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第二話 先生の噂(汐嵐作)

案の定、案の定だ。

 俺のクラスは高梨が古典担当なんだ!

 通学の電車を降りて深町(先生?)の顔も省みずに走り出す。後ろから深町(先生……と呼んだ方が良いのだろうか)が声をかけてきた気がするが、無視と言うか見ない。てか、見たくない。と言うよりも、見るほどの度胸がない!

 高校までは走れば3分ほどで着いてしまう。俺は定期券をスライドさせるように改札に通し、そこからは猛ダッシュ。目的は簡単、今日の時間割である。

 今日古典があったら最悪だ。多分まともに話が聞けなくて古典の成績はがた落ちする。と言うかそれよりも友人のバカとかバカとかバカとかつまりバカしかいない訳だが、そう言う奴らに茶化されるにきまってる!!

 顔が暑くて、それが汗のせいか赤面しているのかはさておき見れた顔面でないのは確かだった。この状態でクラスに入りたくないのだが、ここで止まったら深町先生が追いつくかもしれない。

 高校二年生の足の速さに一般女性が追いつく訳もないのだが、何だかそんな気がしてならなかった。あれで足が早いっていうのも何か変な気分がするのに、何となく怖い。と思って後ろを振り返ったら、案の定そこには誰もいなかった。そこで気付いた事。俺って小心者。

 荒い息でそんな事を考えながら少し走ったら、高校の校門が見えた。もう少しでクラスに着くかと思ったら少し憂鬱なのだが、早く確かめたいと言う思考回路が勝り、俺の足は速まった。

 疲れてきた体を何とか動かし教室に滑り込むように入って、目の前に飛び込んだ大きな緑色の模造紙に書かれた時間割を見てみた。

「おはよーさん(こう)。どうしたの焦っちゃって。あれか? 化け物でも見たか?」

 親友の藤倉に肩をぽん、と叩かれそう言われたが、今の俺は放心状態同然だ。そのあとの彼の茶化し文句もむらがってくる他の友人たちも見えなかったし聞こえなかった。

 四時間目――古典。育ち盛りの俺には絶対に寝れない空腹の時間。

 ああ、神様。これは喜ぶべきでしょうか、それとも落胆すべきでしょうか?

 単純に生きてきた俺は、生まれて初めて複雑な感情と言うものを感じた。


◇◇◇


「どうしたんだよ洸。やっと救いの昼食時間だぜ?」

 屋上にて、俺は藤倉と共に昼食の弁当を食っていた。藤倉はいつものようにつまらない授業から逃れられる喜びから目を輝かせている。いや、それもあるだろうがそれよりも四時間目から浮かれているのだろう。

 対照的に俺は恥ずかしさと心拍数の上がりように四時間目の授業は頭に入らなかったんだけどな!

「それにしても、早苗ちゃん可愛かったなぁー。ああ言う人大好き、俺」

 くつくつ笑う藤倉は本当に楽しそうだ。それもそのはず、藤倉はクラスのムードメーカーだが教師から厄介払いされることが多い。しかしながら深町先生は今日の古典の時間、藤倉の事を「クラスが明るくなって良いね」とそれはもう可憐に笑って見せたのだ。

「そうかいそうかいそれは良かったなァ」

「おっ。洸ちゃん嫉妬かい?」

「洸ちゃん言うな」

 藤倉の頭をぺす、と叩く。たまにふざける藤倉はタチが悪いったらありゃしない。畜生あんな最悪な出会いをしなければ俺だって今日藤倉と一緒に騒げる自信があったのに!!

「あ、そう言えばさ」

 悶々とアホな事を考える俺に、藤倉が声音を変えて話を切り出した。何かと顔を上げれば、藤倉の真面目な顔がそこにあった。

「これ、昨日流れてたうわさなんだけどな……」

「……今日赴任してきたのに情報伝達早いなぁ、お前」

「伊達にムードメーカーやってる訳じゃないですから」

 あはー、とふざけたように笑う藤倉だが、何だか真面目な話らしい。ふと藤倉は言いにくそうに黙った後、あーとかうーとか唸って切り出した。

「早苗ちゃん、此処の卒業生らしいんだけどさ……」

 え? と言う反応を見せた俺に、藤倉は合わせていた目をそらす。藤倉は目をそらした後、遠くを見るような眼差しで空を見上げた。

「いじめられてたらしくてさァ……」

 藤倉が顔をしかめる。俺は動揺を隠せなくて、体を反転させて藤倉の方に体を向ける。

 刹那、藤倉はとどめの一発を放った。

「いじめてた子、つまり主犯の子を屋上から突き落としたんだってさ」


 あくまで噂だけどねと笑った藤倉の声は、冷たい風が吹いたからかそれとも俺が放心していたからか、俺の耳に届くことなく消えてしまった。


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