⑦
レティシアは湖に足を浸らせて、近くにいる妖精たちに声を掛けた。
「今日は天気が良くて、気持ちいいわね。
だからご機嫌なの?」
朝から妖精たちがご機嫌で、レティシアの周りをくるくる謡いながら踊っていた。
『それもあるけど、もっといいこともあるの~』
『今日はとってもいい日!』
『レティシアにとっていい日なのね~』
『ね~』
何だかよくわからないけど、今日はいい日なのね。
レティシアは気分よく昼食の準備を始めた。
レティシアがお腹にいる時、母親の魔力が暴走しそうになった。
多くの妖精がリンゲンにきて、レティシアの母親で「愛し子」であるレイラにアンハルトに戻るよう告げた。
『レイラ、アンハルトに戻るの!』
『ここで愛し子を産むのは危険なの~』
『そうなの』
レイラはびっくりした。
「愛し子」は数百年に一人しか生まれないのに、「愛し子」の自分がまた「愛し子」を産むなんて・・・。
不安に思ったレイラは夫のアダルウォルフに相談して、息子のエリアスだけを連れてアンハルトに戻った。
兄王はすぐに賢者を王宮に呼び出した。
「レイラ様のお腹には、確かに次代の「愛し子」様がおります。
しかもこの姫様は、過去稀にみる力を持っておられます。
姫様が望む世界へと、妖精たちがどんな望みも叶えてしまうでしょう」
賢者はそして、お産が難しくなることも予言した。
莫大な魔力を持って生まれる子供は、出産時に魔力暴走によって母体を危険に晒すのだ。
兄王は子供を堕ろすよう賢者に依頼したが、レイラは泣きながらお腹の子を守った。
「お産が難しいことだけが問題なのではない。
その子は諸刃の剣だ。
仮令その子が心美しく育ったとしても、暴君を愛してしまったらこの世は終わる。
仮令選んだ男が暴君でなかったとしても、この子の力を知ってしまったら・・・。
この世界を手に入れられると知ったら・・・。
わかるだろう?」
レイラはただただ泣きながら首を横に振るだけで。
兄王は溺愛する妹の涙をそれ以上見ていられなくて、リンゲンに早馬を送った。
次の日早馬でやってきたアダルウォルフとレイラは、何日も話し合った。
エリアスはその間、情緒不安定なレイラと離され、所在なさげに王宮に滞在していた。
母親の泣き叫ぶ姿、父親の声を押し殺した叫び。
エリアスは徐々に、ご飯を食べることも、眠ることもできなくなっていった。
レイラは妖精たちからそんなエリアスの様子を聞き、大慌てでエリアスを探した。
王宮の温室の中、花を見るでもなく、何も映していないガラスの様な瞳で花壇を見つめ続けるエリアス。
膝をかかえて座るエリアスはまだ4歳だ。
レイラとアダルウォルフは泣きながらエリアスを抱きしめた。
声もなく泣く息子を抱きしめながら、レイラはお腹の子を諦める決心をした。
しかしふと、腕の中のエリアスは瞳に力を宿すと、レイラに先ほど自分に起こったことを話した。
「精霊王様が僕に言ったの。
お腹の子を守ってって。
レティシア、僕の妹の名前。
お母さまを死なせてはだめだよ。
大人しくしててね。」
そう言ってエリアスはまだ膨れていないレイラの、母のお腹を優しく撫でた。
アダルウォルフは息子を抱きしめた。
「レティシアか、いい名前だね。
この子は大きな運命を背負って生まれてくる。
お父様と一緒に、この子を守ってくれるか?」
「もちろんだよ!
本当はちょっぴり寂しかったけど、精霊王様がいっぱいお話してくれたの。
この子が、僕を、父様や母様、世界を幸せにしてくれるって!」
そうやって、レティシアは生まれた。
多くの人に見守られ、愛されるために生まれてきた、精霊王様の愛し子。
しかし、その力は莫大すぎた。
ただぐずっただけで、側にいた乳母を妖精が攻撃したのだ。
近くにいたエリアスが乳母を守った為に事無きを得たが。
赤子は泣くのが仕事。
その度に誰かが傷つけられる。
それに気づいたレイラとアダルウォルフは、レティシアとエリアスを連れて、アンハルトの王宮の裏にある森の離宮に、家族だけで住む事にした。




