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半月烏  作者: 憂木冷
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半月烏


 半月島はんげつとうにはついからすが存在する。

 方や、翼は黒く青空を行き。

 方や、翼は白く漆黒を舞う。

 二対の翼は、生物としての根幹は同じ所にあった。元々、白い翼は存在していなかったのだ。

 大仰にとは言ってみたものの、翼の黒い烏とは、詰まり日本人にとっては一般的な存在、スズメ目カラス科のハシブトガラス、もしくはハシボソガラスのことだ。

 烏なのにスズメ目……。

 犬がネコ目なのと同じくらい混乱を招きそうな分類だ。

 まあ、そんなことはいい。

 その。

 元は黒かった翼に、ある時異変が起きた。あるいは、変異が起きた、という方が正しいのかもしれない。

 黒い母と黒い父が産んだ卵からは、白い子が産まれた。

 全身の肌も、毛も、さぎの子の様に白かった。程度の低い駄洒落だが、まさしく、親にとっては詐欺にでも合った気分だろう。騙された気分だろう。何せ、自分の子は黒いものだと、遺伝子の時点で信じていたのだ。

 しかし、目前の現実は異なっていた。

 白く白く白い身体。

 その中に二点だけ。

 二つある瞳だけが、血の様に赤く染まっていた。

 もし、その親烏たちに知識があれば、それが、血のように赤いのではなく、血だから赤いのだと理解することもできたかもしれない。

 全身が白く、瞳が赤い病気。

 白蛇しろへびや、白兎しろうさぎ大黒鼠だいこくねずみ(生物実験でよく使われるマウス)などが有名どころだろうか。

 アルビノ。という。

 先天的にメラニン色素が欠乏し、全身から色が抜け落ちる。そして、透過した瞳には血液の色が浮かび上がる。もちろん個体差もあるが、この日生まれた子烏は、完全にアルビノの症状を発現させていた。

 そしてその血は、受け継がれた。

 白い烏と黒い烏の間の子は、白い烏と黒い烏だった。

 それ以降、白と黒は、完全に二種類の生態系へと分かれた。

 メラニン色素の欠乏しているアルビノは、皮膚が太陽光に弱く、その上、光をとても眩しく感じてしまうため、夜行性になり。昼の空を飛ぶ黒い烏とは、対照的な存在になった。

 島の人々は、この半月島の名と、半分ずつ現れる姿から、二種の烏を総じて「半月烏はんげつからす」と呼ぶようになった。

 そして、半月烏はヒトの願いを叶えてくれる。

 そんな根拠も、根も葉もない伝説が作られた。

 と。

 ここまでが、この島の人間たちの共通認識である。

 ただ、今から、数刻の後。私の前に現れる青年だけは、理解していた。

 本当の半月烏のことを。

 知らずとも、知識はなくとも、理解していた。

 半月島にたった一羽だけ存在する、本当の半月烏のことを。

 なぜ彼だけが知っているのかと問われれば、理由はこれ以上にないほど単純なもので、それはただの偶然である。

 十二歳の時の彼は、偶然にも遭遇した。

 過去の島民から得た信仰により神格化し、ヒトの言葉を覚え、願いを叶えるという伝説を作ったその存在に。

 私に出会った。



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