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君のために

 年頃の女の子が年頃の男子がいる家にそう何回もやっかいになってるのは、普通はないだろう。

 この家で事情を知ってるのは俺だけだ。

 恵は知ってるのかは分からない。でも、香夜ちゃんが来てくれるというだけで喜んでいる。

 香夜ちゃんはそんな恵の対応が素直に嬉しいのだろう。

 だから俺は、恵と同様に、香夜ちゃんも普段この家にいるものとして接してきた。

 踏み込めないのも、そのあたりにあるのかもしれない。

 壊れてしまったら、それこそ、香夜ちゃんは本当に行き先を失ってしまう。

 だから、俺は何もしない。

 こいつを見届けるまでは……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おにーちゃん!香夜ちゃんいるんだし、せっかくだから花火しよ!花火!」


「用意するのは?処理するのは?」


「用意は私がやる!処理はお願いします」


 全部やる、と言わないあたりは自分の力量がわかってきたのか、全部俺任せにせず、自分が出来そうなことは自分でやると言ってるあたりに成長を見出せばいいのか。


「仕方ねえな……。バケツは裏の物置小屋にあったはずだから水は自分でくめよ?あとお前に火の管理とか任せたくないからそっちは俺がやる」


「あの私は……」


「あいつがやりたいって言ってるだけだから香夜ちゃんはそれに付き合ってくれればいいって」


「……後処理は手伝いますね」


「ああ、ありがとな」


 美沙輝でも呼ぼうかと思ったが、それだとアリサちゃんは呼べないので不公平になっちゃうな。

 今日は三人でいいか。

 どこにしまってあったのかもよくわからないが、恵は花火セットを取り出してきた。

 こんな市販のものだし、大した演出は見込まれないけどな。

 まあ、家で楽しむ花火なんてそんなものだろう。


「先輩」


「ん?やりたいやつあるか?」


「いえ。そうではなくて……。花火しながら話しましょう」


「恵のことも見ててやってくれ。あいつ危なっかしいから」


「三・連・弾‼︎」


 あいついつの間にか俺が近くに置いていたチャッカマンを盗んで打ち上げ型の花火に着火していた。

 危ないって言ってんのにあいつは……。

 まあ、楽しそうだからいいか。

 打ち上がった花火からパラシュートが飛んできてフラフラと落下してきているのを、恵は追っていった。


「楽しそうですね。めぐちゃん」


「まあ、香夜ちゃんがいるからってのはただの口実だろうけどな。香夜ちゃんは花火好きか?」


「私はああいう派手なのよりは線香花火みたいな静かに光ってるようなのがいいです」


「その類の花火は線香花火しかねえんじゃねえかな……」


「私がイマイチノリが悪いのはそういうところだと思います。騒がしいのが苦手で、結局隅っこで静かに過ごすのが性に合ってるから……」


「恵に振り回されるのは癪か?」


「い、いや!そんなことは……。……感謝してるんですよ、めぐちゃんには。めぐちゃんのおかげで友達ができましたし、先輩と会うことができました」


「俺も香夜ちゃんと友達になれてよかったよ。こんな可愛い子が近くにいてくれるんだもんな」


「褒めても何も出ませんよ……。先輩、あの今度夏祭りありますよね。近くで大きいのが」


「ああ、そうだな。みんなで行こうぜ」


「え、あ、……はい。そうですね」


 香夜ちゃんは歯切れ悪くそんな返事をした。


「どうした?」


「先輩はそうですもんね……」


「なんか怒ってる?」


「怒ってないです!」


「わ!花火振り回すな!」


「あ、す、すいません先輩……火傷してないですか?」


「ほっほう。香夜ちゃんも火舞をする気だね?」


 いつの間にか俺たちの前に二本の花火を構えて恵が立っていた。

 まーた、こいつは余計なことを考えてるようだ。

 まあ、持ってた一本を香夜ちゃんに渡していたが。


「どっちが美しく舞えるか勝負だよ!」


「花火はそういうものじゃないよ……」


 香夜ちゃんの抗議もなんのその。点火するためにロウソクに火をつけに行ってしまった。

 香夜ちゃんは渡された花火を持ったまま立ち尽くしてるけど。


「私も行ったほうがいいんでしょうか……」


「行かないとあいつがスネるから行ってやってくれ。話はまた後で聞くから」


「おにーちゃーん!どっちがよかったかはお兄ちゃんが審判してねー!」


 やらねえよ。花火で火舞なんざできるか。振り回すのが限度だろう。

 ※大変危ないので良い子は真似しないでください。


「誰に言ってるんですか?」


「あいつ」


 言っても聞かない子なので諦めることにした。


「大車輪〜」


 という名の適当に大きく振り回してるだけ。ただ、適当に眺めてるよりは綺麗に見えてしまうのが、それはそれで問題点でもある。


「3点」


「評価低いよ!」


「芸術性が足りない」


「なら10本ぐらい一気に……」


「危ないからやめんか」


「痛い」


 頭を小突いたところで手に持とうとした花火をバラバラと地面へと落とした。


「まあ、一本じゃ火力も少ないし、大きく動かしても大したものには見えないよね」


 香夜ちゃんは恵からもらったやつとは別になんか大きめのものを用意していた。


「って、香夜ちゃん、それは手持ち花火じゃ……」


 止めようとしたが、既に遅かった。

 香夜ちゃんはその花火に点火し、自分の頭上へと掲げた。

 でも、打ち上げ型と手持ちの中間みたいな大きさなので、火力は大したものでもないが、上からシュワシュワと音を立てながら火が出てる。

 香夜ちゃん。それでは君が見えないのではないでしょうか?

 しばらく香夜ちゃんはそれをクルクルと回していたけど、火力という点以外では恵にも及ばないようだった。


「どうでしたか?」


「一点」


「随分ですね」


 ※花火は使用上の注意をよく守って遊びましょう


「誰に言ってるんですか?」


「お前ら2人だ!」


「だって、香夜ちゃん」


「めぐちゃんに言ってるんだよ」


 こいつらはお互いが2人分身してるとかいう謎理論でもかます気なのか?


「はあ……とりあえず、花火はあらかたなくなったな?片付けるぞ。風呂、順番に入れよ」


「先輩。私、泊まるなんて言ってませんが」


「え?」


「まあ、泊まりますけど」


 なんでフェイント入れたんだ。


「じゃあ、2人で先に入ってこいよ。俺はこれ片付けてるから」


「先輩、手伝うって言ったじゃないですか」


「火の扱いが適当な子は風呂に入って頭を整理整頓してきなさい」


「むー。先輩がいつになくイジワルです」


「かーやちゃん♪じゃ、私とお風呂行こー。イジワルお兄ちゃんは置いといて」


「あ、ちょっと待ってて」


 タタタっと子気味の良い足音を立てて、香夜ちゃんは花火の後始末をしようとしていた俺の元へと寄ってきた。


「まだ、なんかあったか?」


「いえ、まだ言ってないことがあったので、お風呂上がったら、また外に来ますので、ちょっと待っててください」


「……それ、どれぐらいなんだ?」


「めぐちゃんに妨害されなければ1時間あれば」


「さすがに1時間半も外にいる用事はないぞ。あと、蚊に刺される」


「なんで30分延長したんですか」


 なんか抗議するようなジト目でこちらを見られたが、どう考えてもあいつが香夜ちゃんの妨害をしないというビジョンは見えなかったからである。

 にしても、香夜ちゃんが話したいことか……。

 もしかして、


「香夜ちゃん。夏祭りさ、どこかで俺と2人で回るか?」


「え?先輩、どうして……」


「いや、さっきみんなでって言った時不貞腐れてたからもしかしたらって思ったけど……俺の自意識過剰ならそれでいいんだけど」


「そ、そんなことないです。先輩と2人で……回りたいです」


「なら、よかった。夏休みは色々とあるからデートの件はそれでチャラにできねえかな?」


「色々……ですか?」


「聞いてなかったか?恵、後期の生徒会に立候補する予定でな。まあ、詳しくは風呂であいつにでも聞いてみてくれ」


「はあ……めぐちゃんからロクな情報が得られるとも分からないんですけど」


 それは言わない約束でしょ。

 でも、香夜ちゃんは少し上機嫌になったのか、足取り軽く、恵と家の中へ戻っていった。

 恵のためなら俺は何をしてあげたらいいか分かる。

 中心的に動いているのは今は恵のことだ。

 でも、香夜ちゃんに対して俺は何をしてあげられるんだろう。

 ただ、ご機嫌取りをしてればいいってわけじゃない。

 香夜ちゃんはあわよくばとも考えてるのかもしれない。でも、俺の方が曖昧なままではいずれ迷惑がかかる。


「夏祭りか……」


 確か去年も恵にねだられて行った記憶があるが、あまり覚えてもいない。

 ただ、一時の空気に流されないようにだけはしないといけないな。

 ふと、バケツの水に突っ込んだ花火が燻ってるのを見て、まるで俺みたいだな、と感じていた。

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