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最終章 電脳探偵ナズナ

最終章──電脳探偵ナズナ

──昼、花芽瑠璃の屋敷の広間。


セフィルとの決戦を終えた翌日。


大きな窓から昼の光が降り注ぎ、床に淡い模様を描いていた。ホールの中央には長いテーブルが置かれ、その周りにナズナたち全員が集まっている。


ルミエールは湯気の立つカップを両手で包み、ふうっと小さく息を吐く。

千界は腕を組み、資料に視線を落としながらも、時折ナズナの方を真剣な眼差しで見つめている。

イグニスは無言で窓の外を眺め、背筋を伸ばしたまま、静かにその存在感を放っていた。


ウズメと結月は、最近の出来事をお互いに話しながら笑い合い、きゃっきゃと盛り上がっている。

カデンはその笑い声をBGMにしながら、椅子に座ってうたた寝をしており、時折小さな寝息を立てている。


花子とスヴァレは、噛み合わない会話を繰り返しながらも、どこか楽しそうで、まるで仲の良い兄妹のようだ。

瑠璃はナズナの方をじっと見つめ、その瞳の奥に何か考え込むような光を宿している。


総一郎は髪をわしゃわしゃとかき混ぜ、みんなの様子を温かく見守りながら、時折小さく笑みを浮かべている。


九条は、ああでもない、こうでもないとクロスワードパズルに熱中し、自分の世界に浸っている。


アウリサはナズナの隣にぴたりと寄り、「ねえねえ、ナズナ!」「わたしね、すごいこと思いついちゃったの!」

と大好きが溢れ出そうな勢いで、立て続けに話し続けている。


そして屋敷の外では、一閃丸が庭の木から落ちる葉を居合で真っ二つに切り裂き、その切っ先が風を裂く音を残した。

視線は遠くの空を見上げ、何かを考えるように、ふうっと一つ息を吐いていた。


──空気は重く、けれど、どこか一段落した安堵も漂っていた。


ナズナは、ゆっくりとみんなの顔を見渡し、そして、少し照れたように笑った。


ナズナ: 「……ここまで来れたのは、みんなのおかげ。本当に、ありがとう。」


花芽瑠璃が微笑み、花子が「えへへ.........」と嬉しそうに笑う。


ラスナは小さく頷き、スヴァレは少しだけ肩の力を抜く


ナズナは深く息を吸い込み、視線を上げた。


ナズナ: 「残る相手は──......... 一つ目のせか......い.......」


言葉が途切れる。


その瞬間、空気が変わった。


静けさがピンと張り詰め、ホールの中央に淡い光が出現しその中に、ひとりの少年が佇んでいた。


──白髪。中性的な顔立ちの少年。


少年の姿は、まるでずっとそこに立っていたかのように自然で、けれど、あまりにも異質だった。


彼は、微笑みを浮かべながら、唐突に口を開く。


ヴァレリウス: 「──ボクのことかい?」


一瞬、場の空気が凍りついた。


ナズナの目が見開かれ、誰もが言葉を失う中、ヴァレリウスの声が静かに、しかし確実に広間に響き渡った。


ヴァレリウス: 「おめでとう、ナズナ。そして、みんな。」


その笑顔は、優しさと冷酷さが入り混じり、底の知れない深淵を覗かせていた。


ヴァレリウス: 「君たちは、僕たち── 一度目の世界を含めて今までの世界で最も“崩壊から遠い正解”に近づいた。」


ナズナの手が小さく震える。アウリサが不安そうにナズナを見つめ、イグニスが険しい表情で前に出ようとするのを、ラスナが手で制した。


ナズナは一歩踏み出し、ヴァレリウスをまっすぐに見据えた。


ナズナ: 「……なら、私たちを理解してくれる?」


ヴァレリウスは微笑んだまま、静かに目を閉じ、少しだけ肩をすくめた。


ヴァレリウス: 「理解はできるさ、ナズナ。」


広間に、短い静寂が落ちた。


だが──。


ヴァレリウスの目がゆっくりと開かれる。その瞳が、氷のように冷たく光った。


ナズナが息を呑む。胸がざわつき、背筋を冷たいものが撫でる。


ヴァレリウス: 「でも──その答えと共に生き残るのは、僕たち一度目の世界だ。」


その言葉が落ちた瞬間、重力が増したような圧力が広間を包みこんだ。


ナズナは、震える声で問い返す。


ナズナ: 「……どういう意味?」


ヴァレリウスはゆっくりと手を広げ、微笑んだまま告げた。


ヴァレリウス: 「ボクたち一度目の世界は、滅んだままじゃ終われない。だから、君たちの“答え”を奪い、取り込み、共に生きていく。」


彼の背後に、淡い光の残響が広がり、まるで無数の歪んだ記憶の断片が揺らめいていた。


ヴァレリウス: 「君たちは素晴らしい。だから──“正解の答え”のデータとして、胸を張って良いよ。」


ヴァレリウス: 「でもね、もう用はない。君たちがいればボク達"一度目の世界"は復活できないから.........」


ヴァレリウス: 「だから、申し訳ないけど.........消滅してくれないかな?」


ナズナの目が、怒りと恐怖で大きく見開かれる。


ナズナ: 「……ふざけないで!!!!私達はあなた達のデータなんかじゃない!!!」


声が響き渡る中、広間の空気が一気に張り詰める──。


ヴァレリウスは、ゆっくりと目を細め、薄い笑みを浮かべたままナズナを見る。。


ヴァレリウス: 「……ふふ、当然だよね。ナズナ.......僕達の残響。シグナルエコー」


ヴァレリウス: 「──いや、違うか。君はシグナルエコーを超えた存在だ。いったい何者なんだろうね?」


ナズナは一歩前へ出た。眸の奥に、揺るぎない光が宿っていた。


ナズナ: 「私は考えてたよ、色んな戦いの中ね.........なんとなくわかったんだ。シグナルエコーは過去の世界の祈り、あなたはそれが崩壊に繋がるだけのモノって言うけど、そうじゃない。今、私があなたの破壊の意志に立ち向かっている、それは、あなた達の声の中にちゃんと正解も混じってたって事だよ。あなたがシグナルエコーを否定したのは自分が自分を信じれないって言ってると同じ意味よ」


ナズナ: 「それに、私は過去の祈りだけを聞いてるんじゃない。数多の世界の存在の祈り、森羅万象の祈り、過去、現在、未来から託された希望も全て背負っている。」


ナズナ: 「私は、祈りの連鎖が肉体を超えるって思っている、だから正直、死は恐ろしくない。でも、絶対に今は死ねない。全ての祈りを背負ってる責任があるんだから」


彼女の声は穏やかだった。だが、その響きは確かにヴァレリウスの胸を突き刺した。


ナズナ: 「あなたも、私も、答えを見つけようが見つけまいが、いずれ滅びるんだよ。それは仕方のないこと。でもね、祈りはきっと生き続ける。あなたが私をずっと見てきたのならわかるでしょ?私の今までが証拠よ。」


ナズナの言葉がホールに溶け込み、仲間たちの胸にも響いていく。


ナズナ: 「崩壊に抗い、誰かの分まで奪って生き残ろうとする気持ちがある限り、争いは無くならない。だから私は抗わずに祈りを繋いでいくの、その連鎖の先には、きっと良い物が生まれるから。」


沈黙が落ちた。


ヴァレリウスの笑顔が、わずかに揺らぐ。


ヴァレリウス: 「……それは、あまりにも理想的で曖昧だ。あまりにも無防備で、無垢で、愚かだ。結局ボクの、この胸の中にある崩壊の恐怖は無くならないじゃないか!?」


彼の手が震え、指先が小さく痙攣した。


ヴァレリウス: 「祈り? 繋がり? そんなもの、何度裏切られてきたと思っているんだ……! 人間も、異界も、機械も、誰も彼も、結局は死の恐怖に溺れ、欲望に溺れ、争い滅びたんだ!」


ヴァレリウス: 「ボクは死にたくないんだ、怖いんだ!!」


声が震える。怒りと、そして──計り知れない恐怖が滲んでいた。


ナズナは、そっと目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。そして、静かに言葉を紡ぐ。


ナズナ: 「……それでも。」


ナズナの声が、優しく響き渡る。だが、その芯は決して折れず、強く、澄んでいた。


ナズナ: 「争ってはいけないんだよ........祈るしかない、信じるしかない。でも、きっとそれは繋がる。信じてみんなで祈り続けて、それが回り続ければ、きっと変わる」


ナズナ: 「みんなで希望を願えば、全部乗り越えられる力が沸くんだよ.......」


ヴァレリウスの瞳がわずかに揺らぎ、吐息が漏れる。


ヴァレリウス: 「……なぜ……なぜ君はそんなにも……!」


だが次の瞬間、彼の瞳がぎらりと光り、狂気の色を帯びた。


ヴァレリウス: 「──ならば、証明してみせろ!!」


怒りと恐怖が入り混じり、ヴァレリウスが腕を振り上げた。その指先から黒い光が溢れ、空間に渦を巻いた。


ヴァレリウス: 「世界中を暗闇に返す。君達はいつまでも祈っていろ、ナズナ。お前は仲間が君を信じたまま消滅していく様を見届けろ」


ヴァレリウス: 「全てが終わった後、ボク達の世界は復活する。君たちのデータを参考にね。絶対に消滅なんてしない!お前みたいに諦めない!」


空間が軋み、ホールの外の空が暗転し始める。


──その瞬間、ANEIの冷たく響く声がホール内に割り込んだ。


ANEI: 「緊急事態です。世界中の空にブラックホールに似た現象が出現──確認数、膨大。全地域で発生を確認。繰り返します──全世界規模で、ブラックホールが出現しています!」


ナズナが息を呑む。花芽瑠璃の手が震え、ウズメが唾を飲み込む。


アウリサ: 「……これは、地球だけじゃないわね……」


彼女の声が、ひどく青ざめていた。


ルミエール: 「他の次元、異界、全ての世界で同時に発生しているわ……こんなのって……」


ラスナが歯を食いしばり、怒りに拳を震わせた。


ラスナ: 「クソっ!!!」


花芽瑠璃: 「一度目だとか何度目だとか、それ以前に、こんな事していいと思ってるの!?」


スヴァレ: 「こんなとこで終わるのかよ......やっと見つけたっていうのに......」


ウズメ: 「どうしたらいい?どうしたらいい?どうしたらいいの?ナズナさん!!!」


結月: 「どうか、祈りよ。届いてください。みんなを世界をお守りください。私はあなたに届くまで祈り続けます」


千界: 「探偵!!!どうにかしろ!!!みんなお前を信じてるんだ!!!」


九条: 「そうだ!姉ちゃん!考えろ!考えつくせ!!今この時の為にお前は答えを探し続けてきたんだ!!」


ナズナ: 「答え........そうだ........答えだ。一番正しい答えを........」


その時だった、ホールの扉が思い切り開かれた。鉄と刃の巨体、一閃丸が飛び込んでくる、次の瞬間にはヴァレリウスに目にもとまらぬ速さで斬撃を繰り出し木っ端みじんにする。


しかし、ほぼ一瞬で再生する


ヴァレリウス: 「無駄無駄 ハハハ ボクは本体じゃないよ? 君達も分かっているんでしょ?」


そういいながら、しっしとでもやる風に手を振ると、一閃丸は天井に飛んでいきシャンデリアにぶつかり大きな音を立てて落下する


カデン: 「ざけんな!!クソ自己中!!! いけ、カガミノミコト!グリマ=ゼルゼ!──そいつをこの場から消し飛ばせ! 物語ごと書き換えろ!!!」


怒声が響き、カデンの背後に二体の神話級の召喚が現れる。その強力なエネルギーに空間が悲鳴をあげる。


ヴァレリウス: 「おっと......容赦ないね。結局、死が怖いから僕に牙を向いてるんだろ? ……ハハ、無駄だよ──」


ヴァレリウスが指を鳴らした。その瞬間、二体の召喚は影の中に強制的に引きずり込まれた。


カデン: 「……ふざけやがって……!」


拳を握り続けていた手が震える。カデンは、眉間に深い皺を寄せ、花子の方へ目を向けた。


カデン: 「……行け!! ……いや、ダメだ、花子……」


花子が小さく首を振り、怯えた瞳でカデンを見上げる。


花子: 「……こわい……やだ……」


カデンの呼吸が浅くなる。怒りに任せて花子を巻き込もうとした自分を、彼は後悔し、胸の奥に刺さるような痛みを感じた。


カデン: 「……ごめん、花子。悪かった。……こっちにおいで」


小さく手を差し出し、声を震わせながら、花子に呼びかけた。


花子がそっと一歩を踏み出し、カデンの手に触れる──


ヴァレリウスが、淡々と、そして愉しむように微笑みながらその様子を静かに見つめていた。


ヴァレリウス: 「遅かったね。もう止まらない。祈りすら届かない真っ暗闇が、すべてを飲み込む。」


その言葉に、イグニスが耐え切れず、一歩踏み出した。


イグニス: 「貴様……ッ!」


怒りが爆ぜた。


──全身が神炎そのものへと変貌を遂げ、灼熱の輝きが空間を焼き尽くす。炎は生き物のように荒れ狂い、床を溶かし、空気さえ震わせる。


イグニスは咆哮を上げた。その叫びと共に、光輝く神炎の奔流が竜巻のように渦を巻き、ヴァレリウスへと一気に襲いかかった。


──だが。


ヴァレリウスの体は炎に包まれながらも、微動だにせず、ただ静かに立っていた。


そして、空間から大量の氷の刃を出現させ四方八方から圧縮するようにイグニスに向けて一斉に飛ばす


総一郎: 「危ない……ッ!!」


ギリギリで総一郎はイグニスの隣に滑り込み、生成した神威の盾で守り切る


イグニス: 「...........」


その様子を見ながらヴァレリウスは、黒い粒子にその輪郭を包み、それに炎は吸い込まれるように消えていく。


ヴァレリウス: 「全部もう遅いよ。」


ヴァレリウスがゆっくりと顔を向け、イグニスを見据える。その声には怒りも憎しみもなく、ただ無感情な冷たさがあった。


ヴァレリウス: 「君たちの抗いは終わりだ。十分楽しんだろ?」


ナズナは拳を握りしめ打開策を考えるが、何も思いつかない悔しさに歯を食いしばった。


ヴァレリウスの背後で、空間に無数の黒い歪みが広がり、世界の空に広がるブラックホールと共鳴するように、低い振動音が響いていた。


ナズナ: 「……!」


ヴァレリウスは、ゆっくりと瞳を細め、黒い粒子をまとった手を広げた。


ヴァレリウス: 「このブラックホールはボク達の自作だ。外にあるやつと同じ。君たちの概念そのものを吸い込むんだ──存在、意志、記憶、愛、希望、祈り──全てを。」


彼の声は低く、淡々としていたが、どこか勝ち誇った響きがあった。


そして、最後に──。


ヴァレリウス: 「じゃあね。」


ヴァレリウスの姿が、黒い渦と共にふわりと消える。


その瞬間、広間の空気が沈み、重く、冷たくなった。


ウズメ: 「──っ……!」


ウズメが胸元を押さえ、がくりと膝をついた。瞳が揺らぎ、苦しげに顔をしかめた後、意識を失う


ナズナ: 「ウズメ!!!!!!」


総一郎: 「ぐっ…………そうか......ナズナさん.....後はお願いします.....信じてますよ」


総一郎もその場に崩れ落ちた。


ナズナ: 「 総一郎!!!!!!」


ナズナはすぐさま二人に駆け寄る──


ナズナ: 「そんな......やだやだやだ!!!!」


スヴァレ: 「もっと早くお前らに出会いたかったぜ.........今なら言えるぞ......お前らとの時間は何より楽しかったぜ.......皆を救ってやれよ、探偵女」


一閃丸: 「オヌシの刀は........マコト......美しかった。......その刃で斬れぬ......物は.....無い。.......断ち切れ.....人の娘。」


そう言って、スヴァレと一閃丸はお互い微笑み合いながら顔合わせ、床に倒れる


ナズナ: 「二人ともいかないで.........お願いだから.......」


千界: 「探偵すまなかったな........任せすぎたな.......ハハ.......ついでにだ......最後の頼みだ.......皆を救ってやってくれ........お前ならできる....」


千界はガッツポーズをし、床に倒れた


ナズナ: 「千界さんっ!!!!笑ってる場合じゃないよ!!!一緒に考えようよ.........」


花芽瑠璃: 「......ナズナちゃん......ずっと友達よ.....昔からずっと大好きだった...........私信じてるからね」


花芽瑠璃が床に手をつき、 最後の声を振り絞りほほ笑む


ナズナ: 「瑠璃!!!!!!!!!!!」


九条: 「また.....お嬢を守れなかった.......ざまあねえな.........おい......ナズナ.....冷静に考えろ.......考えつくせ.......最後まで諦めるな.......探偵なんだろ?答えはきっともう見つけてるはずだぜ......最後まで離すなよ.......あばよ」


九条の膝の力が一気に抜けて、その場に倒れて動かなくなった


ナズナ: 「九条さん!!!かいかぶり過ぎだって!!!教えてよ!!!私なんてまだまだなんだ!!!あんた先輩だろ!!!頼むから行かないで!!!!」


ラスナ: 「お主は今までよくやってきた。そのすべてに意味はある。仲間を信じろ。自分を信じろ。お主の覚悟誰にも邪魔させるなよ.......」


ラスナがぐっと拳を握りしめながらも、かすかに笑い、ナズナに悟すような瞳をそのまま倒れた。


ナズナ: 「ねえっ!!!ラスナ!!まって!!まってよ!!!!」


カデンは花子を抱きかかえながら、フラフラと歩きだす


花子: 「.....おにいちゃん....おにいちゃんになってくれて........ありがとう.....ね......大好きよ」


カデン: 「あぁ......そうだな。またどっかで見つけ出してやるよ........その時まで、ゆっくりお休み。」


花子: 「うん......たのしみ」


カデン: 「おい.......探偵.......命令だ.........絶対だ絶対どうにかしろ!!!俺はお前を信じたんだからな!!!........お前ならやれるって.......任せた....ぞ.....」


そういって、カデンは眠るように腕のなかで丸くなる花子を抱きしめながら、そっと目を閉じた


ナズナ: 「待ってくれ!!!行かないで!!!ああああーーーー!!!!!」


ルミエールが倒れながらも大声で叫ぶ。


ルミエール: 「しっかりしなさい!!!ナズナ!!!みんな終わりなんかと思ってないわ!!!あなたに託したのよ!!!」


ルミエール: 「あなたが信じた光でみんなを導いて..........」


ルミエールは最後まで、何かに抗い誰かを助けようと考え尽くした顔で倒れる


ナズナ: 「待ってよ!!!ルミエール!!!どうすればいいっていうのよ!!!!!いなくならないで!!!!」


結月: 「ナズナさん、祈りを最後まで信じて......私がなんであの力を持って生まれ変わったか思い出して..........全てに響かせて..........それを待ってるはずです...世界は.....」


ナズナ: 「結月ちゃーーーーん!!!ねぇ!!教えてよ!答えて!!どうやって響かせればいいの!!!結月ちゃんなら応えられるでしょ.....ねぇ」


結月はすごく安らかな顔をし、いつか誰かに起こしてもらう事を待つような顔で眠りにつく


アウリサも、震える手をナズナに向け、必死に言葉を紡ぐ。


アウリサ: 「ナズナちゃん、ナズナちゃん、ナズナちゃん.......今のうちに沢山名前呼んでおくね。........いきなり現れて、沢山困らしてごめんね........でもね、ナズナちゃんがそれを宝物って言ってくれて........私、すごく嬉しかったよ.........私もホントおんなじ........一緒の宝物だね........もしね.........また会えたらね........わたし.......きっと......沢山こまらせちゃうよ?.........もっと沢山の.......宝物.......欲しいからね..............もっと.........話たいね.........でも........そろそろ.......いくね.....じゃあね、ナズナちゃん.......ありがとう.......」


ナズナ: 「じゃあいかないでよ!!!!!アウリサ!!!!!!アウリサ!!!アウリサ.....なんで.....なんで......こんな.......」


ナズナ以外の全員が倒れた


この現象は数多ある世界中で起きていた。


各地の空に広がるブラックホールが、目に見えぬ力で、あらゆる存在の意識の様な"何か"だけを吸い上げていく。空気が揺らぎ、人々が次々に倒れ、意識を失い、祈りの糸が引き裂かれるように消えていく。


ナズナ: 「...................」


ナズナ: 「絶対に.............」


ナズナ: 「絶対に!!!!!.............」


ナズナ: 「絶対に助ける!!!!!!!!!!!!!!!!.............」


その響きはホールを超え、世界中に広がる祈りの残響と共鳴した。


彼女は、倒れた仲間たちを見渡し、強く、深く、胸の奥で誓いを立てる。


しかし──ナズナの視界も、ぼやけ始める.....


──ナズナの意識が、遠のいていく。


ナズナ: 「ぜ……ったい……たす……ける……」


声はか細く、途切れ、ブラックホールの闇がナズナの意識を飲み込んだ。力は抜け、身体は溶けるように床に沈む──。


──真っ暗な世界。


光はなく、音もなく、感覚すらない。


ナズナは、無の中に沈んでいった。


──沈黙。


果てしなく何もない


ただ、広がる空虚。


何もないはずの闇の中


「........」


ひとつの、淡い光が生まれた。


それは微かに震えるように瞬き、やがて言葉となり、震える声で囁き始める。


祈りの概念: 「……みんなの祈りを……つなげなきゃ……」


光は小さく、儚げで、それでも確かにそこにあった。


──何もない秩序の中に、確かに何かが存在し、ブラックホールの闇に不和が生じた。


空間が揺れ、声が──ナズナの声が、響き始める。


ナズナ: 「……わたしは……まけない……まけちゃ……いけない……みんなのために……」


ナズナの声は、途切れながらも、強く、強く、滲み出した。


ナズナ: 「約束したんだ……絶対、つなぐ……絶対助けるって……絶対助ける!!!!」


声が広がり、祈りの光が脈打つように大きくなった。


ナズナは、その空虚の中で誰かに語り掛けだした


ナズナ: 「……届いてるよ、みんなの気持ち……」


「消えたくない、苦しいんだね。怒りで前も見えないよね。悲しいのは嫌だよね まだ誰かを愛したい──あの日に戻りたいよね……」


「死は怖いよね  失うのは怖い、終わるのも怖い……分かるよ。全部。――だって私の中にもあるから。」


「それだけじゃないことも、知ってるよ。本当はみんな、ただ幸せに生きたいだけだよね」


「争い合いたくなんかないよね?みんなで慈しみ愛し合って、怖い思いなんて一切なくてさ、小さな幸せがずっとつづいて欲しいよね」


「その祈りは、全部繋がってるんだよ?私の中にも……世界の果てにも、ずっとずっと、繋がっている。」


「誰かが笑った声、誰かが泣いた声──その大切な思いの全部が、私の中に響いてるよ。」


「祈りは死なない。たとえ体が消えても、たとえ全てが飲み込まれても、みんなの祈りは消えない。」


「みんなの声が聞こえる。」


「だから──私は繋げられる。」


「みんなの想いは、全てを乗り越えるんだ。」


ナズナの声が、光の粒となり、ブラックホールの奥底へ、果てしない空間の果てまで広がっていく。


そして──。


ナズナ: 「だから、これが私の答え── 限りなく遠く、全ての果てまで──祈りよ、響き渡れ!」


声が弾け、暗闇が光に震えた。


ナズナ: 「──ホピュリス・エコー!!!」


──闇の中に、光が広がっていった。


最初は微かな灯り。けれど、ナズナの祈りが世界を包み込むように、その光はどんどん広がり、膨らみ、やがて──。


暗黒の虚無は、光の世界へと変わっていった。


そこに、広がるのは眩く優しい光の世界だった


淡く、温かな輝きが空間を満たし、無音だった世界に声が響き始めた。


アウリサ: 「……ナズナちゃん!? ナズナちゃんなの!?」


ルミエール: 「……ああ、ナズナ……! 聞こえる、あなたの声が……!!やったのね!!!」


ラスナ: 「ナズナ……お前の声だ……!!!間違いない!!!やりおったの」


イグニス: 「巫女よ.........我はそなたが眩しいぞ」


スヴァレ: 「お前!!....すごいやつだぜ全く。」


総一郎: 「ナズナさん……!あなたなら大丈夫って信じてましたよ……!」


花芽瑠璃: 「ナズナちゃん!!助けられるの三度目じゃない?その声ずっと聞いていたいわ」


九条: 「やるな!お前なら、答えを見つけれると思ってたぜ」


一閃丸: 「剣など.....どうでも....よい......それ程に.....美しき声」


ウズメ: 「やっぱりそうだ!!!ナズナさんなら絶対みんなを救ってくれると思ってたんです!」


千界: 「初めて会った時を思い出してたよ.......まさかこうなるとはな....女神よ、ありがとう」


花子: 「いぇーーーい.......きらきら.......おねえちゃん、ありがとう。」


カデン: 「ハハハ.......お前の言ってた全部の意味、やっとわかったぜ.......ありがとな」


結月: 「ナズナさん!また会いましたね ふふ わかってましたよ。あなたなら、皆を祈りで救ってくれるって」


ナズナの心に祈りの気持ちが響き渡る。それは仲間たちだけでなく、数多の世界の存在達もだ。全てがナズナの光に導かれ祈りが連鎖する


ナズナ: 「みんな……!」


光がさらに広がり、ブラックホールの闇はどこにも無くなった。概念を持たないはずの空間に、祈りの光があふれ、何もないはずの場所に全てがあると言う矛盾が生じ、それは軋みを上げて、ついに崩壊を始めた


さらに、光が炸裂し、祈りの波が闇を突き抜け全世界に響き渡る。


ヴァレリウスによって生み出された、世界中のブラックホールはそれに耐えきれず、崩壊し消失した


──全ての世界の存在の意識が戻る。


──みんな、生きていた。


その時、花芽瑠璃の屋敷のホールでヴァレリウスがゆっくりと姿を現した。光に包まれた彼の輪郭は淡く、消えかけていた。


ナズナはヴァレリウスに近づく


目覚めたばかりの一同はその状況を何も言わず、ただ見つめる


ヴァレリウス: 「……ボクの体が……消えそうだ……やっぱり、そうだよね……」


声が微かに震え、かすかに笑った。


ヴァレリウス: 「ボクは間違っていた。ずっと、わかってたよ……でも、怖くて……認められなかった……」


彼の体がゆっくりと、光の粒となり空へと溶けていく。


ヴァレリウス: 「……世界は、既に認識した。君たちを──真の世界として。」


ヴァレリウスはふと遠くを見るように目を細め、微笑んだ。


ヴァレリウス: 「僕たち── 一度目の世界には、もう入る余地はない……」


体が淡く揺らぎ、指先から消え始める。けれど、彼の声は優しかった。


ヴァレリウス: 「だから……もう終わりだ。」


ナズナは、震える声で呼びかけた。


ナズナ: 「……ヴァレリウス……!」


ヴァレリウスは、静かに瞳を閉じた。


ヴァレリウス: 「もし叶うなら、君たちの祈りの連鎖の先に……僕たちは、生まれ変わりたい。」


ナズナは涙を拭い、微笑んで頷いた。


ナズナ: 「──うん、叶うよ。」


ヴァレリウスは、少しだけ笑った。


ヴァレリウス: 「……そうか。ありがとう。」


最後に、静かに、優しく。


ヴァレリウス: 「じゃあね──。」


光の粒となり、彼は完全に消えていった。


──光が満ち、世界は静かに、穏やかに、呼吸を取り戻した。


──その瞬間。


真のブラックホールの奥深くで、なおも抗っていた一度目の世界は、完全に消滅した。


同時に、あらゆる世界に染み込んでいた「不自然な因果」は解き放たれ、解消された。


それを機に全ての世界の存在にある、無意識の奥底に巣食っていた恐怖の根


それが今、全て取り除かれた。


──根底から溢れていた、恐怖が消えた。


人々は気づかぬまま、心の奥底にあった争いの種を失い、理由なき憎しみや無意識の奪い合いの衝動は、静かにその力を失っていった。


これで、恐怖から生まれる不自然な争いは、もう起きないだろう。


ナズナたちは、世界の崩壊と、存在を覆う深い問題を乗り越えたのだった。


──もちろん、いつかはこの世界も終わりを迎える。


だが、それは遥か、ずっとずっとずっと先の未来。


自然な崩壊であり、苦しみではなく、終わりの向こうに新たな始まりがある静かな移行の崩壊だ。


そしてその先には、また新しい、幸せな世界が生まれるだろう。


──そう。


ナズナは、やり遂げたのだった。


──光が溢れ、世界が静けさを取り戻した。


柔らかな風が吹き抜け、光の粒がゆっくりと舞う中──


ナズナはゆっくりみんなへと目を開けた。


視界に映るのは、涙を浮かべた仲間たちの顔だった。


アウリサ: 「ナズナちゃんナズナちゃんナズナちゃん!!!もっともっともっとあなたの名を呼ばせて!!!だーーーい好き!!!もう二度と離さないんだから!!!」


花芽瑠璃: 「生きてる!!!皆がいる!!!あぁナズナちゃん。今しかチャンスは無いわね、言わせて!あなたが初恋の相手よ ふふ」


九条: 「お嬢!!!よかった!!!ナズナっ!!答え、見つけたみたいだな。結局全部解いちまったんじゃねーか 羨ましいぜ ハハハ」


スヴァレ: 「お前には誰も敵わねぇよ......ひひ......ありがとな」


一閃丸: 「また会えたな.......手合わせ.....は...もうよい。我の女神よ。果てなく祈らせてくれ」


ラスナ: 「お主に、勇者はとられたな........全くの完敗じゃ......そなたこそ.....真の英雄じゃ.......誇り高きもう一人の我よ」


総一郎: 「ナズナさーーーん!!!死ぬかと思いましたよ―――!!!やっぱり僕の相棒は誰よりすごいですね!!!」


花子: 「おにいちゃん......が.......また、いる。わたし.......すごくうれしい!.........ナズナおねぇちゃんありがとう」


カデン: 「おっ!!!花子!!!久しぶり、腹減ったろ?飯食いに行くか?よぉナズナちゃん!やっぱお前には勝てねーな。ハハッ  信じてたぜ。ありがとう......」


千界: 「やりやがったな フハハ 全く。 心から礼を言う。電脳探偵ナズナ、お前は世界一の探偵だ。ありがとう。」


結月: 「ずーーーっと、ずっとみんなを救ってくれるって私分かってましたから。この先もずーとずっとね ふふ」


ウズメ: 「ナズナさんっ!!!ホントすご過ぎですよ!!!私一生ついていきますから覚悟しててくださいね!?」


イグニス: 「お主の焔、全て見たぞ?認めよう我よりお主は格上じゃ....見たのは、焔だけでないがな....よくやったぞ、古の巫女」


ルミエール: 「あなたは祈りの連鎖の世界を作ろうとしてたけど、あなた自身が既にそうだったのかもね.......みんなの願いを抱え、沢山の事を解決してきたものね。だからみんなあなたを目指したのね......本当にありがとう。ナズナ」


みんなが、ナズナを囲んでいた。


笑顔で、泣きながら、声を重ねて叫んだ。


全員: 「ナズナ!!! ありがとう!!!」


ナズナは涙を拭い、恥ずかしそうに笑った。


ナズナ: 「.......どういたしまして..... ふふ」


──エンド。

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