七話
何とか更新できましたが……
短いです。
「大丈夫だ、森にはせいぜい強くてもレッドウルフしかいない」
教頭は私達を集めて言った。
「一応安全のために、今度からは二人一組で出かけるようにしろ。そうだな、シリアとセレナ、ヘイドとラルク、ウィルとレイで組めば、だいたいどの組も大丈夫だろう。この三組で薪集めと食材調達を分担してやれ」
「はい」
ラルクだけは真面目に返事をし、私達はいつも通りに朝の訓練を始めた。
「ふむ、皆それなりの形になってきたな。レイ、もっと丁寧に咏唱をしろ。ラルク、イメージが足りてない。もっと大きなものをイメージしろ。細かい事は気にするな」
私達は、bクラスの魔法の扱いにかなり慣れてきて、始めの頃より遥かに強い魔法を放てるようになっていた。これなら森でレッドウルフに出くわしても、難無く倒す事が出来るだろう。
流石にへとへとの状態で森に入るのは危険なので、私達は休憩をとってから、食料調達のために森に入った。
私はシリアと二人で薪を集めた。
時々出くわす魔獣は私がほとんど一人で倒してしまった。ま、所詮雑魚の集まりだもんね。この辺の奴らは。
ある程度、薪が集まったところで、私達は一度隠れ家に戻ろうとした。ちょうどその時、私の視界に妙な男が映った。
その男は、あちこちが破れたボロボロのコートを着て、非常に危なっかしい足取りで、あっちにふらふら、こっちにふらふらしていた。
「何?あの怪しげなオヤジは」
私が言うと、シリアも気付いたようで、「大丈夫かなぁ」などと心配し始めた。
よくもまあ何処の誰とも知れぬ赤の他人を心配出来るものだわ。
すると突然、男の重心が前に傾いた。
まるで時間がコマ送りに進んでいるかのように、男は前にゆっくりと傾いていき、手を出すことすらせずに、そのままごつごつした地面に前から倒れてしまった。
「あっ!」
シリアは小さく声を上げ、ちらっと私の方を見ると、私がさっさと帰ろうとしているのに気付いたのか、気付かなかったのか、すぐに男の元に走って行ってしまった。
あーあ、またなんか面倒な事になりそうだなぁ。などと思ったものだが、実際、私の予感は当たってしまったのだった。
いつものように、手早く治療を始めたシリアは、倒れた事によって男が負った傷を次々に消毒したり、塞いだりしていった。明らかに、この見ず知らずの男の治療を終えるまではその場を離れる気はないようだった。
私は仕方なく、無防備な状態の二人を守るべく、周囲へ警戒を強めた。
二回ほど、私が二人を襲おうとしてきた不届き者のゴブリンを始末している間に、シリアは治療を終えたようだった。妙に早いなと思って見てみると、シリアが施したのは明らかにその場凌ぎの応急処置だった。
「この男はどうした訳?」
私が尋ねると、シリアは、疲れて気を失っているだけだと答えた。
「で、こいつをどうするの?」
と私がきくと、予想通りというか、何と言うか、シリアは、隠れ家に連れていってもっとしっかりと治療すると言った。
私は内心面倒だなーなどと思いつつも、仕方ないと諦めて、シリアと二人で男を隠れ家まで運んだ。
「どういう事だ」
私達が隠れ家に入ると、教頭が凄まじく険悪な顔で聞いてきた。どうやら酷くご乱心のようで……。
「その男は何だ」
私達が何も答えないので、更に一段階低くなった声で教頭が聞いてきた。凄まじい迫力ののった声は、私ですら足がすくむほどのものだった。
シリアは震えて声も出ないようなので、私がなんとか答えた。
「森で倒れていた男……です」
思わず敬語になってしまった。
「何故部外者をここに連れてきた」
「す、すみません。た、たた倒れてて、ほっとくこことがで出来なくて……」
今度はシリアが震えながら答えた。
「馬鹿者がっ!この事が魔王やらその配下に知られたらどうする気だ。そいつが魔王に操られていないとは限らんのだぞ」
その後教頭が口封じと言ってその男を殺そうとしたので、驚いた私達は、ラルク達も含めて全力で教頭を止めた。
「お前達はそんなに魔獣にやられたいのか。ふん、私はどうなっても助けてやらんからな。覚悟しておけ」
教頭は最後にそう言ったっきり押し黙ってしまった。
それからというもの、教頭がやたらと重い空気を辺りに振り撒くものだから、私達は生きた心地がしなかった。
時たまレイがぶつぶつ文句を言っていたが、誰も教頭に話し掛ける事が出来なかった。
謎の男が隠れ家にやって来た次の日、その男が目を覚ました。
「うぅ……」
適当に空き部屋を宛てがわれていたその男は、くぐもった呻き声をあげると、しばらく毛布の上でうずくまっていた。その頃私達は、別の部屋で朝食を取っていたのだが、異常に耳の利くレイが、呻き声が聞こえるというので、私達は男が目覚めた事を知ったのだった。
「何か、食べる物をくれ……」
私達が男の元にやってくるなり、男は食べ物を要求してきた。
シリアが何か食べる物を取りに行っている間、私はこの胡散臭い客人を観察していた。
伸び放題の髭は雑草のように好き勝手な方向を向いていて、更に体からは何日体を洗っていないのかと聞きたくなるほど酷い悪臭がしていた。
私達はさりげなく男と距離を取って、その一挙手一投足を見張っていた。
シリアが適当な食べ物を持ってくると、その男は凄まじい勢いで食べ始めた。一体どれくらい腹が減っていたのだろうか。
私達の貴重な食料が次々と減っていくので、レイが恨めしそうに男を見ていたが、男はまるで頓着せず、ただひたすらに食べ続けた。
腹に食物が詰まって落ち着いたのか、その男はようやく私達の事を見た。
「おっと、これは失礼した。私はグルーアルという者だ。訳あって森の中で死にかけていたのだが、おかげさまで、無事に助かったようだ」
見た目とは裏腹に、幾分か教頭よりは親しみ易い感じで話し出した。
「あの、あちらの部屋で水浴びが出来るので、宜しかったらどうぞ」
シリアが、体を洗ってくることをグルーアルに勧めた。私は、内心では早く体を洗えと叫んでいたので、グルーアルがシリアに礼を言って部屋から出ていった時には、心の中でガッツポーズをした。
グルーアルが部屋から出ていくと、私達は早速男の素性について議論をかわした。
「案外まともな人じゃねえか」
レイの意見に、直ぐさま私が食らいついた。
「あんなに魔獣が徘徊している森のど真ん中で武器も持たずにさまよっていた人間のどこがまともなのよ」
「一日中やたらと暗い空気を振り撒き続ける教頭よりは遥かにまともだろ」
「どうして変人の代表と比べるのよ。教頭と比べたら世の中の人間皆まともになるわよ」
「そんな……、先生はそんなに変な人じゃないでしょ」
ラルクがそんなことを言っていたが、私とレイの中では教頭は間違いなく変人だった。
「大体、魔獣がいなくったって普通はあんなただ広いだけの森に入ったりはしないわよ。街道を通ればずっと楽に行き来出来るんだから」
私がそう主張すると、今度はレイが、
「だけど一部の街道は魔獣に占領されてて使えないじゃねえか」
と言ってきた。そのあとも、グルーアルが戻ってくるまで、私達の議論は続いた。
グルーアルが戻って来たので、私達は結論が出ないまま、議論を中断した。
その後、グルーアルに帰るあてがない事がわかり、教頭も何も言わなかったので、私達は彼を泊める事にした。教頭は彼を信用していないようなので、多分見張っておく為にも、泊めておく方がよいと判断したのだろう。
それから数日の間、ほとんど教頭がグルーアルを監視していたのを、私は知っている。