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救出

私はまた、夢を見ている……。


 周囲に立ちこめる硝煙、焼け焦げた匂いが私の記憶を呼び覚ます。


 夢の中で私は、うつ伏せの姿勢で顔を横に向け、地面に倒れている。

周囲に散らばる何かの破片、周囲に立ちこめる黒い煙、騒がしい騒音、ここはどこかの戦場?

目の前に血が滴る。血の線が描かれ、白い扉の向こう側へと吸い込まれてゆく。

赤く点滅する光。


 ああ……ここで何か事故が……


 



 誰かが話をしている……


「ねぇエル、昨日のダンジョンは何処まで攻略したの?」

「ボスのアークドラゴンを倒したよ。このためにポーションをどれだけ貯めてたかわかる?」

「ごり押しねぇ、でもね、お母さんは攻略法を見つけて倒したから、ポーションはほとんど使ってないわ」

「アークドラゴンは、火を吐いた後にウロコが開いて熱を逃がすのよ、そこを剣で攻撃すると以外と楽なの」

「へぇ~! さすがゲームの師匠!  二つ名は伊達じゃ無いよねっ!」

「もう、その名は捨てたわ…… って、何を言わせるのよもう」


 暖かい食事と優しい笑顔……とても悲しい気持ちが押し寄せる……


 ……会いたいよ……





 幾何学図形が表示された後、映像が映し出される。朝日に映し出された空、見渡す限りの荒野の向こうには山脈と森林が連なっている。はずなのだが……


「うぉぉぉぉぉっ!! 涙を流す機能まで付いてやがる!! そうか、潤滑油の量だ すげぇぇぇぇぇぇっ!!」

実際に映し出されたのは声を張り上げる顔、しかも視界を覆い尽くしている。目は血走りヨダレと鼻水が飛んできている。


「きゃぁぁぁぁっ!!」

悲鳴を張り上げると更に顔がくっついてきた。


「口の中が凄えぞおい!! まるで生きているみたいに出来てやがる! この奥どうなってんだ?」

口の中を覗き込まれ、あげくに指まで突っ込んできた。


「あいてててててててててっ!! よせよせ! やめてくれっ!」

噛みついた口を開けると、男は後方に数回転がった後に素早い身のこなしで立ち上がり、笑顔を向けた。

「そういゃ!! お前さん生きてんだったな、 こりゃすまねぇ」

「俺の名はリック、お前さんを助けに来たぜ!」


 リックと名乗る男の後ろには、嬉しそうに光を増すイオの姿があった。


「まずはここを離れよう。俺んちに連れて帰るぜ」

リックは周囲に散らばるあらゆる残骸に色めき立ち、持ってきたであろう荷車に次々と積み上げていった。それでも化け物の遺体には全く目もくれなかった。


 荷車の前には小さな座席があり、私はそこに大切そうに置かれると毛布のような物を着せられ、しっかりと固定された。そしてリックは渾身の力で荷車を引き始めた。


「んごおおおおっ!! うおりゃあああっ!! んっ…がぁぁぁぁぁぁっ!!」

凄まじい気迫が伝わってくる。筋肉は膨れ上がり血管もはち切れんばかりに浮き上がっている。生命の輝きすら感じるくらいだ。


「はぁぁぁぁぁっ!! ほぉぉぉぉぉっ!! ひぃぃぃぃぃっ!!」

目的地が近いとはとうてい思えない。この調子でたどり着くのはあまりにも過酷だ。

しかも全く動く気配が無いのだ。だんだん申し訳なくなってきた。


「あのお…… 私だけなら軽いんじゃ無いかな? ほら、けっこう壊れたけどちゃんと会話できるよ?」


 リックは泣く泣く荷物を減らし、少し丸くなった背中で助けてくれたのだった。




 とても長い間荷車に揺られていたように感じる。既に太陽は大地に隠れつつある。

それまでの間、リックは何やらブツブツと独り言を言いながら、休むこと無く荷車を引き続けている。信じがたい程の体力だ、いくらここが仮想世界であったとしても、寝食は必要であり、怪我や病気、老衰や呪で死ぬことも有るはずだ。


「ねえイオ、彼はもしかして不死身なの?」

●「不死身では無いですよ、リックはドワーフ族なので、ものすごく丈夫なんです」

●「鉱山で事故がおきた時は、その中で生き埋めになったドワーフが次の日に掘り出されて、ピンピンしてましたっ」

不死身だった……


●「でもその時のドワーフさん、お腹が空いて死ぬところだったそうです」

何かが勘違いされて伝わっているようであった……


「到着したぜ……まずはお前さんからだな」

小さな小屋に到着し、リックは私を抱きかかえると小屋の中に入っていった。明かりが灯されると、デーブルに暖炉、寝床、秘密の扉?、釜戸まで……


 ……!!エルフが居た! ものすごくピチピチの水着を着てポーズを取っている。よく見ると人形だが、一見すると本物のような出来栄えだった。私は思わずリックを見上げる。


「どうだ、すげぇだろ」

リックは得意げな顔をしながら、秘密の扉を開ける。扉の先は奥へと続く洞窟のような穴があった。奥へと進みながらリックは話し始めた。

「あれはな、俺の師匠が残していったもんなんだ、師匠は凄腕の職人でな、女神様のメンテナンスもしていたんだぜ」

「師匠にかかりゃあ、どんな機械人だってツルツルのモチモチよぉ」

「俺もいつか、師匠に追いつくんだ」


 師匠がどのようなメンテナンスを行っていたのかは考えないことにした。代わりにいくつかの疑問が浮かんできた。


「ねぇリック、女神様って何? それに機械人って… 私の体もそうだけど、この世界は剣と魔法以外にSFも取り入れてるの?」


「SF?知らねぇなあ、でも世界のルールは剣と魔法さ、それでな、女神様は機械人だ、この世界を本当に支配しているのは機械なんだ……なぁ、あんたは外の世界から来たのか?」

●「エルフィラ様は、接続者なんですよ! 外の世界から来られたんですよ」

「おおっ! すげぇなぁ、俺も一度外の世界ってのを見てみたいよなぁ、ロマンだよなぁ~」

「よし! ここでお前さんを修理してやる」


奥の部屋に到着した、そこには、おびただしい数のナイフやノコギリ、ドリル、ペンチ、金槌、万力、あらゆる種類の拷問器具が……


「おおおいっ!! なんでそんな泣きそうな顔になってんだよ!! 少しは俺を信用してくれてもいいんだぜ、よしっ、コレを見せてやるよ」


リックは部屋の奥を指差し、そこに掛けてあった布製のシートを取り外した。するとそこから、ピッチピチのレオタードを着せられ、はち切れんばかりの胸部を持つ頭部の無い機体が現れた。


「いや、それはちょっと……」


一瞬想像してしまい、どう断るかに悩むエルフィラであった。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

ようやく荒野を抜け、新しい展開が始まります。

少しクセのある世界観ですが、どうか続きもお付き合い願います。

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