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荒野の怪物

「やはり脳は人間なんだなぁ……」

パロに取り付けた座席を倒し、空を見上げながらつぶやいた。

もうかなり長い間パロは休むこと無く走り続けている。ときおり大きな揺れが伝わってきて背中が座席から離れるが、慣れてくると心地よいと感じるようになる。何も考えずにぼーっとしていると、時々眠気のような物が襲ってくる。機械ではありえない生理現象だ


暇を持て余しているので色々と考えてしまう。

私はどうしてこんな体なんだろう?

なぜあんなところで目覚めたんだろう?

なぜ私はあんなに損傷していたんだろう?

私のことをマスターと考えているパロ、彼は何者なんだろう?

精霊……バグ……接続者

そもそも私は……誰?


まぶたがゆっくりと閉じられる……


誰かが何か言い争っているような……

女性と、男性……

男性は扉から外へ出てゆく……

女性は部屋の奥へと消えてゆく……

私は一人取り残されている……

悲しい気持ちと、寂しい気持ち……

会いたい……


 ドカァァァァン!!

突然の振動!! 何かにぶつかったような激しい揺れ、ふわりと浮かぶような感覚。

私は空中に投げ出され、パロが横転している姿が目に入った。


 地面へと投げ出され、転がり落ちる。袋に入れていた金属片が地面に散乱する。レールガンも投げ出されたが、届く距離に落ちている。体は万全で機敏に動ける。すぐさまレールガンを装備し、金属片を拾い装填する。周りに危険な生き物は見当たらない。一体何がどうなっている?


「イオー!! 何がおこったの?!! 答えて!! イオー!!」


●「エルフィラ様ぁっ!! 逃げてください!! 今すぐ逃げてくださいぃぃぃぃっ!!」

イオは遥か上空で青色の閃光を放ちながらクルクル回っている。

●「逃げてぇぇぇぇっ!!」


 ドガァッ!!

眼の前に横たわっていたパロが空中に浮き、こちらに向かって飛んできた。身をひるがえし素早くジャンプし、何とか避けることが出来た。


 パロは浮いたというより、投げつけられたんだろう。敵の正体がわからない。ここから離れて距離を取らないと危険だ!!


「イオ!! 敵はどっち?!! 何が居るの?!!」

●「敵の上にいますっ!!」

「はっ???」

上を見上げるがそこにはイオしか居ない。下には岩が有るだけだ…まさか地面が敵??

「地面の中に敵がいるのか?」

とっさにセンサーを起動するが、何も反応は帰ってこない


●「そこはもう口の中です!! 早く逃げてぇぇぇぇっ!!」


 グラッ!

鈍い音とともに地面が傾く。それと同時に周り全てから巨大な牙が出現する。

牙は次々と地面から空中へと伸びてゆき、パロを含む周囲を包み込んでゆく。


「うわぁぁぁつ!!」

声を張り上げて自身を鼓舞し、腕に装着したレールガンを起動する。甲高い唸りを響かせながら、チャージメーターが上がってゆく。牙は空を覆い尽くし、隙間から僅かに光が入り込む程度となっていた。


「どこを狙ったら……」

 レールガンの威力ならば牙の一本を撃ち抜くのはたやすいだろう。破壊できればそこから脱出することも不可能ではない。しかし、パロが脱出するには狭すぎる。この選択ではパロを助けることが出来ない。


 もはや狙うのは一点しかない。真下だ!! パロごと飲み込もうとしている正体不明のモンスター。その本体が下にあるのは間違いない。はたして倒せるのか?


 だが迷っている場合では無い、ありったけのエネルギーで打ち込んでやる! エネルギーチャージのメーターが120%を示す。以前バラバラに散乱した自身の光景を思い出す。


「かまうもんか!! いけぇぇぇぇっ!!」

バーーーーン!!


 爆音と土煙、激しい反動が発生し牙で作られたドームの天井に叩きつけられる。体が半壊しているのがわかる。自身のパーツ群が地面に降り注ぐのが見える。牙にめり込んだ体が剥がれ落ち、地面に落下する直前、パロの腕が伸びエルフィラの体を受け止めた。


 ゴガアーーーーッ!

モンスターの咆哮(ほうこう)とともに、牙のドームが開け放たれた。空が晒され、上空には紫色に輝くイオの姿が見て取れた。

「やった……の?……」

安堵感とともに、ほんの一瞬の光景が、とても長く感じられた。



 ガシィィン!! ギリギリギリギリ!!

次の瞬間、無常にも空は再び閉じられ、牙の壁は歯ぎしりのように(こす)れ合いながら空間を押しつぶそうとする。


「ああ……そんな……」

怒りなのか苦しみなのか、モンスターの口は激しく震えた。


 モンスターの牙が内側に傾いてきた。いよいよ噛み砕こうとしている。

パロは捕食に抵抗するように、腕を伸ばして牙を押さえつけた。そして徐々に立ち上がり、体制を立て直してゆく。


 黒い噴煙を吐き、無数の光を解き放つ。光は空間をくまなく捜索し、エルフィラが衝突してつけた隙間を見つけ出した。


 グオオオオオン!!

パロは扉を開放し、唸りを上げながら隙間にアームを入れて牙をこじ開け始めた。アームの力は牙が閉じようとする力を僅かに上回り、少しづづ隙間が開いていった


「パロ!……私を直して! もう一度攻撃を……今度こそ」

パロは命令に従うこと無く抵抗を続ける。口の中からはパーツプリンターで作ったであろう箱を取り出すと、エルフィラを掴み牙の外へと腕を伸ばした。


 エルフィラが外へ出たことを確認すると、パロは抵抗することをやめ、両腕でエルフィラを守るように包み込む、最初は恐ろしかった無骨なアームが今ではとても頼もしく感じる。


「パロ!!どうしてっ……私を直してって言ったのに!! 私を守るんじゃなかったの?? 答えて……」

「ありがとう……パロ……」


 パロの作った箱に文字が映し出される。

「起爆シークエンスまで 00:00:00」


 そして暖かい光が、私を包み込んだ。



 すこし時が過ぎる。


 パロは最後の言葉をイオに託していた。

●「命令に従わなかったことをお詫びいたします」

●「直してあげられなかったことをお詫びいたします」

●「守る役割を最後まで全うできなかったことをお詫びいたします」

●「音声でお答えできないことをお詫びいたします」

●「きちんとお別れ出来ないことをお詫びいたします」

●「どうかこの旅で、エルフィラ様の望みが叶いますように」


●「通信記録は……以上ですっ……」


「どうして……どうして謝ってばかりなの?……」

「パロ……あなたは私に何も悪いことはしていなかったのに……」

「私は……あなたに何もしてあげられなかったのにっ!!」

「こんなところでお別れなんて嫌だよっ!!」


 バラバラになったパロとモンスターの残骸の前で、悔しさと悲しさに打ちひしがれるエルフィラとイオ。損傷した体で移動することも出来ず、絶望するしかなかった。


 どれくらいの時間パロの前に居たのかは分からないが、こんなところで終わっては、パロに合わす顔がない。私の旅の成就は、パロの望みでも有るんだ。私はまだ生きている、なんとかする方法を探すんだ。


 幸いイオが無傷で動ける。近くに誰かがいれば、助けを呼べるかもしれない。


「イオ、お願いが有るんだけど、聞いてくれる?」

●「ぶぁい!! なんでぃえも おっじゃっでくだざいっ!!」


波型にプルプル震えながらイオは近づいてきた。


「この近くに、人が居る場所はある? そこへ行って、助けを呼んできてほしいの」

●「あっ! はい! ありますっ! それほど遠くはない場所に鉱山があります、そこに誰かいるかも知れません、まっていてくださいね、必ず誰か呼んできますっ」


イオは上空へ舞い上がり周囲の景色を確認すると、一直線に目的地へと飛んでいった。


「頑張って……気をつけてね、イオ……」

エルフィラはパロの残骸にもたれかかり、共に時間を過ごすのだった。


読んでくれてありがとうござます。

戦闘描写は初めてだったのでどんな風に感じて頂けたか気になります。

感想など頂けたらありがたいです。

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