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一章・結成『レジスタンス』

 いつの時代も、世に魔獣が絶えたことはなかった。

 魔獣はどこからともなく沸いて来る。魔獣は親を必要とせず、従って種の絶滅というのは起こり得ない。対するに人間というのは、男女が揃って、初めて子孫を残すことができる。

 遥か昔から、人と魔獣は争いを続けてきた。魔獣を討伐する人のことを、討伐する者(サプレサー)といい、個人、或いはパーティーで、世に蔓延る魔獣を討伐している。しかし魔獣もただやられている訳じゃない。魔獣は人を襲うし、農作物を荒らしたりもする。

 さらに厄介なのは、魔王と呼ばれる頭のいい魔獣で、奴らは城を建てたりして、広い地域を荒らしたりする。いつの時代も、一、二匹は魔王がいるものなのだが、いつのまにか、5匹もの、強大な魔王が、人類を脅かすようになっていた。その中でも、人々は必死に戦い続けている。人の敗北は、人類の絶滅を意味しているのだ。おいそれと負ける訳にはいかない。

 しかしこの頃は、特に情勢が悪い。次々と村が襲われ、人々は恐怖と共に暮らしている。より強いサプレサーが必要となり、サプレサーになろうとする者が増えた。

 僕もその一人、幼い頃から剣を握り、必死で魔法を学んだ者の一人だった。


 僕の名前は、ラルク、平均的な身長で、中肉中背、およそサプレサーらしからぬ体型だった。髪も瞳も黒で、周りの人間が皆明るい色だったので、少し浮いてる感じだった。

 13才になった僕は、サプレサーになるため、当時は国内最大規模だった、テレストス戦闘訓練学院に入学した。

 そこで僕が二年生になったとき、事件は起こった。


「おはよ-、ラルク」

 いつものように、リュウが声を掛けてきた。リュウは僕よりも一回り小さくて、人懐っこい丸顔の少年だ。白っぽい髪をもち、それらを短く切っていた。

「ところでラルク、休暇中の宿題は終わった?」

 僕は春休みの間に終わらせた宿題の重みを確かめ、「終わった」と答えた。

「流石ラルク。はやいな-」

 リュウはそう言ったが、提出日までに終わらせるのは当然であり、別に早くもなんともない。僕が「リュウはまだなの?」と聞くと、「もちろんまだだよ」と即答された。

 二年生になって、クラス替えがあったが僕とリュウは一緒のクラスのままだった。

 二年生になったからといって、特に何か変わる訳でもなく、授業はいつも通り進んだ。

 放課後、僕とリュウはその他数人の仲間と共に、雑談に興じていた。

「そろそろ帰るか」

 流石にこれ以上グダグダしている訳にもいかないと思い、僕が提案すると、みんなゆっくりと帰る用意を始めた。

 誰もいなくなった廊下に、僕達の足音だけが響いていた。どうやら僕達は結構長く話し込んでいたらしい。どの教室にも誰も居なかった。

 ふと、辺りの空気が一気に重くなった気がした。同時に、僕達の前の方から、一人の人が歩いてきた。真っ黒なスーツに身を包み、重々しい足取りで歩いてきた何者かは、まるで僕達などそこにいないかのように、目もくれずに歩き去っていった。

 あまりに暗い雰囲気に、僕達はしばし言葉を失っていた。

 その人がが見えなくなって、始めて僕は口を開いた。

「誰、あの人……」

 友達の一人が、声を低くして教えてくれた。

「教頭だよ、うちの学校の」

 その後も会話は弾まず、僕達は静かに下校した。


 時が経ち、夏になった。

 2階の教室にも大分慣れ、クラスのみんなと仲良くなった頃、事件は起こった。

 5時間目、昼食を食べて睡魔の力が一段と増し、生徒達の意識が次々と別世界へ旅立ってゆく時間、唐突に、サイレン音が鳴り響いた。突然のことに、誰もが意識を取り戻した。

「地下1階より、魔獣が複数侵入しました。生徒は、至急避難して下さい。繰り返します……」

 途端に教室は大騒ぎになった。

「どうしよう、私の妹大丈夫かな?」

「やばい、こんなとこで実戦なんて御免だよぉ」

 この名門のテレストス戦闘訓練学院は、その鉄壁の守りで、未だかつて魔獣に侵入を許したことはなかった。生徒はもちろん、教師の心中も穏やかではなかった。

「静かに!!」

 僕達のクラスでさっきまで魔獣について教えていた先生は、声の限りに叫んで生徒達を落ち着かせようとしていたが、パニックになった生徒はなかなか静まらなかった。

 それでも何とか団体行動が出来るくらいに落ち着いて、避難が開始された。1階に下りるのは危険という事なので、二年生以上のクラスは3階の大ホールに避難した。

 学校中の生徒が集まり、ホールはとてもうるさかった。ホールには数人の先生が残り、他の先生は魔獣と戦いに行った。刻一刻と、ホールの緊張が高まっていった。

 どれほど経ったであろうか、ホールに集まった生徒が、緊張によって疲れを見せ始めた頃になっても、ホールには何一つ情報はもたらされなかった。

 さらに長い時間が経ち、ホールが沈黙に支配されるようになった。

「逃げろ!」

 唐突に、廊下から叫び声が聞こえてきた。

 声を追うようにして、ホールに人が駆け込んできた。見ると、火炎魔法の教師が、ボロボロな状態で立っていた。服には無数の傷があり、血が滲んでいた。

「はぁ、はぁ……、逃げろ、みんな、なるべく遠くに、この学院は、魔獣に占領される。勝ち目は、ない」

 誰もが耳を疑った。今まで絶対安全圏にあったはずの学院が、魔獣に占領される。おそらくこの場にいた人間で、それを信じられた者はいないだろう。

 だから、全員の行動が遅れた。

 そしてその遅れは致命的だった。

 人々が動き出すまえに、ホールに魔獣の咆哮が轟いた。

 さっきやって来たばかりの教師の背後に、でかい翼の影が重なった。

 咄嗟に振り向いた教師は、直ぐに魔法を放ったが、それはかわされ、魔獣の鋭い爪が振り下ろされた。

 ホールに血渋きが舞った。

 複数の悲鳴が重なり、瞬く間に混乱が伝染した。

 ここでようやく生徒が逃げ始めたが、唯一の逃げ道は窓であった。

 魔獣はホールの入口付近で、片端から人を切り裂いていた。血が飛ぶ度に、悲鳴があがった。魔獣と戦おうという者は、教師だけであった。

 ホールに現れた魔獣は、サタンと呼ばれる、魔獣の中でもすこぶる強い敵だった。教師が数人がかりで、何とかサタンを倒した。

 ほっとしたのもつかの間、油断した教師の首が飛んだ。いつの間にか、新たに数匹の魔獣がホールに侵入していた。今度は教師の手にも負えなかった。

 再びホールが地獄と化した。

 人の悲鳴と魔獣の雄叫びが入り乱れた。ホールには血の臭いが立ち込め、人には耐え難いものだった。

「何で……、何でこんなことにっ!」

 サプレサーを目指しているにも関わらず、このとき僕は何も出来なかった。膝が笑って、その場にしゃがみ込んでしまっていた。幸い、僕はホールの中央付近にいたので、未だ生きていたが、魔獣に引き裂かれるのも時間の問題だった。

 ホールに新たな魔獣が現れた。筋肉が付きすぎた、ニメートル近い巨体に、異様なほどごっついこん棒、オーガと呼ばれる魔獣だった。

 オーガが、10匹以上いた。

 もはや悲鳴すら出なかった。

 生きた人間の数がどんどん減っていった。

 高学年の生徒たち(三・四年生)は、魔法を使って窓から脱出した人もいたようだが、それは全体からみるとあまりにも少なかった。

 一方的な虐殺は30分近くも続き、その頃にはホールには100を遥かに越える屍が、無惨に転がっていた。

 残った人は、もはや数える程しか居なかった。その中で僕が生き残ったのは、幸運としか言いようがなかった。この頃には、僕もある程度落ち着いていて、自分に可能な限りの守りをかけていた。

 しかし魔獣との直接対決では、勝ち目はないことは明白だった。ここにいるのは、高位の魔獣だけだった。とにかく逃げまわっていた僕だったが、それももはや限界だった。ふと殺気を感じて後ろを振り返ると、10メートル程先にいたオーガとバッチリ目が合ってしまった。慌てて目を逸らしたが、どうやら標的にされてしまったようだった。そいつは、ニタリと口を歪めると、僕の方に走ってきた。

 足は僕より断然速かった。

 僕とオーガとの距離が、あっという間に縮んでいった。

 5メートル、3メートル、2メートル、1メートル……。

 オーガが振りかぶったこん棒が、凄まじい速度で振り下ろされた。すんでのところで交わしたが、衝撃で尻餅をついてしまった。

 再びオーガが距離を詰め、僕が起き上がる前に振りかぶった。

 駄目だ、死ぬ。

 僕が思ったその時、ホールが雷に討たれたかのように光った。あまりに強烈な光に、僕の目は焼けるように痛みだした。目の前にオーガがいるにも関わらず、僕はその場にうずくまることしか出来なかった。

 しかしいつまで経っても僕がやられることはなく、時折、魔獣の悲鳴が聞こえてくるだけだった。

 いつの間にか人の悲鳴がさっぱり聞こえなくなっていた。

 僕が見えない目を必死に開けようとしていると、何者かに襟首を掴まれた。僕の足は地面を見失い、揺さぶられたかと思うと、いきなり投げ出された。そして身体が風を切る感覚と共に、急激な落下を感じた。

 ぞっとするほど長い落下だった。落下の途中で僕は悟った。僕は窓から投げ出されたのだった。

どうだったでしょうか、次の土日のどちらかで更新します(多分)。

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