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10話:同好会という名の溜まり場

 寝不足なのか、どうにも目が開かない。

 だから俺は、糸目で過ごすことにした。こうすることにより、授業中も寝てるかどうかわからないという策略だ。

 大半寝てましたけどね。

 途中で机で伏せていたから担当教師に追い出されました。こちらにはそっちの授業を聞くか聞かないか選ぶ権利があるはずだ。それを教師の一任で追い出していいわけがない!

 まあ、寝てるやつの完全な自業自得なので、こんなことを香夜ちゃんに言ったら怒られるな。

 まったく、学年トップを追い出すな。自分の授業がつまらないことを自覚しろ。

 ……大抵の高校の授業なんて推して測るべきなのだが。

 結局、そのまま保健室へ連行され1時間ほど寝かせてもらいました。

 寝不足なのもあいつのスケジュールを組んでいたからなのだが。

 本人はぐーすか寝ているわけだし。幸せそうですね、あなた。

 そんなわけで今日は金曜日だ。前に天体観測がどうとか言ってたやつは水曜日だ。矢作が言ってたじゃないか。仮入部期間は大抵やってるって。

 恵のやつも気に入ったみたいで今日も行くと言っていた。先輩に何かされてないか心配だったが、まだ杞憂に終わっている。このまま終わって欲しいものだ。

 俺は何をしているのかというと、家庭科実習室にいた。

 いるだけである。何もやってない。


「何もやってないじゃない!活動せい!」


「ってえ。お玉で殴るな。調理器具は鈍器じゃないぞ」


「ここだって溜まり場じゃないのよ」


「ってもなあ。いるのお前の料理目当ての野次馬ばかり10人程度じゃねえか」


「これで入部してくれたらなあ」


「いねえよ。そんなの……いってぇ‼︎」


 またお玉で殴られた。だから武器に使うな。昨今料理漫画で包丁やらなんやら使ってバトってるのは多分ない。俺の知識の中だからもしかしたらあるかもしれないが。


「食べてくれるのは嬉しいんだけどねえ。一向に入部届は増えないし」


「同好会であるのと、部長が部員を殴ってるからだろ」


「同好会か……」


 俺を殴ってることに関してはスルーですか?いいですよ。最近また俺の扱いが雑になってることは知ってるよ。

 もう一人部員がいるのだが、そいつは自宅謹慎中。理由が校内でタバコを持ち歩いていたから。バカですかね?


「あ〜もう!ただでさえ人いないのに余計な問題増やすなあいつ!」


「俺がいるからなんとかなるだろ」


「やかましい無能」


「お前が初めてだぞ、俺のことを無能扱いするの」


「現段階で無能だからじゃない。活動してるの実質私一人って何よ」


「お前はそうして俺の初体験をどんどん奪っていくんだな……」


「なんかいかがわしく言うな!」


 先輩たち付き合ってるのか……?

 部長さん狙ってたのに……。

 そりゃ、料理も頑張るよな……。

 などと、いろいろな憶測が飛び交っている。これはこれで見ていて面白い。

 情報戦とは真実などなくていいのだ。噂のみが尾ひれを引いて無駄に大きくなっていく。


「ま、小学校から付き合いがあるってだけだどな。お前が部長だったからここに転部したわけだし」


「理由なに?妹の改造計画により時間を作るためって」


「それで受理したじゃねえか」


「人数がいないから猫の手も欲しかったのよ……猫以下の手だったけど」


「俺、そんな役立たず?」


「やってくれれば言わないわよ」


 テニス部から転部した料理研究同好会の部長をしているのは、特に幼馴染というわけでもないが、小学校から一緒の宮咲美沙輝みやさきみさき。こうして、割と食う人間が来るあたりは料理の腕はいい。理不尽に暴力を振ってくるあたり友人に対する愛が足らない。


「愛のムチというやつよ」


「飴も寄越してくれませんかね?」


「今作ってるのはあんたの分はないわよ」


「世知辛いな。俺だって新入部員だ。いや、同好会だから会員か?」


「そんな意味のわからないところで悩んでないで配膳ぐらい手伝いなさい」


「な、こと言ったってカップケーキ程度なら、そのまま手づかみで食ってもらえ」


「あんたには鉄板でも顔面にぶつけたほうがいいのかしら」


「なんてこと言うんだい姉御」


「誰が姉御よ」


「失礼しまーす」


 カップケーキが焼けるまでの待機中にこうして話していたわけだが、新入生とはまた違う団体が入ってきた。

 というか、天文部だ。恵が先導して。


「何しに来た」


「うわ、本当にお兄ちゃんいたよ」


「お兄ちゃん?」


「妹だよ。恵、お前に俺がここにいることは言ってないはずだが」


「心優しいお兄ちゃんの友達が教えてくれました」


 その心優しい友人と思しき人は縄に巻かれて、多分あいつが言っていた2人の先輩が担いでいた。

 本当に何があった。

 その先輩2人はとても申し訳なさそうな顔をしている。


「首謀犯はあなたですね。天王洲先輩」


「バレては仕方ないな。何、君が何やら面白そうなことをしてるそうだからあやかれないかと思ってな」


「だってさ。美沙輝」


「すいませんが、新入生限定なので。あ、こいつの妹っていう……」


「私です!」


「うん。君ならいいよ」


「やったー!」


「……時に宮咲女史よ」


「へ?私ですか?というか、なんで私の名前を……」


「さすがに同好会とあれど部長の名前ぐらいは知っているよ。君は上に兄か姉かいるかね?」


「へ?ええ、3つ上に姉が……」


「ふむ。出直してこよう。恵ちゃんは置いていくから食べ終わったらまた連れて来てくれ」


 本当に恵だけ置いて出て行った。何がしたかったのだ。


「なんなの?あの人たち。しかも1人見覚えがあったような……」


「うちのクラスの矢作だぞ」


「何があったの?」


「主に1人の先輩からのイジメが天文部で横行している。強すぎて誰もかないそうにないな」


「それと……なんで兄姉を確認されたのかな?」


「目をつけられたな、とそれだけ」


「わ、私もあんな風にされちゃうの⁉︎」


「手厚い高待遇を受けるんだろうな」


「はい?」


「また説明してやろう。そろそろ焼きあがるんじゃないか?」


「あ、ほら、育也も手伝う」


「へいへい」


 俺は女子に顎で使われる属性が付いているようだ。亭主関白なんて夢のまた夢だな。

 俺たちが用意している間は突如現れた恵に人だかりができていた。

 見た目だけは人目をひくしな。同じクラスならまだしも、別のクラスなら知らんやつもまだまだ多いだろう。渡さんがな。


「ほら、恵。お前の分だ」


「お兄ちゃんは?」


「あちらの部長さんが俺に渡すカップケーキはねえって」


「仕方ないね」


「待て待て妹。そこで、俺に半分あげようとかいう気は起こさないのか」


「ぬふふ。これは全て私のもの。お兄ちゃんのものも全て私のものだよ」


「お前はジャイアンか」


「しずかちゃんと呼んでよ」


「お前、1日に3回も風呂入らないだろうが」


「入りすぎだよねしずかちゃん」


「果てしなくどうでもいい。で、お前は俺に用か?」


「香夜ちゃんがいながら、新しく女の子に手を出そうとか聞いたので。いじくりまわそうと」


「お前は本当に余計なことしかしないな」


「育也〜?あんたどういうことかしら?誰かしら?それは」


「バックアップしてくれる優しい恵の同級生です」


「バックアップ?」


「私の勉強を見てくれてるの」


「あんたは?」


「主にスケジュール管理。さらに勉強を見てる」


「勉強、勉強って。まだ一年でしょ?始まったばかりだし」


「ちょっと顔を貸してくれ」


「え、や、ちょっと!」


「何もしねえよ!俺が今からなんかやるみたいな声を出すな!」


「……。ちょっとごめんね。10分ぐらい待ってて」


 新入生たちに声をかけて、実習室を出た。


「で、何なの?」


「まだ新入生の時期だ。だからこそその人がどんな印象かはまだ固まってない時期でもある」


「はあ……そうね」


「うちの妹はすこぶるポンコツなのだ」


「……要するにポンコツがばれないうちに直していくってこと?」


「お、話が早いな。なるたけそのことは周りに言わないでほしい」


「で、どうなればいいのかしら?それは」


「妹曰く、完璧少女を目指すらしい」


「……無理じゃない?こういうのもなんだけど、見た目的にあの子ものすごくポンコツっぽいのだけど」


「ああ……まさにその通りだ。完璧ってどこまでやるんだよ……俺は今から泣きそうだ」


「で、完璧像はあるの?」


「勉強はトップ。部活動は引っ張りだこ。頼まれたことはすでに終わってるようにし、ゆくゆくは生徒会長だそうだ」


「……諦めた方が賢明じゃない?」


「ああ、そう言ってくれる友人がいることはありがたい。踏ん切りもつきそうだが、発案者の俺より協力者の子の方が積極的になってくれててさ。それなのに俺が投げるわけにゃいかないだろ」


「……こうして、わざわざ部を変えてくるぐらいだしね。本気なのはわかるけど……この部を安住の地にしないでもらえるかしら?」


「じゃあ、どこでのんびりすればいいんだ!」


「その協力者の子とやらといちゃいちゃしてればいいじゃないんでしょうかねえ?」


「なんだ?美沙輝……お前、俺のこと……」


「いや、ないわね」


「なんだってこう少しぐらいためらってくれねえの?俺の周りの子」


「……そうね。育也の監視ぐらいならいいかもしれないわ」


「すでに一人監視されているのですが」


「あら?あなたの奇行を監視する役なんていくらいても足りないと思うけど」


「バカな!俺はそんなに……」


「気づいてないんかい。昨日のも噂になってたわよ」


「ああ、夫婦漫才もどき」


「公開告白してフられたって」


「愛は届かないな」


「ま、監視とは言わなくても、恵ちゃんだっけ?完璧な女の子目指すなら料理もできなきゃ」


「そういや、結局うやむやになったけど、花嫁修業なんてものも予定にはあったな。そうだ。明日から休みだし、教えに来てくれないか?」


「なんであんたの家に行かなくちゃいけないのよ!」


「せや。香夜ちゃんが私の目がある限り他の女の人はいれないとか言っておった……どうしよう」


「その香夜ちゃんって子、完全に通い妻じゃない?」


「通い妻ってだけで色気がある響きだが、あの子まだ色々発展途上な子だからそういう目でみないであげて」


「あんたが保護者目線なのかい」


「そろそろ10分ぐらい経ってんじゃないか?あまり待たせてもなんだろ」


「今日はあんたが説明してよ。なんのための部員よ」


「数合わせ」


「……いいからとっととやってこい!」


 肩をプルプル震わせて怒声を浴びせられた。仕方ないな。俺がいっちょ華麗な説明をしてやるとするか。

 まあ、何度も来てるやつもいるかもしれないが、そんなやつは無視だ無視。

 ……人数が増えることで不安なのは俺の安住の地が減るのではないかという危惧だが、減らない程度の人数獲得を目指して頑張ろう。

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