間章
一章は前話で終わりました。
「暗黒時代か……」
ひんやりとした石の床にどっかりと腰をおろした、いかつい顔をした冒険者の男が、腰に挿したロングソードをいじくりながら呟いた。
「五人もの魔王が一つの時代にいたなんて……、想像もつかないわね」
男の向かい側に座って、ずっと無表情のまま話を聞いていた魔法使いの女は、わずかに顔をしかめて言った。
どういう訳か、石像となってしまっている男――――ラルクと言うのだろう――――の話を聞き、冒険者達は、今の自分たちの時代について思いを巡らせた。
世界を支配しようと企む二匹の魔王。それでさえも、彼ら人間にとっては十分な脅威だった。その二倍以上の数の魔王、それが一つの時代に君臨した時、どれほどの被害が出るのだろうか。
冒険者達の心中を察したのか、女性の方の石像は、その色の無くなってしまった唇を開く。
「私達のいたところは、この時はまだそれほど酷くもなかった。森に入っても魔獣に出くわすこともほとんどなかったし、近くの街が魔獣に襲われることもなかった。でも、他の地域はそうじゃなかった。私達が通っていた学院の周りなんて、ほんとに街なかで、魔獣の侵略とは最も縁がない街だと思われていたのに、それでもあんなことが起こってしまった。絶対安全な場所なんて、それこそどこにもなかったわ……」
「学院は……、あの事件の後、学院の周りはどうなったんだ?」
剣士の男が聞いた。
今度は男の像――――ラルクが答えた。
「あの後は、それは酷かったらしい。学院を拠点とした魔獣達が、そのまま街を攻撃して、結局、グルセントス――――学院のあった街の名前だけど――――はそのまま占領されてしまった。何とか隣町への侵攻は食い止めたらしいけど、そのあともじわじわと勢力を拡大していって、僕達がレジスタンスを結成した頃には、周りの街もほとんどが落とされていた。学院の周りだけじゃない。あちこちで、学院みたいな、予想外な所からの襲撃を受けて、次々と人の治める街が占領されていった。その余波は、やがて僕達の隠れ家の近くまで訪れたんだ…………」
次は第二章『ラルクは何所?』になります。なるはずです。