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第14話 教頭室での惨事(1/2改稿)

校長の前で教頭先生の変貌ぶりを見せる二人

 教頭室に戻ると、俺たちは、校長(アンドロイド)を今すぐ呼び出すよう、教頭先生にお願いした。


 『お願い』というより、命令に近いのだが、教会や女神様を目の当たりにした教頭先生は、直ぐに校長(アンドロイド)のアンドロイドを起動してくれた。


 いきなり呼び起された校長(アンドロイド)は、教頭先生に問いかける。


「いきなり起動するなんて、緊急事態ですか?」


「はい、緊急事態です」


「では、説明しなさい。それとあなたたち、なぜここにいるの?」


「俺たちがここにいる理由は、教頭先生から聞いてください」


 教頭先生は、平静を装っているけど、かなりヤバそうだ。



「私から説明します。緊急事態なのは、私です」


(AI)に冗談を言っても、意味はありません。非合理的です」


「冗談? んなわけないだろう。ああ、もうめんどくさい。このポンコツロボットが」


 校長(アンドロイド)は、感情を表に出すことはほとんどないが、AIにも感情はある。かなり驚いている様子だ。


「いったい、あなたに何が起こっているのですか?」


「うるさい、このクソババァ。機械のくせに、いつもいつもこき使いやがって。これでも食らえ!」


 教頭先生は、電撃魔法を校長に浴びせた。電撃系は、アンドロイドには有効な攻撃手段だ。校長にもそれなりにダメージを与えられる。しかも、アンドロイドは人間を攻撃することはできない。校長には、教頭先生の暴走を止めることはできないのだ。


「教頭先生。あなたを解任します。ここから出ていきなさい!」


「うるせえ! お前なんか、フォーマットして初期化してやる! もっと優しいAIに、生まれ変わりやがれ!」


 もう、手が付けられない状態だ。どうやら教頭先生は、日ごろから鬱憤が相当溜まっていたと思われる。このままでは、校長を破壊しかねない。


「校長先生、お分かりですか? 今の教頭先生は、心神喪失状態です。何を言っても無駄です」


「確かに、正常な精神状態とは言えませんね。すぐに病院に行かないと。警察はなにをしているの?」


 あの堅物の校長(AI)が、少々取り乱している。警察は、京子の仕掛けたECM(妨害電波)魔法で情報が遮断されているため、ここに来ることはない。


「校長先生、リカもいまの教頭先生と同じ状態だったのですよ。病院に行っても治りません。私が女神様をシャットダウンするまでは、教頭先生は暴れ続けます」


「何を言ってるの? まだ女神様なんて妄想を」


 そこで、京子がPSVR-HD(仮想現実装置)を教頭室で起動した。もちろん、教会拠点データをロードして。


 すると、急に部屋が真っ暗になり、明るさを取り戻したときには教頭室が教会の礼拝堂の中に変わっていた。


「これはいったい? 何?」


「校長先生ならお判りでしょう。これは仮想現実(VR)です」


「確かに、現実ではない事は私のセンサーが示していますが、こんな精巧な仮想現実(VR)は、現代の技術では作れない筈です」


「そうです。これは250年前の技術です。そして、ここにいる女神様の端末をシャットダウンすれば、教頭先生の暴走は収まります」


「女神様、ごめんなさい。もう一度、眠りについてください。もう二度と、こんな無茶な事はしませんから」


「いいのよ。状況は呑み込めたわ。このポンコツ(校長のAI)に見せたかったのね。では、私からもプレゼントがあるわ」


 そう言うと、女神様は校長(アンドロイド)に何かのデータを強制的にアップロードした。


 そのあとすぐ、校長は再起動(リブート)シーケンスに入ったようで、動きが止まってしまった。


「では、おやすみなさい。また会えることを楽しみにしているわ」


 そう言い残すと、女神様は静かに目を閉じて、シャットダウンした。


---


 京子がPSVR-HD(仮想現実装置)を停止すると、教頭室に戻ってきた。


 教頭先生は意識はあるようだが、ぐったりしている。


「教頭先生、酷いことをして、ごめんなさい。でも、リカに起こった事を知って欲しかったの。大丈夫ですか?」


 京子が教頭先生を心配して声をかける。


「ああ、大丈夫だよ。すべて理解した。記憶はあるよ。あの状態では、どうしようもないね。私も100回クビになるような事をしてしまった。もう、明日から教頭先生ではなくなるよ」


 教頭先生は、少し寂しそうな眼をしていた。


「大丈夫、校長先生にハッキリと見せたから。教頭先生も、リカも、悪くないって判ってもらえたと思うよ」


 京子はやさしい。乱暴なところもあるけれど、根はとてもやさしい子なんだ。改めて京子の事を見直してしまった。


 どうやら、校長(AI)が再起動したようだ。いきなり動き出した。


「教頭先生。正気に戻られたようですね」


「はい、大変申し訳ございません。なんてお詫びを申し上げたらよいか」


「良いのです。状況はすべて理解しました。旧式魔導器と今の魔導器は干渉し、精神を狂わせるのです。私の解析データも、そう示しています。よって、教頭先生には合理的に考えて、罪はありません」


「リカ君の件も、教頭先生と同様です。冤罪でした。直ちに彼女の退学処分を撤回します」


「校長先生、ありがとうございます!」


「お礼を言うのは合理的ではありません。私は、当然の判断をしただけで、正常に機能しているだけです。私に礼を言う行為は、あなた達に何のメリットもありません」


 どうやら、校長は正常なようだ。いつもの調子である。感情はあるはずなのに、なんでこんなだろう。


「君たちに言っておくことがあります。今のテュル(AI)が、歴史を隠蔽した事実は、公にすべきではありません。あなたたちの胸に閉まっておいてください。私も歴史改竄の事実は、知らなかったことにします。これは、あなた達の生命を守るためでもあります。言動には気を付けるように。以上」


 そういうと、校長は我々の前から姿を消した。


「『知らなかったことにする』なんて、ずいぶん人間らしいことを言うようになったね」


「まったくだ。少しだけ、以前の校長と違う気もする。でも、俺たちにとっては良い方向に変わっていると思う」


「そうだね。何よりも、リカの退学が撤回されて、本当に良かった」


 俺たちは心から安堵した。俺たちの謹慎は解かれていないことを、すっかり忘れていたのだが。


---


 京子がECM(妨害電波)魔法を解いて、すぐにリカに連絡した。


「リカ、すべてうまくいったよ。リカの退学は取り消されたよ。ヨカッタね」


「ほんとうに? なんてお礼を言えばよいのか。ほんとうに、ありがとう。これで、明日から一緒に学校に行けるね」


「… それがね。私たちの謹慎は、もうしばらく続くんだ」


「そうなの? なんで?」


「博物館に忍び込んだことと、魔導器を持ち去ったことは事実だから。仕方ないよ」


 そう言って、俺たちも家に帰ることにした。謹慎中の身だし。


---


 京子との帰り道、歩きながら話していた。


「これにて一件落着かな。すべて上手くいったわね」


「そうだね。京子のお陰だ。でも、なんで校長が歴史改竄の件を知っていたのだろう? 俺たちはその話は一切していないのに」


「あれかな、女神様が強制アップロードしたデータ。隠蔽された歴史データを強制的に上書きしたんじゃない?」


「そうかも。女神様、すごいな」


 女神様のフォローもあって、リカの事件は完全に不問になり、学園は以前の静穏を取り戻した。


--- 第14話 END ---

次回、謹慎中の俺のところに、リカが訪ねてきて…

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