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幽霊屋敷(3)

 とりあえず、一通り偵察は終わったみたく、全員部屋に荷物を運び終えた。

 ちょっとした旅行気分だ。

 まあ、合宿って言っても、夜通し練習するだとかそんなこともないし、何より金がほとんどかかってないからな。

 精々ガソリン代だけらしい。

 なんか食材のお金ぐらいは払ってもバチは当たらないかと思ったけど、口には出さないでおこう。


「で、お昼はあんたたち二人で作って終わっちゃったけど……」


「だって、山岸は使い勝手がいいけど、美沙輝を引っ張っていくわけにも行かなかったからな」


「ところで、この合宿って監督誰なの?」


「監督?」


 そんなものが必要か?


「その疑問には私が答えよう」


「どこから出てくるんですか」


 おおよそ気配もなかったが、俺の後ろから出てきた。今更驚くようなことでもない。


「少しばかり驚いてくれないとすねるぞ」


「わーびっくりー」


「ここまで嬉しくない驚きもないね……。それはともかく、監督の話だったな。そんなものは必要ない」


「なんでですか?部の合宿……ですよね?」


「うちの2年の部員が矢作しか来てない時点で察するんだ」


 確か、2年部員は四人と聞いた記憶がある。矢作を除けば、普段来るのはもう一人の女子部員らしい。あと二人は幽霊部員とのことだ。

 だから、なんら来てなくても問題はないと思っていたのだが。


「学校側で合宿費用とか言ってお金を集ってないからな。いわば、勝手に決めただけのこれはただの旅行だ。監督は私がしよう。怪我、体調不良、悪霊祓い、痴漢撃退など、何でも聞き入れよう」


 最後二つは入れる必要があったのか?怪我、体調不良は医者の娘だというのだからノウハウあっても不思議ではないが、悪霊祓いとか千種くん戦力外やんけ。


「痴漢というか、余計なことをするセクハラ野郎はここにいるんで、私が監視しますから特に問題はないと思います」


「俺、そんな見境ないことしないよ?」


「セクハラ野郎と言ってあんたが発言することによって、あんたがセクハラ野郎とイコールになったわけよ。Q.E.D。証明終了」


 これは証明終了したところで何の抜本的解決するわけでもないのだが。


「ただの旅行なら遊びに行ってもいいのか?」


「名目上は合宿なんだからノルマがあるのよ。遊ぶのはそれから」


「すでに遊びに行ったうちの後輩女子は」


「……晩御飯疲れてても作らせるから。もちろん、私と育也が監視するわ」


「俺もすんのかよ!」


「私一人で手が追えると思わないでちょうだい」


 誰のことを指してるんでしょうか。言わないでおくけど。海に遊び行ったし。


「いいな〜。俺も水着少女と遊びたい」


「私じゃ不服?」


「お前水着じゃねえじゃん」


「そりゃ、中にいるのに水着を着る必要ないもの」


 そういや、恵は見て見て〜って俺に新調した水着を見せに来ていたが、俺に評価を求めてどうするのだ。可愛いとしか言わないからな、俺は。


「はいはい。終わったら海に夜中でもいくらでも行っていいから始めるわよ」


「はい、質問」


「何?」


「材料足りんのか?」


「……アリサちゃんが自分もやるから私に任せてくださいって提供してくれてるのよ。多分、無駄にあると思う」


「冷蔵庫の中は怪しかったぞ?」


「何も冷蔵庫にあるものが全部とは限らないわ。あの子の別荘だもの。別の置き部屋があるはずだわ」


「期待しすぎじゃね?」


「まあ、そう言うのも、地下があるって聞いてるから。食材はその日使う分以外はそっちに入れたって」


 地下の案内受けてなかったんだけど。美沙輝にだけ伝えていたのか?

 まあ、材料があるのならそれに越したことはない。


「そういや、テーマって決まってるのか?コンテストだしただ作りゃいいってもんでもないだろ」


「名産品を使った料理って言ってたけど、この地域の名産品って何なの?」


「それぐらいコンテストの要項に書いてあるだろ。ついでに景品なんかも教えろください」


「まったく厚かましいわね。景品目当てに出るんじゃないのよ?米一俵だって」


 多いわ。どうやって持って帰るんだよ。今時米俵を肩に担いでるやつ見たことねえよ。台車寄越せ。


「それぐらい貸してくれるでしょ……」


「で、何を使うんだ?」


「味噌だって」


「味噌?じゃあ、美沙輝特製お味噌汁で決まりだな」


「作るのはやぶさかではないんだけど、それでいいのか」


「無駄に凝ったものを作ろうとすると後で大火傷するんだぞ。じゃあ、なんだ?味噌ラーメンとか味噌煮込みうどんでもするか?味噌カツでもいいな」


「だんだんあんたが食いたいものになってきてない?」


「郷土料理で土手煮というのがあってだな。ホルモンを味噌で煮込むんだが」


 何それ。美味しそう。

 唐突に発言していたのは矢作である。


「まあ、欠点は時間がかかるから時間制限のあるコンテストでは使えないな」


「なんで提案した」


「そんな料理もあるぞってだけだ。実際に調べて作ってみたらどうだ?お前の濃い味付けとも相性がいいぞ」


「機会があったら作ってみるわ。時間がかかるってどんなもんだ?」


「一度煮込んでから、丸一日は置いておいたほうがいいな。そのほうが味が熟成されてさらに上手くなる。ご飯のお供にオススメの一品だ」


「おい、こいつ。飯テロだぞ。俺の腹の音が止まらねえ」


「自分で言ってて腹減ってきた」


「じゃあ、せっかくだしその土手煮作ってみる?時間あることだし、量を作っておけば、明日にも回せるでしょ」


「もう主婦の目線だよな、美沙輝」


「効率の問題よ。朝はサンドイッチでも考えてるから。それぐらいならあの子達でも作れ……るかもしれないし」


 断定はしない。それが優しさなのか、現実を見てるのかは知らない。

 一名包丁握れるか怪しい人間がいるしな。

 ちゃんとレタスとか切れるのか?家でも練習してるならまだしも、アリサちゃんの家は家政婦もいるしな。アリサちゃんがやる必要もない。

 あ、名前出しちゃった。


「まあ、海は明日でもいいだろ。今日は天体観測もするみたいだし」


「おお、俺見たことないけどどんな感じなんだ?」


「別に言うほど本格的でもないぞ。1番上の人が適当だからな」


「1番上……生徒会長?」


「部長は矢作だけどな。実質的な権限あの人だから」


「って、あいつ水着の女の子独り占めしてんのかよ!」


「いや、運転してた先輩に千種もいるし」


「しかし、このコテージ幽霊が出るって言ってたよな。本当か?」


「眉唾もんだけどな。念のためかお札も貼ってるし」


「これ、霊除けとかそんなのじゃ……」


「すでに入ってきてたら意味ねえけどな。ハハハ……美沙輝?」


 耳を押さえてしゃがんでいた。出てなくてもこういう話自体ダメなのかよ。


「美沙輝。俺たちに見えるわけじゃないんだし、祟られるわけじゃないだろ」


「アリサちゃん、そういう人が何人かいたって言ってたじゃない!」


「食あたりだろ。霊なんか信じるほうがバカバカしいぜ」


「じゃあ、香夜ちゃんに取り憑いてもいいのかしら」


「あの子が怖いのは幽霊よりも暗いところと高いところだから」


「…………」


「まあ、俺が取り憑いてるからな」


「お前、幽霊だったのか?じゃあ、今俺たちが見てるお前は霊体なのか?」


 ものの例えだろうが。俺が幽霊だったらそれこそ心霊現象だわ。


「確かにあの子は何かよくないものに取り憑かれてるのかもね……」


「おい、よくないものって俺のことか」


「じゃなければ、あんたのことが好きになるって天文学的確率じゃないの?」


「ひでぇ言い草だなぁ。大丈夫だって。除霊師呼んでるんだから。あいつ、あれで役に立たなかったらビンタだけどな」


「出ないことを祈るわ……」


「てか、部屋分けどうしたんだ?」


「そんなに広い部屋でもないから一つを荷物置き場にしたのよ。あとは3、3、2で分かれたわ」


「お前、誰となんだ?」


「香夜ちゃんとアリサちゃん」


「アリサちゃんに任せておけばいいんじゃねえかな」


「あの子が怖いものってなんなのかしら」


「さあな……」


 この合宿中に明らかになるかもしれないし、ならないかもしれない。


「まあ、それはいいわ。とりあえず材料持ってきましょう。こっち来て」


 なんで美沙輝だけルートを知ってるんだ、なんて疑問は置いといて、俺たちじゃアテにならないんだろうなという微妙な信頼関係が見えたところでもある。

 まあ、本番は夜になってからだな。

 とりあえず、先輩である威厳を見せるために晩御飯の支度に取り掛かった。

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