誓い(呪い)
「もし今、彼女の命を救ってくれるなら、僕は一生彼女だけを愛して生きます」
約十年前。少年だった三月弥生は、私にそう誓った。
私は半月烏。
過去に人間から神としてこの島で崇め、奉られ、神獣となった。
ただ、島民にあったもっとも大きな感情は、畏れだった。
私の異形の姿に対して恐怖し、畏れた。
恐怖から生まれた強い信仰で、私は神にされてしまった。
死ねない何かに、なってしまった。
他の烏と何も変わらないはずなのに、生まれる過程で起こった染色体異常により、私の身体は左半分が白い翼に、右半分が黒い翼に分かれるという現象が起こった。現在では私のように染色体異常を起こしたものは、ハーフサイダーと呼ばれるらしい。
確かに、水面に映る自らの姿は、他と比較して、異形と言わざるを得ないものだ。だから、畏れを抱くのは、不思議な事ではないのだろう。
しかし、人間は私のことを忘れた。
やがて信仰はなくなり、私に願いを叶える力はなくなった。
だから、今の私には、願いの対価として、私への信仰が消えないように、一生の誓いを立てさせる必要がある。そして、その誓いは破ることはできない。
それが対価。
それがヒトが私になすべき誠意だ。
私に願った彼らは、私を忘れてはならない。
だが彼らは、誓いを……過去を軽く認識している節がある。
未来は曖昧で、今は不安定で、だけど過去だけは確かに存在していた。
一番大切なのは未来か、現在か、過去か。
人間はすぐに過去を蔑ろにする。忘れて無かったことにしようとする。過去の過ちも、過去の自分も、無かったことにしようとする。
私には無い価値観だ。
本当に大切なのは、綺麗事で浮かべられた未来でも、夢を見せられて虚ろに生きている今でもない。一秒前までの自分が何をしてきたかだ。
何もなしていない者が、まだ存在しない未来にすがりつくな。いつなくなるか分からない今に甘んじるな。過去に向き合うべきだ。
私が出会った人間たちは、それができなかった。
三月弥生は、少年時代に、一人の少女を病気から救ってほしいと願った。そして、その少女だけを死ぬまで愛すと誓った、そして、その少女は、数年後、不運にも事故死した。そして、そして、そして。
誓いを忘れた。
過去を――唯一確かに存在したものを軽々しく忘れた。
だからこうなる。