プロローグ
「俺たち、別れよう」
──その一言で、世界が止まった気がした。
「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり何の冗談?」
「冗談じゃない。本気だ」
どうして?
私、何かしたかな?
胸の奥がざわつく。
「お前、急に何言ってんだよ。こいつがどれだけお前のこと想ってるのか、分かってんだろ!」
隣にいる友達が声を荒げる。
違う。それが聞きたいんじゃない。
私はただ──。
「……俺の人格を勝手に変えて、嘘を重ねて」
今までに聞いたことがないくらい低く、冷たい声だった。
「それで続けてきた"友達ごっこ"は楽しかったか?」
──ああ。
ばれてる。
全部、ばれてる。
「違うの!あの時は、そうしないとあなたが──」
言葉が震える。
「死んでしまいそうだったから……!」
沈黙。
それが、何よりも怖かった。
「……なら、どうして言わなかった」
静かすぎる声だった。
「どうして、ずっと黙ってた」
「それは……ただ、言うタイミングがなくて……」
言い訳だって分かっている。
でも、他の言葉が見つからない。
「……そうか」
彼は、小さく息を吐く。
「俺はこの後やることがある。もう行く」
彼は私たちに背を向けた。
まだ歩き出していないのに、それだけで遠くにいるように見えた。
「待って……」
声がうまく出ない。
「行かないで……!」
やっと絞り出した声は、情けないほど弱かった。
私の人生の生きがいの彼。
彼がいなくなったら──
私は、どうやった生きていけばいいの?
その時、友達が彼の前に立ちふさがった。
「行かせるかよ!あいつの気持ち、考えたことあんのか!」
「どけ」
感情のない声。
まるで、知らない人みたいで。
「お前……!」
パチン、と乾いた音が響く。
「どうしてこんなことするの。あの子が今どんな気持ちかわからないの?」
「何度も言わすな。どけ」
空気が、わずかに歪んだ気がした。
「助けてもらった恩はあるから今なら手は出さない。気が変わる前に、どけ」
嫌でも分かってしまう。
彼は止まらない。
私たちの知っている彼じゃない。
次の瞬間、彼の姿が消えた。
──違う。気づいた時には、もう二人の後ろにいた。
「じゃあな」
振り返らないまま、言う。
「もう二度と、俺たちが交わることはない」
いやだ。
いやだ、いやだ、いやだ──
「行かないで!!」
叫ぶ。
彼は一瞬だけ、ほんの一瞬だけこちらを見て。
何かを言いかけて──やめた。
そして、そのまま歩き去っていった。
それからの記憶は、ほとんどない。
泣いていた気がする。でも、それすら思い出せない。
もし、やり直せるなら。
私は、どうしたらよかったの。
これからどう生きていったらいいのだろう。
その日、私の心は――壊れた。




