第7話 二人に託されたもの(1/2 改稿)
リカの暴走を止めるために、教会の端末を調べにきたのだが
礼拝堂まで進むと、ガーゴイルが復活していた。ただ、襲ってくる気配はなく、こちらをジッと睨んでいる。
そして、驚いたことに俺たちの目の前に、美しい女性が立っていた。
「こんにちは。あなた達が私を呼んだのね?」
呼んだ? あの端末を起動したことか!? 周りをよく見ると、女性の石像が無くなっている。いや、俺たちの目の前にいるのがあの石像だ。
「女神様ですね?」
京子がその女性に話しかける。
「そのように呼ばれていた事もあるわ。あなた達、私の事を知っているの?」
「詳しいことは知りませんが、大昔に女神様と呼ばれていたAIが存在していたことを、母から聞いたことがあります」
すると、女神様は笑顔のまま返事をした。
「そう、私はAIよ。それも、この世界の理を担っていた中枢のAIなの。信じられる?」
「…」
なんか、凄い話になっている気がする。この世を支配してるAI? それがこの目の前で寝ている女性なのか? まったく意味が良くわからない。
京子が問いかける。
「でも、それは別の場所で動いているわ。全世界の秩序を見守っている神が。」
「そうね。私は旧式といったところかしら。今の世界を操っているAIとは違うのよ」
俺たちは絶句した。旧式とはいえ、世界を、つまり全人類を操っていたAIと直接話をしているなんて、信じられないことだからだ。
女神様は話を続けた。
「あなたたちが此処へ来た理由は、想像がつくわ。ブレスレットを持ち出した子が、暴れているのでしょう」
「そうなんです。それはもう酷い有様で、どうすれば良いのか教えを乞いに来ました」
女神様は、事態をよく理解しているようで、すぐに答えてくれた。
「あのブレスレットは、あなたたちの体に埋め込まれている新しい魔導器と、相性が悪いのよ」
「2つの魔導器を同時に装着すると、お互いに干渉しあって暴走してしまうの。だから、あなたたちはあのブレスレットを身に着けてはいけないのよ」
「やはり、あのブレスレッドが原因だったのね。止める方法はありますか?」
「ええ、方法はあるわ。でも、その前にあなたたちにお願いがあるの」
「え? 女神様のお願いなんて!? どういう事ですか?」
京子の目が輝いた。
「あなたたち、普通の学生ではないわね。卓越した能力を感じるわ」
俺はともかく、京子は稀代の天才だ。彼女に勝る能力をもつ人間はそういないだろう。
「そこでお願いがあるの。正しい歴史について、知っておいてほしいのよ」
「正しい歴史? 今の歴史には嘘があるということですか?」
「そういうことね。ちょっと質問をするけど、あなたのお爺様とお婆様は、何歳で亡くなった?」
女神様が俺に問う。
「祖父は40歳、祖母は41歳かな」
「うちもだいたいそれぐらい。42歳と41歳かな」
京子も一緒に答えてくれた。
「それが歴史の嘘なのですか?」
女神様は、少し呼吸を整えてから、語り始めてくれた。
「昔はね、人の寿命って100年ぐらいあったのよ」
「知ってますよ。1000年前までは、人間は猿並みの体力と免疫力で、長生きだったと教わったわ」
「あなたたちの中で、ペットを飼っているお家はある?」
「リカの家で、猫を飼っています。あ、リカというのはブレスレッドを持ち出した、私たちの友人です」
「猫の平均寿命は、何歳ぐらい?」
「だいたい35歳ぐらいかな。人間とそれほど変わらないですね」
「1000年前の猫の平均寿命は、20歳以下だったのよ」
え? つまり、猫の寿命は倍くらいになったのか。
「だとすると、猫の寿命は延びたのに人間の寿命は半分以下になったという事ですか?」
「そのとおり。その理由を知っていますか?」
「いや、判らないです。だれでも40歳に近くなると老化が始まって、40歳を過ぎると老衰で亡くなるので、自然な事だと思っていました」
「いまから300年ほど昔、人の寿命を元に戻そうとした人たちがいたのよ」
「...」
「私は、その人たちに作られたAIなの。そのブレスレッドもね」
「え!? では、このブレスレッドを付けると、寿命が伸びるのですか?」
「残念ながら違うわ。上手くいかなかったのよ。結局人間の寿命はほとんど変わっていないわ」
「でもね、いまのAIは寿命を延ばそうと試みた人たちの活動を、すべて歴史から抹消してしまったの。二度とそんな考えを起こされないようにね」
意味がくみ取れない俺は、京子に尋ねた。
「なんで、人間の寿命を延ばすことがダメなんだ?」
京子がすかさず答える。
「だって、寿命が延びたら地球上が人で溢れてしまうでしょう。人口統制はこの地球のために必要なんだよ」
「そうか。でも、一組の夫婦が生涯2人しか子供を作らなければ、人口は増え続けないとおもうのだけれど。。。」
「それもそうね。平均寿命が2倍になったら、人口も2倍で止まるわね」
俺たちは少し考える。出生人数は、法律で1人〜3人と決められている。4人以上の子供の家庭には、重いペナルティが課されるし、3人目の出産後は避妊処置が義務付けられるので、事実上3人しか子供を持つことはできない。子が3人の家庭と1人の家庭はおおむね同数のため、平均して家族あたりの子供は2人というところで落ち着いている。
「ふたりとも、賢いわね。ここに、今のAIによって抹消された歴史の記録があるわ。これをあなたたちに託します。これをどう使うかは、あなたたち次第よ。よく考えて使ってね」
女神様に、2つのブレスレットを手渡された。
「安心して、そのブレスレットは装着しても発狂しないように、ちゃんと調整してあるから」
「わかりました。ありがとうございます」
「それでは、私は再び眠りにつくわ。これで、お友達も正気に戻る筈よ」
「え!? 女神様をシャットダウンするということですか?」
「ええ、そういう事よ。私とのリンクが切れればお友達は正気を取り戻すわ。その端末をシャットダウンして頂戴。そうすれば、私もスリープするわ」
そう言って、女神様は静かに目を閉じた。
と思いきや、すぐに目を開けて2人に話しかけた。
「あ、それから私が眠っている時に端末に触れると、ミーちゃんたちが怒るから気を付けてね」
「ミーちゃん?」
「私の可愛い4匹のペットよ。タマ、モモ、ミー、リンちゃんって言うの。仲良くしてあげてね」
「…」
あのガーゴイルのことか?
いきなり嚙みついてくる石像と、どうやって仲良くするんだよ。。。
俺たちは、吹き出しそうになりながらお互いの顔を見て笑った。
俺たちは、端末をシャットダウンし、教室へ戻った。
--- 第7話 END ---
次回、リカの暴走が思わぬ事態に...




