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三話

 開始の合図は、さも当たり前のように先生が出した。

「では、試合開始!」

 開始と同時に、二人は呪文を唱え出した。

「code:1121a・取り巻く水よ盾となれ」

「code:0334a・熱よ、激しくあれ」

 レイが放った熱の波は、放射状に広がり、セレナを襲ったが、セレナの魔法で生じた大量の水でに冷まされてしまった。

 熱の本流を冷ましてなお蒸発せずに残った水は、セレナの周りを不規則に回り始めた。僕がその様子を観察している内にも、二人は次の呪文を唱え始めていた。

「code:1204a・水よ、敵を打ち抜け」

「code:0230a・貫け。赤き炎よ」

 今度は二人の魔法が一直線に飛んだ。レイの撃った炎は、セレナの周りを回る水にぶつかり、残った水を全て蒸発させた。対するに、守る物の何も無いレイは、魔法の発動とほぼ同時に跳ぶことによって、何とかかわした。しかしそれによって生まれた時間差を、セレナは見逃さなかった。

 そこからは一方的な戦いだった。

 結局、レイは反撃のタイミングをつかめずに、最後はセレナの発した光の魔法で、がんじがらめにされてしまった。

 二人とも二年生とは思えないほど、魔法を上手く使いこなしていた。

「凄いね、二人共、aクラスの魔法だけであそこまで激しく戦う人、始めてみたよ」

 ウィルが、驚きの声を上げた。

 aクラスというのは、魔法のランクの事で、このクラスの魔法は、魔法の中では最も扱い安くその分威力が低い。

 魔法を使うときは、魔法を特定する魔法コードというものを最初に唱える。魔法コードは、四桁の数字と、その魔法のランクを表すアルファベット(a、b、c……)からなる。つまり呪文の最初さえ聞けばその魔法について色々分かるようになっているのだ。

「くそっ、勝てると思ったのに……」

 レイは光の紐にぐるぐる巻きにされながら、セレナを睨み付けていた。

「あら、どこら辺に勝算があったのかしら?」

「ぐ……」

 勝者の言葉に、レイは何も言い返せないようだった。

「あの……、次は私が自己紹介してもいいかな……」

 何となくおっとりした感じの少女が、恐る恐るといった感じで口を開いた。

 僕達が自己紹介の途中だったことを思い出すと、その少女は自己紹介を始めた。

「えーと……、私の名前はシリアです。好きな食べ物は林檎で、得意な魔法は、光の系統です。学年は私も二年生で……、こんなもので良いでしょうか、よろしくお願いします」

 シリアの自己紹介が終わり、残るは僕とあと一人となった。一番最後というのも嫌だったので、僕は立ち上がって自己紹介した。

「僕はラルクです。同じく二年生で、だいたいどの系統の魔法も同じくらい鍛えています。あまり力が無いので軽い武器が得意です。よろしくお願いします」

 僕は無難に自己紹介を終え、最後の一人を見た。

 先程から全然喋っていなかった無口なその少年は、ゆっくりと立ち上がって、小さい声で自己紹介したのだが、僕は名前しか聞き取れなかった。彼の名前は「ヘイド」と言うらしい。

 これで全員が自己紹介を終えた。

 僕達は改めて先生を見た。

「……これで全員だな。ではそろそろ落ち着いてきた事だろうし、状況を説明しよう。今私達がいるのは学院から南に五キロ程離れた所だ。場所は比較的魔獣の被害が少ない所ではあるが、学院が占領された以上、いつ魔獣の手が及ぶかわからない。帰るあてがあるなら帰っても構わないが、今やどこに行っても危険だ。そこで、だ。しばらくここで生活しないか?」

 ここで先生は僕達を見回した。僕達はみんな難しい顔をして考えていた。

 僕はどうしようか。

 この時僕は家に帰る事も出来ただろう。しかし僕の家は決して裕福ではなかった。学院にいる内は、補助金が出ていたし、寮には無料で泊まれた。ここで僕が帰ってしまえば、家のお金は底をつくかも知れない。

 僕以外の人も大体僕と同じような状況の人がほとんどだろう。皆悩んではいたものの、家に帰ると言った者はいなかった。

「……全員残るのだな?」

 先生の問い掛けに、僕達は躊躇いつつも、頷いた。



 地下での暮らしは、思いの外快適だった。魔法が上手な人が多かったせいか、ほとんど不自由の無い暮らしだった。

 朝は完璧な体内時計を備えているレイが皆を起こし、朝食は先生が作ったり、シリアが作ったりして、昼は外に遊びに行く事も出来るし、魔法で洗濯も出来るし風呂も沸かせるし、僕達はとにかく充実した日々を送っていた。

 もちろん僕はサプレサーの訓練も欠かさなかった。セレナに標的にされるのは御免なので、ずっと黙っているが、僕もレイやセレナとやり合える自信はある。

 しかし僕は時々思うのだった。

 魔獣に相対したとき、果たして僕は自分の実力を出せるだろうかと。

 思い出すのは学院が魔獣に襲われたあの日、僕は逃げ回るだけで、戦う余裕など少しもなかった。

 セレナはあの中で魔獣と戦ったと言っていた。それなのに、僕は何も出来なかった。

 僕は自信を取り戻すためにも、魔法の訓練を続けていた。



 ある夏の晴れた日、僕達が地下で生活し始めてから一月が経過した頃、先生がふと僕達に尋ねた。

「おまえ達が普段使っている武器は何だ?」

「俺は槍だな」

 レイが真っ先に答えた。

「僕は片手剣です」

 答えて、僕はウィルを見た。

「僕はロッドだよ」

「えっ、ウィルって魔法で戦うタイプだったの?風系統の魔法を使うのに?」

 セレナが驚くのも無理はなかった。ウィルの得意なのは風の系統の魔法、接近戦の補助に使われる事が多く、武器と併用して使うのが一般的なのである。風系統で魔法のみでの戦闘をする人は、まず居なかった。

「まぁ、他の系統も使えない訳じゃないしね。ほら、なんか他の人がやらないような事をやってみたいじゃん。ところでセレナさんは何を使うの?」

「私は色々使っていたからな……、でも一番気に入っていたのはやっぱり細身の剣かしらね……。腕力にはあまり自信ないし……」

「セレナちゃんでも自信無いなんてことあるんだ……」

 シリアが小さく呟いた一言に、レイが爆笑した。

「そりゃ私だって……、ただの自信家一緒にしないでよ」

「ご、ごめんなさい。なんか、セレナちゃんなら何でも出来そうだったから……」

「私だって苦手な物くらいあるわよ。というかレイ、いつまで笑ってるのよ」

「いや、すまん。セレナが自信無いとか、考えてみれば確かに似合わねぇ」

「なんかムカツクんだけど……」

 何だか不穏な空気が漂い始めたので、僕は話題を戻すことにした。

「で、ヘイドとシリアの武器は?」

「僕はナイフとか……」

「私もウィル君と同じでロッドですよ」

「ふむ、ウィルとシリアはどういったタイプのロッドを使うんだ?」

「僕は魔力制御の補助になるやつを使ってましたよ」

「私は魔力精度を上げる物を使ってました」

「そうか……、みんな上手い具合にバラけているな。どうだ、今度全員に武器を買ってやろうか。どうせみんな武器は学院に置いたまま取られたのだろう?」

「え、いいんですか、こんなにいるのに……」

 武器を揃えるのには結構なお金がかかるので、僕は驚いた。

「構わん。武器があった方が、外出しやすいだろう?おまえ達にも働いて貰わない事には私の体が持たないからな」

「やった!ありがと。せんせ」

 レイがとても喜んで言った。

 結局、次の日にすぐに買いに行く事になった。

 出発前、先生はくどいほど、

「いいか、此処の事は絶対に人にばらすなよ。隠れ家としての役割もあるんだからな」

 と言って聞かせた。その後は、朝からやたらとハイテンションなレイに半ば引きずられるようにして、僕達は久々に街へと歩き出した。

 途中、先生が「体力をつけろ」と言い出して、僕達は街までのやたらと長い行程を走る事になった。

 知らない土地で、おいてきぼりを食らう訳にはいかなかったので、僕達は必死でついていった。

 僕達が行った街は、「ゼルメス」という街で、魔獣の被害が少ないのか、活気に満ち溢れていた。僕達は所狭しと並ぶ店の中から、ちょうど良さそうな武器屋を探していった。

 慣れない街の中で、大分うろうろした僕達は、たっぷり時間をかけて、最適な武器を探した。

 先生にアドバイスを貰いながら、武器を選んでいた僕達は、昼食を挟んで日が傾く頃まで街を歩き回った。

「いやー、楽しかった。なんか人込みを見るのも久しぶりだな。あそこの周りときたら草原と森しか無いんだもの」

 レイが伸びをしながら言った。

「ところでさ、またここから走るの?」

 ウィルが恐る恐るみんなに聞いた。

「うむ……、走らないと、真夜中に森を抜ける事になるからな。来た時くらいのペースで走らないと……」

 先生の言葉に、僕達の動きが完全に止まった。

「武器持って、あのペース……」

 流石のセレナも、表情に余裕が無かった。

「先生、本気……、ですか?」

「冗談だ」

 この一言で、僕達の半数は崩れ落ちた。

「冗談かよー、心臓に悪いぜ。先生」

「死ぬかと思った……」

 僕達は完全に力が抜け切った。一通り安心したところで、僕は質問した。

「でもそれじゃあどうやって帰るんですか?」

「今日は宿に泊まっていくぞ。明日になったら走れるだろう?」

 僕達は二つ返事で賛同した。

 僕達が泊まった宿は、木造の小さな宿で、殆ど僕達で貸し切り状態になってしまった。僕達は一人部屋に二人入ったりして、何とか宿に収まった。

 僕は、ウィルと一緒の部屋で、ゆったりと雑談に興じて、街を歩き回った疲れを癒した。

 夕食は、全員集まって、わいわい騒ぎながら食べた。レイがやたらと沢山食べるので、セレナが文句を言っていた。

 僕達はすっかり疲れていたので、普段よりもずっと早く寝た。

 こういった平和な日々が、いつまでも続けばいいのにと心の底から思ったのは、僕だけではなかっただろう。


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