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Epilogue


「あー…ぅあ、う…ちゃー!!」


ぺち、ぺち。


「………?」


 なんだろう。何か、懐かしい夢を見ていた気がした。

ゆっくり瞼を開けば、ぷにっぷにの小さなものが私の頬を叩いている。といっても全く痛くないし、いい匂いのするそれはむしろ心地よい。


「…こらこら、お姫様はもうお目覚めですかー?」


「きゃーっ♪」


 天使のような愛らしい笑顔を浮かべながら、ようやく寝返りがうてるようになった小さなお姫様は、目覚めた私に短い手を伸ばす。

 ああ、そうか。お昼寝をさせている途中で、私の方も寝てしまったみたいだ。


「はいはい抱っこね……っと」


 体を起こそうと力を入れてみたものの、下半身にずっしりとした重み。

視線をやれば、私の太ももを枕にして5歳と3歳の長男次男が転がっていた。発育途中の小さな手を繋ぎ、二人でくっついたまま眠る顔はどこかの誰かさんにそっくりだ。


「あら、お兄ちゃんたちはおねむみたいね」


「ちゃー!」


 もぞもぞと動く長女をなんとか抱き寄せれば、今度はお兄ちゃんたちへぷにぷにの手を伸ばし先ほどのように叩く。もしかしたら、撫でてあげているつもりなのかもしれない。うちの子たち本当に天使だわ。


「なんだ、皆ここに居たのか」


「ギル」


 ノックなしでの扉が開く音。振り返る前からわかりやすい我が家の主様は、すぐ目に入った天使に囲まれる私を見て蕩けるような微笑みを浮かべる。

唯一起きていたお姫様は、大好きなお父さんの登場にますますはしゃぎ始めた。




 私がクラルヴァイン家に嫁いで、もう何年になるだろうか。

 貴族にして魔術名門、道具として隔離されることも覚悟の上でやってきたのに、拍子抜けするぐらい歓迎されたのをよく覚えている。

 現在は補佐に回っているお義母様も、魔術協会で役員を務めるお義父様も、私のことも孫たちのことも、実子のギルと同様に大切にして下さる。

 おかげ様で跡取り予定の長男が生まれた後も、調子にのってもう二人も生んでしまった。どの子も可愛い可愛い私たちの宝物。髪の色は私寄りだけど、顔立ちはギルの良いところを継いでくれたので今から将来が楽しみだ。


 勿論、かつて“そのために”私に近づいた素養も、皆ばっちりと発揮している。

とは言え、母としてはその部分に縛られず、好きなことをのびのびとやって欲しいと思っているけれど。



「お仕事お疲れ様、ギル。手伝えなくてごめんね」


「いや、まとめておいてくれた資料わかりやすくて助かった。それに、今一番大事なのは可愛い可愛いお姫様のことだろ? 上の二人の時もそうしたんだし」


 確かに、赤ちゃんにとって大事なこの時期は、上の兄弟の時も子供最優先に皆動いてくれた。特に三番目は初めての女の子と言うことで、ギルはますますの親バカっぷりを発揮している。


「うちの子たちはどうして皆、こんなに可愛いんだろうな…やっぱり俺たちの子だからだよな」


「貴方の顔が良いのは認めるけど、何より親バカだからよ」


「ははっ、なら俺はバカでいいな。バカ大歓迎だ。なー?」


 私から長女を受け取ると、それはそれはデレデレした幸せそうな顔で、小さな頬にすり寄せる。太くてしっかりした彼の首にしがみつきながら、長女も嬉しそうに笑っている。


「よし、仕事も終わらせたし、父様も昼寝するぞ! お兄ちゃんたちも起こしてくれ。俺たちの部屋のベッドなら皆一緒に寝られる」


「はいはい」


 まったく、まるで子供みたいだ。外とは全く違う顔を見せてくれる、私の愛しい旦那様。年を重ねても美形っぷりは衰えることなく、むしろ魅力を増す一方だと言うのに、いつだって家族の前では天然全開の『あのギル』のまま。


 変わらない……いや、違うわね。日ごとに楽しく、幸せになっていく私たちの生活は、夫婦から家族になった今もずっとずっと続いている。


「……愛してるわ、ギル」


「俺も愛してる、メリル」


 学院にいた頃、恋心だったあの時の眩しい気持ち。そして今の、宝物に囲まれた日々での気持ち。

不思議と色あせることはなく、きっとこれからも子供たちと一緒に思い出を重ねて、輝きを増して続いていくんだろう。


 始まりは不謹慎で、呆れと拒絶と少しの波乱も起こした私たちの恋愛事情。

けれどその結末は、きっとどこまでもどこまでも幸せに満ちている。



本編はひとまず完結とさせて頂きます。

以降は彼女の正体を明かしたりなどの小話回収をしていきたいと思います。

お砂糖話に長い間お付き合い頂き、誠に有難う御座いました!

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