第1話 潜入
まえがき
いよいよ第三章のスタートです。暫く間が空いてしまった事をお詫び申し上げます。三章完結まで、毎日投稿する予定です。引き続き、よろしくお願いします。
前章までのあらすじ
高度な科学により魔法と同等の力を得た人類は、神と化したAIが支配する世界で平和に暮らしていた。魔法学校の生徒である主人公とクラスメートの美少女達は、世界を支配しているAIの欠陥に気付き、人類に主権を取り戻すため戦いを挑む。アンドロイドは人間に危害を加えることが出来ないため、AI政府はオプティマイザ―と呼ばれている戦闘のスペシャリストに守られている。主人公とクラスメートの美少女たちは、彼らに対抗するために、魔法と戦闘の達人である幼馴染の母親から特訓を受けていた。
この数週間の間、京子、リカ、そして時々楓も交えて、おばさん(京子の母)と魔法の特訓を重ねてきた。その甲斐あって、俺たちは以前とは比較にならないほど強くなった。
俺の記憶は完全には戻ってないが、戦闘訓練中の断片的なフラッシュバックにより、多くの魔法が蘇ってきた。その中には、リカやおばさんも知らない特殊なものも含まれている。使い方が良く判らない魔法もあるが、戦闘を重ねるうちに思い出せるだろう。
今日もヘトヘトになりながら、オプティマイザー級の仮想敵と対峙してきた。まだ1対1で倒すのは難しいが、京子やリカとの連携プレイなら、なんとか倒せるレベルまで到達できた。特訓を終えて家に帰ると、自身に回復魔法をかけてゆっくりと休む。そんな日々が続いていた。
ある日の午前中、京子の母親が我が家にやってきた。
(今日は魔法の訓練日では無いはずだが?)
「あの焼豚(ペットショップの店長)、色々とゲロ吐いてくれたわ。凄い収穫よ!」
おばさん、見た目は上品で美人なのに、口を開くとこの有様だ。京子の将来を考えると心配になる...
「え? そんな簡単に白状したのですか? 組織の人間って、意外と口が軽いんですね」
「そうね、私が優しく可愛がってあげたら、素直に白状したわ」
(あ、そういうことか。店長、お気の毒に...)
「それでね、あのゴキブリのように逃げて行ったオプティマイザーは、ロストテクノロジー研究所の上級研究員らしいの」
「ロストテクノロジー研究所といえば、過去に失われた技術を研究するAI政府直属の機関ですよね」
「そうよ。あそこの研究員はエリート中のエリートだけど、胡散臭いと思っていたのよ」
政府直属の機関で、超一流大学を出ても難関と言われている。一般人が容易に近づける場所ではない。ただ、学生インターンという形なら、成績優秀者に限るが可能性はある。
「おばさん、インターンで入れるかもしれないから、先生に聞いてみるよ。京子は学年で一番の成績だし、楓さんも上位だったと思う」
「そうね。お願いするわ。貴方の成績は? ...聞かないであげるわね♡」
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放課後、楓にインターン募集の話が来てないか尋ねると、丁度良いタイミングで話があったようだ。
「あ、たった今、インターンの件で教頭先生に呼び出されたところなの。募集企業の中にロストテクノロジー研究所もあったわ。京子さんは成績は優秀だけど、ちょっと何ていうか、暴走気味のところがあるでしょ? だから、私に話が来たみたい」
「それなら、ロストテクノロジー研究所に応募することもできる?」
「もちろん大丈夫よ。魔法学校の成績優秀者は将来有望だもの。私だって成績優秀なのよ。さっそく教頭先生に頼んで申し込んでくるね」
こうしてインターンの話が決まり、楓の潜入作戦が始まった。インターンの期間は3カ月、基本的に平日の放課後4時間勤務となる。
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ロストテクノロジー研究所でのインターンが始まって1週間ほど経った頃、楓が学校を頻繁に休むようになった。彼女の自宅に問い合わせると、インターンには毎日出かけているらしいが、疲れて学校に行く気力がないというのだ。俺は心配になったので、楓の家の前で帰宅を待つことにした。
夜の10時ごろになると、楓が帰ってきた。ただ、目には力が無く、ボーっとしている。俺の顔を見ると、気を取り直したように話してくれた。
「あそこ、やばいよ。私おかしくなりそう。ただ、行かないと学校に連絡するって。そうなると私の進学に影響があるし、潜入の目的も果たせなくなるから、なんとか頑張ってるの」
「どんな感じなの?」
「毎日4時間、真っ白の部屋の真ん中で、ひたすらVRの映像体験をさせられるのよ。内容は歴史的なものから、道徳教育のようなものまで、同じことを何度も何度も繰り返して、頭がおかしくなりそう」
「それって、まるで洗脳教育じゃないか。いったい何が目的なんだ?」
「わからないわ。ただ言われた通りにしているだけ。脳の働きを調べているみたい」
スパイのような事を頼んだのが軽率だったのかもしれない。楓の身に万が一のことがあっては取り返しがつかないので、インターンは辞めさせた方が良いと思った。
「もう行くのはよせ。俺たちが変なことを頼んだのが悪かった。別の方法を考えるよ」
「ありがとう。もう限界だったの。明日担当者に話すわ。ほんと、このままではおかしくなってしまうもの」
楓は疲れた様子で自宅に帰って行った。彼女には悪い事をしてしまったが、明日で終わりになれば元気を取り戻してくれるだろう。教頭先生には進学に悪影響がでないよう、俺からもお願いすることにした。
ところが、楓は次の日も学校に来なかった。放課後、彼女の母親に様子を聞いてみたところ、今日から泊まり込みの研修で1カ月間帰宅しないそうだ。学校には休みの許可を取っているらしい。
インターンを辞めるどころか、1カ月も拘束されてしまうとは。これでは楓の身が持たないかも知れない。リカや京子とも相談した結果、研修先の施設に様子を見に行くことにした。
研修中の学生とは直接連絡はできないらしい。連絡可能なのは家族のみで、それも施設のスタッフ経由ということだ。それなら飛び込みで押しかけるまでだ。楓の両親から研修先の住所を教えてもらったので、施設の場所までリカと京子の3人で行ってみることにした。
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町から少し離れた山間部にあるその施設は、緑豊かな風景とはミスマッチな、近代的なコンクリートの塊のような建物だった。窓も少なく、いかにも研究施設といった感じだ。
入り口には、「ロストテクノロジー研究所・第三研修センター」とある。入り口のゲートには警備のアンドロイドが一体いるだけで、取り立てて厳重な警備ということもない。
俺たちは、夏休みの自由研究という名目で、見学と取材を申し込んだ。
「あのう、俺たちは魔法学校の生徒で、夏休みの自由研究でロストテクノロジーについて情報を集めているのです。この施設をぜひ見学させていただきたいのですが」
突然の申し出に驚く様子もなく、受付兼警備のアンドロイドが愛想良く答えてくれた。
「当施設の見学は予約制となっておりますが、本日は幸いなことに見学定員に余裕がございます。ただいま、あなたたち3名の見学の予約を行いました。当施設の体験見学コースは、13時からとなっております。その時間になったら、受付までお越しください」
なんと、飛び込みで来たにも関わらず、すんなりと施設の中に入れるとはラッキーだ。今は11時半なのであと1時間半ある。それまで近くの公園で時間を潰すことにした。
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「お弁当あるよ!」
京子がバスケットを取り出した。
「こんなこともあろうかと、用意してきたの。3人で食べましょう!」
京子がバスケットを広げて準備を始めた。ところが、リカの様子が少し変だ。下を向いて申し訳なさそうにリカが言う。
「あのう、私もお昼もってきたの。良かったら食べて」
リカは何やら大層な重箱を取り出した。中にはおせち料理のような立派な料理がビッシリ。俺と京子はポカンと口を開けて眺めていた。
「あ、これお母さんと作ったの。口に合うかわからないけど、たまにはこういうのも良いかなって」
(超豪華なお弁当に唖然とする俺と京子)
公園のベンチで、6人分の昼食を3人で頂いた。俺が4人分食べたわけだが...
食べ過ぎで苦しかったが、幸せでお腹が一杯になった。こんなに良い子達を独り占めしているなんて、罰が当たるかも知れない。
暫く森を散策した後、時間になったので施設の入り口まで行った。すると、警備兼案内係のアンドロイドは、俺たちを快く出迎えてくれた。
「こちらへどうぞ」
俺たちは、アンドロイドの言われるままに、ロストテクノロジー研究所の施設に入って行った。
--- 第1話 END ---
次回、政府の施設の中で見たものは...
(第2話はこのあとすぐに公開します)