番外編 魔法の授業(2話~5話間のエピソード)
第2話から第5話の間にあった、魔法の授業のエピソードです。
(当初、第2話として書いたエピソードですが、第2話を入れ替えて本話は番外編としました)
前任者の退職により赴任されてきた、新任教師による魔法学校の授業のひとコマです。
「今日は、ディアデバイスの仕組みと歴史について学ぶ」
新任の教師が言った。
もう、お題を聞いただけで眠気がしてきた。しかし、よく考えてると俺はディアデバイスについて、ほとんど知識がない。日常に溶け込んでいるため気にもしていなかった。ここは眠気と戦いながら先生の話を聞いてみることにする。
「一般的に魔法と呼ばれているテクノロジーは、太古に開発された物質操作装置によるものだ。これをディアデバイス(神の道具)という。俗に「魔導器」と呼ばれているものだ。皆の腕に埋め込まれている四角い物体がそれだ」
やばい! もう眠ってしまいそうだ。今度居眠りをしたら単位を落とすと教師から脅しを受けていた。ここは頑張るしかない。
「ディアデバイスは、限られた範囲に対して、熱や圧力、電磁気力を作用させる装置だ。つまり、少し離れた場所にあるものを、圧縮したり熱したり、電気を作用させたりすることができる」
「たとえば、目の前にあるコップの水を沸騰させるといったものだ。電気分解によって空気中の水蒸気を水素と酸素に分解することも可能だ。知っての通り、酸素と水素は一定の条件下で爆発する」
「作用させる範囲や距離は、術者のレベルによって左右される。熟練のプロンプターほど、遠く広い範囲を操作できるということになる」
京子が、ペンの先で俺の頬をツンツンと突いた。
「珍しく起きてると思ったら、やっぱり寝てたのね。目を開けたまま寝るなんて、器用な事できるじゃない」
京子は笑顔で俺にそう言いながら、頬を突く手を止めてはいない。
「いやいや、ちゃんと起きてるよ。寝るわけないでしょう」
と答えたが、京子の言う通り俺は眠っている事がバレないように、目を開けたまま寝ていたのだ。俺の特技の一つである。
「そこの二人! 静かにしなさい」
教師に注意されてしまった。京子のせいだ。
「では京子君、防御魔法と攻撃魔法の基本原理を説明しなさい」
その時、教室の空気が一瞬凍り付いた。クラスメイト達は教師に、
「先生、それはまずいです~」
と小声で言った。クラスメイトは地雷を踏んでしまった教師にあきれた様子である。
京子は満面の笑みで立ち上がり、話し始めた。
「では、説明いたします」
「防御魔法の代表的なものは、目の前の空気を局所的に非常に高圧に圧縮し、空気の壁を作ることで飛来物を防ぐものです。俗に、バリアといわれています。特徴は、発動速度が速いこと。咄嗟の危険を回避することに適しています」
「攻撃魔法の代表的なものは、空気中の水蒸気から水素を作り出し、酸素と反応させて爆発させるもので、俗にファイヤーボールと呼ばれているます」
「水素と酸素を適度な比率で圧縮すれば、自然に発火して爆発します。この攻撃魔法のプロセスは、空気を圧縮する、空気中の水蒸気を水素と酸素に分解する、それを素早く移動させるという3工程になります。厳密には火の玉を投げるわけではないので、ファイヤーボールという表現は正しくありませんが、攻撃対象が「ボン」と爆発するのでそのような呼ばれ方をするようになったと言われています」
「この魔法が広く使われている理由に、術者が未熟な場合、大威力の爆発を作れない事にあります。要は手軽な魔法ということです。すくなくとも6級プロンプター程度の実力では、致命傷を与えることはできません」
「ディアデバイスが発生するパワーを考えると、電気分解に要する電気エネルギーを直接相手に当てて感電させたほうが遥かに威力がありますが、これは「機械が人間に危害を加えてはならない」というこの世の大原則に反します。ディアデバイスも例外ではありません。そのため、魔法使いは間接的な方法で攻撃を行う工夫をしているのです」
「ディアデバイスが、どうやって瞬時に高温高圧もしくは高電圧の状態を空間に作用…」
教師が京子の話に割り込んだ。
「京子君、もういい。そのくらいで充分だ。君の知識には恐れ入ったよ」
と、少々焦り気味に言った。
「先生、まだ途中です。話を中断させないでください」
「ディアデバイスが、。。。」
京子が話しを再開したときに、ちょうどチャイムが鳴った。
「では、今日の授業はここまで」
教師は早口で言い、そそくさと教室を後にした。
「ハハハ、京子、最後まで話ができなくて残念だったな。次の授業で続きを話してくれ」
俺は冗談交じりに京子に言った。
「もちろんそのつもりよ。まったく、説明を頼んでおいて途中で打ち切るなんて、失礼な先生ね」
魔法について語り出したら止まらない、京子の地雷なのである。クラスメイトたちは何度も京子の長話を聞かされて、うんざりしているところだった。新任の教師は、そんな京子の特徴を知らなかったようだ。
お陰で眠気も吹き飛んだ。次の授業が楽しみである。