✒ 来ちゃった!
「( …………此処で合ってるんだよね? )」
私は手に持った名刺を見ながら目的地の前に立っている。
私が立っている場所は、団地の中で “ 特にヤバい ” って噂の家の前で──。
「( 本当に此処なの?? 此処って……越してきた一家が次々に亡くなった──って言われてる有名な家だよね? )」
〔 間違いねぇよ。表札の名前が名刺と同じだしな 〕
「( 確かに表札には “ 獅聖幻夢 ” って書かれているけど…… )」
〔 やべぇ場所なのは確かだ。でもな、呪怨霊の俺が居るから大丈夫だ。俺の呪詛は強いから、大抵の呪いは跳ね返せる! 〕
「( 取り敢えず、チャイムを押してみるね )」
門の外に付いているインターホンを押してみる。
暫くすると玄関扉が開いた。
玄関扉から誰かが出て来た。
「 誰? 」
「 あ…あの、《 警察署 》の前で獅聖幻夢さんから名刺を貰って── 」
「 幻夢さまの御客……。本当に来た…… 」
玄関扉から出て来た子供は真っ白な髪を靡かせながら、門を開けてくれる。
「 入って 」
「 お邪魔します…… 」
〔 ユコちゃん、コイツもヤバい奴だ。俺でも勝てない…… 〕
「( 怨君より強いって事? 子供だよ )」
〔 人間じゃないんだ。人間の姿をした呪いの塊だ 〕
「( 呪いの塊?? )」
開けられた門から敷地内へ入る。
玄関扉から一軒家の中へ入った。
──*──*──*── 家の中
「 此方── 」
「 嘘……何で中が現代風じゃないの?? まるで時代劇で見る御屋敷の中みたい……。こんなに綺麗な中庭じゃなかった筈なのに── 」
中庭は在ったけど、全く手入れがされていなくて荒れ果てていた筈──。
「 玄関扉から先は幻夢さまの≪ 異界 ≫だよ。御客じゃないヤツは家に憑いてる呪縛霊の餌になる 」
「 いかい?? じゅばくれい?? えさ?? 」
「 此処で待ってる。幻夢さま来る 」
「 有り難う…… 」
案内された部屋は和式の部屋で、高級そうな畳が敷かれている。
座布団が置かれているから座って待つ事にした。
「( 怨君、≪ 異界 ≫って何か分かる? 後…呪縛霊って知ってる? )」
〔 ≪ 異界 ≫ってのは、怪異や異形が作り出せる自分だけの空間の事だな。人間には作れないんだ。俺も自分の≪ 異界 ≫を持ってるんだぜ 〕
「( それ、初耳だよ…… )」
〔 ≪ 異界 ≫ってのは、特殊な空間でな、本来は人間が入って良い場所じゃねぇんだ。怪異や異形の領域の≪ 異界 ≫に入っちまった人間は、≪ 異界 ≫から出ると姿が化け物に変わっちまうんだ 〕
「( え? 化け物?? それって…ヤバいんじゃ……。私、入っちゃってるんですけど? )」
〔 …………呪縛霊ってのは── 〕
「( スルーしないでよぉ! )」
〔 地縛霊を呪詛で縛って、悪霊,怨霊,死霊なんかを大量に取り込ませて、育てた地縛霊の集大成が呪縛霊だ。主に呪物に封じて、呪いたい奴へ送り付けんだよ。呪物に触れて開けちまったが最後、呪縛霊に憑かれて不運や厄災に見舞われる様になる。肉体はジワジワと呪いに蝕まれちまって、最後は取り殺された後、呪縛霊喰われちまうんだ 〕
「( ヤバいじゃないの…… )」
〔 呪怨霊の俺も元々は呪縛霊だったんだぜ。俺はユコちゃんの式神を喰らって呪縛霊から解放されて呪怨霊に変わったんだ 〕
「( そう…だったんだ…… )」
〔 越して来た一家が次々に亡くなる──ってのは、一軒家に憑いてる呪縛霊の仕業だよ。普通の術師が祓うのは無理だな。呪縛霊の呪いに当てられて精神が殺られちまうんだ。本家の陰陽師が束になっても返り討ちに遭って祓えない呪縛霊なんだぜ 〕
「( そう…なの?? )」
〔 そんな呪縛霊が憑いてる一軒家に住んでる獅聖幻夢って陰陽師は、桁違いの強さを持つ異形なんだ…… 〕
「( じゃあ、一軒家に憑いてる呪縛霊を祓えるんじゃないの? )」
〔 呪縛霊を飼ってんだよ。ペット──いや、番犬としてさ。呪縛霊なんて防犯対策には持って来いだからな。金を掛けて整えた防犯設備より、優れてるんだぜ。何せ侵入者を喰らってくれるからな 〕
「( 泥棒の被害に遭わないで済むのは有り難いけど…… )」
〔 近寄らないのが1番だぜ 〕
怨君と話してると障子が開けられた。
「 お待たせしましたね。来てくれたのですね。お久し振りです 」
「 一昨日振りです……。あの、とんでもない場所で暮らしているんですね…… 」
「 あぁ……買い取りはしましたけど、別に暮らしてはいませんよ 」
「 え? 暮らしてないんですか?? 」
「 別荘の1つです。この一軒家は、鬼門,霊道,怪道が交差している特殊で珍しい場所なのです。負の気が溜まり易い環境が作られている為、呪靈の麼白に合う場所ですから買い取りました。呪靈は呪縛霊や呪怨霊とは別物ですよ 」
「 は…はぁ…… 」
「 態々私を訪ねて此処まで来たという事は、困った事が起きたのですね 」
「 ………………はい……。昨日…………精神病院に入院していた双子の弟妹が……ベッドの上で水死していたそうで……。怨君は『 陰陽師が犯人で式神を使った 』て言うんです。『 本家の陰陽師なんじゃないか 』って………… 」
「 本家の仕業ですか。して、本家とは何処でしょう? 」
「 槌鳳霙家です。私は分家の末端で……槌鳳霙逝虎と言います 」
「 槌鳳霙家ですか? 五大陰陽師家の1つですね。本家の人間が優れた分家の人間を呪術で亡き者にする事は、今に始まった事ではないですよ。本家の跡取りよりも優秀,有能な神童は、目の上のたん瘤的な存在です。本家を脅かす存在となる可能性の高い神童は邪魔者ですからね。昔から幼い内に排除してしまう事は良く有りました。現在でも実行されているとは── 」
「 双子の弟妹が本家の跡取りを超えて、脅かす様な優れた存在だったんですか? 」
「 貴女もですよ、逝虎さん。貴女の場合は式神を失ったので生かされていただけでしょう。式神を無くした者は陰陽師にはなれませんからね。本家から見ても貴女の存在は “ 脅威ではない ” と判断されているのは間違いないでしょう。そうそう、逝虎さんの監視役は麼白の玩具になっていますから、安心してください 」
「 玩具って── 」
「 逝虎さんに憑いている呪怨霊が本家の人間に視えなくて良かったですね。視えていたら大変な事になっていましたよ 」
「 ……………………ですよね…… 」
「 弟妹の仇が討ちたくて来たのですか? 」
「 いえ…………夢で見た光景だったんです。でも……夢の中で私は弟妹だって気付けなくて── 」
私は夢の中で、ベッドの上で死んでいた肉体から光が抜け出して、私の中へ入った事を話してみた。
「 逝虎さんは呼ばれたのでしょうね。息絶える前に最後の力を振り絞ったのでしょう。逝虎さんの体内に入った光を使役して式神にしますか 」
「 えっ? 式神……ですか? しえき?? 」
「 弟さん,妹さんは逝虎さんと一緒に居たいそうですよ。大切な2体の式神を犠牲にして自分達を守ってくれた事に恩義を感じている様です。自分達が逝虎さんの式神となり、傍で支えたいそうです 」
「 ………………そんな事が出来るんですか?? 」
「 簡単ですよ。逝虎さんに憑いている彼が協力してくれるなら 」
「 怨君…… 」
〔 俺は構わねぇよ。ユコちゃんの式神を喰っちまったのは悪いと思ってるし……。俺は何をしたら良いんだ? 〕
「 怨君は協力してくれるみたいです 」
「 そうですか。それは良かったです。場所を変えましょう。私に着いて来てください 」
「 は…はい…… 」
立ち上がった獅聖幻夢さんの後を追って、座布団から腰を上げて立ち上がった私も部屋を出た。