第8話 退学処分 (1/2改稿)
リカの暴走は収まったのだが…
教室に戻ると、リカが病院に運ばれた事を聞いた。教頭室で突然倒れたらしい。
とりあえず、俺たちは教頭室に行ってみた。
「教頭先生、大丈夫でしたか?」
「ああ、何ともないよ」
「ずいぶんひどい目に合われましたね。本当にお怪我はないですか?」
「ああ、本当に何ともないよ」
(それに、ちょっぴり嬉しかったし)
と、教頭先生が小さな声でつぶやいたのが、偶然聞こえてしまった。
「…」
(教頭先生は『ヘンタイクソオヤジ』だった。リカが叫んでいた事は真実だったのだ)
気を取り直して、教頭先生に聞いた。
「教頭先生、リカの処遇はどうなりますか?」
「あれだけの騒ぎを起こしてしまったから、校長の耳にもすでに入っているよ」
「彼女は成績も振るわないし、暴力事件となると最悪の処分は免れないだろうね」
「それって、退学ということですか?」
「ああ。そうなる。暴力事件を起こせば原則的に退学処分だ。彼女を庇う事は無理だよ」
「もちろん、リカ君にも弁解の機会は与えるよ。ただ、決断は校長、つまりAIが行うから、われわれ人間が抗っても無理なのだよ」
「承知いたしました。何とかリカを救う方法を考えてみます」
そう言い残して、俺たちは教頭室を後にした。
---
「どうしよう? 教会の遺跡のことや、女神様の事、ブレスレットことなど、すべて正直に話して、リカの暴走はリカの責任ではなく、魔導器の暴走によるものだったと説明しようと思う」
「でも、おそらく信じてもらえないと思うわ。なにか、確たる証拠がなければ、石頭のAIを説得するのは難しいと思う」
「そうだね。証拠かぁ...」
何はともあれ、リカに会うために入院中の病院に行くことにした。
---
病室に入って、京子が声をかける。
「リカ! 大丈夫?」
ベットの上に座っていたリカは、京子の顔を見ると直ぐに毛布を被って寝てしまった。
「ごめんね。京子。私は大丈夫だから、もう帰って」
毛布越しにリカが言った。俺たちとは話したくなさそうだ。毛布にくるまっているリカは、泣いているようにも思えた。泣いているところを見られたくなくて、帰ってほしいのだろう。
「リカが落ち着くまで、すこし待つか。出直してこよう」
そう言って、病院を後にした。
---
次の日、教室にリカがやってきた。
「もう大丈夫なの?」
と、京子が聞くと、リカは
「大丈夫だよ。昨日はわざわざ来てくれたのに、ごめんね。それと、本当にいろいろとごめんなさい」
「学校に来れるのもあと数日だから、皆の顔が見たくて来ちゃった」
リカは、無理やり取り繕った笑顔で俺たちにそう言った。
本当は、泣き出したい気持ちだろう。気丈に振る舞うリカをみて、俺たちは胸が痛んだ。
「リカ、よく聞いて。リカがおかしくなったのは、あのブレスレットのせいなのよ。私たちは、女神様からいろいろと話を聞いたわ。リカは悪くないの」
「ブレスレットは、私が勝手に盗んできたものよ。きっとバチが当たったんだわ。悪いのは私。京子たちは何も悪くないよ」
「あのブレスレットを付けたら、外れなくなったの。そして、何かが頭の中でグルグルとうごめき始めて、自分ではどうしようもない衝動が起こったの。でも、それは私の問題。私のした事には変わりはないのよ」
「俺たちは、ブレスレットのせいで、リカの精神状態がおかしくなったことを校長先生に説明するつもりだよ。リカの意思ではなく、心神喪失状態だったと認められれば、退学は免れるよ。病院の先生にも相談して、診断書を書いてもらおう」
「ありがとう。でも、いいのよ。私は自分の犯した罪は償うわ。もう、誰にも迷惑は掛けたくないの。だから、あと数日、お友達でいてね」
「何を言っているんだ。何があっても、リカはずーっと友達に決まっているじゃないか。どうか、元気を出してくれ!」
俺がそう言うと、リカが大粒の涙をポロポロと流していた。
---
俺は、京子と一緒に校長に直談判することにした。歴史改竄の記録のことだけ伏せて、あとは厳罰を覚悟ですべて話すつもりだ。
通常は、校長と直接生徒が話をすることはできない。そのため、教頭先生を通して話をさせてもらう事にした。
(幸い、おれは教頭先生の秘密を知ってしまった。きっといいなりになるだろう)
教頭室で、俺たちは歴史改竄の件以外の事を、すべて教頭先生に話した。
教頭先生が信じられない顔をしているので、京子が女神様から渡されたブレスレットを教頭先生に見せた。
「これは…! 私も記録でみたことがある。100年前に使われていた、ディアデバイスだ。本当にこれが博物館の地下にあったのか?」
「そうです。なんなら、地下の教会遺跡に案内しますよ。もっとも、狂暴なガーゴイルがいるので、命の保証はしませんけど」
京子が強気で教頭先生に言った。
「君たちの話を、私は信じることにするよ。でも、校長と君たちを、直接つなぐことは、私の権限では無理だ。まず、校長に伺いを立てないと」
俺は、教頭先生のそばに行って、耳打ちした。
(ヘンタイクソオヤジ。今度は、京子に縛ってもらおうか?)
『シマッタ。聞かれていたか』教頭先生は、俺たちの顔を直視することはできず、下を向いたままこう言った。
「わかった。私が何とかするよ。1日待ってくれ。明日の午後に校長と直接話す機会を設けるよ」
京子は目が点になって、きょとんとしている。
よし。上手くいった。あとは、校長を説得するのだが、相手はアンドロイドのAIだ。石頭なんてもんじゃなく、理屈の固まりだからな。とにかく、本当のことを話してリカの精神状態を理解してもらえれば、処分を和らげてくれる可能性は大いにある。
「教頭先生に、何を言ったの?」
京子は不思議そうだ。
「男同士の秘密だよ。京子は知らなくていい」
「何よそれー。ケチ」
ほっぺを膨らましてプンプン怒っている京子は、とても可愛いらしい。
--- 第8話 END ---
次回、二人は教頭先生を説得するが、校長は...