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精霊

 私は……夢を見ている。

食事の夢、女性が微笑んでいる夢、机の上に置かれた四角い箱の夢、ディスプレイに映し出された少女型の機体設計図の夢、散らばる大量の金属片の夢、おびただしい数のエラー表示の夢、眼前に広がる地面と血の夢……


 これは私の記憶? それともただの夢であって意味など無い?

しかし…胸が締め付けられる。思い出さなればならない気がする。

しかしこの気持ちも、目覚めてしまえば失われるのだろう

……忘れたくない…

激しい頭痛が私を覚醒へと導く。


 目が覚めると再び幾何学模様が現れ、景色が眼前に広がってゆく。ノイズはなく綺麗に見えるが、その景色は赤いライトに照らされた狭い空間であった。


「ああ……食べられちゃったんだ……そうか、機械は機械を食べるのか…」


 絶望してうなだれる、しかし視界に入ってきたのは、有るはずのない足であった。あわてて体を確認する。壊れていない! 溶けてもいない!  まるで新品のように綺麗になっている。


「修復してる?! 直してくれたの? どういう事?」

安堵と混乱の中、この状況を理解するために出来ることを考え、あることを思いだした。


「起動しろセンサー!!」


ヴィイイイイン!

狭い空間内にエコー音が響き渡り、あっけなく起動したセンサー表示図形と「パーツプリンター」の文字が飛び込んでくる。


「これって、修復装置だ!」


 次の瞬間、眼前の扉が起動し、ゆっくりと開いてゆく。外の景色は相変わらす廃墟だった。扉が折りたたまれて足場のスロープに変化する。外に出ようと身を乗り出すと、外にはまだ機械のパーツが散乱しており、壊れて外れたままの足のパーツもそこに有った。


「また壊されたらどうしよう……」

恐れをなして中に引っ込んだ所に、外から巨大なアームが入り込んできた。首を捕まれ締め上げられ、抵抗する間もなく外の空中へと連れ出される。


「あうっ! ダメだ壊される!!」

圧倒的な力で掴まれてビクともしない。


「助けてくれたと思ったのにっ!!  離れろぉっ!」

激しく抵抗すると少しだけアームに隙間ができた。


 万全な状態の体は軽やかに動き、ほんの少しの隙も見逃さずアームから逃れることに成功した。地面に叩きつけられることもなく着地すると、そのまま全力で走り出す。とにかく逃げて隠れないと!!


 脇目もふらずに走り続ける。重機のような巨大機械は、無数の光を放ちながらもその場から動く様子は無かった。



 しばらく走り続けると多数の扉が並んだ通路に出た。

「ここに隠れよう」

隠れる場所として比較的立派で頑丈そうな扉を選び中へと入る。


 中の様子はまるで中世の城か貴族の屋敷のような佇まいであった。部屋の窓から外を見てみると、余りにも想像と異なる異様な景色に絶句した。そこで見たものは、見渡す限りの荒野。植物らしい物は一切なく、さながら死の世界のようである、そして空には巨大な月がそびえ立っている。空に浮いているのでは無く、あまりの大きさから球体の山が空を覆っているように見えるのである。荒唐無稽な光景は、この世界が現実ではないことを示していた。


「そうだ、これが現実なワケがないんだ……こんな体だし…」


 部屋に設置している姿見用の鏡を見つけた。恐る恐る鏡の前に立ち、自身の身体を確認する。白い金属の体は華奢で頼りなく見えるが、その割には頭部に巨大な円盤状のセンサーが取り付けられている。顔の部分は柔らかく柔軟な表情も出せた。口の中には歯も舌も有り、感覚まであった。舌を引っ張り出して観察しながら、あまりのリアルさに感嘆していた。


「食事が出来そうなのは有り難いな…… ファ゛ッ!!」


 突然扉の外から悲鳴が響き渡ったため、飛び上がり舌を噛みそうになった。


●「うわぁぁぁぁぁぁん!! あっちへいけぇ!! こっちにくるなぁぁぁぁぁっ!!」


 それほど遠くない場所から声が聞こえてくる。どうやら扉の向こう側の廊下をこちらに向かって進んでいるようである。声以外の音はしない、あの巨大な機械ではなさそうだが、他にも機械が居るのかもしれない。軽はずみに扉の外を確認するのは危険だ。


●「いやだぁぁぁぁっ!! たすけてぇぇぇぇ!!」


 先程まで自分が発していたであろう言葉を何者かが叫んでいる。今の自分なら逃げることは簡単だ、確認をして見つかっても何とかなるだろうと考え、扉の前に立つ。


「よしっ!! こっちに入って!」


 勢いよく扉を開け、救いを求める者に声をかけた。しかしそこにいたのは、想像とは異なる不気味な存在であった。


 そこだけ空間がくり抜かれた様な真っ黒な何か、かろうじて人形をしてはいるが陽炎のように揺らめきながらこちらに移動している。


「えっ? あれが叫んでいた? これって……誘い出された?!」


 答えは帰ってこない。押し黙ったままこちらへゆっくりと近づいてくる。あまりの不気味さに逃げ出しそうになったが、今はあれが何なのか調べる方法を持ち合わせている。


「センサー起動!!」

ヴィイイイイン!

周囲にセンサーのエコー波が走り、次々に名称が判明してゆく。黒い空間にエコー波が到達する。


「-Error-」


 正体不明の存在はエラー表示を残すと、しばらくして消え去ってしまった。

まるで空間が埋まるような消え方で……


「あぁぁぁもう!!何なのっいったいっ!!」


 次から次へと理解しがたい現象に遭遇し、覚めない悪夢に怒りをぶつけるが、それでも悪夢が覚めることはない。


●「あのっ……助けてくれて、ありがとう…」

突然頭から直接声が聞こえた! さっきの黒いのがまた現れたのか? 周りを見渡すがどこにも姿は無い。


 ……幻聴? ついに精神が病んでしまったのか? ●「あのぉ~」

さっき見たのも幻覚? ●「あのぉ~」

エラー表示も実は幻覚? ●「あのぉ~」

「ああぁぁどうしよう!! もう嫌だぁ!!」 ●「あのぉ~」

「どうして声が聞こえるのよぉ!!」 ●「あのぉ~」

●「大丈夫ですかぁ~」

「これが大丈夫に見えるっ!!」

幻聴に返事をしてしまった。

●「わわっ!!ごめんなさい」

「あなたは誰っ! 私の中のもう一人の人格っ? それともここに住んでる幽霊か何か?!!」

●「わわっ、わたしはっ……精霊ですっ」

「精霊?? あの精霊?? スピリチュアル的な?」

●「はい、その精霊です」

「……」

●「あっ、でも幽霊じゃ無いですよ。 ちゃんと見える精霊ですっ」

「私には見えない……」

●「え? そんなはず無いですよ ……あっ!」

●「ごごごご ご ごめんなさい!! 上から見下ろしてましたぁ~!」


「えっ??」

 上を見上げると、そこには白い光のカタマリに翼が生えたような姿の球体が浮かんでいた。光は鼓動するように明滅し、金の装飾が施された優雅な翼は単なる飾りなのか、全く動かさなくても空中に浮いていた。


「うわぁ……綺麗…」

●「そっそそそっそ、そんな事はっ…ありがとうございますぅ~!!」

精霊は上下運動を始めると、強烈な閃光を放ち始めた。


「うわっ……眩しい…」

●「わわわっ!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

喋る光の玉の姿をした精霊は、とても純粋な存在のようだ。からかうと面白そうだが、可哀想なのでやめておこう。


「ところでさっきのは何なの? 何に追われていたの?」

●「あれは、あの黒いのは、この世界のバグなんです」


「えっ? バグ? あのプログラムのミスの?」

●「プログラムのミスじゃないんです」


「そりゃそうだよね、仮想世界じゃあるまいし……」

●「どちらかといえば、プログラムが正常に動作することで生じるエラーなんです」


「えっ? えっ? てこととは……ここはプログラムの世界? この体ってアバター?」

●「そうですね、接続者の皆さんは身体のことをそのように理解してます」


 この世界の異常さについて、ようやく理解が追いついた。そもそもここは現実ではなかった。異世界転生したわけでもない。コンピュータシミュレーションで作られた仮想現実だったのだ。

 しかしそうなると、なぜ私は現実に戻る方法を知らない? そもそも現実で私の体はどうなっている?


●「あのぉ~……あなたは、接続者さんなんですよね?」

「ああ……どうやらそのようだ…… 精霊さん、ちょっと質問してもいい?」

●「はい、何でも質問してください。 私の役目の一つですから。」

●「それから、私のことはイオと呼んでください」


「それじゃあイオ、私はそろそろ元の世界に……」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

かつて耳にした嫌な騒音が近づいてくる。間違いない、巨大機械だ。ここに留まっているとまた壊されてしまうかもしれない。逃げないと!! でもどこに逃げる? そうだ!! 逃げる必要など無かった。接続を切ってログアウトしてしまえば、夢から覚めるようにこの世界から出られるのだから。


「イオ!! 今すぐ私をログアウトして!!」

●「え? ログアウトって、接続を切るんですか?」


「そう!! 今すぐ接続を切って、出来ないんだったら切り方を教えて!」

●「ええっと……あのぉ……」


「何っ? 早くしてくれる?」

●「接続を切る方法はありません!」


「はっ??? 何言ってるの?? ここは仮想世界なんでしょ?」

●「はい、仮想世界ですけど、ログアウトする方法はありません」


「そんなの嘘でしょ? どうして出られないの?」

●「接続者の皆さんは、現実世界では脳だけで生きていますので、ここから出ることは出来ません」


「いっ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ドガガガッ!! バーン!!


 その絶叫は、受け入れがたい現実に対してなのか、それとも目前に現れた巨大機械に対してなのか、少女型機体の苦難は始まったばかりである。


終わりがギャグっぽくなってしまいました。

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