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そこは平成最後の12月、そして若い母がいる

ぶらくり丁前の本町大通りには、昔路面電車が走っていてアクセスはかなり良かった。

残して欲しかった!

第三話


 一瞬沈黙が流れた。


 そして女性の表情はとても厳しかった。



「でも、このひと大野さんって!」 その言葉に今度は女性が驚いている。



「大野? 大野なんて言うの?」女性も少し訳が分からなくなった感じで俺に問いただしてきた。 

「大野 翔太です。」 もう、ばれてしまったので俺は正直に返答した。 彼女の表情も困惑した感じになり「うそー、うそでしょ、まさか大野さんがもう一人同じ時間にいたなんて!」 「私が紹介したのは、この人じゃ無いわよ!」 「もービックリしたわよ、紹介した大野さんから電話掛ってきたのよ」その女性は間を入れず話してくる。 「立花さんらしき女性が、もう違う男性と話をしているって言うの!」 

俺はその言葉に、少しホッとした。 なにせ人違いだと言うのを言いそびれ、真剣に話をする彼女に罪悪感も持ち始めていたからだ。 (なんとか、切り抜けた)と思ったが…………! 「まさか、こんな偶然ある―!」 女性は、あきらめた表情で続けた。 「紹介した大野さん、そのままあきらめて帰りますって、本当に梓は!」

「ま―、あなた達仲好さそうだし、雰囲気も悪くなさそうだし、まあ―ヨシとするか!」

彼女は、俺の顔をマジマジと、上から下まで見ながら、なぜだか納得した表情だ。

「もう一人の大野さん、あなた今日って、暇?」  「ま―― このままでも良いわよね!」と、俺の方に視線を向けた。 

なぜかひとり納得し、ひとりで決めた感がある……

「あなた、ふたりの出会いを邪魔したのだから」 「このまま、続けて続けて!」

「えっ」 俺は予期せぬことに心の声がでてしまった。 「えって、何よ!」 女性はすぐに反論してきた。 「この子奥手だから気にかけてて私が苦労してセッティングしたのに」 「それと……!」女性は彼女のテーブルに広げているぶらくり丁のイラストを取り上げて言った。「梓、これ取り上げだから、あんたまたこの話ししてたでしょう!」


「この話って、いつも興味ない人に話しして、引かれるの分かっているでしょ!」 

彼女は出口に向かいながら、手を振る仕草をしていた。バイバイの合図をしていた。「まさか、もう一人の大野さんに邪魔されるとは」と言いながら去って行った。 店内には、カランコロンと、ドアに付けられた鐘の音が響きわたっている。

 俺と彼女、そして店の年配の夫婦もあっけに取られ沈黙がかなり続いた。(どうする!)「立花さん出ようか!」 なんか、気分を変えないといけない気がした。

 とっさに彼女の手を取り表に連れ出した。「えっ、あっはい!」 彼女もどうして良いのか分からない様だ。

 外に出たはいいが、気まずい。(うわっ!)「ごめんなさい、てっきり」 「こちらこそ」 まあ―勘違いからの展開! (どうする……) 悪くはない、彼女良い感じだし、可愛い。(だけど、なんだろうこの感覚は) 


少し沈黙が流れた。


「大野さんコレって知ってます?」

突然彼女が指をさした。そこには、丸いコマのようなモニュメントがあった。 「この、モニュメント近寄ると音楽が流れるの」 そういえば知らぬ間に、中ぶらくり丁と掲げたアーケードの橋のところに来ていた。 見覚えがある。 むかし、子供のころ母と来た覚えがあり、母も 「このモニュメント音楽が流れるの」 「和歌山ブルースって翔ちゃん知ってる?」 知っているわけがない、大昔のそれも演歌! 小学生のころなのにわざとぽかった! 

 でも、そんな母はいつも笑っていた。「翔ちゃん、お母さんの学生の時ぶらくり丁の入り口にマクドがあって、丸正百貨店があって、すごく都会的だったのよ・・・」 今思い返すと母も彼女と同じようにぶらくり丁の話をしていた。

 彼女も母と同じ様に「演歌だけど女のひとが歌ってた、コマーシャルでスーパーのCMも歌ってた人なんだけど!」

 さっぱり判らない。 母もスーパーのCM歌ったひとって言ってた気がする。 (スーパーの歌って何なんなんだ……?) 近寄ると突如音楽が流れだした。モニュメントをよく見ると昔のレコード盤になっている。


 ゆっくりと和歌山をめぐるような

 音楽が流れていいた……

 

(フルコースかよ!) と、突っ込みを入れたくなるぐらいゆったりした曲である。彼女は少し、いや、かなり変わっている。あの曲に聞き入って目を瞑っていた。


 この辺りは少しレトロな感じが建物から伝わってくる。「1970年代には、映画館が5館もあったの。ジャスコや大丸百貨店も進出したの」「こっちが中ぶらくり丁であっちが東ぶらくり丁」 彼女は話が止まらないようだ。なかなか、聞いてくれる人は居なかったかも知れない。 今の俺は母の思い出と被っているからか、心地よく耳に入る。

「路面電車も通っていて、そのころはアクセスもかなり良かったの」  

また、何かを見つけた様だ。 「コレってパチンコの原点なんだって」 彼女と橋を渡ったところに、大昔の映画に出てくるパチンコ屋のような感じの建物あった。看板には、スマートボール ニユーホープとある。 「スマートボール場、昔は何軒もあったみたい。今はここだけ」 残念そうな表情が可愛らしく見えた。

「ここが・・・」 


その時突然に……昔の記憶が頭を巡った。


 あの日、高校から帰宅した時だった―― 「ただいま」「まだ、帰ってないか!母さん」 俺は玄関の扉を開け中に入ろうとした時、外から呼び止められた。

「翔太くん! 」 お隣の山田さんだ、彼女は母の同級生で幼馴染みの方だ。かなり慌てている。

「翔太くんだけ、お父さんは!」「あっ、山田さん、まだだれも!」 真っ青な顔で息を切らしながら叫ぶ感じで話し始めた。 

「今ね、警察からあなた達を探してるって連絡があって」 「お母さん交通事故に遭って病院に運ばれたって!」 「事故に遭った時、携帯が壊れて連絡が取れず、たまたま私の家の連絡先のメモ書きがあったらしく、それで……」 

俺はとっさに靴を履いた。 それを悟ったのか 「まって、日赤病院よ!」 俺は走っていた。 頭が真っ白になっていた。 母はその日、けやき大通りで、自転車で横断歩道を横断中Uターンしてきた車に跳ねられたらしい。 病院に着いた時には、意識が無い状態で一度も目を開ける事は無かった。

「お母さん――」涙が溢れていた、嘔吐していた。「うおーっ」叫んでいた。

同時刻、父が、廊下で泣き崩れていたと後で知らされた。

 (なぜ、今――思い出したのだろう) 

「大野さんどうかされました?」 彼女が覗きこんできた。 「いえ、別に!」 彼女は一瞬、不安を抱いた感じだった。


 彼女が、気を使っているのが分かった。 話しを、他の話題にしようとしているのが

感じ取れた。

 俺と彼女は中ぶらくり丁と東ぶらくり丁の橋の上にいた。 周りから見るとどこにでも

いるカップルに見えるだろう。

そして、何気ない取り止めない会話に思えるだろう。

「大野さんって平成何年生まれですか?」

「私と正美、さきほど喫茶店に入ってきた彼女なんだけど、平成6年生まれなの」   いま、彼女の言葉に俺は明らかに動揺している。 何が起きているのか! 

 

「立花さん!いま、なんて言いました」


 私は平成6年生まれ・・・どうか、しました?」 「それじゃ、今って平成? 平成何年――?」 彼女がどうしたのっていう感じが顔の表情から、読み取れたが、彼女はそのまま答えてくれた。 

「2018年平成30年です――ヨ! 今日は12月2日……です。

 (どういうことだ!これって!)

 平成30年、平成最後の年末、平成は翌年の4月30日までで、5月1日から元号が令和に変わった。 そして、俺が生まれるのは、今から4年後! ここは、俺にとっては過去――!!


 だったら、この女性は……母だ……!




ありがとうございました。

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