✒ 恐い陰陽師
「 こんにちは、お嬢さん 」
「 え? こ…こんにちは…… 」
「 面白いお友達を連れていますね 」
「 えっ? 」
私の前で立ち止まった陰陽師に声を掛けられた。
「 “ 面白い ” は失礼でしたね。呪怨霊とは珍しい── 」
「 …………あの、見えているんですか? 私にしか見えない筈なのに── 」
「 視えていますよ。私は半分だけ人間の異形ですからね 」
「 ……………… 」
「 あぁ…心配しないでください。私に祓う気は無いですから。私の名刺です。何か有れば訪ねて来てください。私なら、お嬢さんの力になれます 」
「 有り難う御座います… 」
陰陽師さんから名刺を貰っちゃった。
「 引き止めてしまいましたね。それでは、また── 」
陰陽師の人は私に笑顔を向けて去って行った。
「( “ また ” って言われちゃった。怨君、大丈夫? )」
〔 大丈夫じゃねぇよぉ~~~~ 〕
怨君は今迄に無い情けない声を出して震えている。
一寸心配かも──。
受け取った名刺を無くさない様に財布の中へ入れて、《 警察署 》へ向かった。
──*──*──*── 自宅前
「 今日は話を聞かせてくれて有り難う。また話を聞かせてもらう事が有るかも知れないけど、その時は協力してもらえると助かるかな 」
「 送ってくれて有り難う御座います。私に出来る事って言ったら、知ってる事を話すくらいですから──それで良ければ協力させてもらいます 」
「 それは助かるよ。それじゃあ、失礼するよ 」
「 はい 」
刑事さんがパトカーに乗って助手席に座ると、パトカーは去って行った。
「( 送ってもらえて良かったね。怨君、未だ震えてるの? )」
〔 早く家に入ってくれよぉ~~、ユコちゃん! 〕
「( 怨君ったら…… )」
家の門を開けて、敷地内に入る。
手入れがされている庭を抜けて、玄関の鍵を開けて入る。
──*──*──*── 自宅
両親は本家の槌鳳霙家に毎日通って働いている。
槌鳳霙家の分家は何処も同じで、式神を使役している父親は陰陽師として、人間社会で悪さをしている怪異を祓う仕事をしている。
母親は祓魔師として、怪異を斬れる特殊な武器──魔具を使い、陰陽師のサポートをしている。
2人共殆んど家には帰って来なくて、1週間に1回だけ帰って来れたら良い方かな。
私立のマンモス学校に転校した日から、私は鍵っ子になった。
広い自宅に1人は流石に怖いし、心細いけど──、怨君が居てくれて話し相手になってくれるから、今では両親の居ない暮らしも平気になった。
自宅の防犯も怨君が管理してくれてるから、安心して夜も夜も眠れるんだよね。
明日も学校が有るから23時にはベッドに入って就寝する事にしている。
「( おやすみ、怨君 )」
〔 おやすみ、ユコちゃん。侵入者が来たら始末するから、安心して朝まで寝ろよ 〕
「( 有り難う。そうするね )」
自室の電気を消して、ベッドに入って横になる。
今日は《 警察署 》に行って沢山話したから、思った以上に疲れたのかも知れない。
ベッドに入ったら直ぐに眠気に襲われた。
──此処は何処だろう??
──何処かの廊下……だよね??
──シン……と静まり返っていて不気味な廊下……。
──廊下に光が漏れている。
──ドアが開いてるみたい。
──スライド式のドアを開けようとした私の手が透ける。
──何度もスライド式のドアを触ろうとするけど、スカスカと透けてしまって触れない。
──これは夢……なのかな??
──スライド式のドアを開けるのは諦めて部屋に入ろうとしたら、体がスライド式のドアをすり抜けた。
──部屋だと思った場所は[ 病室 ]だった。
──何で[ 病室 ]なんかに??
──個室なのにベッドが2つ並んでいる。
──ベッドから肌白い手がダラリ……と垂れ下がっている。
──誰かが眠っているみたい。
──垂れ下がっている手を掴もうとしたけど、やっぱり透けてしまう。
──夢だから “ 触れない ” って事??
──誰が寝ているのか、ベッドの上で熟睡している人物の顔を確かめ様と覗いてみる。
──えっ??
──死んでる??
──なんで??
──それに……水??
──何で水が??
──ベッドの上で寝ているのに、まるで水に包まれて溺れ死んだみたいな状態になっている。
──どういう事……??
──2体の濡れた死体を見ていると体から “ 何か ” が出て来た。
──白い光がふよふよと浮きながら私の方へ近付いて来る。
──白い光が私の中へ入った瞬間、弾かれるみたいに[ 病室 ]から追い出された。
ハッ──と目が覚める。
両目から涙が流れ出て来る。
何で涙が出て来るのか──、何で涙が止まらないのか──、私には分からない……。
どうしてこんなに……胸の奥が苦しいんだろう??
まるで “ 何か ” の力でギュウギュウと締め付けられているみたい──。
〔 ユコちゃん、どうした? 急に起き上がったりして── 〕
怨君は宙をふよふよと浮きながら、オロオロしている。
「( うん…………。一寸ね、夢を見てたの )」
〔 夢? 泣くような夢だったのか? 〕
「( ……分かんない。分からないけど……悲しくて…………涙が止まらなくて…… )」
〔 ユコちゃん…… 〕
怨君が指で涙を拭ってくれる。
私からは怨君が透けてしまって触れないのに、怨君からは私に触れて涙を拭えるなんて不思議な光景──。
「( 有り難う……怨君…… )」
〔 未だ朝まで時間が有るし、寝とけよ。授業中に昼寝してたら、教師からチョークを投げられるからな! 〕
「( それは嫌かも )」
涙は何とか止まったけど、夢の内容が気になって仕方無い。
夢の中で私の中に入って来たあの光は何だったんだろう……。
夢──なんだよね??
私はもう1度、寝る事にした。