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2 赤い魔石(5)

 モニカはずいぶんと背丈の違う二人から同時に詰問を受けて少し居心地悪そうに肩をすくめながら、「あんな使い方をするとは思ってなかったのよ」と言った。

 それにシーカが黒いフードの向こうからいっそう鋭い視線を向ける。言葉はなくてもそこにはごまかしや言い訳など許さないという意思が感じられた。

 もっとも、モニカも端から彼の糾弾を避けられると思っていたわけではない。

「ちゃんと話すから怒らないで」

 彼女はそう言って倒れ伏したままの男の方へ目をやり、真面目な面持ちで言葉を紡いだ。

「赤い魔石について知るためにも、対策に消極的な上の連中を説得するためにも、実際に魔石を使った事例が必要だと思ったの。魔石を体に取り込む使い方は想定外だったけどね。魔石の魔力で魔術を使ったり、何か召喚でもしてくれれば判ることもあると思ったのよ。自分たちで気軽に試すわけにはいかないじゃない? 何しろ何が起こるか誰にも判らない代物なんだもの」

「だからあの人にやらせたってこと?」

「そうよ」

 シアの問いにどこか冷ややかな口調でモニカが答える。

「おかげで得難い情報を得られたと思っているわ。赤い魔石を取り込んだらどうなるか、とかね」

 それに今度はシーカが追及の言葉を投げかけた。

「そのために一人の命を犠牲にしても構わないと言うのか」

「それは結果論でしょ。殺さざるを得ない状態になると決まっていたわけじゃないわ。ここにいる誰にも殺す以外の手を打てなかっただけ。それに、あいつは禁止されている採掘を行った盗掘者よ」

 モニカのその返答はまるであの男が死んだのはシーカの無力さのせいであり、また死んで当然だったと言っているようにも聞こえる。

 それにシーカは静かに――しかしかすかな怒りに似た感情をにじませながら言葉を返した。

「ここに法律はない。少なくとも赤い魔石を採掘したら命を奪われるという法はないし、たとえあったとしてもお前にそれを裁く権利はないはずだ」

 それを聞いてモニカは再び肩をすくめてみせた。

「そんなことはもちろん承知の上よ。でもおそらく誰も――あんた以外に私を責める人はいないでしょうね。悪人一人の命で、簡単には知り得ないことがいろいろ判るんだもの」

「お姉さん、結構えげつないやり方をするね」

「必要とあればね。好き好んでこういうことをしたいわけじゃないわ」

 眉根を寄せて呟くシアにモニカはしたたかにそう答えた。

 そんな彼女を正面から見返し、変わらない口調でシーカも反論する。

「お前が挑発した時点で判っていたのは、彼が禁止されている魔石の採取をしたことだけだ」

「だから何? それだけじゃ悪人だとは言えないってこと? もし彼がーーそうね、たとえば不治の病の娘を救うために未知の魔石の力を欲していたとしたらどうかって? そうだとしても私の答えは変わらないわ。これは必要なことだったのよ。そのために命を一つ犠牲にすることだっていとわない。その罪を背負う覚悟はあるわ」

 はっきりと言い切るモニカをシーカは黙然と見返すが、モニカからは彼の表情が読み取れない。それをずるいと感じながらも、顔が見えなくて良かったと思う気持ちも彼女にはあった。おそらくいたたまれず、目を見て言葉を返すことなどできていなかっただろう。

 わずかに視線をはずし、付け足すようにモニカは小さく呟いた。

「あんたに殺す役目を負わせたのは悪いと思ってるけど」

「私が怒っているのはそんなことじゃない」

 即座に返ってきた言葉にモニカはため息をこぼした。

「そうね。あんたは私が勝手な都合で他人を利用し、その命を犠牲にしたことを怒ってる。ずいぶんとお優しいようだけど、命の価値はすべて同じなのかしらね?」

 顔をそむけたまま、どこかやけっぱちのようにモニカが吐き捨てる。

 だが、その挑発にシーカは乗らなかった。

「人格や人間性によって、またそれをはかるものによって命の価値は違って見えるかもしれない。だが魂と魂の間に優劣はなく、すべて平等だ」

 平板な口調で滔々と言うシーカの返答にモニカは苦笑を浮かべてみせる。

「それが事実だとしても魂はあんたにしか見えないものだから、私には確認も反論もしようがないわね」

 その言葉を最後に一同は口を閉ざし、夜を満たす静寂のように黙り込んだ。絶えずかすかなうめき声をあげていたはずの死霊たちさえ、物言わぬ骸に戻ったかのように静まり返っている。

 そんな一切の沈黙を最初に破ったのは珍しくも無口な墓守だった。

「そんなやり方を続けていると敵が増えるぞ」

「背中から刺されないように気を付けるわ」

 小さく肩をすくめてモニカが微笑む。シーカの言葉がただの皮肉ではなく、彼女の立場を案じるゆえの警告だということがモニカには判っていた。それが理解できる程度にはお互いのことを彼らは知っていたし、モニカはシーカのことを信頼もしている。

 だから彼女はすぐに真剣な面持ちに戻り、「それで」とおもむろに口を切ると、慎重な口調でもう一度シーカに意見を求めた。

「私には目に見える変化と被害しか判らないわけだけど、魔術師にはもっといろんなものが見えているんでしょう? 戦うことで判ることもあったはず。魔石や彼の状態についてあなたの意見を聞きたいんだけど、どうかしら」

 モニカのその問いかけにシアもシーカの方へ目を向ける。

 その二対の視線を受けてシーカはあきらめたように息をつき、普段の静かな語調で答えた。

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