君色 何色 赤い色
「どうしてそう、赤が好きかねぇ」
「あら、何か文句でもありますの?」
真っ赤なエプロンに真っ赤なバンダナ、真っ赤なハタキ。
完全に掃除のおばさんスタイルなのに、それが流行と思わせるような着こなしは彼女だからか、それとも赤という色だからだろうか。
「文句はないけど」
「でしたら。口を動かさずに手を動かしてくださいな」
日が暮れてしまいますわ―そういう間にも、彼女はパタパタとハタキをかけていく。
これでは、どちらが引越しの手伝いだかわからないなー思わず苦笑して肩を竦めた。
ハタキをかけられた荷物を次々と箱に詰めていく。
時々、
「それでは壊れてしまいますわ」
だとか、
「もう捨ててしまったら?」
だの、ぎゃいぎゃい言われながらも何とか部屋がきれいになったのは、空が茜色に染まり始めたころだった。
「本当に、行ってしまいますのね」
カーテンを取り払った窓から差し込む光を見つめて、彼女がぽつりと呟いた。
「今さらだなぁ」
手伝いに来て、急かしといて―苦笑すれば、彼女は小さく頬を膨らめる。
「急かすのは仕方ないでしょう。飛行機の時間は、決まっているんですから」
間に合わなかったら、どうするんですの―けらけらと笑うと、彼女は不機嫌にこちらを睨んだ。
「なんですの?」
「悪い悪い。間に合わなかったら、引き留められるだろ?」
「バカじゃありませんの?その程度で諦められるようでしたら、手伝いなんてしませんでしたわ」
それくらい、解ってましてよ―めがけて飛んできた真っ赤なハタキを慌ててよけると、彼女の瞳からぽろぽろ涙が零れ落ちる。
「ごめん」
抱きしめた腕の中で、彼女の嗚咽が耳に届いた。
空港へ向かうバスを待つ道で、後ろに立つ彼女を振り返る。
「ねぇ」
「なんですの?」
「赤の好きな赤ずきんちゃんへプレゼント」
真っ赤な帽子の上から頭を撫でて、小さな箱を手渡した。
中身は真っ赤なノートパソコン。
驚いたような彼女の頬にキスをして、耳元でそっと囁く。
「毎日メールしていいからね」
「本当に、口だけは達者ですわね」
赤く染まった頬で、彼女は照れたように微笑んだ。
赤ずきん、ノートパソコン、掃除【三題噺】