【エピローグ】共に、時を刻む。
赤、黄色、オレンジ。
街路樹が、美しく色とりどりの葉を秋風に揺らすようになった。
――今日は僕達の結婚式だ。
なんと、前王陛下と皇太后様のご厚意で王宮内にあるチャペルを使わせてもらえることになった。
「…どうかしら。」
少し恥ずかしそうにはにかんで真っ白なウェディングドレスを纏ったフローラはこの上なく美しかった。
胸には僕がプレゼントしたサファイアのネックレスが輝いている。
「… 綺麗すぎて困るな…。式に出ずに家に閉じ込めたいくらいだ。」
僕が真面目に言うとフローラはクスクス笑う。
「貴方も凄くカッコいいわ。」
「惚れ直した?」
僕がふざけて言うと、フローラは目を綻ばせて笑う。
「…ええ。毎日、惚れ直してるわ。」
ふいにそう言われてジワジワと顔に熱が溜まる。
「あ。そうなんだ…。」
「…もうっ。仲が良いのは素晴らしいですが惚気るのは式が終わった後にして下さいな。隣の部屋で前王陛下がお待ちになっているんですから。」
着付けをしてくれていた侍女に言われて、僕は頷く。
――そう。なんと、『フローラに現在身内がいないのなら、ヴァージンロードを歩く時、父親代わりに一緒に歩きたい。』と王太后様を通して前王陛下から申出があったのだ。
(…さすがに本当の父親だって気づかれるんじゃないか?…まあいいか。)
そう思って僕は苦笑する。
「それじゃ、またあとで。」
僕はひと足先にチャペルに入場する。
すると、キースやウィリアム様、カルロス先輩をはじめ、王宮魔導士の同僚達が拍手で迎えてくれる。
新婦側の席には侍女長のマギー様や侍女の同僚、そして王太后様と、なんと国王陛下がいらっしゃっていた。
僕は緊張しながら祭壇の前でフローラを待つ。
――すると荘厳な音楽が鳴り響き、フローラと前王陛下が入場してきた。
ヴァージンロードはフローラの好きな黄色いガーベラで埋め尽くされており、とても華やかだ。
陛下は泣きそうなのを必死で堪えているような顔をしていてなんだか少し胸があたたかくなった。
僕達は一緒に祭壇の前に立つ。
「――健やかなるときも、病めるときも。
喜びの日々も、悲しみの日々も。
あなたを愛し、敬い、支え合い。
その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
その言葉に僕達は力強く頷く。
「「はい、誓います。」」
そして、僕達は誓いの指輪を交わす。
ヴェールを上げると、フローラは見たことがないくらいとても幸せそうな顔をしていた。
僕達が誓いのキスをすると、ワァッと歓声が上がる。
「エドワード!フローラさん、お幸せに!!」
「羨ましいぞー!」
大切な人達からフラワーシャワーを浴びながら僕達は笑いながら歩いて行く。
――今日から僕とフローラは家族として共に人生を歩んでいく。
◇◇
数日後、僕達は父さんと母さんのお墓の前に2人で立っていた。
「父さん、母さん。僕達、ついに夫婦になったよ。」
そう言って僕達は手を握り合う。
――父は、どんな気持ちで僕達の事を見ているのだろうか。
どうか、天国で母と沢山笑っていてほしい。
(父さん。貴方の大切な姫君、フローラの事はこれからは僕が命をかけて守ります。)
心の中で祈る。
すると、墓前に添えた色とりどりの美しい花がまるで『わかった。』とでも言うようにその花弁をゆらした。
僕達は手を繋いで歩きながら気持ちよく晴れた秋空を一緒に見上げる。
「ねぇ、エド。」
どこか緊張した様子でフローラが僕に言う。
「ん?どうしたの、フローラ。」
僕は笑いかける。
「――お腹に小さな命がいるの。」
その言葉に僕は目を見開く。
「え。」
「…赤ちゃんが、出来たの。」
その言葉にジワジワと喜びが溢れていく。
「…やった!」
僕は思わずフローラを抱きしめる。
すると、フローラが目を丸くする。
「もうっ!エドっ。お腹の子がびっくりしちゃうわ。」
「…あっ!ごめん!」
そんな僕を彼女は優しい眼差しで見つめる。
―― きっと、これからも喜びを重ねながら。
僕達は、共に時を刻んでいく。
FIN.
これで本当に、物語は完結です。
最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。
ブックマークや星評価、そしてご反応をいただけたこと――どれもものすごく励みになっておりました。心から感謝しています。
今回は珍しく、最初から最後までプロットを書き、そして初めて“しっとりとした大人の恋愛もの”に挑戦してみました。
最後まで書き切ることができて、今はとてもほっとしています。
また、R18バージョンも執筆予定です。ご興味のある方は、完成次第リンクを貼りますので、ぜひそちらにも遊びに来ていただけると嬉しいです。
→追記:とりあえず、4話まで改稿してムーンライトノベルズに載せました。
https://novel18.syosetu.com/n0365ks/
R18に抵抗がない18歳以上の方は良かったら是非読んでみて下さい。
新作の際にも、またお目にかかれたら幸いです。
2025.7.1 ブー横丁