……まあ、香夜ちゃんがそうしたいのなら俺はそれでもいいかなって。香夜ちゃんにはずっと言ってる」


「そうなの?」


「もっとさ、視野を広げてほしいっていうか、もっと色んなもの見て来てもらいたいんだよ。それはなんでもいいんだけどさ。それで出した結論が俺ならそんなに嬉しいことはないさ」


「時間かかりそうな話ね」


「どれだけ時間がかかってもいいんだよ。遠回りしたっていい。だけど、俺は待ってもらうしかできないからな」


「恵ちゃんのため?」


「……まあな。あいつ、来季から生徒会をやる予定なんだ。まあ、当選すればの話だけど。それで、2年の前期に生徒会長に立候補させる」


「それがあんたの計画ってわけだ」


「計画って……まあ、間違っちゃいないけど。分かりやすい指標ではあるだろ。生徒会長に任命されたとなれば、ある程度みんなも認めてくれたってことだし、あいつも自信になると思う。今みたいに全部におんぶに抱っこじゃなくて、自分で考えて行動しなくちゃいけなくなる。お兄ちゃんとしては、少し寂しい気もするけどな」


「そうなった時に答えを出すわけだ」


「……そうだな。俺が出すっていうよりは、出してもらうって言った方が正しい気もするけど。俺はそれを望んでるわけだし」


「フラれたら考えてあげるわよ?」


「そりゃどーも。しかし、その場合は傷心のところにつけ込むのか」


「言ったじゃない。それも計算なのよ。……ま、ないんだろうけどね」


 美沙輝は軽く息をついた。

 再び香夜ちゃんに視線を落として頭を撫でている。

 美沙輝は香夜ちゃんに対してどんな感情を抱いているんだろう。

 可愛い後輩か、言い方は悪いが泥棒猫か。まあ、奪われてもないけど。

 良い感情を抱いていないというわけではないだろう。なら、こうして枕代わりをしてあげて、慈しむような目で彼女を見てはいないだろうと思う。


「ありがと。気持ちよかったわ。いい時間……いや、かなり遅くなったわね。あんたも早く寝なよ?」


「お前、朝早いんじゃ……」


「それはそれよ。1日睡眠時間が短かったところで死にはしないわ。まあ、あんたも早起きさせるから」


「何時ぐらい?」


「4時……まあ、5時でいいわ」


「寝てたい。合宿って起きたら朝ごはん並んでるもんだと思ってた」


「全て自炊よ。なんで宿泊費がタダになってるか。アリサちゃんに聞いてみることね」


 曰く付き物件と、子息であるアリサちゃんの口添えの結果ではなかったのでしょうか。


「育也がいるならちょうどいいわ。香夜ちゃん、持ってきてくれない?」


「ものみたいに言うなや」


「まあまあ。でも、きっとあんたぐらいよ?女子の宿泊部屋に入れるのなんて」


「役得だわな。まあ、仰せのままにさせてもらうぜ」


 体勢的にお姫様抱っこのほうがしやすかったので、持ち上げて美沙輝たちの泊まってる部屋に香夜ちゃんを運んだ。

 エレベーターなんて洒落たもんはないので、一階から三階って結構な重労働だな。


「ありがと、育也。おやすみ」


「ああ。まあ、取り憑かれんようにな」


「霊も取り憑くならあんたに真っ先に行くと思うのよ」


「俺もそう思うが、俺にはあいにく霊感などないし、対霊に特化した人材を同部屋にしたからモーマンタイ」


「はあ。まあ、あんたは怖いものなしよね。明日も早いし、ちゃんと寝なよ。今度こそおやすみ」


「おう。また明日な」


 扉を挟んだ向こう側へと美沙輝は消えていった。

 廊下に一人、俺は残される。

 そういや、美沙輝の肩揉んでた時、あまり凝り固まってるような感覚はなかったが、あいつ憑かれてそうなってたとかじゃないよな?

 明日も早いことだ。美沙輝だけに負担をかけるわけにもいかないし、俺もちゃんと起きることにしよう。

 ただ、あの時に鳴っていた音が本当に風だったのかどうかは定かではない。

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