SIDE:モニカの話01
モニカ視点で色々明かしていきます。
そろそろ時効だろうと言うことで、少しあたしの話をさせて頂こう。
初めまして、と名乗るのもおかしいけれど、まあ初めまして。
あたしの名前はモニカ。『モニカ・アイスラー』と言う。
けれど、この名前はあの魔術学院のどこにも残っていない。六年間、ずっと違う家名で通したからね。
さすがに学院長や上層部にはバラしたけれど、六年間ずっと一緒に暮らしてきた親友のメリルにすら、あたしは本名を一度も伝えていない訳だ。親友なのに、我ながら薄情なもんよね。
アイスラー家と言っても、大抵の人間は首をかしげるだろう。ごく一部の人間……そうね、かのクラルヴァイン先輩は『知っている側』の人間だったとは思うけど。
我々は貴族でもないし、何か功績を挙げて名を馳せてもいない。
『アイスラー家』いや、家と言うより『組織』と呼ぶ方が近い我々は、王家直属の諜報一門だ。
実はあたしが普段父・母と呼んでいる彼らも、実際は何の繋がりもない。
出自は孤児らしく、たまたまそういった能力に向いていたから、今こうしてアイスラーを名乗っている。
一応本物の父・母を調べてはいるけど、名前をつけることすらしなかった彼らを、そう呼ぶことは一生ないだろう。
やたら厳しい“上司”たる今の父・母の方が、よほどそれにふさわしいしね。
さて、話が逸れたわね。あたしが名前を隠していたのは他でもない、アイスラー家の調査・監視対象は主に貴族や魔術名門家。ようは、王家に仇なした際に脅威となる存在だ。
今回学院に入学できたあたしは、本当に運が良かった。まあ、おかげで課された仕事量はすごかったし、若人の口を軽くするために太らされたりしたけどさ。今を考えれば、辛い努力も報われるというものだわ。
一緒になれたメリルも本当に良い子だったし、あの六年間はあたしにとっても掛け替えのない時間だった。
……まあ、あたしがあの子の為に動いてしまったのは、六年間正体を欺いていた対価とでも言っておこうか。
結果としてみれば全然無駄なことじゃなかったし、うちとしても非常に驚きの内容だったんだけどさ。
王都にほど近い領地を持つ貴族の一つ、公爵位を賜るクラッセン家。名前の通り、親類としても名を連ねる彼の家は、素晴らしい為政者としても有名だ。
女王陛下の信頼もあつく、もちろん我々アイスラー家の者たちも“一応”監視している程度で、問題視したことなど一度もない。
ゆえに、すっかり見落としてしまっていたのだ。
引退した彼の公爵閣下の子供が『本当は四人息子がいる』はずなのに、いつの間にか『三人』として伝わっていたり。
デビュタント以降夜会に姿を現していなかった四番目は鬼籍に入ったわけでも、勘当されたわけでもなく、彼の領地で普通に暮らしていたり。
何よりも、平民に混じって二十年以上暮らしてきた、『フォースターさん家の入り婿』が、実は公爵家の四男だなんて、誰が思うよ。ねえ?
モニカが三年ぐらいまでぽっちゃり体型だったのは、実はわざとでした。




