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十二話

セレナ視点に戻りました。

「バシィッ」

 何の装飾もない石造りの壁に、爽快な音が響き渡った。

 私は失いかけていた意識が急に戻ってくるのを感じた。私の首を絞めていた力が無くなり、体に自由が戻ってきた。

 何が起こったのか、つい先ほどまで私の首を絞めていた男が三メートル程吹き飛ばされていたのだ。

 見ると、レイやウィルと戦っていた敵も、同様に吹き飛ばされていた。服が濡れていたので、おそらく水の魔法を食らったのだろう。勿論、私が水の魔法を放ったわけではない。

 魔法を放ったのは、ラルクだった。

 扉の前で、肩で息をしながら、さらに新たな呪文を紡いでいた。

 さらに良く見ると、ヘイドとシリアまでもが、そこにいた。三人とも、息を切らせているものの、しっかりと呪文を詠唱している。

 そこで私は我に返り、起き上がって襲ってこようとしていた黒服の男へ武器を振るった。

 どうしてあの三人がここにいるのかを聞く暇もなく、私達は部屋をいっぱいに使って戦った。

 今度は黒服の男と私達のメンバーの数は同じ、六対六。しかし白服の奴らも黙って立っている訳ではなかった。

 私達が少しでも黒服の男達と距離を置こうものなら、すぐさま魔法の攻撃が飛んできたし、それでなくても、黒服の男達を様々な方法で援護してきた。

 シリアは接近戦ができない上に、攻撃魔法も使わないので、私はシリアと組んで黒服の男を二人相手取った。

 シリアの援護魔法は常にタイミング良く、白服の男達の妨害も上手くかわしながら、私を援護してくれたので、私は二人を相手に十分以上にやりあえた。

 さしたる時間もかからずに、二人の男のうち、一人を私の剣が貫いた。

 人を切る嫌な感覚が私の腕に伝わってきたが、今まで無数のヒト型の魔獣と戦ってきた私は、いまさらそんなことを気にしたりはしなかった。

 私の敵は残り一人だけ。

 このままなら押し切れる。

 私がそう確信した時、ふとラルクの姿が視界に入った。

 彼もまた、黒服の男相手に優勢に戦いを進めているように見えた。黒服の男は、体中に切りつけられた跡があったし、対するにラルクの方はほとんど無傷で、動きも鈍っていなかった。しかし、なぜかその表情は硬く、攻め方に余裕が感じられなかった。

 私がそのことをいぶかしんだ、丁度その時、黒服の男が私と大きく距離をとった。同時に白服の男達の攻撃魔法が放たれる。

 私が避けきれないものは、シリアが上手く逸らしたり、防いだりしてくれるので、すぐに私は男との距離を詰めた。

 男が完全にはかわし切れない軌道に攻撃を放つ。これを繰り返していけば、いずれ男は力尽きる……。

 そう思って放った私の攻撃は、男の手によって止められた。かわすでも、腕輪で弾くでもなく、止められた(・・・・・)

「な…………」

 私の攻撃は、男の手によって、しっかりと止められていたのだった。そればかりか、しっかり掴まれて、引き抜くことすらできなかった。切れ味抜群の、鋭い剣先が、男の手によって掴まれていたのだ。

「一体どういう……」

 呟きかけて、私は見てしまった。男の異常に発達した爪を。

 弱弱しい光を反射して、ギラギラと光っている、魔獣の爪。

 人にあるまじき毒々しさをもった、恐怖を引き起こさせる、それはまさしく、凶器であった。

 男は剣を掴んでいない方の、空いている手を振りかぶって、私に向かって振り下ろした。

 とっさに剣を放して飛びのいた私は、しかしよけきれずに肩を軽く抉られた。

 まるで水面に手を突っ込んだかのように、男の爪はいともたやすく私の体にくいこみ、引き裂いた。

 信じられないくらいの鋭さに、思わずひるんでしまった。シリアがとっさに魔法を放たなければ、そのままやられていたかもしれない。

 シリアの放った光の帯が、男の動きをわずかに鈍らせて、私はかろうじて攻撃をよけることができた。

 しかし、武器を失った私は、男の猛攻を防ぐことができず、肩の傷も相まって、すぐにやられてしまった。

 かわし切れなかった敵の攻撃が、私の足を引き裂き、自分の体重を支えきれなくなった私は、その場に崩れ落ちた。出血も酷く、意識を保つのでさえやっとといった私の様子に、止めを刺そうとした男は、横合いから放たれた稲妻に黒焦げにされた。

 雷の攻撃魔法を放ったのは、シリアだった。

 シリアが今まで攻撃魔法を使っているところを見たことが無かった私は、思わず目を疑ってしまった。シリアが使ったのは、どう見ても、bランクの攻撃魔法。私の魔法よりも強かった。

 攻撃を受けた男の方は、すっかり黒焦げになり、再起不能、確実に死んでいた。

 しかし、シリアもまた、顔面蒼白。多分、大量に出血している私よりも青白い顔をしていただろうと思うほどだった。

 なぜシリアが震えているのか、この時私は分からなかった。

 サプレサーなら、ヒト型の魔獣や、人に変身した魔獣と戦うときに躊躇しないように、精神を強く持つ訓練を受けているはずだから、多分相手を殺したことでは無いのではと思うのだが、シリアのやさしい人柄ならいくら訓練を受けていても、恐ろしいものは恐ろしいのかなどと、はっきりしない頭で考えていたのだが、どうもそれだけではないようなくらい、シリアの震え方は酷かった。

 しかし、いつまでも震えている訳にもいかないようだった。

 男を二人とも倒してしまったために、私達は白服の男達の絶好の的になってしまったのだった。

 四人の白服の男どもの内、三人が一斉に魔法を放ってきた。残りの一人はラルク達にちょっかいを出していた。

 シリアはとっさに防御魔法を唱えたが、私達二人を完全に守るのは、かなり無理があった。

 抜けてきた攻撃が、私達に無視できないダメージを与えた。

 私は動くことはできないので、魔法でシリアを援護するしかなかった。

 私は例の如く、大量の水を召還して、守りにあてがった。

 私が敵の攻撃をできる限り抑えている間に、シリアが新たな攻撃魔法を唱えた。

「code:4528c雷神の怒りよ……、天より来たれ」

 なんとcランクの魔法。詠唱の声は震えて、それはそれは酷いものだったが、それでもイメージは完璧だったらしい。魔法はcランクの名に恥じない凄まじい威力を見せ、部屋全体を強烈な光で照らしだした。

 あまりの光の強さに、私はしばらく何も見えなくなったが、敵の悲鳴らしきものが反響していたのは今でも忘れることができない。まさに圧倒的な威力だった。

 しかし、事はそう簡単にはいかなかった。

 シリアの魔法は、確かに白服の男四人を確実に仕留めたが、黒服の男がまだ四人も残っていた。いつの間にか、四人全員が、異様に長い爪をぎらつかせて戦っていて、ラルク以外の三人は、既にやられる寸前だったのだ。

 シリアは強烈な魔法を使った反動で、その場にうずくまっていたし、ラルクは相手を何とか追い詰めるところまでいっていたが、他の三人の黒服の男達が一斉に向かってきたので、そうなると最早ラルクにも勝ち目はなかった。

 その時レイ達は既に戦闘不能なくらいに痛めつけられ、最早私達の全滅は必死かと思われた。

 しかし、私達の強運は、奇跡を招いた。

 教頭の登場である。

 どこかに出かけていたはずの教頭が、男達がラルクに止めを刺そうとしたまさにその時に現れて、入口から狙い違わず光の矢で串刺しにしたのであった(狙いが少しでも狂っていたらラルクが串刺しになっていただろう)。

 いつか何所かでラルクがオーガにやられかけていた時のように、教頭は見事にラルクが死ぬのを阻止し、なおかつ一人で敵全員を相手取って戦い始めた。

 勝負はあっという間についた。勿論教頭の勝利で。

 強力な光と闇の魔法を使って、手早く敵を全滅させた教頭は、すぐさま私達に応急処置を施した。どうやら治療の方はあまり得意でないらしい。やたらな魔力を消費している割には、シリアの治療魔法の方が効果が遥かに高い気がしたが、治療してもらっている身でそんなことは言えるはずもなく、私はただ黙って教頭の治療を受けた。

 私達全員の治療が終わると、教頭は何も言わずに部屋から出て行ってしまった。

「あれ…………?」

 私達がどうしたものか測りかねていると、十分ほどして、教頭が戻ってきた。その手にはグルーアルと、その他に白服の男が一人と、黒服の男が一人。いずれも瀕死状態だった。

「いったい何を……」

 死にかけている男達に代わって、私が疑問の声を上げると、教頭は、

「黙って見ておけ」

 とだけ言って、男達を床に降ろした。

 グルーアルまでもが、瀕死の様子であることに、何か嫌な予感がしたが、何か言える空気でも無かったので、私は黙って見ていることにした。

 それからのことは、あまり思い出したくない。

 なんと、教頭は、男達を拷問にかけだしたのだ。

 筆舌に尽くしがたい方法でもって、男達から情報を聞き出すという、非人的な方法を平然と始めようとする教頭を、私達は必死で止めようとしたが、そんなことを聞く教頭ではなかった。

 拷問の手がグルーアルにまで及ぼうとしたところで、ラルクが必死に教頭を説得して、何とかグルーアルは教頭の魔の手から逃れた。あのラルクの様子を見るにグルーアルは悪い奴では無かったのだろうと推測できたから、私もほっとした。


 拷問をしている時の教頭の迫力を、私は生涯忘れないだろう。

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