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二章・ラルクは何所?

ここにきて視点変更です。

 さて、ここからは私が語りましょう。

 私の名前はセレナ。髪は……ラルクは淡い青色と表現したけど、水色だよ。いや……、どっちでもいいか。で、瞳も青色で、少し長めの髪型にしているわ。

 私は昔から、自分の才能を信じて疑わなかった。だって、サプレサーの勉強だって、ちょっと頑張っただけでトップになったし、スポーツも、何も練習しなくても、素人同士なら、まず負けなかった。サプレサーとしての戦闘なんて、同年代の奴に負けたことなんてなかった。

 だから、自分はいわゆる天才なんだと、信じて疑わなかった。自信過剰だって言われることもあったけど、仕方ないじゃない。

 実際、学院での事件の時、私は先生の一人と協力して、オーガを倒した。そして何とか最後まで生き残り、教頭に助けられた。

 この時私は教頭の異常な強さを目の当たりにした。

 強烈な光を放って現れた教頭は、同時に三体のサタン相手に、一歩も引かずに戦っていた。

 更に敵が増えて、分が悪いと見るや、敵を上手く捌きつつ、私達生徒を窓から脱出させた。

 私は目が見えていたので、自分から飛び降りたけど、多分あの段階で生きていた人は全員助けられたと思う。

 その後どうしてすぐにサタン達が窓から追って来なかったのかはわからないけど、多分教頭が足止めしたんだろうと思う。

 その後隠れ家に住むことになった私は、戦闘が得意だとか言ってたレイをぼこぼこにし、度々再戦を申し込んでくる彼を返り討ちにして、暇を潰していた。

 それでもレイは確かに強かったから、私はいつも本気で戦っていた。

 だから、レイがラルクと戦うと言ったとき、私は当然レイが勝つものと思っていた。

 ところが結果は違った。ラルクが辛くも勝利し、レイは完全に自信喪失していた。それはそうだろう。ラルクの動きはどう見ても戦い慣れてない人のものだったし、馬鹿正直にも型にはまった動きだった。しかも戦いに関する才能が感じられない、応用力のなさ。それでも、レイが負けた。偶然ではない。ラルクの技は、信じられないほど、完璧だったのだ。それこそ、才能を覆すほどに。

 一体どれほどの修練を積んだら、ああなるのだろうか。私には分からない。

 だから、戦ってみたくなった。

 レイとラルクの戦いのあと、レジスタンスが結成された。私は教頭の異常な強さを思い出して、参加を決めた。そして、教頭が私達に稽古をつけてくれることになった。

 最初、教頭の訓練は、私達の実力を見るだけだった。だから私とラルクの戦いはあっさりと許可された。

 ラルクが回復したのは、レジスタンス結成から三日後、火傷のあともすっかり無くなっていた。シリアの回復呪文の腕には驚いたわよ。私よりすごかった。

 いつものように、教頭が無駄に頑丈な結界を張り、私達はその中央で、五メートルの距離を置いて向かい合った。

 武器に殺傷能力を無くすための魔法をかけ、私は右手に剣を構えた。

 回りの観衆も、ぽつりと佇む隠れ家の入り口も、視界から追い出した。

 ラルクは両手で下段に剣を構えていた。

「試合開始!」

 教頭の声を合図にラルクが呪文を唱え始めた。

「code:0334a・熱よ、激しくあれ」

 私もすぐに呪文を唱えた。

「code:1204a・水よ、敵を打ち抜け」

 いつもの水の守りを使うのは読まれるだろうと思い、攻撃魔法を放ったのだけれど、意外にも、ラルクはレイが私相手に最初に使って失敗した魔法を使ってきた。

 これなら守りの魔法を使えばよかったと思いつつも、私の放った魔法が一気にラルクの放った熱を冷ましていることを確認しつつ、剣を構える。

 前方には、大分威力の衰えた私の魔法で体が濡れるのも気にせず、ラルクが突っ込んで来ていた。

 剣の重さから見て、まともに打ち合ったら私が押されるのは明白だった。だから、私は新たな呪文を唱えつつ、ラルクの攻撃を受け流そうとした。そして、弾き飛ばされた。

 ラルクの想像以上に速い攻撃は、私の反応速度ぎりぎりのものだった。受け流す余裕のなかった私は、真正面で受けてしまい、余りの衝撃に、自ら後ろに跳んで距離をとるしかなかった。

 ニメートルほど跳んで、受け身をとりつつ不完全な詠唱のまま魔法を放った。

 私の手から放たれたいくつもの水の弾丸が、弱々しいものの何とか牽制の役割を果たし、ラルクの追撃を僅かに遅らせた。

 その隙に跳び起きた私は、接近戦の不利を悟り直ぐさま別の魔法の詠唱に入った。

 しかしラルクままた、魔法を使っていた。

 私の牽制を軽くいなしながら、ラルクは呪文を唱え、いくつもの炎をその周囲に生み出していた。

 それら全てを防ぐことは出来ないと分かっていた私が紡いだ魔法は、熱の軽減の魔法。体に纏った薄い水のベールは、ラルクが打ち出した炎の弾丸の威力を弱め、大量の水蒸気を出した。この視界の悪さでは、接近戦は仕掛けて来ないだろう。

 私は今しがたうけた炎の応酬によって、あちこちを火傷していた。余りの痛みに体が上手く動かなかった。

 次の一撃で決めなければ、私に勝ちはないだろう。そう判断した私は、一瞬躊躇ってから、この魔法を唱えた。

「code:1725b・水よ、全て飲み込め」

 bクラスの魔法。学院の生徒は三年生になって初めて使用が許される、中級の魔法。しかし私達がこれを使用する事を禁止していた学院は、もはや存在しない。そう自分に言い訳して、私は最大威力で魔法を放った。

 ラルクも何か魔法を放っていたのだろう。しかし私が放った巨大な水の渦は、魔法ごと、ラルクを飲み込んだ。

 大量の水しぶきをあげ、ラルクは渦の中心に向かって引き込まれていく。

 ラルクは呪文を唱える余裕はないようだった。


 勝った……


 私が確信したのとほぼ同時に、水の渦に向かって無数の光の帯が走った。

 その帯は無理矢理ラルクを渦から引っ張り出すと、乾いた地面に放り出した。

 教頭の魔法だった。

「試合終了。勝者セレナ」

 教頭が不機嫌な声で言い、私を睨んだ。

「あ……」

「『あ』じゃない。セレナ、お前はラルクを殺す気かっ!」

 私はこの時初めて、ただの試合だった事を思い出した。試合に夢中になっていて、危うくラルクに致命傷を与えるところだった。

「ごめんなさい……」

 私は俯いて、小さく言った。

 教頭がラルクを助けたおかげで、ラルクは無事、生きていた。

 意識を失っているラルクを見て、ウィルが、

「僕はセレナさんに逆らわないようにしよう……」

 などと宣っていたが、私は弁解する元気もなかった。

 私は全身の火傷の痛みに耐え兼ねて、そのまま地面に倒れ伏した。

「セレナちゃんっ!」

 シリアが慌てて駆け寄ってきた。

 それよりラルクの心配したほうが良いんじゃないの……?

 と思いつつ、シリアの治療を黙って受けた。


「流石セレナちゃんだね……、ラルク君も強かったのに」

 シリアが治療の合間に話し掛けてきた。

「……」

 私は何も答えられなかった。

 私は確かにラルクに勝った。しかしあんな勝ち方でよかったんだろうか。bクラスの魔法を使わなければ、間違いなく私は負けていた。あのくそ真面目なラルクの事だ、仮に使える実力があっても、bクラスの魔法なんて、使った事すら無いのだろう。

 もし、ラルクもbクラスの魔法を使っていたら、勝てただろうか。否、きっと私は負けていただろう。同じ条件ならば、私が負けていたのだろう。


 悔しかった。


 私が、同じ条件で戦って負けるなど、絶対に認めたくなかった。

「セレナちゃん……、顔が怖いよ」

 シリアがぽつりと言った。

 怖いって……。

「うるさい」

 むっとしてシリアに言った。シリアは泣きそうな顔になり、明らかに動揺して、治療の手がぶれていた。

 余計に痛いって。

 悪い事をしたかなと思いつつも、私はじっと黙って治療を受けていた。


 今は誰とも喋りたくなかった。


 私とラルクはその後しばらく回復に時間がかかった。私は全身の火傷が、ラルクは渦に巻き込まれた時の打撲が酷かった。

 私達二人は、三日間の間、雑事と訓練を免除された。

「お前ら無理しすぎだろ」

 レイが呆れたような目で見てきた。

 お前に言われたくないわっ。

 と思ったが、やっぱり私はだんまりを決め込んでいた。

「勝った癖に落ち込むとか、無性に腹立つな」

 レイが何か言っていたが、無視。

「なあ、今の内に報復していいか?」

 ……何に対する報復なのよ。

 レイのちょっかいを黙殺して、私は、寝ている振りを決め込んだ。

 やることといったら寝て回復を早める事しかなかったので、私は時間を持て余していた。

 次にラルクと戦ったら、どうやって攻めれば良いだろう。そんなことばかり考えて、三日間ひたすらに暇を潰していた。

 時々やって来るレイはとりあえず無視し、シリアなら適当に会話し、他は誰もやって来ない……

 と思っていたら、二日目の昼に意外な奴がやって来た。

 ラルクだった。

「……もう治ったの?」

 私は驚いた。確かこいつは全身に打撲を負っていたはずだ。一日寝ただけで治るものか?

「え、まあ、そこそこは。それよりセレナは大丈夫?」

 わざわざ確認しにきたのか。無駄に真面目な奴め。

「心配無用。明日には治ってるわよ」

「そっか、ごめんね、ちょっとやり過ぎちゃったかな」

「だから大丈夫だって言ってるでしょうが。加減してたら私が圧勝するわよ」

 ……虚勢をはってみた。

 ラルクはそのまま、「失礼しました」とか言って部屋を出ていった。

 ……それだけかよ。

 その後私は、ラルクがさっさと復帰してしまったから、私もいつまでも寝ている訳にもいかないなあなどと考えながら、眠りについた。


 三日目には、私は暇に耐えられなくなって、まだ完治していない体を無理矢理起こした。ラルクはあろうことか、回復しきる前から食糧の調達に行っていたらしいが、私はそんな愁傷な性格はしていないので、久々に体を動かして、こっそり自主訓練に励んで一日を終えた。

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