パロ
「「 さてそれでは、この物語の世界「ネオ・ファンタジア」を説明しておきましょう。」」
「「先ほど判明した通り、この世界はコンピューターシミュレーションによって作られた仮想世界です。ファンタジー世界をモデルにデザインされた広大なエリアが存在し、多くの人々が生活しています。そしてあなたはこの世界の主人公!! アバターとしてこの世界に存在しています。やったー!!
しかしながら、この世界に接続している人々は脳だけとなって接続しており、もはやログアウトして仮想世界から出ることはできません。もしも接続を切れたとしても、脳だけしか無いという恐ろしい現実が待っているだけなのです。ああ怖いっ!!
でもご安心ください。もしも接続が切れてしまったとしても、あなたの脳は即座にお薬でスリープモードに移行します。これで肉体の喪失を感じることはありません。ほっ……一安心っ!!
でもでも、あまり無茶をしてはいけませんよ。あなたがこの世界で死んでしまうと、デスペナルティが発生します。あなたのステータスは全て初期化され、一定期間、あなたの脳は強制的にスリープモードになってしまいます。
あなたが眠っている間、姿の異なる新しいアバターが生成され、住む場所も変更されて新たな別の人生を再開することになります。しかも、あまりにも死にすぎてスリープモードが長期に及ぶと、あなたの脳は深刻なダメージを受けるかもしれません、できるだけ死なないようにしてくださいねっ!
それでは新しい人生の物語を、「ネオ・ファンタジア」で謳歌してください!!
ご静聴ありがとうございましたっ!!
プツーン……」」
空間に投影された解説用の動画が閉じ、画面の後ろに居たであろう精霊イオが姿を表す。そしてその後ろには……
私を襲いに来たはずの巨大な機械が大人しく鎮座している。相変わらす黒い煙と唸りを上げてはいるが、襲ってくる様子はない。それどころか精霊イオの命令に素直に従ってその場に鎮座したのである。もしかしてイオの仲間? 場合によってはイオに襲われていた可能性もあった?
いやいやいや、憶測で考える必要など無い、答えは目の前の光る球体が知っているはずだ。色々と聞いてみよう……
「ねぇイオ、私が誰か知っている?」
●「はいっ! 接続者様です。名前はまだ未確認です! 」
●「あっ! もしかして、凄んでらっしゃったのですか? とても丁寧な言い回しで好感が持てますね」
●「でも、おすすめとしては、オラァ!! 俺が誰だか分かってんのかゴラァ!!」
●「という言い方がよろしいと思いますっ!!」
「……質問を変えていい? イオ、あなたの後ろに居る、そのデカいのは何?」
●「……彼はパーツプリンターローダー、略してパロと言うそうです」
「あなた、この機械と会話ができるの?」
●「はい、彼には発声機能はありませんが、ちゃんと意思を持って行動しています」
●「……マスターを守っていると言っていますよ」
「そう……じゃあ、そのマスターってうのは何?」
●「はい、あなたのことだそうです」
「??えっ?? 何を言っているの? 私を守ってるって言っているの?」
●「はい、あなたがマスターで、あなたのことを守るのが役目だと言っています」
あまりの矛盾に理解が追いつかない、あれだけ散々いたぶっておいて、襲ったのではなく助けた? いや確かに体を直したのはこの機械で間違いないだろう……行動がチグハグすぎる。なにか不具合があるに違いない。
途端に不安が押し寄せてきた。機械のアームが届かない場所まで距離を置き、いつでも逃げられる体勢を取る。
「確かに体を直してもらった! でも私はそいつに襲われたのよ!! 信用するわけにはいかない!! 私の質問に答えてもらうから!!」
●「襲ったことは否定するが、質問に答えることは肯定すると言っています」
「なぜ私の場所が分かったの? 隠れるためにこの場所にいたのに、迷いもせず来たじゃない!」
●「探索センサーのエコー波で私を呼んだと言ってますよ」
!!あれか あれならば確かに場所を知らせているようなものだ。
知らぬこととはいえ、うかつに使用して脅威を呼び寄せてしまった間抜けさに腹が立ってきた。
「じゃあ!! 私を襲ったのは何故!!」
●「……襲った事実は無いと言っています」
「嘘!! 私を掴み上げたり投げ落としたりしたあれは何?」
●「……命令に従っただけだと言ってますよ?」
「んなっ!! 何をぬけぬけと!! じゃあ私が何を命令したのか言ってみて!!」
●「命令ログを提示するそうです」
●「……エコー発生による再起動を確認」
●「……私を直してと命令され、再度エコーによる呼び出しを確認、探索して発見した」
●「……パーツプリンター内に入れようとしたら離せと命令された」
●「……助けてと命令されので再度パーツプリンターに入れようとした」
●「……再度離せと命令されたので離した」
●「……再度助けてと命令されたのでパーツプリンターで修理を完了させた」
●「……パーツプリンターより搬出中に離れろと命令されたので離脱を実行」
●「……待機中にエコーによる呼び出しを確認したので召喚に応じた」
●「命令ログは以上だそうです」
ストンッ!! 足から力が抜けて座り込んでしまった。確かに色々言ったような気が…
タイミングや順序は覚えていないが、確かにその通りだった。
離せと言ったり助けてと言っていたことは覚えている。あの無骨な体と腕で、優しく取り扱うなんてことができるようには思えなかった。もう質問する気も失せてしまった。うつむきながら絞り出した声は。
「あの……なんかゴメンね……」
機械の体であったがゆえに、顔を真赤にしなくて済んだのだった。
少女の小さな機体が、より小さく見えたことは言うまでもない。
シリアスな展開がすべて台無しになってしまいました。この展開に気付かれないように細心の注意を払ったのですが、どうだったでしょうか?
この話の続きが気になってくれたら嬉しいです。