出会いは突然だった!
母が3年前突然亡くなった、交通事故だった。
母と父が出会ったのは何処にでもある、寂れた商店街の喫茶店。
俺はそこで偶然に女性と出会うのたが、その女性は若い頃の母の姿だった……!?
俺は過去から戻された。
しかし、戻された時期が、母が亡くなる3年前であった。
「残酷すぎるだろ―― こんなこと!」
ぶらくりクロスロード
檜尾 眞司
城下町和歌山市、その中心街に商店街がある。
和歌山城から北へ行くと京橋がある。 そこから本町通りに沿って町が形成されている。
本町通り、ぶらくり丁、中ぶらくり丁、東ぶらくり丁、ぶらくり丁大通り、北ぶらくり丁の通りが点在し、1971年までは本町通りには、路面電車も往来していた活気のある商店街だったようだ。
ぶらくり丁は、和歌山城下町の一部を形成し、紀州藩を代表する繁華街、歓楽街として栄華を極めた。 明治以降も繁栄は続き、ぶらくり丁は大阪市以南でも、最大の繁華街として繁栄した。 昭和ふ初期には大阪・ミナミと肩を並べるほどの歓楽街だったと言う。
その近所に生まれた時から、俺は住んでいる。
名前は大野 翔太。
母は3年前、交通事故で突然この世を去った。 俺が高校2年生の時だ。
当然、父と俺は悲しみに落ちていった。
長く辛い日々が続き、昨日3回忌の法要が終わった。
その夜家に戻り、リビングでお互い黙ったまま座って向き合っていた。 長い沈黙の時が流れ、やがて父が口を開いた。
父は3年が過ぎて少し落ち着いたのだろうか、唐突に俺に母の事を話しはじめた。
母が亡くなってから3年間、俺は抜け殻の様な生活を送っていた。それを、案じたのだろうか。 大学には入ったが目標を失っている様にも見えたからだろう。
俺はうつむきながら父の話を聞いていた。
「俺と母さんは、ごくごく普通の男女で、ごくごく普通に恋をした」
「お母さんと出会った瞬間に胸がドキッとし、まあ――一目惚れってやつかな――!」
父は、ゆっくりと母の事を思い出している。悲しい気持ちが伝わってくる。
「母さんっていつも目標を持って生きていた。 出会った時から私にはこんな夢がある、あんな事もって何時か実現したいって……何事にも前向きで、いつも励まされていた気がする」
話はあっちこっちに飛んで支離滅裂な感じだった。 その話は夜通し続いた。
だが、父の話は成長した息子に母が生きていたという証をいつまでも忘れないでほしい、との想いは伝わってきた。
ふたりが出逢った場所、それはいつも俺が大学に通う際、通り過ぎるだけの場所で、普段は気にも留めない日常の風景であった。
数日後、俺はその場所に立ち寄ってみた。
どこにでもある商店街、シャッター街と呼ばれて久しい。
入口のアーケードは、かなりの大きさである。 高さもかなりあり、建物の3階から4階までの高さがある。 そこに『ぶらくり丁』と描かれている。 奥行きも200M位あり、空間的にはかなりの規模を誇る商店街ではあるが、それがかえって寂しさを助長しているかもしれない。
床も綺麗な石畳で、おしゃれ感が感じられる。 不思議なことに、寂れている割には手入れが行き届いている気もする。
(昔はかなり賑わったらしいが……寂れているな)
俺は辺りを見回すように商店街をゆっくりと歩き始めた。 ところどころは営業している店もあるが、半分はシャッターが閉まっている。 「小さい頃母と来た覚えはあるが、最近は通り過ぎるだけで、こんな感じで歩いた記憶がないな――」と、人通りが少ないせいか、つい独り言をつぶやいていた。
時代の流れなのだろうか、ダッシュと言う場外馬券場も出来ている。
父の話では「北側にある、北ぶらくり丁商店街の19番地という、喫茶店で出会った」と、言っていた。友達の紹介だそうだ。
顔も知らず友達が指定した場所。だけど、噂ではその後、閉店したらしいが俺はその辺りまで足を運んだ。
ぶらくり丁の筋から、北に平行して通っているのが北ぶらくり丁商店街。
こちらの方が、シャッターが多いい気がする、より、深刻な気配を感じる。
「出会いは22年前か――おや?」
「あっ、開いている!」 そこには、営業している『喫茶北の町19番地』があった。
そこは、父と母が初めて出会った場所。
商店街の真ん中辺りの角にあり、目立たないが入口には花が飾られていてとても感じの良い店だ。 ただ、周りのほとんどシャッターが閉まっているからか、やはり残念だ。
しかし、近所に居ながら初めての場所。
入口は茶色い木枠に大きなガラスがはめ込まれ、上部に鹿の木彫りのモニュメントがあった。 赤いタキシードと帽子を被りステッキを持った紳士の絵が描かれていた。
俺は少しドキドキした。 カウンター席、テーブル席、入口横には丸テーブルが置かれていて20席程の、シックな木目調で落ち着いた感じの店内である。
父も若く、ドキドキしながら待ったのだろう。 「いらっしゃいませ」年配のご夫婦が二人で営んでいるみたいだ。
「ホットコーヒーをひとつ」
父は奥から二番目の窓際に座った。15分後、母は来たらしい。 恥ずかしそうに足はガクガクと震えていたらしいのだが。
お昼を過ぎたからか、店内にはほかの客はいなかった。「まあ―ここならゆっくりと話が出来そうだ」
「いらっしゃいませ」偶然だろうか、15分後に若い女性が入ってきた。なぜだか、恥ずかしそうにぎこちない感じだ。
「あの――、大野さんでしょうか?」 入ってきた女性が呼びかけてきた。
「私は立花と言います」 (えっ、なぜ俺の名前を、大学のゼミの人かな?)
「はい、大野です」つい、返事をしてしまった。どこかで会った気もするが思い出せない。
「今日はよろしくお願いします」 彼女は頭を深々と下げた。 勇気を振り絞る感じで声は震えていた。「友達の正美が、ああ、篠田 正美ね、勝手に紹介するって、勝手に場所まで決められちゃって迷惑な感じですが……よろしくお願いします」 なんだろうって思いながら彼女を見ていた。 彼女は「失礼します」と言いながら俺の目の前に座った。 「いえ、迷惑だなんて」……、 (紹介――?)
(もしかして、人違い? )
ここは、父と母が出会った場所。 時代はめぐるか――⁉
小説版の「ぶらくり」漫画では描き切れなかった、物語りを描いています。
漫画版はめちゃコミクリエターズで読めます。
良かったら、そちらも宜しく!