⭕ 不穏なカラオケ
──*──*──*── カラオケ店
カウンターで受け付けをしてくれる店員が、やたらとニチャニチャしている。
きっしょ…………とは思うものの、顔には出ても声には出さない。
3人の男子達もニヤニヤしているのは私の気の所為じゃないと思う。
1人だけ重暗い顔色をしている男子が、これから起こりうる “ 何か ” を暗示しているのかも知れない。
怨君には “ 手加減 ” する様に頼んであるし、死にはしないと思う。
何年、病院生活をする事になるかは知らないけどね……。
店員から渡された番号の部屋は、出口から1番遠い3階の奥の部屋──。
満室じゃないんだから、他にも空いてる部屋は有る筈なのに、何故か3階に位置する1番遠い奥の部屋を指定されるなんて、明らかに怪しいよね?
〔 ユコちゃん、コイツ等明らかにグルぞ!
良からぬ事を考えてる確信犯のクズ共だ! 〕
「( だよね。
それは私も感じてた。
カラオケの部屋は鍵を掛けたら密室になるし、定員が監視カメラのスイッチを切っちゃえば、何をしても証拠は残らないからね。
別のカメラが仕込まれてる可能性は有るよね。
乱交パーリーでも楽しむつもりなのかもね? )」
〔 ターゲットにユコちゃんを選んだのが運の尽きだな!
計画的犯行を台無しにしてやるよ 〕
「( 私は事が終わる迄、隅っこで大人しく待ってる )」
8人でエレベーターに乗って、指定された3階の部屋へ向かう。
──*──*──*── 3階
──*──*──*── カラオケルーム
「( そう言えば、怨君って鍵の掛かったドアって開けれた? )」
〔 俺は無理だけど、呪詛を使えば開けれるぞ 〕
「( 呪詛って便利なんだ? )」
〔 フッ……俺が凄いだけさ★ 〕
本当はドアに怪異を憑かせて開けさせるんだけどな!
生前が陰陽師だから、大抵の事は “ 呪詛 ” で誤魔化せるんだ。
「( じゃあ、事が終わる迄、待ってる必要は無いね。
監視カメラを見付けて壊すのも忘れないで )」
〔 呪詛で壊しとく 〕
各々が好きな歌を歌って楽しんでいる7人は、私が見えない怨君と念話で話してるなんて露程も思ってないんだろうね。
1人……また1人……と時間差を付けて女子生徒が[ カラオケルーム ]から出て行く。
最後の女子生徒がドアノブを掴んだ時、「 戻って来ないの? 私を残して帰るの? 」って声を掛けてみた。
「 そ……そんな訳ないじゃん……。
2人が遅いから呼びに行くだけだし── 」
「 荷物を持って?
私が見てるから置いて行きなよ、ね? 」
「 ……………………ごめん…………逆らえないから── 」
震える声で言うと谷岡さんは[ カラオケルーム ]から出て行った。
「 逆らえない 」から、従って共犯になる選択をしたって事ね。
「 ねぇ、細江君──、さっきから顔色が悪いけど大丈夫? 」
「 えっ……あぁ……別に平気だけど? 」
「 ふぅん……。
ねぇ、私は井夫間さんに何かしたのかな? 」
「 な…んだよ、急に? 」
「 井夫間さん達とは、なるべく関わらない様に目立たず大人しくしてた筈なんだけど?
目を付けられる様な事、したのかな? 」
「 オレに聞かれても…… 」
「 明らかに顔色が悪かったから、何か事情を知ってるのかと思って── 」
「 女子の事なんて分かる訳ないだろ…… 」
「 そう?
でもさ、細江君も谷岡さんも井夫間さんの共犯者だからね。
被害者ぶらないでよ。
アンタ達は加害者で、被害者は私だからね 」
「 何言って── 」
「 弁解しても “ 手遅れ ” って事だよ 」
[ カラオケルーム ]のドアが開く。
電話をしてメニューを注文した訳でもないのに、男性の店員が3名も入って来る。
大の大人が女子高生を前にしてニチャニチャするなんて気持ち悪いったら──。
「 お前等は、そのまま楽しそうに歌ってろよ。
ユウコちゃんは、お兄さん達と楽しい事しような 」
「 これ、美味しいジュースだから、飲んでみて。
サービスだよ 」
「 飲む訳ないでしょ。
知らない人から渡されるジュースなんて!
馬鹿じゃないの? 」
「 強気だね、ユウコちゃん。
“ 大人しい子 ” って聞いてなんだけどな 」
「 私を残して仲良く3人で帰っちゃった井夫間さん達に聞いたの?
あの子達は嘘吐きだからね、信じちゃ駄目だよ 」
「 鍵はオートロックしたし、この[ カラオケルーム ]は特別製の防音だ。
携帯の電波も県外になる。
助けを呼んでも来ないし、此処から出たいなら、お兄さん達を楽しませてくれた後だからな 」
「 1人の女子高生を囲って乱交パーリーでもするつもり? 」
「 はははっ!
何で知ってんだよ? 」
「 それなら話が早いよな 」
「 沢山のお兄さん達が、ユウコちゃんの恥ずかしい映像を楽しみにしてるんだ。
始めようか── 」
「 私にタッチしたら痴漢だからね! 」
「 何言ってるんだ?
気持ち良くしてやるから、此方に来い! 」
男性店員の1人が私の腕を掴んだ。
〔 痴漢はアウトだな 〕
怨君が呟いた瞬間、私の腕を掴んだ男性店員の腕が骨と皮に代わった。
男性店員は突然、変わり果てた自分の腕に驚いたのか悲鳴を上げる。
「 腕が有るから “ 痴漢 ” っていう犯罪を犯すんだから、要らないでしょ?
か弱くていたいけな女子高生に悪さをするのも、手が有るからだよね。
最初から手が無かったら、いたいけな女子高生を囲って悪さなんてする気も起きないんじゃないの? 」
〔 ユコちゃん、ドアは開けたぜ 〕
「( 有り難う、怨君──。
遅くなっちゃうから帰ろ )」
〔 人間が大好物の怪異が集まって来る様に怪道を繋げた。
気が済む迄、コイツ等で遊んでくれるぞ 〕
「( 怪道?
霊道は聞いた事が有るけど、どんな道なの? )」
〔 霊道は幽霊の通り道だけどな、怪道は怪異の通り道の事さ。
呪怨霊の俺だから出来る得意技さ★ 〕
「( 怪異を雑巾絞りにするだけじゃなかったんだね )」
〔 まぁな!
人間の扱う呪詛とはレベルが違うのさ★
早く出よう 〕
「( そうだね )」
怨君が解錠してくれたドアを開けて[ カラオケルーム ]から出ると、怨君がドアを施錠してくれる。
〔 これで1週間、このドアはテコでも開かない様にしたぞ。
俺の呪詛って凄いだろ♪ 〕
「( そんな事も出来るなんて、流石だね!
1週間は安心して過ごせる──って事かな? )」
〔 当然さ!
ユコちゃんを置き去りにして帰りやがった3人にも天誅を下しといたからな★ 〕
「( 気が利くじゃん。
どうしちゃったの怨君。
今日の怨君は何時もより輝いて見えるよ! )」
〔 へへへ(////)
暗くならない内に帰ろう 〕
3階の廊下を歩いてエレベーターに向かう。
“ 特別製の防音 ” って言ってた通り、[ カラオケルーム ]からは一切の音が聞こえて来ない。
携帯の電波も入らないみたいだし、助けも呼べない[ カラオケルーム ]に閉じ込められる事になっちゃって、ミイラ取りがミイラになっちゃった感じ?
1週間後、彼等がどんな状態で発見されるか、楽しみね♥️